表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
3章 - Kapitel Ⅲ - 国民国家の幻想 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/99

第1話:教育実習生と蓮の教室

本章は比較的ミリタリー要素が強くなっております。多少ですが暴力描写ありです。(おまじない程度)

「動くなっ!!」


 女性教師が鋭く声を張り上げ、銃口を陽菜たちへ突きつけた。


「佐藤さん……あなたは、一体何者なの……?」


 振り返る陽菜とエレナ、そして玉藻。陽菜は静かに言葉を返す。


「なんで邪魔をするの?……藤堂先生」


 その時、背後から靴音が近づき、もう一人の教師が現れた。

 男の手にも黒い拳銃(SFP9)が握られている。


「全員、その場から動くな!」


 だが、男はすぐに銃を腰へ収め、沈着な口調で陽菜たちに呼びかけた。


「佐藤さん……落ち着いて。私たちは君たちに危害を加えるつもりはない……」


 陽菜は振り返って男性教師をみると深いため息を吐いて言う。


「黒羽先生まで。やっぱり……玉藻さんの言う通りだったね。どう見ても“先生”っぽくなかったし」


 玉藻が一歩前に出て、掌を掲げる。


「陽菜……ここはわらわが」


 玉藻が手をかざすと、その手からは赤い球が現れ、空気がじわりと震えた。


 銃を構えている女性・藤堂三尉は即座にそれを捉え、拳銃を握りしめて狙いを定める。

 そして、玉藻を睨みつけ、吐き捨てた。


「黒羽二尉は下がってください!」


「こいつらは、化け物だっ!!」


 陽菜はにやりと笑いながら、自らの想願空虚を展開した。それは、夕焼け色をした砂浜のような場所。

 そして、冷たく言い放つ。


「これ以上ショックなこと言われたら、ここから永遠に出さないよ。それでもいい?」


 ------


 それは十日ほど前の出来事。


「本日から二週間ほど、教育実習生として来られる。黒羽先生、藤堂先生です」


 陽菜たちの担任教師がホームルーム中にそう告げると、教室の空気が一瞬ざわついた。

 前の黒板脇に立つ二人の若い男女に、生徒たちの視線が一斉に注がれる。


黒羽耕史(くろばこうじ)です。よろしくお願いします」


 落ち着いた低い声に、男子の何人かが「かっけー」と小声を漏らす。


藤堂仁花(とうどうひとか)です。まだまだ未熟ですが、皆さんと一緒に学んでいけたらと思います」


 明るく笑顔を見せる女性に、女子たちは親しみやすそうだと囁き合った。

 だが、陽菜とエレナはどこか引っかかるものを覚えながら、その二人の様子を観察していた。

 胸の奥にざらりとしたざわめきが走る。

 ときおり、五色が黒くきらめくのが気になったのである。


「ねぇねぇ、黒羽先生カッコよくない? 体つきもボクサーっぽいし、めっちゃイケてるよ」


 香澄が、わくわくした様子で陽菜に囁いた。


「ウチはパスっ! それよりさ、梨紗とか狙ってみたら?」


 にやりと笑って言う陽菜。本音では、早く梨紗に彼氏ができてくれれば……という思いもあった。


 だが、当の梨紗はそっけなく答える。


「私も、パーース」


 それでも、陽菜にだけわかるように小さく微笑み、唇を動かした。


「だって、まだまだ、陽菜が好きだもん……」


 香澄が首をかしげながら、不思議そうに言った。


「ん?梨紗なんか言った?」


 梨紗は少しにやけてから、くすりと笑い答える。


「んーん。なんでもな~い」


 そう言うと、梨紗は陽菜に向かって柔らかく微笑んだ。香澄には聞こえていなかったが、陽菜には口の動きと表情とが相まって、はっきりと伝わってきた。


「はぁ……」


 陽菜は大きくため息をつく。

 いまは妖精の姿のエレナが、それを見てクスクス笑いながら陽菜に言った。


「梨紗ちゃんの陽菜好きは、まだまだ続きそうだね~」


 エレナの言葉に、陽菜は少しムッとした。


 そんなとき、廊下を例のふたりの実習生が歩いてくるのを目にした。

 チラリとふたりは陽菜を横目で見やる。


(あの教育実習生のふたり、ウチを見るときだけ五色の輝きが黒っぽくなるんだよね……)


