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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第28話:戦の結末 -エピローグ-

「陽菜ちゃんだったっけ? ごめんね~」


 そう言って頭をかきながら笑ったのは、尚也だった。


「なるべく戦意喪失させないようにしようと思って……」


 その軽口に、沙耶の眉がぴくりと動く。


「ざけんな! そういう態度、女性に嫌われるぞ!!」


「そういうお前も、男から好かれないぞ!」


 尚也も負けじと応酬する。

 陽菜とエレナは顔を見合わせ、思わず吹き出した。


「ふたりとも仲がいいんですね」


「なっ……!」


 即座に否定し、慌ててそっぽを向くふたり。

 そんな中、彩華が視線を鋭くして口を開いた。


「……にしても、なぜこのような茶番を?」


 その一言に、場の空気が変わる。

 玉藻がゆっくりと振り返り、琥珀色の瞳を細める。

 彩華は言葉を重ねた。


「さっきの、蓮への攻撃。見掛け倒しのフェイクだったわね。そして以前、陽菜の自宅に現れた時も。あれも含め、すべては“演出”に過ぎない」


 静寂が落ちた。

 玉藻はふっと唇をゆがめ、やがて低く告げる。


「うむ……。わらわは “欠片と(かたち)” と対話したのだ。場合によっては、手を貸してもらうためにな」


「手を貸す……って?」


 陽菜が身を乗り出す。

 玉藻は真剣な眼差しで、ひとつひとつ言葉を選ぶように告げた。


「わらわの欠片を持つ、もう一体の妖。そやつが動くならば……この地は、ただでは済まぬであろう」


 重い沈黙が落ちた。

 誰もが言葉を失い、空気だけが冷え込んでいく。

 やがて玉藻は目を伏せ、淡々と続けた。


「無論、そなたらの自由だ。時が来たら教える……」


 そう言い残すと、彼女は口を閉ざした。

 その瞳の奥には、測り知れぬ思惑がかすかに揺らめいていた。

 沈黙を破ったのは、陽菜だった。


「でも、欠片なくなっちゃったから……エレナはしばらく獣人化できないね」


 それを聞いたエレナは少しがっかりした。


「うん……。御飯もいっぱい食べられないな……」


 エレナは肩を落とし、しょんぼりした。

 玉藻が手をかざし、その光景を制するように口を開く。


「案ずるな。ふたりには、わらわの欠片の一部を残してある。今まで通り、変わらぬぞ。その証拠に、今も人間のままであろう」


 その瞬間、陽菜とエレナの胸元が淡い緑に輝いた。


「……ほんとだ」


「よかったぁ……」


 思わずふたりは顔を見合わせ、ほっと息をつく。


「それに、陰陽師の娘にも稽古をつけねばならぬ。そこの若人にも、最低限の護身術は教えんとな」


「ほんとに!?」


 彩華が目を輝かせ、竜司も前のめりになって声を上げる。

 蓮は真剣な眼差しで玉藻を見つめ、静かに口を開いた。


「玉藻さん……陽菜がまた暴走しそうになったときに、それを抑える術も教えてください」


 玉藻はわずかに口元を緩め、低く応じる。


「無論だ。だが、術では制御できぬ。それは、そなたの想い次第よ」


 その言葉に、蓮の胸の奥の緊張がわずかにほどける。

 彼は静かに頷き、陽菜の背中を見つめるのだった。

 すると、竜司が静寂を破った。


「……よし! とりあえず飯食いに行こうぜ! なにせ彩華が“素泊まり”で予約しやがったからな!」


「え? マジ??」


 陽菜が目を丸くする。


「しゃーねーだろ! いつ終わるかもわからんかったんだし!」


 すかさず陽菜がニヤリと笑った。


「じゃー、責任取って、彩華のゴチね」


「はあっ!? なんでそうなるのよ!!」


 彩華が全力で否定する。

 エレナと沙耶は口元を隠してクスクス笑った。

 そのやり取りに、緊張で固まっていた空気が一気にほぐれていった。


 そんな中、沙耶がぽんと手を打つ。


「そうだ! 今日、私、尚也と帰るから。代わりに玉藻さんが泊まってね!」


「えーーーっ!?」


 全員が一斉に驚きの声を上げる。

 沙耶は両手を合わせて拝むように頼み込むと、にやりと尚也を見上げた。


「ってことで、尚也! 抱っこして送ってね♪」


 小悪魔のように甘えた声色。尚也は眉間にしわを寄せ、即答する。


「マジで嫌だ!」


 それを聞いた陽菜と彩華がニヤニヤと茶化す。


「尚也さん、照れちゃってるのぉ~?」


 だが、尚也は真剣な顔で断言した。


「こいつ、前におんぶしてやったとき……寝ゲロ吐きやがったんだ」


「寝ゲロダイレクトは……マジでキツい……」


 その一言で場の空気が凍りつく。


「……マジ?」


 全員が青ざめて呟いた。

 尚也はゆっくり振り返り、重々しい声で言い放つ。


