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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第16話:無限ループ

「……来るね」


 時女が低く呟く。

 四角い淵に囲まれた空間の闇が大きく波打ち、虹色の光がより強く揺らめく。

 その時、蓮と彩華が武器庫から戻ってきた。手には軽機関銃を携えている。


「扱いは分かる。任せろ!」


 竜司が言葉を放つ。


 だが、時女は廊下の奥へと移動しながら、鋭く指示を出す。


「ここで撃つと、時空に歪みが出るの。敵を奥まで引き込む」


 その声に応じ、竜司と彩華は無言で廊下を渡り、時女たちの元へ向かった。

 玉藻もそれに習い、同じく、時女たちの元へ向かって後退する。


 玉藻たちは急ぎ、廊下に置かれた荷物を術で宙に浮かせ、即席のバリケードを築き上げた。

 術によって荷物は浮かび上がり、短時間で堅牢な防衛線が完成する。


「ここなら自衛隊の人たちも助けにきてくれる」


 そう言いながら、時女の視線が静かに廊下の奥を見据えていた。


 その直後、廊下の向こうから米対テロ部隊の声が響いてきた。

 各部屋を蹴破りながら進んでいるらしく、その足音は重く、鉄の響きを伴っていた。


「Move out!(進め!)」


「Clear! Breach!! Breach!! Breach!!(突入!!)」


 米対テロ部隊の数名は別の廊下へ回ったようだったが、数人は確実にこちらへ接近している。

 玉藻はその状況を想定しており、静かに言葉を発した。


「他の渡りへ向かった者は、わらわが相手しよう」


 竜司は軽機関銃(MINIMI)を床に置き、うつ伏せに構える。その両手は微かに震えていた。

 それを見た時女は、クスクスと笑みを漏らし、竜司に言う。


「大丈夫。竜司の“うろたえ弾”なんて当たらないから」


 玉藻がその言葉に付け加える。


「彩華、竜司。人の子の殺し合いは好まぬ。心配無用」


 そして――。


「撃って!」


 時女の声が鋭く響いた。


 ドドドドドドッ……!


 軽機関銃の轟音が廊下を震わせる。暗闇の中で、火花が散り、薬莢が床を転がった。曳光弾の赤い軌跡も時折、顔を出す。

 正面からは、米対テロ部隊の消音器による乾いた応戦の音が返ってくる。


 玉藻が静かに呟いた。


「そのまま、飛び弾を放っていればよい。わらわが避ける」


 その言葉と共に、玉藻は跳躍した。広い廊下を存分に活用して、特殊部隊員たちへ一直線に向かう。


 シャキン――。


 着地のタイミングで逆袈裟返しの要領で素早く抜刀する。息をのむほど冷たい刃が、灯りひとつない室内でわずかな残光を拾い、それだけで光を宿したかのように、淡くきらめく。

 玉藻の琥珀色の瞳が、それに呼応するように淡く光を帯びた。

 米対テロ部隊の隊員がバタバタと倒れていく。それはあっと言う間の出来事であった――。


 --------


 一方、陽菜、エレナ、蓮の三人は、時女が言う”赤い壁”の前に居た。壁の表面は朱色に塗られ、周囲には金の装飾が施されている。まるで神殿の一部のような、豪奢でありながらもどこか異様な雰囲気を漂わせている。

 これが幻影だとは、一見ではわからない。


 陽菜たち一行は、屋敷に来る直前に話を聞かされていた。

 第三勧戒(かんかい)へ向かうには、第二勧戒を経由しなければならないということ。

 そして、米対テロ部隊の目標は、この第三勧戒の奪取にあるということ。


(第三勧戒……一体そこに何が……?)


