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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第19話:存在意義と約定

 米対テロ部隊の隊員が寺から撤退していく様子を、遠く離れた丘の上から静かに見つめる影があった。狙撃手と観測手の、二名一組の米対テロ部隊スナイパー班である。


 彼らは部隊の一次後退命令を受け、撤収支援のためのカバー位置についていた。狙撃銃(MK13)の銃口は夜気を切り裂き、観測手の双眼鏡が僅かな動きも見逃さない。

 味方が退くその瞬間、もし追撃があれば、彼らが遠距離からそれを止めること。それが任務だった。


 狙撃手が呼吸を整え、スコープ越しに視界を定めた、その時──。


 「フリーズ!!」


 背後から鋭い声が飛んだ。振り向く間もなく、複数の銃口が闇の中で光る。狙撃手と観測手の背後に、数名の自衛隊員が自動小銃を構え、完全に包囲していた。

 二名の敵はすぐに状況を悟ると、ゆっくりと銃から手を放し、両手を上げ、膝をつく。


 その自衛隊員たちは、時女の別荘で交戦していた第一空挺団・精鋭部隊の隊員たち。夜空には、二機のV-22オスプレイが低く旋回していた。


 ほどなくして、寺の駐車場では黒羽と藤堂の指揮のもと、第一空挺団が包囲を完了する。屋敷の入口・幻影から姿を現した米対テロ部隊の隊員たちは次々と拘束されていった。抵抗する者は一人もいない。

 戦いの終わりを悟ったかのように、皆、静かに武器を手放していた。


 一方、その頃。

 屋敷の内部で交戦を続けていた米対テロ部隊も、無線から届いた報告を聞き取っていた。その短い報告を受け取ると、彼らは一斉に発砲を止め、静かに銃を床へと置いた。そして、両手を挙げ、無言で降伏の意を示す。


 特殊作戦群の隊員たちが自動小銃を構えながら慎重に駆け寄る。だが、目の前の相手はテロリストではない。同じく正規の軍人であり、かつて訓練を共にしたこともある同盟国の仲間たちだ。

 お互い、銃を向け合うことへのためらいが、空気の中に滲んでおり、そこで生じている信頼が、抵抗のない穏やかな終結を導いたのであった。


 屋敷の明かりが一斉に灯る。長い戦いが終わり、ようやく闇が退いた。


 時女が黒羽と藤堂を伴って、彩華と竜司のいる部屋へと足を踏み入れる。廊下を歩く途中、黒羽が辺りを見回しながら呟いた。


「……こんな場所があるなんてな」


「ええ、二尉。私も初めてです」


 藤堂が静かに応じる。


 そんなふたりに、時女が小さく微笑んだ。


「この世界はね。不思議なことが、まだまだたくさんあるんだよ」


 そう言って時女は彩華と竜司のもとに歩み寄った。


「お疲れ様。……これで、ひとまず落ち着いたね」


 竜司が息を吐きながら答える。


「敵は作戦に失敗した、ということでしょうか」


 時女は廊下の奥を振り返り、ゆるやかに頷いた。


「そうだね。この屋敷の奪取は失敗したみたい。でも……国の威信という意味では、互いに“本気”を知ることができた。そういう意味では、ある意味成功だったのかもしれない」


