表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/99

第12話:陽菜の死闘

 陽菜は、白い帯を刀のように握りしめ、鴉焔あえんへと切りかかった。

 身を大きく反らし、跳躍と同時に振り下ろす。


「どりゃあっ!」


 鋭い一閃を前に、鴉焔は素早く身を引き、後退した。

 だが、陽菜も休まず、着地した足を軸に帯刀を横へ薙ぎ払う。狙いは鴉焔の脚。

 しかし、獣のごとき身のこなしでかわされ、刃は空を切った。


 さらに踏み込んで陽菜は白帯の刃を振る。

 白帯の刃と鴉焔の刀の刃が交錯し、甲高い金属のような音が弾けた。


 陽菜は即座に刀を跳ね上げ、横一文字に薙ぐ。鴉焔は身を沈め、刃先が頭上を裂くのをすり抜ける。

 その動きを読んでいたかのように、陽菜はすぐさま反転し、逆袈裟に斬り込む。


 右から、左から、突き、薙ぎ払い──。

 陽菜は息継ぎすら忘れ、ただ全身で斬りかかっていた。


 鴉焔は影のような速さで受け流し、払い、時にわずかに体をずらして躱す。

 その余裕は、まるで遊んでいるかのよう。


 今度は、鴉焔が刀を縦に振りかざした。

 陽菜が、白帯の刃を横にしてそれを防ぐ。刃が再び交錯する。

 その時、鴉焔が笑った。


「アンタ、負けず嫌いだね。ケーケケケ!」


「そんななまくらじゃ、俺には勝てないよ。ケーケケケケ!!」


 陽菜は汗を滴らせ、短く言い返す。


「あっそ!」


 その声と同時に、左手が閃く。 掌から放たれた青白い光球――。

 至近距離から放たれたそれは、鴉焔の胴を直撃した。


「ぐっ!」


 爆発の衝撃とともに、鴉焔の身体は大きく後方へと押し飛ばされた。

 だが、砂浜に叩きつけられることはなく、両脚を深く砂にめり込ませ、力ずくで全身で衝撃を受け止める。


 砂煙と爆煙が立ち込める中、鴉焔は口の端を歪めて笑う。


「……ほう、今のは少し効いたぞ。だが、ダメだねぇ、やっぱアンタ弱いや。ケーケケケ」


 そう言いながら、鴉焔は片手をゆるりと掲げる。


「今度は、俺の帳に招待するよ」


 次の瞬間、陽菜の帳は霧散した。開かれた黒き裂け目が彼女を呑み込み、景色は一変する。


 そこは、血の色に染まったような赤黒い空間。焼け焦げた枯れ木が林立し、爛れた大地の上空には、不気味に赤い月が浮かんでいた。

 月面には深いクレーターが刻まれ、赤光を滴らせるかのように照りつけている。


 その空間に引きずり込まれた陽菜は、足を踏みしめるなり声を張り上げた。


「エレナっ! 彩華っ!!」


 返事はない。不気味なほどの静寂。

 陽菜は鴉焔を睨みつけ、怒りを込めて叫んだ。


「エレナと彩華は、どこにいる!?」


 鴉焔は肩を揺らし、喉の奥で笑う。


「ケーケケケ……。呼んだのはアンタだけさ」


 一瞬、胸の奥を冷たい孤独が突き刺した。

 けれど、すぐに陽菜は強く息を吸い込み、両手で白い帯を握り直す。


「……なら。一人でも、やるだけだよ」


 額に汗を浮かべながらも、瞳の光は揺らがない。

 それを見透かしたかのように、鴉焔は笑って言う。


「ケーケケケ……アンタ、本当にバカなんだな。ここに呼んだのは、アンタを孤立させるためなんだよ」


 低く響くその言葉に、重さを感じる。

 鴉焔は一歩前に踏み出し、冷たく言い放った。


「アンタはエレナという妖精と、蓮という男がいないと、本来の力は発揮できない」


「それくらい分かってるだろ?」


 陽菜は深く息を吸い込み、握り直した白帯を強く引きしめた。


「……重々承知だよ」


 短く吐き出したその言葉に、彼女の瞳が烈火のように光る。

 孤立していることも、力の一部を欠いていることも──すべては理解した上で、それでも戦うと決めた瞬間だった。


「だから、ウチは、諦めない……、デスる前にぶっ潰す!」


 鴉焔が低く声を放った。


「そうこなくっちゃね~。倒し甲斐があるってもんだ」


 そう言うと、鴉焔はゆっくりと横へ手をかざした。その動きに呼応するように、帳の空間から異形が静かに浮かび上がる。白装束に包まれたその姿は、一見人間のようでありながら、どこか異様だった。

 まるでのっぺらぼうのように、顔には一切の表情がない。

 しかし、その両腕は刀のように鋭く刃を形成している。


 一体、また一体と、無数の白装束が現れる。

 そして、鴉焔の刀の刃先が赤い空間を反射し、冷たく光を帯びながら、静かに陽菜へと向けられた。


 それに呼応するように、白装束の群れが一斉に陽菜へ飛びかかる。

 陽菜は、咄嗟に身を翻し、右、左と躱す。帯刀を振るい、飛びかかる白装束の異形たちを次々と両断していった。


「クソッ! 数が多い!!」


 幸い、異形たちの動きは単純だったため、避けるのは容易だ。

 だが、その数は圧倒的だった。切っても切っても、次から次へと迫ってくる。


 そして、一体の異形を倒した直後、背後から鴉焔が突進してきた。


「キェェェェーーー!!」


 陽菜は瞬時に反応し、身を翻す。右手で突き出してきた鴉焔の刀を辛うじて避け、その刃が陽菜の髪をかすめた。

 だが、鴉焔の左腕は自由だった。


 そこに、不気味な赤い球が現れる。


(やばいっ!!)