 陽菜はそう思いながら、壁を見つめて口を開いた。


「これだね」


 そう言って、そっと指先を壁に触れる。

 表面はかすかに赤い光を帯び、触れた部分から水面のような波紋が静かに広がった。


 エレナが小さく息をのむ。


「大丈夫かな……」


 蓮が静かに答える。


「時女さんが言ってた場所だ。ここは大丈夫だよ。問題は、この先だな」


 陽菜はエレナと蓮の顔を順に見つめ、力強くうなずいた。


「早くしないと彩華が危ない。行こう」


 そう言うと、陽菜から順に一人ずつ壁の中へ入っていった。吸い込まれるように通り抜けた先は、漆黒の闇が支配する空間。遠くに、かすかに白い点が揺れている。


「あれが、出口かな?」


 陽菜は小さく呟く。後ろからエレナと蓮が続いた。


 ”想い”の力を使えば、普通の闇なら視界を得ることができる。

 だが、ここは違った。何も見えない。音さえも吸い込まれるような、完全な闇だった。辛うじて、エレナと蓮のシルエットだけがわずかに浮かび上がる。


 陽菜は低く口を開いた。


「ここが第二勧戒(かんかい)ってところかな?」


 エレナがそれに答える。


「たぶん、そうだと思う。でも……真っ暗で怖い」


 そう言って、エレナは陽菜の手をぎゅっと握った。陽菜もエレナの手をしっかり握り返す。

 さらに陽菜は蓮に手を差し出し、力強く握ると、蓮も応じて手を返した。


 蓮が口を開いた。


「行こう」


 そう言って三人は手を握り合ったまま歩き出す。

 だが、歩いても歩いても、視界の先にある白い点には近づかない。


(そんなに、ここは長いの……?)


 陽菜は心の奥でそう呟く。

 エレナも小さく声を漏らす。


「あの白いのが出口じゃないのかな……」


 蓮が肩越しに答える。


「どうやら、無限ループなのかもしれない……」


 どれほど歩いたのだろう。時間の感覚も距離感も失い、終わりのない廊下を進んでいるように感じられた。陽菜の胸の奥に、静かな不安が芽生える。


(足元が見えない……走ったら危ない。でも、急がないと!!)


 陽菜の胸に焦りが広がった。

 そのとき、徐々に陽菜の視界が閉ざされていった。強烈な睡魔に襲われるような感覚が身体を覆う。


(彩華に……早く……対処を……)


 心に叫びながらも、目がクラクラと揺れ、世界が遠のいていく。やがて視界は深い闇に飲み込まれた。

 

 ――陽菜は目が覚めた。


「ん……」


 そこは陽菜の部屋。ベッドの上で横たわっている。隣には、妖精の姿をしたエレナが、すやすやと眠っていた。時間を見ると七時少し前だった。


「変な夢見ちゃったな~」


 そう言いながら、陽菜は大きく背伸びをする。


(でも、本当に夢だったのかな? 妙に現実的な……)


