表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/99

第4話:時女

「ウチにとっては、バチクソ遠かったわ~! で、マジで今日、日帰りなの?」


 陽菜は絶好調に叫んだ。

 陽菜、エレナ、蓮、彩華、竜司の”スローなライフ一行”は時女(ときめ)の屋敷の前にたどり着いた。

 といっても、目の前にあるのは立派な屋敷ではなく、まるで洞窟のような洞穴だった。駅からほど近い住宅街の一角、寺の境内の隅にその場所はあった。


 そこへ、ふわりと玉藻と翅脈(しみゃく)が現れる。


「羨ましいな~。好きなときに現れられるなんて」


 彩華が嫌味っぽく言う。


「彩華も幻術使えばいいんじゃね?」


 陽菜が茶化すように返すと彩華が即答した。


「幻術なんて味気ないわ。それに、どうせなら、うまいもん食いたい」


「うんうん! 彩華の言う通り!!」


 エレナが勢いよく同意する。


「いや、エレナは食いすぎだろ」


 陽菜がツッコむが、エレナは気にせず腰に手を当て、ふんっと鼻を鳴らした。


 そのとき、蓮がふと寺の駐車場に目をやる。黒塗りの高級セダンが一台停まっていた。

 この場所には似つかわしくない存在感。竜司も気づいたらしく、ふたりは無言で頷き合う。


 蓮は玉藻に視線を移し、口を開いた。


「で、時女さんって人が住んでるの、ここ?」


 視線の先には”八尾比丘尼入定洞やおびくににゅうじょうどう”と看板が立っている。


「そうじゃ。知っておるのか?」


 玉藻が答えると、竜司が眉をひそめた。


「ってことは、この洞穴に入るってことか?」


「いや、それは“フェイク”じゃ」


「ええっ!?」


 一同は思わず声を上げた。


 驚きの理由は洞穴そのものよりも、玉藻が口にした言葉、”フェイク”にあった。

 まさか千年以上も生きる存在が、そんな現代語を口にするとは。


(た、玉藻さんが“フェイク”なんて言うとはっ!!)


