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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第15話:死結晶

 陽菜の想願空虚が晴れ、気づけばそこは暗闇の森の中だった。

 木々の間から覗く夜空は、まだ夜の色を残し、朝を告げるにはほど遠い。


 蓮は陽菜を抱きかかえていた。彼女はまるで眠っているかのように気を失っている。


「……傷が、消えかけてる」


 蓮が呟いた視線の先では、陽菜の腹部に走っていた切り傷が、ゆっくりと閉じるように治癒していく。

 その様子を確かめ、エレナも安堵の息を漏らした。


「大丈夫。陽菜は助かるよ」


 蓮はふと、陽菜の手の甲に刻まれていた紋様が消えていることに気づいた。

 それはエレナの目にも留まったらしく、口を開く。


「わたしのも、消えたみたい」


 エレナは蓮の手の甲にも同じ変化が起きていることに気づく。

 

「あ! 蓮のも消えてるよ!」


 蓮も陽菜を抱きかかえたまま、自分の手の甲を見つめた。確かに紋様はもうなかった。

 そこへ彩華と竜司が駆けつける。彩華は息を整えながら短く告げた。


「……いったん、別荘に戻ろう」


 蓮は陽菜を抱えたまま、彩華に問いかける。


「彩華……お前の怪我は?」


 彩華はわずかに笑みを浮かべて答えた。


「大丈夫。完治には少し時間がかかるけど、術で抑えてる。こんなの、かすり傷程度よ」


 そう言った直後だった。


 ドクン──。


 胸を打つような脈動と共に、彩華の目が見ひらかれる。


「ぐぁぁっ!」


 苦痛の叫びを残し、彩華は崩れるように地に伏した。力なくうずくまり、そのまま意識を失う。


「彩華っ!!」


 竜司が叫ぶが、返答はない。


 尚也が駆け寄り、彩華の胸の傷を確かめる。それは、傷口を覆うように、黒紫の痣のようなものが広がっていた。

 出血や炎症ではない。皮膚の下で、何か得体の知れないものが静かにうごめいているように見える。


 尚也がそっと傷口に手を触れる。

 すると、黒紫の痣が脈打つように淡く輝いた。


 それを見た尚也が呟く。


「まさか……これは……」


 尚也の言葉に被さるように声が響いた。


「死結晶……」


 その言葉は陽菜から発せられた。

 尚也はそれに静かに頷く。


 蓮が口を開いた。


「陽菜、大丈夫か?」


「蓮、ありがとう……もう大丈夫」


 陽菜は微笑み、そっと蓮の頬に触れる。蓮は短く頷き、陽菜を下ろした。

 彼女の傷は、もう跡形もなく消えていた。


 蓮は驚きに目を見開き、陽菜に問いかける。


「しけっしょう……? どうしてそうだと?」


 陽菜は視線を落とし、静かに答える。


「ウチにも、よくわからない……でも、そうだと何故か分かるの……」


 尚也が低く呟く。


「さすがだな……春裁(しゅんさい)(きみ)……」


 その言葉に、エレナが鋭く尚也を問いただす。


「どういうこと? なにか知ってるんでしょ?」


 尚也は視線を巡らせ、口を開いた。


「死結晶とは、人の負の想いから形作られるもの。妖の刀に封じられし力……」


 一瞬間を置き、尚也は続ける。


「平たく言えば……呪いだ」


 声に重みが増す。


「死結晶は即死をもたらすものではない。だが、負の感情が全身を覆えば、いずれ死に至る。それがいつになるかは、当事者の感情次第だ」


 沈黙が流れる。尚也はしばらく言葉を探し、低く続けた。


「とりあえず、別荘へ行こう。本体が、時女の屋敷に来る」


 別荘に着くと、彩華は、用意された二階自室のベッドに横たわっていた。

 正直、何が起こるか分からず、力技が必要になるかもしれない。そのため、竜司ではなくエレナが彩華の側に付いていた。


 陽菜たちは一階のリビングに降り、そこにいた黒羽たちと合流する。

 時女が口を開く。


「死結晶ね……鴉の連中、ひどい真似を」


 陽菜が問い詰めるように言った。


「時女さん、その死結晶を消すには、どうすればいいのでしょうか!?」


