表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/99

第8話:彼らの決意

 放課後の教室。陽菜とエレナ、そして蓮は、いつもの校舎裏の芝生に腰を下ろしていた。

 いつもなら他愛もないおしゃべりで時間を過ごす場所。だが今日は違う。


 黒羽と藤堂から「話がある」と告げられ、陽菜たちが指定したのがここだった。

 校舎裏でもあり、ここなら人目につかない。

 エレナも今回は妖精の姿のまま、陽菜のそばにいる。


 そこへ黒羽と藤堂が現れ、短く告げる。


「護衛には我々もつきます」


 黒羽と藤堂の言葉に、陽菜とエレナの表情が険しくなる。


「……なんのことですか?」


 陽菜しらばっくれるように返した。

 その声にはあからさまな警戒がにじんでいた。この間の件もあり、彼らを信用できるはずがない。


 黒羽が淡々と告げる。


「佐藤さん、北川さん。こちらにはすでに情報が入っています」


 藤堂も重ねるように言った。


「米国もすでに動き出している……。政府としても、あなたを守るよう命じられているんです」


 陽菜は心の中で小さく呟く。


(なるほど……時女さんの手配ね……)


 ほぼ同じタイミングで、蓮も呟く。


「『手配済み』って、時女さんが言っていた件か……」


 陽菜はそれでも冷たく言い放った。


「でも、私たちは……あなたたちに関わるなと言ったはずです」


 その言葉に、藤堂が真剣な表情で返す。


「だから、もう一度信じてほしいの。私たちを……」


 黒羽も静かに続けた。


「難しいのは分かっている。だからこそ、私たちの行動で示させてほしい」


 陽菜は黒羽たちの言葉に、ほんの一瞬だけ視線を揺らした。

 だが、すぐに鋭さを取り戻し、冷ややかに言う。


「……口で言うのは簡単です。あなたたちは“私たちにしか見えない”仲間を撃った。それは許せません」


 黒羽は視線を落とし、短く答えた。


「それは分かっている」


 沈黙が一瞬、辺りを支配する。

 その隣で、エレナが小さく肩をすくめ、陽菜に囁いた。

 今のエレナは妖精のため、黒羽と藤堂には声も姿も届かない。


「陽菜、どうするの?」


 陽菜は答えず、じっと黒羽と藤堂を見据えた。

 代わりに、蓮が静かに口を開く。


「……陽菜。いいじゃないか?」


「蓮……」


 陽菜の言葉に、蓮は少し間を置いて続ける。


「味方は多いほうがいいし。時女さんの承認もあるなら、俺たちにはもう何もできない」


 陽菜はエレナと蓮を交互に見つめ、やがて優しく頷いた。


「うん。そうだね」


 その言葉に、エレナも微笑んだ。


 蓮はさらに言葉を重ねる。

 黒羽と藤堂が一瞬、驚きを隠せない表情で互いを見つめた。


「ですが、あなたたちが本気かどうか……こちらも見極めさせてもらいます」


 その声音は冷静だったが、どこか釘を刺すような響きを帯びていた。

 藤堂が短く息を吐き、頷く。


「……それでいいわ。あなたたちが納得するまで、私たちの行動を見てほしい」


 黒羽も短く言葉を添えた。


「守る。それだけだ」


 芝生の上に沈む夕陽が、五人の輪郭を長く伸ばす。

 それは静かな誓いのようにも、緊張の前触れのようにも感じられた。


 黒羽と藤堂が去り、帰り道。翅脈がふわりと現れた。


「姐さん。ちょっと彼らを追ってみました。とりあえず、我々を守るのは本当のようなので」


 陽菜は息を吐き、肩の力を抜いて言う。


「そっか……」

 

 エレナが小さく肩をすくめ、陽菜に囁く。


「陽菜、まだ警戒してる?」

 

