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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第10話:別荘の戦闘

「遠くでヘリの音が聞こえる。司令部に通達。送れ」


 自衛隊の精鋭部隊からの報を、時女の別荘一階で黒羽と藤堂が耳にした。

 厚い壁越しに響く低音は、まるで大地そのものが震えているかのようだった。


「来るわよ」


 藤堂が低く言うと、陽菜たちは小さく頷いた。


 次第にローター音は大きくなり、床板まで微かに震え始める。

 まるで外の闇が建物ごと押し潰してくるような圧迫感に、皆の表情が緊張に固まった。


 エレナが陽菜にしがみつく。


「陽菜……ごめん。こわい……」


 陽菜は微笑みながら優しく言った。


「大丈夫だよ」


 蓮は決意を込めた声で言う。


「来るなら、迎え撃つだけだ」


「オレたちで、ぶっ潰してやろうぜ!!」


 竜司も頷き、威勢よく言った。

 すると彩華が竜司に抱きつき、ちょっとふざけた声をあげる。


「いや~ん、こわい~♪」


 その無邪気な仕草に、周囲の空気は一瞬だけ凍った。

 全員、あまりの緊張の中でそのあざとさに青ざめるしかなかった。


 陽菜はジト目で彩華を見据える。

 それを見て、彩華が反応した。


「な、なによ~……」


 --------


 一方、その頃。米軍特殊部隊を載せたブラックホーク・二機は、そのまま別荘を過ぎると少し先の平地で旋回しながら高度を落とし、機体の側面ドアが開かれた。

 夜風が一気に吹き込み、冷たい空気が米特殊部隊員たちの頬を侵食する。

 暗闇の中、彼らは次々とロープへ身を預け、降下した。


 その様子は、既に自衛隊の無人偵察機の映像でとらえていた。


「その数、十、十五……。」


 モニター前の自衛隊員が冷静に報告する。


 映像を見つめる黒羽と藤堂。

 藤堂が眉をひそめ、声を潜めて問う。


「奴らの動き……どう見ます?」


 黒羽は短く答えた。


「……こっちが自衛隊を投入してるとは知らない。せいぜい武装勢力の残党としか思ってない」


 その瞬間、モニター越しに自衛官が声を上げた。


「降下完了。全員着地を確認。数は二十。これより包囲態勢に入る模様」


 黒羽の無線機が微かに震え、通信が入る。


「わかった……。司令部より指示あり、”祭りの開始”、繰り替えす、”祭りの開始”」


 黒羽は言葉を切り、陽菜たちに向き直る。


「戦闘が開始される。いま、作戦司令部から各部隊へも通達を出た……日本政府と米国政府との交渉も始まる。交渉終了までが、こちらの勝負だ」


 時女は壁際に立ち、冷静に周囲を見渡した。


「敵は二十人規模。だが、彼らは我々の正体を知らないみたいだね。なら、最初の衝突で悟らせる」


 時女は独り言のように腕を組んで、続けて呟いた。


「だけど、この作戦が終了した後が本番……」


 黒羽は時女のその言葉に無言で頷くと、わずかに目を細め、低く呟いた。


「……無駄に血が流れるか」


 黒羽の言葉を聞いた陽菜、エレナ、そして彩華は顔を見合わせ、頷き合った。

 エレナは、時女から借りた拳銃が、レッグホルスターに収まっていることを確認する。

 

 そして、次の瞬間、全員が建物を飛び出し走り出した。


 その動きに藤堂が叫ぶ。


「三人とも、どうしたの!?」


 走りを止めた陽菜が振り返り、冷静に口を開く。


「ウチらなら、殺さなくても倒せます。向こうも国に騙されているなら、なおさらです」


 黒羽は静かに答える。


「佐藤さん……これは仕方ないことなんだ。政治とは、そういうものだ……」


 彩華が声を荒げた。


「そんな大人の都合なんか、知らない! 向こうだって家族や、大切な人がいるんだからっ!」


 エレナも静かに口を開く。


「妖は人の子の争いが嫌いなの……。蓮、竜司。ここはお願いね」


 そう言い放つと、ふたりは再び走り出した。

 黒羽も藤堂もその背中を見送りながら、何もできず立ち尽くす。


 その横で陽菜が静かに言った。


「藤堂さん、黒羽さん、“妖”はね、人の想いがあってこそ“妖”なの。人がいないと、妖も生きていけないんだよ」


「だから、ウチたちは行く。エレナの存在も、彩華の術も、人が居てこそなんだから」


 陽菜は蓮と竜司を見やり、優しく告げる。


「ここはお願いね……」


 その言葉とともに、陽菜は走り出した。

 それを追ように、蓮が陽菜に叫ぶ。


「ちょ、待てよっ!!」


 陽菜は別荘を抜け、走りながら心の中で呟く。


(蓮の言う通り……想いに触れすぎた。生と死の境が揺らいでいる。ひょっとしたらまた暴走するかも……それでも、蓮たちは守る。)