「死結晶か……」


 その言葉に呼応するように、ふわりと玉藻が場に現れた。

 陽菜は驚きと共に振り返り、玉藻に呼びかける。


「玉藻さん……」


 玉藻は時女の方へ視線を向け、静かに答えた。


「屋敷に行けば、あるいは……」


 陽菜が即座に応える。


「時女さんの屋敷ですね」


 玉藻は頷く。


「死結晶は人の想いが形になったもの……わらわにも確かなことは分からぬ。だが、屋敷の第三勧戒(かんかい)に行けば、何かが分かるやもしれぬ……」


 陽菜が小さく呟く。


「だいさんかんかい……?」


 その言葉が重く響く中、黒羽の無線機が震えた。


「……わかった」


 黒羽は応答し、時女に告げた。


「やはり動きがありました。特殊部隊三チーム、おそらく対テロ部隊(DEVGRU)です」


 それはアメリカ軍内部でも謎のベールに包まれた特殊部隊。

 噂では、外敵要人の暗殺や極秘工作すら担うと言われていた。存在そのものが影であり、任務の詳細は闇の中だ。


「やはり、隠密に屋敷を奪取したいようです」


 黒羽の言葉に、時女は微かに頷く。


「うん。やっぱり、あっちが本命だったようね」


 そして、時女は陽菜たちに向かって言った。


「屋敷が本命。敵は対テロ専門の特殊部隊。狭い場所を得意とする。今までとは違う」


 言葉を落とし、少し間を置く。決意を確かめるように時女が問いかける。


「大丈夫?」


 陽菜は真っ直ぐに頷き、力強く答える。


「はい!」


 蓮と竜司も同時に頷く。


「「大丈夫です」」


 すると、後ろからも声が聞こえた。


「あたしも、行きます」


 それは彩華の声だった。意識を取り戻し、彼女は二階から静かに降りてきた。死結晶の影響はないのか、いまは普通に歩いている。

 横にはエレナも立っていた。


 竜司が少し驚きの声を漏らす。


「話、聞こえてたのか」


 彩華は微笑むように答える。


「わからないんだ。夢のような感覚で眠っている間も、こっちの話は聞いていた。幽体離脱……かな」


 陽菜が思わず声を上げる。


「彩華! だめだよ。まだ傷も治ってない! ここはウチに任せて!!」


 だが、彩華は小さく首を振り、静かに言った。


「陽菜にばかり、迷惑はかけられない……」


 その言葉に、陽菜は息を詰めたまま、ただ名を呼ぶ。


「……彩華」


 エレナが明るく手を叩くように言う。


「じゃー決まりだね!!」


 話の切りのいいタイミングを見計らった蓮が、玉藻に問いかけた。


「玉藻さん、翅脈は?」


 玉藻が笑顔で蓮に答えた。


「うむ。引き続き、陽菜の屋敷の警護を頼んでおる」


 その言葉に、尚也が付け加える。


「念のため、陽菜ちゃんの家は、沙耶も護衛に回っているよ」


 陽菜は驚き、笑顔で返した。


「沙耶さんも来てくれてるんですか!?」


 沙耶には本当に世話になりっぱなしだと、陽菜は心の中で感謝の想いをそっと呟いた。


 --------


「3・2・1、Execute!」


 時女の屋敷。謁見室を思わせる広間の入口の重厚なドアが、米対テロ部隊が仕掛けたC4爆弾によって吹き飛ばされた。

 轟音と共に破片が飛び散り、粉塵が室内を覆う。

 瞬時に米対テロ部隊員たちが部屋へ突入する。室内は真っ暗闇だったが、彼らが装着する四眼暗視ゴーグルには昼間のように鮮明な視界が映し出されていた。


 その装備はすべて最新鋭である。米対テロ部隊員たちは最新式の小型自動小銃(MCX)を携え、静かに進撃する。


 だが、対するは自衛隊最精鋭の特殊作戦群。彼らもまた自動小銃(HK416)を手にし、四眼暗視ゴーグルを装着して待ち構えていた。装備と練度は互いに肩を並べる。


 沈黙の中、双方の消音器付き銃口から発射される銃声が、異様に鮮明に響き渡る。

 息を殺し、互いを削り合う戦い。そこには一歩も引かない、一進一退の攻防戦が繰り広げられていた。


 米対テロ部隊は二方向からの包囲を狙っていた。

 ひとつは、現在交戦中の謁見室付近。もうひとつは、時女たち関係者のみが出入りできる秘密の入口だ。

