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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

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第2話:邪魔者

「これは……一体……!」


 藤堂が思わず声を張り上げる。


「あの時の映像と……似ているな」


 黒羽も険しい表情で呟いた。


 ふたりの視界は、いつの間にか燃え上がるような夕焼け色に覆われていた。

 ──想願空虚に、彼らまでもが引き込まれたのだ。


 即座に、藤堂と黒羽は腰のホルスターから拳銃(SFP9)を抜き取り、スライドを引いて弾を装填する。

 ポリマーと金属の擦れ合う音が、異様に静まり返った空間に冷たく響いた。


 互いに目配せを交わし、警戒を怠らぬまま、陽菜たちの向かった屋上へと足を進めていく。


 ──その頃。


 玉藻と翅脈が、まさに刃を交えんとする間合いで対峙していた。


「玉藻さん!!」


 蓮が思わず叫ぶ。


 しかし玉藻は、視線を逸らさず静かに応じた。


「そなたの言わんとすることは分かる。だが、相手も覚悟を決めた上での勝負……。受けねば、非礼にあたる」


 わずかに口元を緩め、玉藻は言葉を重ねる。


「この戦い、手出し無用」


 翅脈が手をかざすと、手のひらの上に魔法陣が浮かび上がり、淡い光を放ちながら白球が出現した。


「すべきことは一つなので」


 翅脈は迷いなく白球を玉藻へと投げ放つ。しかし玉藻はしなやかに身を翻し、それを軽々と避ける。次の瞬間、地面に落ちた白球が炸裂し、轟音とともに土煙が立ちこめた。


 そのまま、玉藻に向かって一直線に突進する。再び白球が形成されるが、それよりも早く、玉藻の手が静かに振るわれた。


風息(ふそく)よ」


 圧縮された空気の塊が炸裂音とともに放たれ、真正面から翅脈を打ち据える。

 小柄な妖精の身体は抗う間もなく宙を弾かれ、空気の奔流に押し流されていった。


「それでも……!」


 なおも翅脈は執念で体制を立て直し、玉藻へ突進した。


 玉藻は薄く笑みを浮かべる。


「勢いと信念は悪くない。だが、そなたはまだ、未熟!!」


 そう言うと、玉藻は再び気弾を放った。再び、空気の塊が妖精をとらえる。

 今度は翅脈を地面へ叩きつけた。


 その頃、黒羽と藤堂が屋上の扉を蹴破った。

 目に飛び込んできたのは校舎の屋上ではなく、燃え上がるような夕焼けに染まる草原。

 そこには陽菜とエレナ、蓮、そして玉藻の姿がある。


 陽菜たちの視界にも、ふたりの姿をとらえた。


「想願空虚に取り込まれていたのね……」


 エレナの声に、陽菜が頷く。


「そうだね。ウチたちを狙ってた証拠だね……」


 陽菜とエレナの言葉に、蓮は無言で頷いた。


 黒羽は周囲を見回し、声を漏らす。


「ここは……?」


「わかりません……」


 藤堂が返事をする。その瞬間、藤堂の足元に一瞬だけ白い輝きが走った。

 それは、彼女の視線から映った翅脈の姿だった。

 その刹那、藤堂の身体は不意に硬直し、自由を奪われる。


「二尉! 体が……勝手に!」


「どうした!!」


 黒羽が叫ぶ。


 藤堂の腕が勝手に上がり、銃口が玉藻を狙う。


 パンッ! パンッ!