「んーん、と、いうよりも……」


 陽菜は翅脈に視線を向けた。翅脈はそれを察し、穏やかに答える。


「姐さん……心情、ありがとうございます。でもアタイは大丈夫です。蓮様を守ると決めた以上、過去の遺恨は気にしません。それが玉藻殿との約束でもありますので」


 蓮も二人の心情を察していた。根本的には黒羽と藤堂を許せないという感情はあるだろう。だが、彼の意見は短く真剣だった。


「今は拒否する理由もない。まずは受け入れる方向で考えよう」


 陽菜は蓮をじっと見据え、短く頷く。


「うん。蓮が言うことが正しい。ウチも受け入れる」


 翅脈が静かに頷き、低く告げた。


「姐さん、アタイは蓮様と姐さんの判断は正しいと思いますので」


 --------


 陽菜とエレナは、蓮たちと別れ、自宅に帰ってきた。

 鍵を差し込もうとしたその瞬間、ふわりと玉藻が現れる。


「玉藻さん」


 玉藻はにこやかに告げる。


「すまぬな。少し気になっての、立ち寄ってみたのじゃ」


 陽菜はうなずき、玉藻を家の中へ招き入れる。家には誰もいなかった。

 玄関に入ると玉藻は足を止め、ぽつりと呟いた。


「……やはり、そうか」


 玉藻はそのまま履物を脱ぎ、リビングへ進んだ。陽菜も後を追う。その視線の先には、一つのぬいぐるみがあった。

 それは、以前商店街の奥で拾った白いくまのようなぬいぐるみ・ミミであった。


 今は弟・悠真のいたずらで、RPGゲーム風の剣と盾がセロテープで貼りつけられている。


 陽菜は玉藻の様子を不思議そうに見て、声をかけた。


「どうかしたの?」


 玉藻は無言でうなずき、ミミに歩み寄る。

 そして、目を細めて優しく微笑んだ。


「……初めて幻術でそなたの部屋に来たとき、不思議な感覚に見舞われたのだ」


「その正体が、ここにある」


 エレナが小さく声を上げる。


「このぬいぐるみには、想いが宿っているの」


 玉藻は静かに答えた。


「たしかに、幼い女性の想いだ。そして……その想いは恋をしておる」


 玉藻はしばらく黙り込み、まるでミミと会話しているかのように見えた。

 陽菜とエレナは顔を見合わせ、その様子を息をひそめて見守った。


「そうか……。では頼もう」


 玉藻は小さくうなずき、両の手で九字を切った。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 ……。 令百由旬内無諸衰患……急々如律」


 低く響く声と共に、ミミの身体が玉虫色に輝きだす。


「わらわの術で、この人形に力を行使できるようにした」


 陽菜が不思議そうに首をかしげる。


「どういうことなの?」


 エレナも呟いた。


「“恋”とか“力”とか……玉藻、ちょっとよく分かんないよ~」


 玉藻は微笑んで説明をする。


「うむ。この人形は、そなたの弟君に恋をしている」


「え!? 悠真に? マジで!?」


 陽菜が声を上げると、エレナも目を丸くする。


「えぇぇっ!? そうなの!?」


 さらに玉藻が言う。


「十二歳ほどの女童(めのわらべ)の想い。その想いはこの家と家族を守ることを使命としておる」


 エレナはミミを見つめ、ふと陽菜に囁いた。


「……あのゲームの剣と盾が、きっかけになったのかも」


「……あははは……」


 陽菜は顔を引きつらせ、苦笑いを浮かべた。


「なにかあったとき、この人形が家族を守ってくれるであろう。ミミとやら、頼んだぞ」


 すると、ミミの身体が淡く光を放った。

 エレナは思わず微笑み、ぬいぐるみにそっと声をかける。


「ミミ、よろしくね」


 陽菜もそれに倣った。


「ミミ、家族をお願いね」


 しばらく見つめ合ったのち、エレナがふっと笑みをこぼす。


「……“まかせて”だって」


 その一言に、陽菜と玉藻は優しく微笑み返した。


 陽菜は玉藻に、先ほど黒羽と藤堂から告げられた話を伝えた。玉藻の意見も聞いてみたいというのが、陽菜の率直な気持ちだった。

 一通りの状況とふたりの意向、そして蓮と話し合った結果を説明すると、玉藻はゆっくりと口を開いた。


「うむ、時女からもすでに聞いておる。わらわも陽菜や蓮殿と同じ考えじゃ」


「彼らにも果たすべき役目はある。それならば、手勢は多い方がよい」

 

 その言葉に、陽菜は胸の奥の緊張がほどけるのを感じた。自分たちの判断が間違っていなかったと分かり、不安が少し軽くなる。

 

 玉藻はすべてを理解しているかのように、穏やかに陽菜へ視線を向ける。


「蓮殿を、信頼しておるのだな」


 陽菜は少し顔を赤くし、短く頷いた。玉藻はさらに言葉を重ねる。


「そなたらは若い。案ずることはない。選択した道は、必ずそなたを導く」


「はい!」


 陽菜は顔を少し上げて力強く答えた。その様子に、玉藻は優しく微笑む。


 少し間をおいて、玉藻がゆっくりと口を開いた。


「では、わらわは彩華に占術を稽古せねばな。同じく、蓮殿にも」


 そう言う玉藻に、エレナが問いかける。


「陽菜と彩華、大丈夫だよね?」


 玉藻が不思議そうに返す。


「どうした?」


「んーん。なんでもない……」


 エレナは首を振るが、陽菜が茶化すように笑った。


「心配してるの? 大丈夫だって! でも……」


「エレナ、ありがとうね」


 そう言って、陽菜はエレナの手を軽く握った。

 エレナもその温もりに身をゆだね、微笑みながら頬を寄せた。


 だが、その瞳の奥には、ほんのわずかな不安が残っていた──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