表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/99

第5話:得物

「え~……日本もアメリカもってなると、さすがにデスるわ~」


 陽菜は肩を落とし、凹んだ声を漏らした。


 その言葉に時女が反応する。


「とりあえず、日本は大丈夫だと思う」


 蓮が口をはさんだ。


「さっきすれ違ったおっさんが、その証拠ってわけか」


 意外にも蓮の勘は当たっていたらしい。時女が頷き、言葉を続ける。


「でね。三人には当日、僕の別荘に泊まってもらおうかなって思ってるんだ」


「当日? つまり、作戦があるってことですね?」


 陽菜が身を起こして問い返す。


「うん。敵の狙いはあくまで政治的な思惑による玉藻ちゃんの確保。そして、その次が陽菜ちゃんとエレナちゃん。なら、おびき出すまで。そして……。んーん、これはいいかな?」


 何かを言いかけた時女の言葉に、蓮と竜司は一瞬引っかかった。

 だが、その違和感をかき消すように、陽菜の表情が曇り、静かに口を開く。


「でも……学校とかあるし……、家族も心配だよ……」


 エレナもそれに頷いた。


「うん……わたしもそれはすごく心配だよ」


 それに対し、時女は自信ありげに請け負った。


「そこはもう手配済み。家族も心配無用! 事件は休日に起きるのだ!!」


 さらに時女は続ける。


「決戦は、二週間後の土曜日の夜」


 竜司が険しい顔で口を開く。


「相手は世界最強の軍隊だぞ。本当にそんなにうまく動くのか?」


「普通なら動かない。だが、千載一遇のチャンスをこちらが作れば、否応なしに動かざるを得ない」


 時女はそう言い切ると、唇の端をつり上げた。


「これは“戦略”というより“心理”……いや、“想い”の分野の話なのだ! ククク……せいぜいド派手に暴れまわってやるっ!」


 その異常なまでにやる気スイッチが入った姿に、皆は思わず引いてしまう。

 そんななか、時女は玉藻へ視線を送った。玉藻は静かに頷く。言葉を介さずとも、意志は確かに通じ合っていた。


「蓮、竜司に渡すものがあるんだ」


 そう言うと、時女は立ち上がり、近くの引き出しをガサガサと漁りはじめる。

 

「んー……あれ? このへんにあったんだけどなー」


 引き出しの中には、さまざまな貴金属類が無造作に突っ込まれていた。

 一同は顔を見合わせた。陽菜の心の中で思わず呟く。


(えぇぇ……、せめて片付けようよ……)

 

 時女が空気を読んだのか、ムッとして振り返った。


「いま、みんな『片付けろ』って思ったでしょ!?」


 全員が大きく首を振る。思ってはいたが、口には出さない。

 ただ、一人玉藻だけは平然と答えた。


「わらわは思ったぞ。じゃが、いつものことゆえ気にはせぬ」


 時女はさらにムッとしながらも、またガサガサと引き出しを漁る。

 そしてしばらくののち、ぱっと顔を輝かせて声を上げた。


「あった! これこれ!! これをふたりに!」


 蓮と竜司に差し出されたのは、銀細工のきらめくブレスレットだった。環には繊細な唐草模様が彫り込まれ、留め具には小さな羽根の意匠が刻まれ、中央には赤い宝玉がはめ込まれている。