 しかし、後者の入口には自衛隊員による警護が及んでいない。というより、警護すること自体が事実上許されない領域であった。


 その場所に、陽菜たち一行は瞬時に現れた。時女と玉藻の力によって、転送されたのだ。

 ここも同様に暗闇であった。一行は、時女と玉藻が握っていた手をそっと離す。


 陽菜が視線を向け、小さく呟く。


「ここって、時女さんの部屋の近くですね。まさか、秘密の入口があるなんて……」


 その入口は、ドアではなく、大きな四角い淵に囲まれていた。中は深い闇に包まれている。

 エレナがそっとその暗闇に指先を伸ばす。触れた瞬間、水面に波紋が広がるような感覚が走った。

 波紋は虹色に輝き、静かに揺らめきながら暗闇を照らし出す。


 時女は穏やかに頷きながら言った。


「そうだよ。ここは限られた者しか知らない、秘密の入口だよ」


 その言葉には重く確かな意味が込められていた。時女はさらに続ける。


「この扉は、あらゆる場所と繋がれる。でも、アメリカには以前、そのひとつを知られてしまった。だから、敵はここからも来る」


 その瞬間、エレナが小さく声を上げた。


「どうやら、来たみたいだよ」


 四角い淵に囲まれた空間の闇が波打ち、虹色の光を揺らめかせる。

 一行は無言のまま動き、十メートルほど進んだ突き当たりを左右へ分かれ、廊下の陰に身を潜めた。

 

 右には陽菜、エレナ、蓮、そして時女。

 左には彩華、竜司、玉藻。

 

 今陽菜たちがいるのはT字路。右の廊下は謁見室へとつながり、左の廊下の先には武器庫へと降りる階段がある。


 だが、この屋敷は縦横無尽に伸びる廊下と部屋が絡み合い、迷路のように複雑だ。

 敵の動きによって、取るべき戦略も変わってくる。


 張りつめた沈黙の中、時女が低い声で指示を出す。


「陽菜ちゃん、エレナちゃん、蓮、よく聞いて。この廊下の真ん中に赤い壁がある。それは幻影の壁。その向こうは第二勧戒に通じている。まっすぐ突き切るんだよ」


「いまの三人なら行ける。その手の甲に浮かぶ紋様が通行証になる」


 言葉通り、陽菜とエレナ、蓮の手の甲に再び紋様が浮かび上がった。

 陽菜には”主”、エレナには”護”、蓮には”知”という文字が刻まれている。


 彩華が疑問を口にした。


「あたしたちは?」


 時女は短く答える。


「今は、まだ入れない。でも、紋様が現れれば行ける」


 彩華が首をかしげ、低く問い返す。


「紋様……?」


 その言葉を時女が制するように告げる。


「話はあとで!!」


 緊迫した空気が廊下に張り詰める。時女はさらに声を張り上げた。


「竜司! ありったけの武器を持ってきてっ!」


 竜司は即座に頷き、静かに動き出す。


「分かった」


 竜司のその声が廊下に響き、緊張はさらに高まった。

 時女は振り返り、陽菜たちに告げる。


「陽菜ちゃんたち、あとは任せたよ」


 玉藻も口を開いた。


「エレナ。任せたぞ」


 その呼びかけに、エレナは一瞬驚きの表情を浮かべた。玉藻は、これまではかつての名である「蜻蛉羽(あきづは)」と呼んでいたのだ。

 エレナと呼ばれるのは初めてだった。


「うん! 玉藻も気を付けて!!」


 エレナは自信を込めて答える。玉藻は微笑みを返した。

 陽菜が彩華に向かって言葉を開く。


「行ってくる……。絶対、無理しないでよ!」


 彩華が小さく笑みを浮かべて返す。


「陽菜こそ、無理しないでよ!」


 陽菜は頷き、強く言い切った。


「必ず、方法を見つけてくるっ!!」


 蓮が短く告げる。


「行こう。ふたりとも」


「うん!」


 陽菜は彩華の手をそっと握ったあと、迷うことなく走り出した。


(彩華を早く助けないとっ!)


 陽菜は心にそう誓いながら、エレナ、蓮と共に赤い壁へ向かう。

 その背を見送りながら、時女が低く呟いた。


「きっと、彼女たちなら大丈夫」


 玉藻は無言で頷いた。

 廊下の空気はさらに張り詰めていった──。

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