 陽菜がそっとエレナを見やると、エレナも同じように感じていたらしく、小さくうなづいた。


 -------


 そして、十日後の現在。

 陽菜とエレナ、そして蓮は、いつもの放課後の校舎裏の芝生でのんびり過ごしていた。


 陽菜とエレナは、教育実習生の件について蓮に話していた。


「なるほど……怪しいな」


 それは蓮の言葉だった。


「竜司から聞いたんだけど。あの玉藻さんが現れた千葉の廃墟な。あそこの犯人が死んだらしいんだよ」


「玉藻さんが、”対処する”って言った後だから……もしかしたら、何か関係があるのかも」


 蓮はそう言いながら、悩むように顎に手を当てた。


「わらわは何もしておらぬ」


 するとふわりと玉藻が現れた。

 今の玉藻は“本体”を取り込んでいるため、自由に動ける状態になっている。


「こんちゃ」


 蓮が玉藻に挨拶すると、玉藻は屈託のない笑顔を向けた。


「玉藻さん、あの人たち、何者か分かったかな?」


 陽菜の質問に、玉藻は答える。


「だぶん、衛士か兵と思われ」


「何日か追いかけたが、どこか不思議な建物に入っていた。ふたりを調べているのは間違いない」


 蓮が小さく頷く。


「つまり、警察か自衛隊関係者ってことか……」


「事件と関係あるのかな? ちなみに、ウチとエレナは、何もしてないぞ!」


「うんうん!」


 陽菜の言葉に、エレナも勢いよく同調する。


「わかってるよ」


 蓮は二人を安心させるように頷いた。


「わらわも承知しておる。ふたりからは血の匂いはせぬ。人の子が同種を殺めてはならぬ」


 陽菜はそれを聞いて微笑んだ。


「とりあえずさ……蓮のクラスに出る怪異、ぶっ潰しちゃおう!」


 それは、蓮からのヘルプだった。

 どうやら、蓮のクラスでは身の回りの物が勝手に移動したり、なくなったりすることがあるらしい。

 ただそれだけなら、たまたまのことだったり、忘れていただけの可能性もある。

 だが、どうやら小さな怪異の目撃情報もあるらしいのだ。


 そのため、陽菜とエレナ、そして蓮は、今夜調査をする予定を立てていた。

 そこへ玉藻が口を開く。


「よかろう。その“ばいと”、わらわも手を貸そう」


 その言葉に、陽菜とエレナ、蓮は思わず顔をほころばせた。


 夜の学校は、ひっそりと静まり返っている。

 わずかに、部活の片づけをしている気配が残る程度だ。


 一行は、蓮の教室を目指して足を進めていた。

 できるだけ目立たぬよう、スマホのライトで足元を照らすだけにとどめて。

 エレナも警戒を忘れず、人間の姿で同行している。


 ふと、陽菜がぎゅっと蓮の手を握った。


「蓮、陽菜ね……こわいの♪」


 下から覗き込むように見上げ、あざとく演技しながら体を寄せてくる。


「うそこけ」


 蓮が冷たく返すと、陽菜は少しムッと頬をふくらませた。

 エレナがクスクス笑って口を挟む。


「陽菜は蓮に甘えたいんだよね~」


 陽菜が「うん」と言わんばかりににこっと笑みを浮かべ、こくりと頷いた。

 それを見ていた玉藻が、急にまじめな顔になって言い出す。


「なるほど、想い人同士であれば仕方あるまい。己で開いてもよいが、わらわが帳を張って場を整えようか?」


「え、いやいや! そこまではいいから!」


 陽菜は慌てて遠慮したが、玉藻は首をかしげたまま続ける。


「なぜだ? 帳であれば時を忘れて過ごせるぞ。人の子は子孫を残すのも務めじゃろう?」


 さらに真顔で言葉を重ねた。


「京の都でもそうであった。何も気にする必要はない」


 その瞬間、背後を黒い影のようなものがさっと通り過ぎた。

 陽菜、エレナ、玉藻はもちろん、蓮もそれに気づいている。


 蓮は幾度も“想い”と向き合い、怪異との戦いを経て感覚を研ぎ澄ませていた。

 そしてそれは、玉藻が叩き込んだ訓練の成果でもあった。


 一行は、その影を気にしながらも、そのまま進むと、蓮の教室までたどり着いた。

 確かにガサガサと、教室内から音がする。しかし人の気配はない。


 一行は二手に分かれ、陽菜とエレナ、蓮と玉藻がそれぞれ別の入口へ向かう。


「いくよ」


 陽菜が小さく声を上げると、同時に教室の入口を開けた。


「だれだっ!!」