 そんな陽菜の心の叫びをよそに、玉藻は洞穴の横にある坂道を迷いなく上っていった。

 そこには、特に入り口らしいものは見当たらない。


 だが、玉藻が歩みを進めた瞬間、その一帯の空間が波のように歪んだ。


「これって……幻影?」


 彩華が呟くと、周囲も思わず頷く。


 陽菜はためらうことなく、ゆらめく空間に身を投じた。

 次の瞬間、平衡感覚がふっと失われる。

 まるで宇宙を漂っているような浮遊感。視界の先には、ブラックホールめいた半球状の輝きがあり、光はすべてそこへと吸い込まれていった。


 陽菜の身体もその渦に呑み込まれる。


 ──そして、真っ白な空間が現れた。

 声を発すれば反響する、無菌室のように清浄な空間。


 正面には玉藻が立っていた。


「ここが……八尾比丘尼……時女さんの家?」


 玉藻は無言で頷く。


 やがて、一人、また一人と仲間たちが現れ、全員がそろった。

 玉藻は前方に見える大きな扉へ向かって歩き出す。扉までは五十メートルほど。

 その前には、召使らしき若い女性が直立していた。


「ご予約のない方をお通しするわけにはまいりません」


 続けて、もう一人の女性が冷たく言い放つ。


「お引き取りください」


 玉藻は一歩前に出て、意に介さぬ口調で告げた。


「構わぬ。玉藻が来たと伝えよ。気になるなら、本人を連れてくるがよい」


 陽菜たちは事の成り行きを見守る。

 その横で彩華が小声で呟いた。


「……予約制みたいだね」


「じゃあ帰ろっか。カニ食べたい」


 エレナが無邪気に言う。


「カニ高ぇんだよ!」


 陽菜が即座にツッコむ。


 ふたりのやり取りをかき消すように、扉の奥から女性の怒声が響いた。


「もし、それ以上の要件があるのなら、直接こちらへ来るようにと申せ!」


 続いて重々しい声が告げる。


「話は以上だ。よいな。敵を見誤らぬよう、そう申すのだ!」


 その声に応じるように、召使が扉を開けた。現れたのは初老のスーツ姿の男だった。

 ハンカチで額の汗を拭いながら、ゆっくりと姿を現す。


 陽菜たちは言葉を失い、その様子を見つめていた。


 エレナが陽菜たちにこっそり囁く。


「なんか……怖そうだよ~」


「うん……気張る必要がありそうだね」


 陽菜が応じたその時、奥から女性の声が響いた。


「かまわぬ。その者たちを入れよ」


 召使たちはすぐに道を開き、一行を中へと促した。

 白一色の無菌室のような広間。声を出せば反響するほど広大で、中央には赤い絨毯が玉座まで真っすぐに敷かれている。

 中世の王の謁見室を思わせる広間の奥、三段の階段の上に玉座があった。


 そこに座っているのは、十四、五歳ほどの少女。玉藻を思わせる花魁風の豪奢な衣装に髪飾り。

 茶色の髪と、陽菜や玉藻と同じ琥珀色の瞳。


「ひさしぶりよのう……玉藻御前。あるいは玉藻の前と申すべきか。数百年ぶり……いや、千年近いかもしれぬな」


 玉藻の表情が一瞬だけ曇る。陽菜たちも、そのわずかな変化に気づいた。


「それにしても……そなたの連れは何者じゃ?」


 少女は細めた瞳で一行を見渡した。


「妖精が二匹、人の子が四匹……」


 続けて少女が口を開くと、陽菜たちの間に緊張が走る。


「わらわは時女。さて、人の子と妖精たちよ、何の用じゃ?」


 エレナがまたも小声で陽菜に耳打ちする。


「やっぱり……怖そう~」


 その言葉に時女がぴくりと反応した。


「妖精よ。なにか申したか?」


「ひっ……! い、いえ……なんでもないです!」


 エレナは慌てて首を振る。


 翅脈もその威圧に耐えられず、蓮の背後に隠れた。


「……蓮様、アタイもちょっと苦手かも」


 時女は深くため息をつき、冷ややかに言い放つ。


「……妖精風情が」


 その瞬間、玉藻が声をあげた。


「時女、ちょっと調子乗りすぎ」


 場にいた全員が驚き、心の中で叫ぶ。


(えっ!? また現代語やんけ!!)


 玉藻の口から、再び”現代語”が飛び出したのだった。

 玉藻が言葉を続ける。


「話したいことがあるのだが……ここでは外まで声が漏れる」


 そう言うと、玉藻は玉座の奥へと歩き出した。


「ちょ、ちょっと! そっちはダメだってば!!」


 時女が慌てて叫ぶ。


 振り返った玉藻は笑みを浮かべる。


「案ずるな。その者たちもわらわの友じゃ。皆もついて参れ」


 そう言って奥へ消えると、時女はため息吐いて言った。


「はぁ。じゃあ……みんなもこっち、おいで」


 突然のフランク口調に、一行はぽかんとした顔になった。


 廊下へ出ると、長く続く広い通路が眼前に広がっていた。艶やかな朱塗りと金箔の襖絵が並び、深紅の絨毯が足音を吸い込む豪奢な空間だ。

 左右の部屋からは召使たちの姿がちらほらと覗く。だがその様子は、華やかな廊下の印象とは裏腹に拍子抜けするほど緩んでいた。

 スマホをいじる者、ワイドショーに夢中な者、お菓子をつまみながら井戸端会議をする者──まるで艶やかな舞台の裏側、楽屋裏のようだった。


 竜司が小声で呟く。


「……なんか、さっきと雰囲気違くね?」


 蓮も頷く。


「俺もそう思う」


 翅脈が蓮に寄り添って言う。


「……なんだか、現代慣れ? なのかもで」


 蓮は頷くと、翅脈の言葉を竜司に伝えた。


 やがて一行は一つの扉の前に立つ。

 玉藻が言った。


「ここが、時女の部屋だったな」


「ちょっ……僕の部屋はだめだって! 男の子も来てるんだから!!」


 時女が真っ赤になって慌てる。


「構わぬ」


 玉藻はおかまいなしに扉を開いた。


 ──そこは、普通の女の子の部屋だった。

 ぬいぐるみ、テーブルの上にはコスメ、スマホ、ノートPC……違うのは三部屋ぶち抜きの広さくらい。


(いやいや! めっちゃ現代に溶け込んでるやんけ!!)


