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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第9話:佐藤家の戦闘

「イーグル1、異常なし」


 モニターを見つめていた自衛官のオペレータが、後ろで立っている黒羽と藤堂に報告する。

 晴れた夜。上空を静かに飛ぶ無人偵察機が、赤外線カメラで地上を監視していた。

 画面には、森を覆う闇の中で規則的な点滅が浮かんでいる。それは赤外線ストロボの輝き──味方部隊の識別信号だ。


 映し出されているのは、無人偵察機・グローバルホークからの映像である。


 報告を受けた藤堂が陽菜たちに状況を説明した。


「来るとしたら……もう間もなくだと思う。大丈夫?」


「はい。大丈夫です」


 陽菜は頷いた。とはいえ、緊張は拭いきれない。


 一行が身を潜めているのは、時女が用意した別荘だった。半島の突端に位置し、周囲に民家はない。正面の入口は森に隠され、反対側は切り立った崖。背後からの侵入は不可能に近い。

 建物の外周には鉄柵と鉄条網が幾重にも張り巡らされ、入口も鋼鉄のドア、さながら要塞のような厳重さを誇っている。

 さらに、その外側には自衛隊の精鋭部隊が展開し、森の中で一瞬たりとも気を緩めることなく警戒にあたっていた。


 陽菜、蓮、彩華はジーンズにトレーナーという動きやすい格好だった。

 対してエレナは、カーキ色のカーゴパンツにロングTシャツを合わせたミリタリー風で、レッグホルスターを装備し、ボディラインを際立たせている。

 竜司に至っては上下迷彩服にタクティカルベストを装備し、遠目には自衛隊員と見間違うほどだった。


 そんな中、彩華がぽつりと呟く。


「まさか、自衛隊が守ってくれるとはね」


 それに時女が胸を張って答えた。今回も彼女は、ジーンズにトレーナーというラフな格好だった。


「だから、言ったでしょ~」


 そんな時女の言葉をよそに、エレナが不安げに声を漏らす。


「……康太たちは大丈夫かな」


「向こうは大丈夫。というか、玉藻ちゃんと翅脈ちゃんがいるから、むしろ心配無用だよ!」


 時女は軽くウィンクして笑ってみせる。


「いざとなったら、僕も支援に行くしね」


 彼女たちは自由に移動できる力を持っている。だから佐藤家の護衛は玉藻と翅脈に任せてある。

 しかも、白くま風のぬいぐるみ、ミミまでついているのだ。


 後ろでは、蓮と竜司が拳銃(Glock17)に弾を込めていた。時女の屋敷から拝借してきたものだ。

 その様子を黒羽がのぞき込み、低い声で問いかける。


「大丈夫そうか? ふたりとも、扱い方はわかるな?」


 蓮が頷いて答えた。


「はい。エアガンとかで練習したことはあります」


 黒羽は軽く頷き、指先で銃を示す。


「安全のため、装填は撃つ直前まで控えて」


「はい」


 蓮が素直に答えると、黒羽は苦笑を浮かべて肩をすくめた。


「本当なら、銃刀法違反だな」


 そう言って笑みを浮かべると、竜司が肩をすくめる。


「いや~、勘弁してくださいよ」


 蓮も苦笑しながら付け加える。


「じゃあ、これ終わったら逮捕ですかね?」


 そのやり取りに、陽菜がふっと微笑んだ。

 すると彩華がすかさず茶化す。


「陽菜なんて、あたしに何回も暴言吐いてるし。名誉棄損で逮捕されてもいいんじゃない?」


 陽菜の眉がピクリと動き、語気を強める。


「はぁ? 彩華はウチを心霊スポットに無理やり連れ回しただろ! 拉致監禁罪だな!」


 彩華も負けじと怒鳴り返す。


「ざけんな! テメー、ちゃんとギャラ払っただろがっ!」


 陽菜が負けずに言う。


「あんな安っすいギャラで払った気分になるなっ!」


 ふたりの声がヒートアップしていく中、エレナが慌てて間に割って入った。


「もぉ~、またケンカ? ふたりともやめなよ~。恥ずかしいってばぁ」


 黒羽はその様子を面白そうに眺めながら、肩をすくめて言った。


「残念だが、私たちは警察官じゃないからなぁ」


 その言葉に場が一気に和み、思わず皆が笑い声を上げる。

 モニター越しに無人偵察機を監視していた自衛隊員たちも、つい口元を緩めていた。


 ひとしきり笑いが落ち着いたあと、藤堂が声をかける。


「みんな、少し休んで。なにかあったらすぐに報告するから」


 陽菜が不安そうに口を開く。


「でも……」


「これが私たちの仕事だから大丈夫。大人の仕事の邪魔はしちゃだめよ」


 藤堂はそう言って、柔らかく微笑んだ。

 陽菜たちはその言葉に押されるように素直に頷く。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」


 陽菜がそう答えると、一同はそろって丁寧に頭を下げた。


 本来、この別荘に来る予定だったのは、陽菜・エレナ・玉藻の三人だけだった。

 だが、言うまでもなく、蓮、彩華、竜司はそれを拒否したのだ。


 結果、時女は条件付きで同行を許可したのである。


< エッチな行為禁止! 部屋を汚すな! ダメっ!!>


 へたくそなイラスト入りのストップマークとともに、その注意書きは各部屋のドアに貼られていた。

 そう、これが時女からの条件である。


(ちっ!)


 それが陽菜と彩華の率直な感想だった。


(クソっ!)