 陽菜が、思考が瞬時に駆け抜けた瞬間、鴉焔は左手から赤い球を放った。腹部に鋭い衝撃が陽菜を直撃し、全身を吹き飛ばした。


「ぐはっ!!」


 陽菜は、枯れ木へ激しく衝突し、地面に倒れ込む。


「くっ……!」


 呻き声が赤い空間に低く響き渡った。身体は重く、思うように動かせない。それでも必死に力を振り絞り、顔だけを持ち上げる。


 視線の先には、鴉焔がゆっくりと陽菜に向かって歩いてきていた。

 その後ろを、白装束の異形たちが追従する。


 ゆっくりと歩きながら、鴉焔が口を開く。


「さすがだね。王気を纏った裁定者だけのことはある。並みの人間ならとっくに死んでいるよ」


 陽菜は喉の奥で息を詰め、赤い空間の中で鴉焔を睨みつける。


「……諦めるか、って言ったら、ウチは諦めない。絶対に……」


 呻き声と共に立ち上がろうとする陽菜に向かって、白装束たちが再び突進してきた。

 陽菜は、咄嗟に帯刀を振り、必死に攻撃をかわしながら異形たちを次々と両断する。


 鴉焔は一歩、また一歩と着実に距離を詰める。その足音は、まるで空間の奥底から響くような重く、異質な音だった。

 そして低く、口を開く。


「その心意気には感服するよ。でも、どこまで持つかね」


 ゆっくりと歩を進めながら、鴉焔は続ける。


「アンタの力の源はまさに人間たちの“想い”だ。一人ひとりの想いは小さくても、集まれば強大な力になる」


 白装束の猛攻を避けつつ、帯刀で両断しながらも、陽菜はその言葉をはっきりと聞き取れた。


「だが、今はアンタが必要としているふたりはいない……この空間では、アンタは赤子も同然なのさ」


 そう告げると、鴉焔はゆっくりと手をかざし、叫び声と共に、再び不気味な赤い球を放った。


「キェェェェーーー!!」


 陽菜はそれを帯刀で防ぐ。だが、それすらも鴉焔の思惑のうちだった。

 鴉焔が勢いを増し、鋭く突進してくると、その左足で陽菜の腹部を蹴り上げた。


「うぁっ!」


 衝撃が身体を貫き、陽菜は再び吹き飛ばされる。枯れ木の根元に激しく叩きつけられ、砂塵と口から血が舞った。

 痛みが身体を締め上げ、息が漏れる。


「クソッ……」


 それでも、陽菜は気力を振り絞り、よろめきながらも立ち上がった。白装束たちには目もくれず、鴉焔だけを睨み据えて突進する。

 帯刀を振りかざし、右、左、下突き、薙ぎ払い、さらに青白い球を重ねて放つ。

 だが、帯刀は防がれ、青白い球はすれすれで避けられた。陽菜の必死の攻撃は、一切届かない。


「ケーケケケ!! その程度かっ!」


 鴉焔は左腕を大きく横にかざし、鋭い爪で陽菜を切り裂こうとする。

 陽菜はすかさず後方に飛んで回避した。致命傷は避けたが、服が裂け、腹部にかすり傷が走る。血がじわりとにじみ出た。


「……つっ!!」