 陽菜たちは心の中で全力ツッコミをする。


「長い月日が経っただけあるな。この時代に合わせた部屋になっておる」


 玉藻が部屋を見渡しながらそう言い放つと、時女は奥の部屋の戸を慌てて閉めた。

 それを見た玉藻は首を傾げる。


「なぜ、そこを閉める?」


「……」


 陽菜が慌ててフォローする。


「玉藻さん……たぶん、それは“デリカシー”っていうものかと……」


「うんうん! その通り!!」


 時女が力強く同意する。


「……デリカシー、とは何ぞや?」


 玉藻が真顔で問う。


(それは知らんのかい!!)


 蓮は心の中で全力ツッコミする。

 観念したのか、時女は顔を真っ赤にして叫んだ。


「昨日、雨だったから……下着を部屋干ししてるの! それに……さっき脱いだ下着も、まだ洗ってないの!! 男の子来るなんて思わなかったの!!」


(……ちょっと、ウブで可愛い)


 蓮は心の中で思う。


(そういう恥じらい……いい……)


 竜司もまた、男の性に正直だった。


 そんな中、玉藻がそっと時女を抱きしめる。そして、柔らかい声音で口を開いた。


「久しいな、時女……」


 その瞬間、時女もためらうことなく抱き返す。


「玉藻ちゃん……久しぶり」


 翅脈が抱き合うふたりを見ながら、蓮に向かって囁くように言った。


「姐さんたちの関係みたいなので」


 蓮も同意するように返す。


「たしかに、そうだな」


 自然と蓮の視線は、陽菜とエレナへ向いた。ふたりは寄り添い、微笑み合っている。

 まるで、目の前の光景が彼女たちの関係を映しているかのようだった。


 その後、一同は改めて部屋の床に座ると、玉藻が紹介した。


「ということで、時女じゃ」


 時女は艶めかしい口調で流し目を送りながら、ゆったりと言葉を紡ぐ。


「そう、僕は時女……時の流れを旅する女。人は八尾比丘尼(やおびくに)と言う……」


「……」


 一同はきょとんとした表情を浮かべる。

 彩華がそっと手を上げ、口を開く。


「……うん。玉藻から聞いてるし、街のあちこちに“八尾比丘尼”って謳ってたから……」


 それを聞くと、時女は不貞腐れ、足をバタバタさせながら仰向けに寝そべった。


「ちょー、つまんねー! ノリわるーー!!」


 陽菜が突っ込む。


「っていうか、あのゲーミングPCとマイクにリングライト……」


 竜司が続ける。


「しかも、あれ見ろよ、銀の盾だぞ! エグなユーチューバーかよ!!」


 さらに蓮も付け加える。


「密林の段ボールとか……めっちゃ現代に溶け込んでるじゃんか!!」


 そんなツッコミを、玉藻が静かに咳払いして遮った。


「おっほん! で、陽菜、話を」


 我に返った陽菜は、時女に用件を伝える。


「単刀直入に聞きます」


 陽菜は続ける。


「東京から新幹線で二時間、在来線で約一時間半。

 彩華の爆睡大いびきにうなされ……

 竜司の腹痛で電車を一本逃し……

 エレナはカニを食いたいと大騒ぎし……

 ウチは蓮とイチャイチャするチャンスをグッとこらえ……


 合計、四時間半かけてここまで来た。

 ……そんな努力も、気軽に現れた玉藻さんと翅脈を見て、正直イライラした心境……。


 については、まぁ、一旦置いといて」


「……自衛隊員に狙われたんですが、なにか心あたりありますか?」


 間髪入れずに時女は頷いて答えた。


「うん。知ってるよ」


 時女は続ける。


「だってさー、玉藻ちゃんをユーチューブに出しちゃうんだよ。そりゃ当然っしょ! しかも、日本だけじゃないよ。アメリカも狙ってくるはずだよ」


 さらに時女は言った。


「特殊部隊とか来ちゃうかもね~」


 アメリカまで狙っているという言葉に、一同は騒然とした──。

お付き合いいただき、誠にありがとうございました。

次回もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

※次回更新は、10/3 22:30頃となります。ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