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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第17話:第三勧戒

 陽菜は自分の教室には入らず、そのまま蓮のクラスへ向かう。すると、そこに蓮はいた。窓側の席に座り、外をじっと眺めている。

 陽菜は、ほかの生徒の視線など意に介すこともなく、蓮の席に向かうと、声を張り上げた。


「蓮!!」


 その声に、蓮が驚いたように顔を上げる。


「え? 誰?」


 そっけない返事。だが、陽菜はそれを気にも留めず、さらに声を強める。


「蓮、思い出して! ウチだよ!! 陽菜だよ!!」


 蓮は少し周囲を見渡し、冷たく一言吐き捨てる。


「誰かと間違えてるんじゃない?」


「蓮……」


 その言葉に、陽菜の胸に少し寂しさが広がった。

 周囲の生徒たちは、蓮と陽菜を見てクスクス笑っている。どうやら、修羅場のような状況、もしくは少し変わった少女だと思われているらしい。


 だが、その瞬間だった。


「陽菜……? 陽菜……佐藤陽菜」


 陽菜の胸が跳ねる。喜びが込み上げる。


「そうだよ。ウチだよ! エレナも一緒だよ」


 そう言うと、蓮はエレナの存在を確かめる。そして驚いたように呟いた。


「あれ? エレナ……、見えるぞ……」


 現実であれば、この時点で陽菜は蓮と再会していないし、そもそも蓮がエレナの存在を見ることもできないはずだった。

 だが、今の蓮は確かに、エレナの姿を視界の中に捉えていた。


(やっぱり、蓮も忘れているんだ……)


 陽菜はその確信を胸に、エレナと蓮に向けて強く呼びかける。


「ふたりとも、思い出して!! 時女さんのところに居たことを。あの暗闇の術に囚われているんだよ!!」


 そして、陽菜はそっと両手で蓮の手を握った。


「蓮、思い出して。ウチと一緒にいた日々。喧嘩もしたし、指輪もくれたじゃん。それ、無かったことにしたくない……」


 陽菜は静かに、左の薬指にはめた指輪を蓮に差し出す。

 それは、妖との戦いを決意し、一度別れ話をしたときに、蓮がそっとはめてくれた指輪だった。


 だがそのとき、教室に突如チャイムが鳴り響く。慌ただしく扉を開け、教師がやって来た。


「陽菜? よくわからないけど、教室行こう?」


 エレナが優しく陽菜に話しかけた。


 授業中も、陽菜はどうするべきか悩んでいた。

 もし、ここが現実世界ではないのなら、気づいた時点で解除されるのではないか──そう考えたが、その考えは甘かった。

 幻影でも異空間でも、認識しただけでは解除されない。重要なのは、その根本原因を突き止めることだった。


 だが、エレナも蓮もこのことに気付いていない。そんなことを考えているうちに昼休みの時間となった。


(もう昼休み? 時間の感覚が違うんだ……)


 陽菜は、自分が時間の概念すら異なる空間にいることを確信していた。


 昼休み。陽菜とエレナは、いつもの校舎裏の芝生に腰を下ろしていた。現実世界でもよく訪れる、ふたりのお気に入りの憩いの場。

 蓮もよく来てくれる場所だった。


(ひょっとしたら、蓮も気づいてくれるかもしれない……)


 そんな淡い希望を胸に、陽菜は思いを巡らせていた。

 ふと、エレナが心配そうに陽菜に話しかける。


「陽菜、大丈夫?」


 陽菜は足に手を組みながら、呟くように答えた。


「ここは、現実じゃないの。ここは第二勧戒(かんかい)っていう世界なんだよ……。エレナも思い出して、玉藻さんと戦った時のこと」


 エレナは考えるように小さく呟く。


「たまも、あやか、ときめ、りゅうじ、さやさん、みかさん……」


 陽菜は驚き混じりに問い返した。


「沙耶さんと、美佳さん、覚えてるの!?」


 エレナは少し震える声で言う。


「わたしは……那須で、玉藻と戦った……そして、陽菜がわたしを受け入れてくれたの……、鴉!!」


 陽菜は喜びの声をあげた。


「そうだよ! 思い出して!! 彩華を助けないと!!」


 エレナは悩み込むように眉を寄せ、一生懸命思い出そうとした。


「んーーーー。あやか……助ける……」


 その時、遠くから声が響いた。


「陽菜ーー?」


 梨紗の声だった。香澄と一緒にやってきた。陽菜は少し落胆する。蓮ではなかったからだ。

 梨紗が陽菜に近づき、声をかける。


「どうしたの? 一人でこんなところに」


 香澄も言う。


「教室で、パン食べようよ~」


 陽菜は立ち上がると、微笑みながら答えた。


「んーん。ごめん。今日はちょっとここにいたいかな?」


 梨紗は心配そうに訊く。


「今日、陽菜さ、ちょっと様子おかしいよ? なにかあったの?」


 香澄も心配そうに続ける。


「生理きちゃった?」


 梨紗も付け加える。


「まじ? 生理中なら無理しないほうがいいかも」


 陽菜は首を振りながら答えた。


「いや、生理じゃないから大丈夫」


 梨紗は少し安心したように言う。


「ならいいんだけど……」


 その瞬間だった。


「陽菜ーー!!」


 蓮の声だった。蓮が校庭を駆け抜け、陽菜の元へ一直線に走ってくる。梨紗や香澄の存在など、完全に無視していた。蓮は陽菜の前に立つと、迷わず彼女を抱きしめ、唇を重ねた。


