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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第7話:それぞれの支度

 授業中、陽菜は思わずウトウトしてしまった。

 妖精の姿のまま、エレナがそっと様子をうかがいながら声をかける。


「陽菜、大丈夫?」


 陽菜は小さく頷いた。


「うん、大丈夫」


 しかし、その直後、強烈な睡魔が全身を襲う。自分の意思とは裏腹に、陽菜は抗えずに意識を落としていった。


「陽菜……陽菜……?」


 エレナの声が遠くで聞こえる。ふと、陽菜の瞳が開くと、そこは見知らぬ部屋だった。

 年配の男性と、若い男女が立っている。年配の男性はスーツ姿、若い男女は自衛官の制服を着ていた。


「黒羽先生……藤堂先生……? ここは……?」


 それは、まるで幽体離脱のような感覚だった──。


 --------


「失態だな……。わずか二週間か」


 防衛大臣の声が重く響いた。


「返す言葉もございません。あれほどの者たちとは……思いませんでした」


 頭を下げる黒羽二尉。その隣には藤堂三尉が控えている。


 藤堂が続けた。


「ですが、動向は引き続き追っております。衛星やグローバルホークからの情報も逐次入手しています」


 防衛大臣は窓際に歩み寄り、外を見やりながら口を開いた。


「総理代理からの通達だ。これより君たちは、連中の護衛に回れ」


 黒羽が眉をひそめる。


「と、いいますと?」


 大臣は淡々と答えた。


「米国から二日前、総理宛に通達があった。九尾の身柄を要求してきた」


 黒羽が分かってはいるものの敢えて聞いた。


「……で、その要求を呑むのですか?」


 大臣は外を見やりながら答える。


「無論、そんなことはしない。国民の生命と財産を守るのが我々の責務だ」


 黒羽が呟く。


「……つまり、仕掛けてくる、というわけですね」


 大臣は静かに頷いた。


「……奴らは、日本の本気度を試すつもりでいる。統合作戦司令部が全体を統括するが……君たちには現場指揮権を委ねたい」


「連中も、そのほうが幾分かは心が休まるだろう……」


 黒羽が一歩前に出て言う。


「ですが、我々は彼女たちから警戒されています。本当に大丈夫でしょうか?」


 大臣は静かに答えた。


「手は打ってある」


 黒羽と藤堂が声を揃える。


「はっ!」


 大臣はさらに言葉を重ねた。


「相手は米国の精鋭だ。頼んだぞ」


 黒羽が力強く返す。


「“危険を顧みず、もって国民の負託にこたえる”。それが、私が自衛官を選んだ所以です」


 その言葉に藤堂もうなずき、ふたりは揃って大臣に敬礼した。

 そして静かに執務室を後にした。


 すると間もなく、秘書が慌ただしく入室し、誰かの来訪を告げた。


「話は聞かせてもらいましたよ。国家というのは、相変わらず身勝手なものですな」


 低い声と共に現れたのは、那須で陽菜と玉藻の戦いに姿を見せた男・白石尚也だった。


 大臣はわずかに目を細める。


「白石殿の地獄耳には感服しますな」


 尚也は肩をすくめ、薄く笑う。


「褒め言葉として受け取っておきましょう。それで、日本の“本気”はどれほどですかな?」


 その言葉に大臣が答えた。


「第一空挺団、特殊作戦群を回す。無論、揺動なのは理解している」


 その答えに尚也は一瞬黙し、やがて小さく息を吐いた。


「……なるほど。まさに”本気”、というわけですか」


 大臣は窓の外を睨みつけながら言葉を続けた。


「奴らは、日本が九尾と、時女様を守るに値するかを見極めたいのだろう。なにせ、世界を壊しかねない存在たちだ」


 尚也の視線が鋭さを帯びる。


「……それに、“(ふくろう)”の動向も気になる。そういうことでしょう?」


 大臣が振り返ると、尚也は淡々と告げた。


「安心なさい。“梟”は人間の争いに口を出すことはありません……ですが……」


 尚也の声がわずかに低くなる。


「お嬢の御身が危険とあらば、話は別です。なにせ、約千年ぶりの候補者なのですから」


「もし、危険が及んだ場合……、例えば”(からす)”とか……」


 重い沈黙が落ちる。

 やがて尚也は口元に笑みを浮かべた。


「私はただの“観察者”。鴉たち反対派の動きも含め、これからも見届けさせてもらいますよ」


 大臣は無言で頷いた。

 すると尚也は、ふと思い出したように口を開く。


「それと、九尾……玉藻たちも時女に会ったようです。当然、彼女たちもそれなりの準備を進めているでしょう


 大臣は頷きながら答えた。


「総理代理も現地で九尾に会ったと聞いている。……動画サイトに投稿して、おびき寄せるつもりらしいな」


 尚也が静かに応じる。


「はい。日米合同演習に合わせたのも、彼女たちの本気の表れかと」