「これは、世界で唯一、人間が術を使えるブレスレット。あとは、恋人同士で、宝玉に触ってみて」


 そう言うと、陽菜と蓮、彩華と竜司のペアがそれぞれ宝玉に指を触れる。すると、赤い宝玉が淡く輝き始めた。

 それを見て、時女が説明する。


「これで、陽菜ちゃんの力を蓮が、彩華ちゃんの力を竜司が一部だけ使えるようになる。ただし、利用には制限があり、副作用もあるから気を付けて」


 蓮が眉をひそめる。


「副作用と利用制限?」


 時女は頷き、答えた。


「たぶん、最初のうちは、持続時間は三分に満たない。”想い”……精神力を大量に消耗するから、極度の疲労に襲われると思う。あとは、自分たちで確かめてほしい」


 玉藻が淡々と言う。


「基礎はそなたらに叩き込んだ。組み合わせれば使えるじゃろう」


 翅脈がぼそっと言った。


「……結局、アタイらが来るのはお見通しだったんですね。時女殿に一本取られましたので」


 時女はさらりと応じる。


「ピンポン! ピンポン! そういうこと」


 玉藻がふと口を開いた。


「……それと、時女、もう一つ願いがあるんだが……」


「うん。分かってる」


 時女は迷うことなく短く頷いた。


 ──そして一行は、時女の部屋を出ると廊下を抜け、突き当たりの階段を下りていった。

 行き着いた先は、大きな鉄格子の扉。時女が暗証番号を入力する。


 ガシャッ! ブーーン。


 電子音が響き、分厚い扉が半開きになった。


 その先に広がっていたのは、巨大な武器庫だった。


 壁には無数の銃器が整然と飾られ、棚には拳銃から自動小銃まで多種多様に並んでいる。

 まるでアクション映画のワンシーンのようだ。


「必要なものがあれば、護身用に持っていって」


 時女がさらりと言った。


「すげー!! これ全部本物っしょ!」


 蓮が思わず声をあげる。


 ミリタリー好きの竜司は、それ以上に目を輝かせた。


「うぉぉぉぉ!! あれも、これも……、コイツなんてどうやって手に入れたんだよ!!」


 女性陣は対照的に、冷めた視線を送る。


「んーーー、鉄砲は要らないかな」


 陽菜がそう言うと、時女は近くの拳銃を手に取り、スライドを軽く引きながら言った。


「まぁ、たしかに男の子以外はいらないかもね」


 エレナが陽菜と彩華に小声で囁く。


「時女さんって、やっぱり謎だよね~」


「うんうん。めっちゃ謎だわ」


 彩華も頷きながら答える。


 そんな、ふたりのやりとりを横で聞きながら陽菜は、銃を前に子供のような目を輝かせる蓮と竜司の姿に、自然と微笑んでしまった。


 ふと、陽菜の視線が玉藻に引き寄せられた。

 玉藻は銃器には目もくれず、迷いのない足取りで部屋の奥へ進んでいく。

 突き当たりの壁には、いくつもの刀が整然と飾られていた。


 陽菜も自然とその背を追い、玉藻の隣に並ぶ。

 玉藻の手が伸び、一本の刀を静かに抜き取った。


「玉藻さん……」


 呼びかけに応えるように玉藻が振り返り、陽菜の顔を一瞥する。

 次の瞬間、鞘が音を立てて引き抜かれた。


 ──シャキン。


 鋭い金属音と共に、刃がきらめきを放つ。

 照明を反射した刀身は、まるで生き物のように冷ややかに光り、周囲の空気までも凍りつかせるようだった。


 刀身は通常の日本刀と同じ、浅く反ったその刃は、まるで揺らめく尾のように優雅に波打っていた。

 刃文は炎がひそやかに燃え上がるかのように、光の角度でゆらゆらと揺れる。


 鍔は精緻な円環に九本の尾が絡み合うデザイン。漆黒の鞘には銀の蒔絵が施され、光を受けるたびに九尾の尾が浮かび上がる。


 その背後から、時女がゆっくり歩み寄ってきた。

 それを陽菜は振り返って見る。


「やっぱり……それを選ぶんだね」


 時女の言葉を聞きながら、玉藻は懐かしげに刀を見つめ、低く呟いた。


「まさか、まだ残っていようとはな」


 時女は軽く笑みを浮かべて答える。


「いつか取りに来ると思ってた。だから、ちゃんと手入れしておいたんだよ」


 玉藻は、ぽつりと漏らした。


「……すまぬ」


 陽菜が思わず問いかける。


「この刀は……?」


 時女は真顔になり、静かに説明する。


「これは玉藻ちゃんがかつて愛用した刀。彼女の“想い”によってのみ真価を発揮する、まさに妖刀だよ」


 玉藻が続ける。


「この刃には本当の切れ味はない。斬撃も峰打ちも、すべてはわらわの力に依る……だからこそ、自在に想いを込められるのだ」


 陽菜が目を丸くして口を開く。


「なんか……すごく。かっこいい」


 その言葉に、玉藻はわずかに微笑んだ。そして視線を移し、玉藻は一つの短刀を見つけた。


 「まさか、是雄の鍔の付いた短刀があるとはな」


 その短刀は、深い藍色の直刃を持っていた。柄は紫の革に銀糸で幾何学模様が編まれ、鍔には黒鋼に透かし模様が施されている。 その鍔は生前、弓削是雄が愛用していた逸品だった。