 乾いた銃声が響いた。


 玉藻は即座に手をかざし、空気の盾を展開した。

 放たれた弾丸は透明な壁に弾かれ、パラパラと地面に落ちる。


「翅脈! やめろ!!」


 蓮の叫びに、翅脈の瞳がはっと揺れた。


「……蓮様!!」


 己の過ちに気づいた翅脈は動きを止める。

 だがその刹那、銃声が途絶えた隙を逃さず、玉藻は影のように音もなく間合いを詰めた。


「ぐはぁっ!!」


 閃光のような居合が藤堂の懐を突き、鋭い痛みに彼女は呻き声を上げて崩れ落ちる。

 同時に、翅脈も藤堂の身体から弾かれるように離脱した。


「藤堂!!」


 黒羽が叫び、倒れた藤堂の姿をみて、玉藻に拳銃の銃口を向けた。

 翅脈の姿など見えていない彼らには、玉藻が一方的に殴り伏せたようにしか映らない。


「何しやがる!!」


 黒羽は拳銃を突きつけ、玉藻めがけて引き金を引いた。

 乾いた連射音。だが玉藻は空気の盾を展開し、軽やかに身を翻して弾丸を弾き落とす。


 黒羽は再び発砲する。玉藻はそれをひらりとかわす。

 だが、弾道の先には、蓮がいた。


 玉藻が叫ぶ。


「しまった!!」


 陽菜とエレナにも弾道がはっきりと見える。


「蓮! 避けてーー!!」


「あぶないっ!」


 それを見た翅脈が、小さな身体で蓮の前に飛び出し、銃弾を受け止めた。


「きゃぁっ!」


 銃弾が翅脈を貫通し、弾は蓮の足元で跳ねた。

 幸い、蓮には怪我はなかった。


 翅脈の悲鳴に、蓮は息を呑む。


「翅脈!!」


「スプリガン!!」


「翅脈ちゃん!!」


 陽菜とエレナも声を揃えた。

 崩れ落ちる翅脈に、蓮は躊躇なく飛び込み、その小さな体をしっかりと抱きとめた。


 陽菜は低く呟いた。


「邪魔するなよ……」


 次の瞬間、胸の奥から噴き上がる怒りが声に変わる。


「……あっち行けよぉぉぉ!!」


 怒りに駆られた陽菜が白い帯を繰り出し、黒羽めがけて一閃する。

 帯は空気を裂くように走り、黒羽に迫った。

 黒羽は咄嗟に体を捻るが、衝撃に抗えず帯に弾き飛ばされる。


「ぐっ!」


 呻き声を上げる黒羽。その姿に、藤堂が声を振り絞る。


「二尉!!」


 互いに満身創痍のまま、黒羽と藤堂は呟くように言葉を洩らした。


「「こいつらは……何者なんだ……」」


 陽菜とエレナは翅脈と蓮のもとに駆け寄った。


「蓮、だいじょうぶ?」


 陽菜が優しく声をかけると、蓮は静かに頷いた。


 翅脈は苦しげに言った。


「蓮様……ごめんなさい。人間には手を出さないと誓ったのに……あの女性を盾にしてしまったので……」


 蓮は優しく微笑み返す。


「助けてくれてありがとう……」


 陽菜も翅脈に優しく声をかけた。


「ありがとう。今はゆっくり休んで」


 ふたりの言葉に、翅脈は微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。


「翅脈……」


 蓮の小さな呟きに、エレナがすぐに応える。


「大丈夫だよ、蓮。翅脈ちゃんは眠っただけ」


 さらに近づいてきた玉藻も、落ち着いた声で言った。


「うむ。この程度では妖は消滅しない。心配無用だ」


 続けて、玉藻は蓮に向かって頭を下げた。


「蓮殿も怪我はないか? わらわの不徳の致すところ。申し訳ない」


「俺は大丈夫です」


 そう言うと、蓮は微笑んだ。

 そう微笑む蓮に、玉藻もほっとしたように笑みを返した。

 その直後、意識を失った翅脈の想願空虚は消え、現実世界の校舎屋上が姿を現す。


 ちょうどその時、立ち上がった黒羽と藤堂が一行に駆け寄ってきた。


「動くなっ!!」


 藤堂が鋭い声を張り上げ、銃口を陽菜たちに向ける。

 振り返る陽菜とエレナ、そして玉藻。

 蓮は倒れた翅脈を抱き、優しくその髪を撫でていた。


 しばらく沈黙が続いた後、陽菜が低く呟く。


「なんで邪魔をするの?……藤堂先生」


 黒羽は走りながら陽菜たちの後ろに回り込み、拳銃を構えた。


「全員、その場から動くな!」


 拳銃をホルスターに戻しつつ、黒羽は続ける。


「私たちは君たちに危害を加えるつもりはないんだ……」


 陽菜は黒羽を見つめ、ため息をつく。


「なら、なぜ撃ったの?」


 黒羽は淡々と答えた。


「当てるつもりは毛頭なかった」


 その言葉を遮るように、陽菜は声を低く響かせた。


「やっぱり……玉藻さんの言う通りだったね。どう見ても“先生”っぽくなかったし」


 玉藻が一歩前に出る。ゆっくりと手をかざし、口を開いた。


「この者たちには、わらわたちの行動は理解できまい。わらわの戦いを邪魔した罪は重い……」


 かざした手から赤い球を出して、玉藻は続けた。


「陽菜……ここはわらわが相手する。手出し無用」


 黒羽が叫ぶ。


「九尾! 余計な真似はするな!!」


 藤堂も声を荒げる。


「黒羽二尉撃ちます! 下がってください!」


「九尾と青髪の女、それに佐藤陽菜……こいつらは、化け物だっ!!」


 陽菜はにやりと笑い、今度は自らの想願空虚を展開する。

 夕焼け空に広がる波打ち際の光景。遠くの海の向こうに、枯れ木のような束が脈打つように輝いている。


 黒羽と藤堂は同時に叫んだ。


「こ……ここは……!?」


「な、なんだ……一体!?」


 陽菜は冷たく言い放つ。


「ウチは、だいぶ想いの制御ができるようになったけど、でも……腹は立つんだよ」


「これ以上ショックなこと言われたら、ウチ、何するかわからない。この空間から永遠に出さないかも。それでもいい?」


 そう言って陽菜は玉藻に視線を向けた。


「玉藻さん、相手にするのやめましょう」


 その声を受け、玉藻は赤い球を静かに消し去ると、ふたりに口を開いた。


「もう二度と関わるな。次は容赦しない」


 陽菜は想願空虚を解除した。 陽菜たちは静かに非常階段へと歩き出す。


 だが、藤堂はあきらめなかった。

 黒羽が制止しようとした瞬間、藤堂は陽菜たちに向けて威嚇の一発を発砲する。銃声とともに、弾丸は陽菜たちの足元に飛んでいき、跳弾した。


「藤堂()()、ちょっと調子乗りすぎ」


 陽菜は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

 その手のひらには、黒い炎のような輝きが揺らめき、やがて一点に凝縮していく。まるで藤堂の心臓を握り潰すかのように、陽菜は指をきつく閉じた。


「ぐあぁ!」


 藤堂は脂汗を浮かべ、もがき苦しむ。

 黒羽が叫ぶ。


「やめろ!!」


 蓮も陽菜に呼びかける。


「陽菜」


 蓮は優しく首を横に振る。無論、陽菜がふたりを傷つけるようなことはしないことを感じ取っていた。


 蓮の言葉に頷いた陽菜は、黒い炎を静かに消し去る。

 しばらくすると、エレナが口を開いた。


「わたしたちはね。そっとしておいてほしいの」


 息を荒くする藤堂が問いかける。


「お前らが、あの事件の受刑者を殺したのか!?」


 陽菜はため息をつき、冷静に答える。


「ちがう。ウチらが犯人なら、あんたたちはとっくに死んでいる」


 そう言い残すと、再び歩き出した。

 黒羽も藤堂も、それ以上なにもすることができず、呆然と立ち尽くしていた──。

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