 その言葉を残して、時女は彩華のそばにしゃがみ込み、覗き込むようにして声をかけた。


「彩華ちゃん……大丈夫?」


 竜司が苦い表情で言う。


「痣が広がっているんです。かなり」


 彩華は荒い息を吐きながら、かすかに首を振った。


「くっ……あたしは、大丈夫……。ただ……いろんな“想い”が入り混じって……揺れてるだけ……」


 藤堂がはっとして問いかける。


「佐藤さんたちは!?」


 時女は静かに答えた。


「今は、彼女の傷を癒す手がかりを探しに行っている」


 そう言うと、時女は遠く廊下の赤い壁の方へと視線を向け、独り言のように呟いた。


「あの子たちなら、きっと大丈夫」


 その言葉に竜司は僅かに反応した。


「やっぱり……彩華の死結晶……いや、何か、不安があるんですね?」


 時女は首をゆっくりと振り、否定の意を示す。

 そのしぐさを、彩華と竜司は不思議そうに見つめる。


 その目には、まだ終わらぬ物語の続きを見つめるような光が宿っていた──。


 --------


 一方その頃、第三勧戒(かんかい)では──。

 それは、陽菜にとっては到底理解できない、悲痛な叫びのようでもあった。


「ウチが……玉藻? どういうことですか? 玉藻さんなら、ちゃんといるじゃないですか!」


 陽菜の声は震えていた。困惑と拒絶とが入り混じる。

 その問いに、水晶は光を滲ませながら静かに応じる。


『今そばにいる彼女は“妖”としての玉藻。かつて、人間として存在していた藤原得子(ふじわらのとくし)の内に“妖”の玉藻が宿り、二つの存在はひとつとなった。ふたりは同じではないが、完全に別でもない』


 陽菜は息を呑む。


『そして、あなたは──その藤原得子(ふじわらのとくし)と同じく”王気”を纏う者。とはいえ、転生ではない。玉藻はその王気に引き寄せられたのです』


 陽菜は戸惑いを隠せず、口を開いた。


「“王気”って……なんですか?」


 水晶の静かな声が響く。


『王気とは、裁定者としての器量。佐藤陽菜、そして雨宮彩華――ふたりはその王気を持つ者』


 水晶の静かに続ける。


『そして、エレナへの“想い”こそが、王気があなたを選んだ証。想いは力となり、力は導きを呼ぶ。あなたが選ばれたのは、偶然ではないのです』


 その声は、まるで時を越えて囁かれる真実のように、陽菜の心の奥底へと静かに染み込んでいった。

 陽菜は目を見開き、小さく呟く。


「……彩華も、なの……?」


 光がわずかに揺らぎ、肯定するように淡く瞬いた。

 少し間をおいて、陽菜は質問する。


「じゃあ……エレナも関係あるの?」


 水晶はゆっくりと輝きを増しながら答えた。


『エレナは、藤原得子が生まれる前から玉藻と共にいた存在。あなたたちの“想い”が、再びエレナをこの世に呼び戻した。新たな“形”として……』


『確証はありませんが……あなたの父上と出会ったことも、決して偶然ではないのかもしれません』


 蓮が小さく問い返す。


「新しい形……って、どういう意味なんです?」


 エレナは静かに微笑み、陽菜と蓮を交互に見つめながら言った。


「んとね。記憶も想いもそのままだけど……簡単に言うと、身体が違うの。康太と会ったときより、少し成長したんだよ」


 陽菜は息を吸い込み、反論するように言った。


「でも、それって……ウチの想いでエレナが戻ったとかじゃなくて、運命みたいなものでしょう? たまたま、そうなっただけで」


 その言葉に、水晶は柔らかく輝かせながら否定した。


『いいえ。それは違います。あなたの“想い”が確かに届いたからこそ、藤原得子と同じく王気があなたに宿った』


 そして続ける。


『あなたが“想いを届ける力”を得たのも、その時期からでしょう』


 今度は蓮が、水晶を見上げて問いかけた。


「……俺も、なにか関係があるんですか?」


 その声音には、不安とも覚悟ともつかない揺らぎがあった。

 水晶は静かに光を放ちながら答える。


『あります。でも、血や運命ではありません。あなたは“繋ぎ手”──想いと想いを結び、欠けた心を補う存在。それが何より尊い。あなたは“佐藤陽菜に愛され、託された存在”なのだから』