 決意を胸に、陽菜は深い森へと駆け込んでいった──。


 --------


 森の闇の中、赤外線暗視ゴーグル越しに陸上自衛隊の精鋭・第一空挺団が配置につき、暗闇に紛れ潜伏していた。

 隊員たちは消音器付きの自動小銃(20式小銃)を手に、赤外線暗視ゴーグルで森の奥を見つめている。微かに揺れる葉の影、光に反射する銃身、そのすべてが目に入る。


 ヘリから降下した米特殊部隊員も、暗視ゴーグルを通して建物周辺の動きを確認していた。

 静寂を裂くように、彼らは自動小銃(M4)を構えながら低い声で囁いている。


 しかし、次の瞬間、森の影から消音器付き銃の発射音が小さく響いた。


 パシュー。パシュー。


 弾丸は闇を切り裂き、倒れた木の葉が小さく揺れる。

 ふたりの米特殊部隊員はすぐに身を伏せ、暗視ゴーグル越しに確認する。

 

 しかし、森の影から別の自衛隊員が銃を構え、弾丸が放たれた。

 米特殊部隊員の一人が肩を抑え、静かに倒れた。


「Jobs is hit! Down……(ジョブスが撃たれた!)」


「Medic!(衛生兵!)」


 無線報告していた一人も、射線に入った瞬間に肩を撃たれた。

 近くにいた一人が反撃するも、既にその場に自衛隊員はいなかった。


 続けて三人目。消音器の弾丸が足を貫き、倒れた米特殊部隊員は足音も立てず地面に崩れ落ちて呻いた。

 近くの米特殊部隊員が発砲しながら、救出に向かう。


 四人目は木の影に隠れようとした瞬間、自衛隊員の狙撃がヒット。

 足を撃たれ倒れた彼の暗視ゴーグル越しに、森の中で緑の光が揺れた。


 森の中で、互いの存在を探る静かな銃撃戦は続く。

 消音器付きの弾丸は音をほとんど立てず、赤外線に映る点が戦場の唯一の証明となっていた。


 ──その頃、黒羽は作戦司令部経由で自衛隊員たちに指示を出していた。


「そうだ。子供たちにはなるべく見せるな。致命傷は避け、戦闘不能に留めろ。空挺団なら可能だろ」


 黒羽はため息をつき、横で藤堂が口を開く。


「あの子たちの意見に習ったんですか?」


 黒羽は短く答えた。


「まぁ……子供たちには、人の死ぬ姿は見せたくないからな」


 藤堂は少し笑い、肯定するように言う。


「そういう考え、嫌いじゃありません」


 黒羽は無言で頷いた。


 その間にも、米軍特殊部隊は体制を立て直し、再び周囲を警戒していた。

 さすが世界最強の部隊、適応は早い。戦況は敵味方双方の一進一退に移り変わっていく。


 パシュー。パシュー。


「くそっ!」


「撃たれたっ!」


 二名の自衛隊員が被弾した。

 森の闇を切り裂く弾丸。消音器越しでも、地面を打つ微かな衝撃に、隊員たちは身を伏せる。


 建物入口付近で二名の自衛官が撃たれ、戦闘不能との報告を受ける。

 自衛官のオペレーターは無人偵察機の映像を確認する。木々の隙間から、負傷者の姿が映し出されていた。


「デルタ、エコー。二名負傷。救助要請あり。後方の安全区域へ移送せよ」


 指示を受け、近くの自衛隊員が静かに駆け寄る。木陰に身を潜めた負傷者を慎重に引きずり込み、止血帯で素早く処置する。


「脈はある。呼吸も安定……焦るな」


 手を動かしながらも、鋭い視線で周囲の影を警戒し続けた。

 その様子をモニター映像で見ながら黒羽が呟く。


「敵もやるな……体制を立て直して、徐々に接近している」


 無人偵察機からの映像を見たオペレーターが低く報告する。


「敵、六名が入口付近に接近。二名負傷により死角に入りました。他は足止めできています」


 黒羽はモニターを凝視し、眉間に影を寄せながら呟いた。


「さすがだな……六名に取りつかれたか……」


 黒羽は静かに振り返り、自衛隊員に指示を出した。


「取りついた敵兵については、こちらで対処する」


 言い終えると、自衛隊員たちは自動小銃を手に取った。