 陽菜は隣で眠るエレナに目をやった。するとエレナはゆっくりと目を開け、寝ぼけ眼で陽菜を見返す。愛らしい表情だった。


「陽菜、おはよー。今日は早いねぇ~」


 微笑みながらそう言うと、陽菜も笑顔を返した。


「おはよ」


 陽菜は続けて口を開いた。それは夢か現実かを確かめるためでもあった。


「エレナは、獣人化は今日できるんだっけ?」


 エレナはきょとんとした表情で答える。


「陽菜、寝ぼけてるのぉ~? 今日は満月じゃないでしょ?」


「そっかー。やっぱ夢だったか」


 陽菜は軽く笑いながらエレナに向き直る。


「いや、面白い夢見ちゃってさー。エレナが玉藻さんっていう“九尾の狐”の影響で、自由に人間になれる夢だったんだよ」


 さらに続けて言う。


「それに蓮と彩華とも一緒に冒険したんだよ」


 それを聞いて、エレナはゲラゲラと笑った。


「なにそれ~。おもしろ~い。”たまも”とか”あやか”とか聞いたことないし。でも、”れん”って陽菜が小学生の時好きだった男の子だよね~」


 その言葉に陽菜も笑い返し、軽く頬を赤らめた。


「なんか、すごく大変だけど楽しい夢だったな~」


 エレナが茶化すように笑って言う。


「じゃー、夢に負けないように、今日も学校で冒険するよぉ~」


 陽菜もくすっと笑い返し、ベッドからゆっくり体を起こした。


 一階では、父・康太がテーブルでニュースを見ながらくつろいでいた。

 母・結衣は朝食の準備に取り掛かっている。


 陽菜とエレナは階段を下りてリビングに向かった。


「おはよう」


「おはよー」


 ふたりの声に応えるように、康太が陽菜とエレナに笑顔で挨拶をした。


「おはよう。ふたりとも今日は早いな」


 結衣もキッチンから顔を出し、にこやかに言う。


「あら、陽菜、エレナ、おはよう。ずいぶん早いわね。地震でも起きるかしら」


 陽菜は少しふくれっ面で答える。


「はぁ? たまには早く起きてもいいっしょ!」


 それを見ながらエレナはクスクス笑った言った。


「うんうん。面白い夢を見て、目覚めたらしいよ~」


「エレナは余計なこと言うな」


 そう言って陽菜はエレナの頭をげんこつグリグリした。

 その時だった。リビングにいる悠真の声が響く。


「ママ! またチーズパンがない!!」


 エレナは肩をすくめ、ため息交じりに言った。


「これで、四日連続よ」


 陽菜も頭をかき上げながら言う。


「……また始まった」


 悠真はエレナに向かって真剣な顔で言った。


「エレナ姉ちゃん、犯人見つけてよ……」


 エレナは胸を叩き、元気よく返す。


「まっかせなさーい!!」


 そして、いつも通り、手を腰にあててふんっと鼻を鳴らした。

 陽菜はキッチンの様子をぐるりと見渡しながら、ふと思い出したように言った。


「なんか最近、変な感じするんだよね。変わったことない?」


 結衣が小首を傾けながら答えた。


「……ああ、そういえば。最近、朝起きるとキッチンの棚の扉がちょっと開いてるの。最初は……」


 その時、陽菜は突然、強い違和感に襲われた。結衣の言葉は耳に入ってこず、周囲の音が遠のくように感じられる。頭の中に微かなざわめきが広がった。


(この会話って、以前の”ケサランパサラン”の時と同じじゃない……?)


 視界には、確かに知っているいつもの光景。色彩、匂い、時間の感覚も変わらない。

 だが、なにかが微妙に狂っている。空気の重さ、音の響き、光の揺らぎ。既視感とも違う、不思議で不安定な感覚が、陽菜の全身を覆い尽くす。


(ここは、現実じゃないかもしれない……)


 ふと、エレナが声かけてきた。


「陽菜? どうしたの?」


 はっと陽菜は我に返り、何事もなかったかのように振る舞う。


「ん-ん。なんでもない」


 エレナは微笑みながら言う。


「とりあえず、今日の夜に結界を張って仕掛けてみよっか?」


 その言葉に、陽菜は小さく頷いた。


「うん。そうだね」


(やっぱり、これは現実じゃない。過去の出来事だ……)


 陽菜は心の中でそっと呟く。結末を知っている彼女には、これが現実ではないことが確信に変わっていた。


 陽菜はエレナと登校していた。

 街の景色が違う。変わらないと思っていた感覚が、今は明らかに異なっていることを実感できる。水彩画のような薄い街並み、空も青ではなく白い。全ての情景が幻影だ。


 そんななか、校門前まで差し掛かった時、梨紗と香澄が声を掛けてきた。


「おはよー」


「おっはよ~」


 ふたりの挨拶に違和感を感じながらも、陽菜は自然に返した。


 ふと、エレナが言う。


「梨紗ちゃん、陽菜のことあきらめたのかな~。陽菜を見つめる目が普通だったね」


 そう、梨紗は陽菜に対して百合的な感情を抱いている。にも拘わらず、今いる梨紗の視線は少し違っていた。


 陽菜ははっとする。


「エレナ! どうしてそれを知ってるの!?」


 現実世界の記憶だと、この時点ではまだ梨紗が陽菜のことを好きだという事実は、陽菜もエレナも知らないはずだった。なのにエレナは、それを知っている。


 陽菜の問いに、エレナは少し微笑みながら答える。


「……なんでだろ。わたしもわからない」


 陽菜は考え込むように付け加えた。


「ウチたちって、時女さんの屋敷にいたよね? 赤い壁、入ったよね?」


 エレナは肩をすくめ、少し首をかしげる。


「ん~~、なんだろ~、よくわかんないな~」


 その瞬間、陽菜は確信した。


(ここは異空間だ。ウチだけじゃなく、エレナも蓮もここにいる。そして忘れている……。蓮を探さないと)


 梨紗が不思議そうな表情で陽菜を見る。


「陽菜? どうしたの?」


 香澄も茶化すように声をかける。


「陽菜? 寝ぼけてるんじゃないかー?」


 陽菜はふたりの言葉を意に介さず、強い決意を込めて言った。


「エレナ! 走るよ!!」


 その声とともに、陽菜は走り出す。


「ちょ、ちょっと待って!!」


 そう言うと、エレナは慌てて陽菜の後を追った――。

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