 陽菜はその説明を飲み込みきれず、ただ戸惑いを浮かべる。

 エレナは水晶を見つめ直し、確かめるように言った。


「……わたしのことまで知ってるなら、やっぱり嘘じゃないんだね」


 水晶は淡く光を滲ませながら答える。


『嘘はつかない……すべては、過去から続く真実』


 その言葉に、陽菜は唇を震わせた。


「……違う」


 言葉は小さいが、それは確かな拒絶だった。


「……違う。ウチは佐藤陽菜です。父と母から生まれた、ただの人間。玉藻さんでもないし、王気もありません……ウチは、普通の女の子なんです!」


 その声は涙を含んでいた。

 水晶はしばらく沈黙し、やがて穏やかに光を滲ませた。


『……それでいいのです』


「え……?」


『あなたは“あなた”として生まれた。この話は”大いなる縁”の記録にすぎない。大切なのは、今、あなたがどう生きるかだけ』


 その声音は、まるで長い時を越えて誰かが語りかけるようだった。陽菜はその場に立ち尽くしたまま、胸の奥に小さな波紋のような想いを感じていた。


『ただ、藤原得子(ふじわらのとくし)同様、あなたは、春裁(しゅんさい)の君として選ばれた。それは天啓なのです』


『そして、雨宮彩華も……。ゆえに、私は認めます。あなたたちを──』


 そのとき、水晶の輝きが弾けるように広がる。それは空間全体を照らし出すような明るさであった。


『──汝、佐藤陽菜。王気纏いし春裁の君と為るべく、主管の力を授けん』


『──汝、エレナ。春裁の君を守るべく、護衛の力を授けん』


『──汝、北川蓮。春裁の君を守るべく、知恵の力を授けん』


 その言葉──いや、それは水晶だけの言葉ではなかったように感じた。

 陽菜たちの意識の奥底に、複数の声が、重なり合いながら流れ込んでくる。低く、柔らかな女性の声。力強く、凛とした男性の声。


『汝ら、春裁の名に於いて、芽吹く想いを裁し、天と地と時を繋ぎ、これを護り導くことを誓うべし』


『ここに、天と地と時を繋ぎ、三つの魂を(ちか)い結ばん。汝らは時の尽きる限りこの力を守り、導き、全うすることを誓うべし。この約定は、春裁の証なり』


 それらの言葉はひとつに溶け合い、陽菜たちの胸へと直接触れるように届いた。意識の奥で、知らぬ間に契約の約束が結ばれていくような感覚だった。

 光は再び強く瞬き、三人を柔らかく包み込む。その声は、やがて時空の彼方へと消えていった。


 光が収まり、再び深い静寂が訪れた。まるで時間そのものが止まったかのように。

 陽菜は小さく息を整え、ゆっくりと口を開く。


「……あなたは、一体なに者なのですか?」


 水晶は静かに頷き、淡く輝いて答えた。


『私は、時の流れを記憶する者。この世と異なる空間を繋ぎ、天と地の声を伝える者。そう……宇宙創世より続く記憶と想いを紡ぎ、伝える存在』


 言葉を紡ぎ終えると、空間が突如、ねじれるように歪み始めた。

 陽菜は慌てて叫ぶ。


「ちょ…ちょっと!!」


 水晶の声が静かに響く。


『いまのあなた達なら、(からす)たちを見つけられる。そして、雨宮彩華をここにつれてきて……』


 その瞬間、視界が無限の闇に飲み込まれた。


(これって……、裁定者にされちゃった……?)


 陽菜がそう思った瞬間、白い光の線が現れ、半円状の渦となって渦巻き始めた。まるで宇宙の奥底、ブラックホールに引きずり込まれるかのよう。

 そう、それはここに来る時と同じ感覚だった。


 ──そして。


「陽菜ちゃん……陽菜ちゃん!」


 陽菜の意識が引き戻される。そこは戦闘が終了した屋敷の廊下。

 時女の声の前に、三人は倒れ込んでいた──。

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