 その声とともに、何かがいきなり陽菜に向かって突進してきた。


「うわっ!」


「うぉ!!」


 陽菜とエレナは思わず身をかがめ、身を守るようにふさぎ込む。

 妖は宙を浮くように飛び、陽菜とエレナを無視して教室から逃げるように飛び去った。


 それを見た玉藻が呟く。


「妖精……?」


「あれは……ひょっとして」


 蓮も同時に、小さな声で言った。

 陽菜とエレナは立ち上がり、声を上げて追いかけ始める。


「屋上にむかった! 待ちやがれ!!」


 蓮と玉藻は、その姿をじっと見つめていた。

 そのとき、蓮の目が廊下に落ちている淡く輝くものに留まる。

 蓮がそれを手に取ると、そこには淡く白に輝き、まるで翅のような形をした美しい押し花があった。


「玉藻さん、これって……?」


 玉藻は頷く。


「先ほどの妖が落としたものであろう」


 蓮はさらに言う。


「たぶん、僕が知っている翅脈(しみゃく)という妖精が落としたものです」


 そう告げると、ふたりはその後を追った。


 陽菜とエレナは屋上の非常ドアを開け、外に飛び出す。

 エレナが妖に向かって声をかけた。


「あんた。スプリガンね。また悪さをしにきたの?」


 そのスプリガン・翅脈が呟くように言う。


「姐さん……」


 陽菜が続ける。


「逃げようたって無駄だよ。分かるだろ? 逃げられないってことくらい」


 以前の戦いで、翅脈は死の間際まで陽菜とエレナに追い詰められていた。

 その時の恐怖は、まだ心に残っている。


 それでも翅脈は必死に言葉を絞り出す。


「悪さなんかしないので! アタイはお礼をしたかっただけなので!!」


 陽菜が首をかしげて問いかける。


「お礼?」


 その時、後ろから声が聞こえた。


「これだろ?」


 蓮だった。手には淡く輝く押し花を持っている。

 その押し花を見て、陽菜は見覚えがあった。

 同じものを、かつてエレナが父・康太に渡していたのを知っていたのだ。

 エレナもまた、その時のことを思い出す。


 妖精にとって押し花を渡すのは、感謝の印であると同時に、愛情表現の一つでもある。

 エレナはなるほどと微笑み、陽菜も納得したように言った。


「なんだ、そう言うことか」


 翅脈は顔を赤く染め、呟く。


「その……蓮様には助けていただいたので……」


「家には行きづらくて。でも、ここでもどこが居場所かわからず……それで……」


 顔はまるでゆでダコのように赤い。

 蓮は翅脈の傍まで歩み寄り、優しく言った。


「ありがとう、翅脈」


 そして翅脈の小さな手にそっと触れる。


「アタイの名前、わかってたので?」


 蓮は微笑んで答える。


「ああ、あの時、寝たふりしてたからな」


 翅脈は顔をさらに赤く染めながら、呟いた。


「そういうことですか……」


 そして、ようやく微笑みを浮かべた。


「翅脈ちゃんって言うんだね~」


 エレナもにこやかに言う。

 陽菜もその様子を見て、自然と微笑んだ。


 そんななか、翅脈の瞳に玉藻の姿が映った。


 玉藻はふわりと現れ、静かに言う。


「例のふたりが着けてきている」


 玉藻が陽菜たちに告げたその瞬間、翅脈が帳を開いた。


Grenzlinie(グレンツリーニエ)


 空気が震え、世界は一瞬で夕焼け色に染まる。

 屋上の代わりに広がったのは、赤く燃える果てしない草原だった。


 蓮は慌てて言う。


「翅脈! どうしちゃったんだ!!」


 玉藻が告げる。


「この妖精は、わらわと戦うつもりでいる」


 陽菜が冷静に答える。


「あいつは、人間になるのが目的」


「うん……。その鍵が今、目の前にいるんだもんね……」


 エレナも頷きながら言った。

 翅脈は玉藻に向かって、吐き捨てるように言った。


「アタイは人間になるのが目的。そして、その目的も今、はっきりしたので」


「九尾から欠片を奪い、人間になって蓮様をお守りする!」


 翅脈の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた──。

お付き合いいただき、誠にありがとうございました。

次回もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