 その動作を見た蓮と竜司は、一瞬だけ互いを見交わす。空気が張り詰め、緊張がふたりの背筋を走る。

 時女はワクワクした様子で、好奇心を滲ませていた。


 その時、黒羽のもつ受信機が鳴り、無線越しの声が彼の耳に届いく。

 彼は少しだけ間を置き、短く答えた。


「……わかった」


 そして蓮と竜司に視線を向けて口をひらいた。


「両政府との交渉が完了したようだ」


 その言葉に、蓮と竜司は一瞬ぽかんとし、次いで安堵の息を漏らした。


「じゃー……一旦、終わりなんですね」


 蓮の声は少し震えていた。

 藤堂が優しく頷き、竜司は唇を尖らせてぼやいた。


「ちっ、一発も撃てなかったぜ……」


 蓮が苦笑しながら返す。


「そう言いながら、ほっとしてるじゃんか」


 竜司は顔を背けて黙り、藤堂はその様子に小さく笑みを浮かべた。

 緊張の糸がほどけていくのを、誰もが肌で感じていた。


 同時に、オペレータの一人が声を張り上げた。


「全隊員へ通達! 司令部より戦闘停止の命令あり! “祭りは終了した”。繰り返す、“祭りは終了した”!」


 無線越しに各隊員からの短い返答が相次ぐ。


『司令部より連絡受信。送れ』


『了解。送れ』


 戦場を覆っていた張りつめた空気が、じわりと霧のように薄れていった。

 その瞬間、建物入口に取りついていた米軍特殊部隊六名が、鋼鉄製のドアを爆破した。


「Fire in the hole!(爆破!)」


 鋼鉄製のドアは、爆破なしには開かない構造だった。

 停戦の連絡をまだ受け取っていない彼らは、戦闘が続いていると判断し、突入を強行したのだ。


 轟音と閃光が廊下を満たし、爆煙が白い霧のように立ち込める。


「壁よ」


 時女が廊下に立ち、万が一に備えて結界を張った。爆煙はその結界に阻まれ、外部からの視界と侵入を遮る。

 その向こうから、迷彩服に身を包んだ米特殊部隊員たちが、銃口を前に突き出し、雪崩れ込むように廊下へ踏み込んできた。


「Clear! Move out!(クリア! 前進!)」


 彼らは容赦なく前進し、黒羽や蓮たちが身を潜める部屋へと迫ってきた。


 藤堂は即座に身を乗り出し、両手を大きく掲げて彼らと対峙した。

 蓮と竜司も拳銃を床に置き、両手を上げる。


 時女が蓮たちに声を掛ける。


「万が一のことがあるから、結界の中にいてね」


 その瞬間、米特殊部隊員たちの銃口が一斉に彼女たちへ向けられた。


「Freeze! Drop your weapon!(動くな! 武器を捨てろ!)」


「落ち着け! こちらは交戦の意思はない!」


 藤堂が強い声で応じる。

 その直後、米特殊部隊員にも無線連絡が入る。それを聞いた彼らも自動小銃を下した。


 「……Roger that(了解した)」


 背後から、黒羽が静かに姿を現すと、ゆっくりと米特殊部隊員たちに告げた。


「我々は、政府交渉の駒だった」


 --------


 陽菜たちが森を駆け抜けていく。

 そんな状況を、一人の男が上空から冷静に見下ろしていた。

 白石尚也は、足元に展開した魔法陣が淡く光り、重力を無視するかのように宙に浮かんでいる。


「あ~あ……あの子たちまで参戦しちゃって。保護されるべき人間が戦っちゃいかんでしょ」


 尚也は小さく呟きながら、遠くに目を向ける。

 暗闇の中、三つの黒い影がゆっくりと動くのを捉えた。影は人影ではなく、異質な気配をまとい、空気そのものを濁らせていた。


「やっぱり、反対派が出てきたか……とりあえず、お手並み拝見だな」


 そう呟きながら、尚也はその場に身を留め、動かず様子を窺った。

 森のざわめきが、戦いの緊張をさらに濃くしていた──。

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