 激痛に顔を歪めながらも、陽菜は止まらない。むしろ踏み込みを強め、再び突進する。


「その闘志、いいねぇ~」


 嘲る声を浴びせられても、陽菜は止まらなかった。

 鴉焔が刀を振ると、避けて後方へ回避。右足を滑らせるように踏み込み、低い軌道からの突き。即座に身を翻し、逆袈裟の斬撃。

 帯刀は弾かれる。それでも、陽菜は食らいつくように次の一撃へと繋げていく。


 その瞬間、鴉焔は右足で陽菜の腹部を蹴り上げた。腹部を直撃する衝撃。先ほどの傷が災いし、痛みは倍増した。


「ぐはぁっ!」


 陽菜の身体は宙を舞い、無防備に吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。もう、気力も尽き、立ち上がることすらできない。

 鴉焔は、ゆっくりと歩を進め、倒れた陽菜の前に立ちはだかった。

 その巨体が陰影を落とす中、鴉焔はゆっくりと手を伸ばし、陽菜を首を片手で握って掴み上げた。


「くっ……!!」


 陽菜は苦悶の表情ながらも、両手で鴉焔の右腕をつかんで離れようとする。

 だが、びくとも動かない。


「その目……まだ、闘志が残っているね。やっぱすごいよ。ケーケケケ!!」


 そう言うと、鴉焔が笑った。


「だが、それも無駄だ……アンタの力は尽きた」


 鴉焔の声が低く、赤黒い空間に響き渡る。その言葉は重く、陽菜の胸に冷たい刃のように突き刺さった。

 陽菜は、必死に鴉焔の腕を握り返し、痛みに歪む顔で強く言った。


「……ウチは……諦めない……ぶっ潰すんだ!」


 額に滲む汗と血、震える呼吸、その全てが、陽菜の意志を示していた。

 鴉焔は僅かに首を傾け、低い声で答える。


「そうか……なら、終わりを告げる時が来たな。ケーケケケ!!」


 その言葉と同時に、鴉焔は陽菜を力任せに放り投げた。

 陽菜は枯れ木に叩きつけられ、痛みに呻きながら地面に倒れ込む。すると枯れ木の枝が、蔓のように絡みつき、彼女の身体を縛り上げていった。


(諦めない……そう言ったはずなのに……)


 脳裏をよぎるのは、走馬灯のように流れる日々の記憶。

 蓮、エレナ、彩華、竜司、そして家族たち。胸の奥で渦巻くのは、彼らと過ごした日々への切ない想い。


(蓮……ウチね……ここまでなのかな……)


(会いたい……蓮に、エレナに……)


 呻き声と共に、陽菜の瞼は重く沈み、意識が霞んでいく。それでも、心の奥底でひとつの想いが囁いた。


(……蓮……助けて)


 その時、鴉焔が陽菜へと刃を突き出し、冷たく低い声を響かせた。


「ひと思いに、その首を切り取ってやろう。文句があるなら煉獄で聞いてやる。ケーケケケ!!」


 冷徹な刃先が、陽菜の喉元へと迫った──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