 尚也は続ける。


「米国も罠と知りつつ、手を出さざるを得ぬ状況でしょう。総理に通達した以上、この機を逃せば、もはや交渉の余地はない。まぁ、強硬手段に出てくるとは思いますがね」


 大臣が低く問う。


「本当に、あの娘が?」


 尚也は確信をにじませて答える。


「王気を持っている。それは私も那須で感じましたよ。そもそも、玉藻が連れ添っているのが、何よりの証拠です」


「くれぐれも、お嬢たちの御身に危険が及ばぬように」


 尚也は静かに言葉を放った。


 ──次の瞬間、尚也の視線がふと陽菜に向いた気がした。

 目が合ったような錯覚。尚也は、陽菜に向けるように微笑んで口を開く。


「ということだ……」


「はっ!!」


 陽菜は弾かれるように目を覚ます。そこは教室だった。まるで、目と目が合ったかのような感覚。

 

(たしか、あの人は尚也さん……だったかな?)


 夢の中で視線を交わしたような気がした。


(いや、あれは本当に夢だったの……?)


 以前の深夜、ベッドの中で見た“那須の出来事”にも似ている。

 胸の奥に、得体の知れない違和感が残った──。


 --------


「あぁぁぁ~もぉ~、自衛隊とか助けてくれよぉぉ!」


 そんな陽菜の絶好調な叫びを、エレナと彩華は聞いていた。

 学校帰り、三人はハンバーガーショップで落ち合っていた。

 蓮は部活で不在。エレナは今日は妖精の姿のままだ。


 彩華は紙のコップに入ったコーラをストローで吸いながら、ぽつりと言う。


「でも、その自衛隊にも狙われたんでしょ?」


 陽菜が肩をすくめて答える。


「そうなんだよね~。将来の納税者を狙うとかどういうことだよ!」


 エレナがすぐさま呼応するように言った。


「そうそう。しかも、陽菜みたいな美女が死んじゃったら、日本の……いや世界の損失だよね~」


 陽菜は思わずニヤける。


「さすがエレナ! いいこと言うじゃん!」


「でしょ! でしょ!?」


 エレナは腰に手を当て、ふんっと鼻を鳴らして得意げなポーズを取った。

 だが、彩華がすかさず冷たく突き刺す。


「ククク……それはないから安心しな」


 陽菜はすかさず噛みつく。


「少なくとも、テメーよりは損失になるわ!」


 ふと、彩華が表情を引き締め、真剣な顔になった。

 何か深く考え込むように。


「でもさ、拳銃の弾と違って、自動小銃の弾は結界でも防げないって時女が言ってたじゃん」


 エレナが小さくうなずく。


「うん……わたしも詳しくは分からないけど、そうみたい」


 陽菜はそれについて意見を述べてみる。


「やっぱり、ウチやエレナや彩華の術とかでも、難しいのかな?」


 彩華は紙コップのコーラを握りながら、淡々と答える。


「難しいだろうね。さすがに大人数だと、多勢に無勢じゃないかな。それに鉄砲の弾だっていっぱい飛んでくるし、あんな高速なやつ、そう易々と避けられないよ」


 それにエレナも頷く。


「うんうん。一発や二発じゃないもんね~」


 陽菜はふたりの言葉に納得し、ゆっくりと頷いた。無論、陽菜にも難しいことは分かっていた。

 自動小銃の弾は、一秒間に何発も飛び出す。そんなもの避けられるはずがない。


 しばらく沈黙が流れた後、彩華が小さな声で呟いた。


「だとしたら……当たったら、死んじゃうのかも」


 その言葉に、テーブルの上の空気が一気に重くなった。

 陽菜は紙コップのジュースを手に取り、ストローで吸うと口を開いた。


「もしウチが死んだらさ、ふたりとも笑顔で送るんだぞ」


「陽菜……何言ってるの!? 縁起でもないよ!」


 エレナの瞳が潤む。

 彩華もムっとして口を開いた。


「エレナの言う通りだろ。それに、オメーは死なないわっ!」


 そして、わざと軽口をたたく。


「憎まれっ子世にはばかるって言うしな」


 彩華が手を口に添えてクスクス笑うと、陽菜もすぐに噛みついた。


「そりゃテメーのことだろ……」


 そう言いかけたところで、彩華がふっと真顔に戻った。


「あたしが死んだときもさ。ふたりとも、笑って送ってよ」


 それを口にした瞬間、静寂が訪れる。

 陽菜はジュースをテーブルのトレーに置くと、苦笑した。


「……自分で言って分かったわ。こういうのは、エレナの言う通り、口にしちゃいかん」


「うぅ……ふたりとも死なないから大丈夫だよ~」


 エレナは涙を浮かべながら訴える。


 陽菜はやさしく微笑んだ。


「ウチらは死なないよ。大丈夫だよ、エレナ」


 彩華も、わざとからかうように言う。


「まったく……エレナは泣きん坊だね」


 しくしくと泣きながら肩を震わせるエレナ。

 陽菜はその頭をそっとなで、彩華も隣で肩に手を置いた──。

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