 陽菜は驚きながらも、そのまま流れに身を任せる。梨紗や香澄に見られていることなど気にならなかった。

 ただ、その瞬間、全てが確かなものに思えた。


 蓮は陽菜を強く抱きしめたまま、静かに言った。


「全部、思い出した。指輪ありがとう。俺も、お前と一緒にいたこと忘れたくねーよ」


 そして、言葉を続ける。


「この世界はループしてるんだ。だったら、そのループを止めればいい」


 陽菜は少し微笑み、問い返す。


「どういうこと?」


 蓮は確信を持って答える。


「赤い壁を越えて暗闇を歩いていた時、永遠に歩いている感覚があっただろ? この空間は、明日も明後日も同じ日が続くんだ。つまり、俺も陽菜もエレナも再会していない時点の日が永遠に繰り返されている」


 蓮の声は静かだが、力強さを帯びていた。


「だったら、インパクトのある、時間が違う出来事を起こせばいい。俺と陽菜、そしてエレナが確実に認識できる、明らかに違う何かを」


 エレナがそれに答えた。


「そっか! だからキスをしたんだね!!」


 蓮がエレナに言う。


「そういうことだ!!」


 陽菜がエレナに言う。


「エレナ! 思い出したんだね!!」


 エレナが言う。


「うん。陽菜と蓮のおかげだよ! 悠真のチーズパン事件のときに違和感は感じてたんだけど、思い出せなかった。陽菜、ごめんね」


 その瞬間──。

 世界が突然、震え出した。視界全体が波紋のように揺らぎ、まるで景色そのものが呼吸するかのように歪んでいく。学校の校舎が、歪みながら砂粒のように崩れ落ちる。廊下も窓も、教室も、すべてが波打ち、崩れていく。

 目の前にいた梨紗と香澄の姿も変化した。ふたりは言葉も動きも止めると砂のように崩れ、緑の輝きとなって霧散していった。


 周囲の景色も砂のように消えていく。やがて視界が真っ暗闇になり、最後には完全な闇に飲み込まれた──。


--------


「ん……」


 陽菜は身が覚めた。となりには蓮とエレナが倒れている。そして目の前には淡く白く光る大きな入口があった。

 遠くから見えていた”白い点”が今、目の前にある。時女の屋敷に戻ってきたらしい。


 陽菜の隣では、蓮とエレナもゆっくりと目を覚まし始めていた。


 エレナが小さく息を漏らす。


「陽菜……戻ってこれたんだね」


 蓮も低く頷く。


「そのようだな」


 三人は互いに視線を交わし、静かに立ち上がった。目の前の入口からは、淡い光が絶えず漏れ出している。入口は、霧のような光で形を保っていた。手を伸ばせば消えてしまいそうなのに、確かな存在感がある。

 白い光はまるで呼吸しているかのように、淡く明滅を繰り返しながら揺らめいていた。


 蓮はその光を見つめながら言った。


「この入口が……そうか」


 陽菜が言う。


「うん……行こう!」


 三人はその霧の入口に入った。

 瞬間、白い光の線が現れ、半円状の渦となって渦巻き始めた。それはまるで、ブラックホールのように空間ごとすべてを吸い込んでいくようであった。

 暗闇から無数の星々や星雲が流れ込み、渦の中心へと引き寄せられていく感覚。やがて、すべてが光速へと達したかのように、視界が一瞬で暗転する。

 暗闇の中心に、ひときわ鋭く輝く光点が現れ、陽菜たちの元へまっすぐに迫ってきた。


 そして、その光に包まれた瞬間──世界は、切り替わった。


 陽菜たちが立っていたのは、重力すら失われたかのような、無重力の感覚に満ちた空間。まるで、自分が宇宙に放り出されたかのような錯覚を覚える。


 恐怖や不安はなかった。代わりに、息を呑むような光景が目の前に広がっていた。


 星々のような美しい輝きが、空間全体を覆ってる。その中央には、無数の光の線が走り、それはまるで何億ものファイバーが縦横無尽に交差しながら輝く、巨大な光のネットワークの束のようだった。

 一本一本が生きているかのように微かに脈動し、空間全体に淡い音のような振動を響かせている。

 

 そして、さらにその中央に──


 ひときわ青く、眩く輝く巨大な水晶のような存在が浮かんでいた。それは球体とも結晶とも言えない、不定形のようでいて完璧な構造を持っている。

 表面には、細密な幾何模様が無数に刻まれ、規則的なリズムで光を放っていた。


 陽菜は、息を呑みながら呟いた。


「ここは……いったい……」


 蓮が目を細め、静かに口を開く。


「あの光の線……まるで陽菜の“想願空虚”の景色みたいだな」


 エレナも頷きながら言う。


「うん。わたしも、同じこと考えてた」


 それ以上、会話をすることが不可能なくらい、陽菜たちは、無意識のうちに息を止めていた。

 それは、まったく未知なるものを前にした驚愕であった──。

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