「これは彩華にいいだろう」


 玉藻はそう言うと、視線を陽菜に向けた。


「そなたにも……」


 しかし、その言葉が出る直前、陽菜が首を振って止める。


「ウチはだいじょうぶ。よくわからないけど……必要なときに手に入る気がするの」


 その言葉に、玉藻と時女は視線を交わした。まるで互いに何かを察知したかのように。

 玉藻は優しく微笑み、短く言った。


「そうか……」


 皆は万が一に備え、護身用の武器を手に取った。だが、これが本当に”護身用”と言えるのか、陽菜と彩華は首をかしげる。


 陽菜が彩華に呟く。


「どっか、戦争でもするのかな……?」


 彩華は呆れたように肩をすくめて答える。


「マジで男ってわからん……」


 陽菜が眉をひそめながら付け加えた。


「いや……妖精もじゃね?」


 その時、エレナは両手に自動小銃を構え、まるでアクション映画のヒロインのようだった。


「陽菜! 見て! カッコいいでしょ。エクス〇ンダブルズだよ」


 ふんっと鼻を鳴らして、自慢げに胸を張る。


 対して、翅脈もいつの間にか人間化しており、両手に拳銃、ベルトを着け、腰には大量の弾倉を装着していた。


「蓮様! 見て下さい。ジョ〇ウィックなので!!」


 陽菜、彩華、そして蓮は青ざめて頭を抱えた。


 蓮が竜司に向かって叫ぶ。


「そんなにいらんだろ!」


 それでも蓮自身も、自動小銃と拳銃を手にしていた。

 陽菜がジト目でツッコミを入れる。


「いや。蓮も変わらんから」


 一方、竜司は完全におかしな状況に突入していた。拳銃や自動小銃はもちろん、大量の弾薬をバッグに詰め込み、顔はにやけて我を忘れている。


「イヒヒヒヒ……アハハハ……」


 正直、見ていて怖い……。


「いや……どこから持ってきたんだよそのバッグ」


「なんかの映画で、鉄砲屋さんの武器を盗むシーンあったよね……」


 陽菜と彩華は、互いに顔を見合わせながらそんな会話を続けた。


 そこで、彩華が強烈な一言を放つ。


「おっほん!  あたしたちは殺し屋じゃないの! ピストルは一人一()まで!!」


 陽菜も続けて言う。


「あと、大きいのもダメっ!!」


 エレナ、蓮、竜司、翅脈の視線が一斉に彩華と陽菜へ集まる。


「えーー、陽菜ひどいよぉ~!」


「マジ!? 一丁とかありえんだろっ!!」


「ライフルは必要だろっ!!」


「蓮様を守れないので!!」


 そんな怒声を無視して、彩華と陽菜が腕を組んで仁王立ちする。


「文句あるヤツは前に出ろや。……んぁ?」


 彩華のその気迫に押され、四人はしぶしぶ声をそろえた。


「……はい」


 そんな空気など意に介さず、時女は高らかに宣言する。


「ということで、作戦開始だ! エイエイオー!!」


 四人は、なぜかやる気満々で呼応した。


「「エイエイオー!!」」


 対して、陽菜と彩華はその雰囲気についていけず、気の抜けた声で返すしかなかった。


「……エイエイオー……」


 玉藻は無言でその様子をうかがっている。

 しばらくして、陽菜が小さく手を上げ、時女に尋ねた。


「……で、その作戦って……?」


 騒ぐ彼らに、その問いが伝わったのかどうか、陽菜には全く分からなかった──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