 そして、蓮と竜司の正直すぎる感想であった。


 二階への階段を上がり、それぞれが自室へ向かおうとしたその時。

 時女が念を押すように声をかけた。


「いい?」


 ドンッ、と自分の部屋のドアを叩き、睨みを利かせる。


「来た時に話したけど。ここはラブホじゃないからねっ!!」


 その一言に、一行は顔を青ざめさせてドン引きし、そろって返事した。


「は、はい……」


 やがて陽菜とエレナは同じ部屋に入り、布団へ身を投げる。

 陽菜は大きなため息をつき、エレナは机の椅子を引き寄せ、彼女と向かい合った。


「陽菜……大丈夫?」


 そう問いかけながら、エレナはそっと椅子を近づける。


「エレナ……どうしてこうなっちゃったんだろうね」


「みんなと楽しく、普通に暮らしたいだけなのになぁ~」


 陽菜は俯き気味になり、重くため息をつく。


「まさか、軍隊まで出てくるなんて……」


 ふと、陽菜が目を向けると、エレナが手を差し出して猫のようなポーズを作った。

 そしてそっと陽菜の横に寝転がる。


「えへへ……また、ぎゅってしてあげるね」


 そのまま陽菜はエレナの胸に顔をうずめ、ぎゅっと抱き着く。

 エレナも優しく抱き返し、陽菜の頭をそっと撫でた。


「……あいかわらず、やわらかくていい匂い」


 エレナは穏やかに微笑みながら、優しく撫で続ける。


「ねぇ、エレナ。ひょっとしたら、とんでもないことが迫っている……そんな気がするんだよね」


 エレナが優しく撫でながら聞く。


「どういうこと?」


 陽菜は肩をすくめ、少し笑みを浮かべながら答える。


「分からない。でも、最近変な夢を見るんだ……なんか、幽体離脱しているような気分」


 陽菜は自分で言いながら、エレナの胸の中でクスクスと笑った。


「なんか、面白い夢だよね」


 エレナは微笑みながら、さらに優しく陽菜を撫でて口を開いた。


「わたしはね、陽菜と蓮を結ぶためにここにいると思ってるんだよ」


「でも。いっぱい試練があると思ってるんだ」


 陽菜がエレナの胸の中で言った。


「恋敵的な?」


 エレナは遠くを見つめるような眼差しで答える。


「たぶん。もっと大きな試練かも」


 陽菜は今の状況を思い返すように呟いた。


「これもそうなのかもね」


 エレナが陽菜に励ますように言う。


「うんうん。既にとんでもないことだしね」


「じゃー。早くミッションをクリアしないとだね!」


 陽菜がそう言うと、ふたりとも心から楽しそうにクスクス笑い始めた。


「クククク……アハハハ!!」


 仰向けになり、ふたりの無邪気で明るい笑い声が、静まり返った部屋に温かく響き渡った。

 そのとき、ノックの音とともに藤堂がドアを開けて入ってきた。


「動きがあったわ」


 陽菜とエレナはさっと立ち上がり、一階へ降りる。

 蓮たちも同時に降りてきた。


 自衛官のオペレータが画面に目をやりながら、UAV・スキャンイーグル2の操作を進めている。


「佐藤家にて、会敵を確認。UAVからの映像です」


 現地で待機していた自衛隊員からも無線連絡が入る。


『標的:4。数を確認。軽装備。11時の方角。送れ』


 無線越しの報告が静かに聞こえてくる。

 陽菜は不安そうな顔で画面を見つめた。蓮はそっと陽菜の手を握る。


「玉藻さんや翅脈がいるから、大丈夫だよ」


 エレナもふたりの手にそっと手を重ね、笑顔を浮かべた。


「うん。大丈夫!」


 彩華と竜司も陽菜の顔を見て微笑む。


「大丈夫!」


「うん!」


 陽菜はみんなに大きく頷き、固唾をのんで画面の先を見守った。


 --------


 佐藤家付近は静まり返っていた。夜も更け、家の明かりは消えている。


 私服姿の四名の外国人──アメリカ軍と思われる敵兵が、佐藤家の入口に現れた。一人は自動小銃(M4)を手にし、残る三人は拳銃(Glock 19)を装備している。


 だが、彼らの気配は既に玉藻たちに察知されていた。玉藻、翅脈、そしてミミは準備万端の構え。

 さらに後方からは、私服姿の自衛隊員三名も接近していた。黒羽と藤堂の部下である。


 四名の敵兵が家の門を押し開けた瞬間、玉藻、翅脈、ミミがふわりと目前に現れる。

 敵兵は思わず目を見開いた。


「you're... a target... (おまえは……標的……)」


 彼らが銃を構えようとしたその瞬間、玉藻は手をかざし、帳──想願空虚を展開した。

 自衛隊員を含めた全員が、あっという間にその空間に飲み込まれる。


 目の前に広がるのは、まるで賽の河原のような場所。無数の石が積まれ、仏塔のようなものも見える異空間だ。

 四名の敵兵は恐怖で目を見張る。


「「What is a place !? (なんだ……これは!?)」」


 だが、自衛隊員たちは動じることなく、正確に標的を拳銃(SFP9)で狙っていた。 事前に翅脈から、帳について説明を受けていたのだ。


 玉藻が自衛隊員に向かって告げた。


「人の子の殺し合いは好まぬ。極力、わらわたちで片づける」


 玉藻は続けて、翅脈とミミに告げる。


「飛ばし術は使うな。”自衛隊殿”を巻き込むやもしれぬ」


 そう言うと、玉藻はおどおどする敵兵の一人に突進して、刀を抜いて振りかざす。

 一瞬で、腹、胸、背中を打たれ、その隊員は倒れた。無論、殺してはいない。

 残り三名が、玉藻へ向かって発砲を開始した。玉藻は再び突進し、刀を振るい、さらに一名を瞬く間に倒す。


 ミミは、玉藻を護るように立ちはだかった。

 すると、身体が玉虫色に光り、空間の力で敵兵の自動小銃のバレルを歪めた。瞬く間に使い物にならなくなる。

 慌てて拳銃を抜き、発砲しようとする敵兵に、ミミは稲妻のように突進し、体当たりで大きく突き飛ばした。


 一方、翅脈は残る一名を相手にしていた。だが、後ろから羽交い絞めにされ、敵兵の腕が翅脈の胸を強く押し付ける。


 翅脈は怒りをあらわにした。


「まだ蓮様にも触られてないのに……この変態なのでっ!!」


 その瞬間、敵兵の腕が勝手に離れていく。翅脈が術で操っていたのだ。


「な……なんだ、腕が勝手に……」


 驚く敵兵の腕は、そのまま自身の顎を殴り、よろめいて倒れた。


 あっという間に、四名の敵兵は倒れた。

 翅脈は手をはたいて安堵する。


 だが、ミミが突き飛ばした敵兵の一人が立ち上がり、玉藻に拳銃を向けた。


「このやろ~!!」


 怒り任せに発砲しようとした瞬間──


 パンッ!


 自衛隊員の一名がその敵兵に向けて発砲した。

 手を打ち抜かれた敵兵は膝をつき、呻き声をあげる。


 玉藻はその自衛隊員に向かって頭を下げ、礼を言った。


「助かった。すまぬ」


 翅脈も自衛隊員たちに向かって親指を立て、グッドマークを示す。


 こうして、佐藤家側は完全に対処した。


 --------


 敵兵が拘束されている映像を見て、陽菜たちはようやく安堵の息をついた。


『標的拘束。敵兵負傷者1。救護班の要請。送れ』


『装備からPMCと思われる。送れ』


 無線からも、拘束完了の報告が届く。


 エレナが瞳をうるませて言った。


「よかったよ~……」


 陽菜もこらえきれずに笑顔を浮かべる。


「みんな……ありがとう」


 黒羽が静かに告げた。


「敵は民間軍事会社だったようだ。米軍ではなかった」


 そして言葉を区切り、重く続ける。


「揺動が仕掛けてくる。覚悟してくれ」


 その声に、陽菜たちは改めて真剣に頷いた。

 安堵と緊張が入り混じる中で、胸の奥に小さな炎のような覚悟が灯っていく。

 長い夜が始まった――そう、陽菜たちは感じたのであった。

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