「いいかい。世の中はね……甘酸っぱい青春群像劇だけじゃないんだ」


 異様なほどに重い言葉だった。


「忠告、あ……あざす……」


 全員が反射的にそろえて答えてしまう。

 ただひとり、沙耶だけが怒り心頭で今にも爆発しそうだった。


 来た道を戻りながら、一行は道路へと出る。

 その道すがら、陽菜が蓮とエレナに囁いた。


「ねぇねぇ……沙耶さんと尚也さんって、歳の差カップルかな?」


 エレナがニヤニヤしながら言う。


「うん、仲いいもんね~。可能性あるんじゃない?」


 蓮は違うことを考えていたようで、少し真面目に口を開いた。


「あの人も、沙耶さんみたいに魔法が使えるってことだよね」


 陽菜とエレナは顔を見合わせる。

 しばらく考え込んだあと、エレナがぽつりと呟く。


「……きになるね。聞いてみる?」


 だが蓮は、少しの間を置いて首を振った。


「いや、やめておこう。今は陽菜のことだけで精いっぱいだ」


 その言葉に、陽菜は思わずムッとする。


「ちょ、なにそれ、ウチがお邪魔ってことみたいじゃん!」


 エレナはクスクス笑いながら茶化した。


「陽菜、すねちゃだめだよぉ~」


 陽菜もぷっと頬をふくらませる。

 やがて三人は顔を見合わせ、こらえきれずにクスクス笑った。


 その前では、まだ沙耶と尚也が歩きながら口論を続けている。


「だーかーら! あれは不可抗力だったの!」


「寝ゲロダイレクトは……マジでキツいんだよ!」


 一方で、陽菜たちの後ろでは彩華が財布を開き、ため息混じりにお金を確認していた。


「奢る金ねーし……竜司、奢ってよ!」


「なんで俺なんだよ!!」


 そんな掛け合いもまた、どこか楽しかった。

 陽菜はエレナに言った。


「でも、まさか名前の由来がパチンコ屋だったとはね~。お父ちゃん泣いちゃうかもよ」


 エレナは頭をかきながら照れ笑いを浮かべた。


「えへへ……」


「でも、なんでエレナって言ったの?」


 エレナが少し考えて答える。


「分からない。たぶん、康太とお話したかったんだと思うの。名前も忘れてたし。それに、自己紹介は必要でしょ?」


 陽菜は微笑んで言った。


「そうだね。でも、ウチはエレナって名前、好きだよ」


「陽菜~。いい子だねぇ~」


 そう言うと、エレナは陽菜の頭を優しくヨシヨシと撫でた。


 夕日に染まる山々を背に、二人の笑い声がそっと風に溶けていく──。

 陽菜たちの冒険は、これからもまだまだ続く。


 --------


 それは、防衛大臣の執務室でのことだった。

 ドアのノック音とともに、制服を着た自衛官の男女二名が入ってきた。


「直接、君たちが来るとは、よほどの事態かね」


 男は無表情のまま口を開いた。


「閣下、この映像をご覧ください」


 その男性自衛官がノートPCを差し出す。大臣は画面の動画をじっと見つめた。


「とあるユーチューバーの映像です。この女性……ご存じでしょうか」


 それを見た、大臣の顔色が変わった。


「こ……これは、九尾か……」


「はい」


 男性自衛官の返事を受け、大臣は低く呟いた。


「先日のスクランブル騒ぎもそうだが……動き出したか」


 男性自衛官は説明を続けた。


「それと、この場所ですが……5年ほど前に強姦殺人事件があった現場です」


 大臣は黙って男性自衛官を見つめる。


「犯人の三名はすでに刑務所に収監されていましたが、全員、不審死を遂げています」


「公式には心不全として処理されましたが、検視の結果では心臓を握り潰されたような痕跡が……」


 大臣は再び動画に目を移し、低く呟いた。


「その犯人が、九尾の狐だと?」


「あるいは……この映像に映る誰かかもしれません」


 今度は、女性自衛官が慎重に言葉を重ねた。

 大臣は眉をひそめる。


「しかし、たかが少年少女に、このような力が」


「ですが、こちらの映像もご覧ください」


 男性自衛官はそう言うと、動画のシークバーをスライドさせた。


「明らかにCGではなく、別次元の空間内での出来事のようです」


 それは、陽菜たちが怪異と戦っている映像だった。

 さらに女性自衛官が付け加えた。


「気になって身辺を洗いました。すると、この青髪の女性、動画上では“エレナ”と呼ばれている子ですが、マイナンバーも、戸籍も、病院記録も、一切存在しませんでした。もちろん、出生も不明です」


 大臣は目を細め、重々しく言う。


「なるほど……だから、君たち“別班”で調査したい……というわけか」


 ふたりは声を揃えて答えた。


「はっ!!」


 大臣は頭を抱えながら言う。


「いいかね。“別班”は国外事案をメインとする諜報部だ。国内事案については警察庁がうるさい……」


 男性自衛官が答える。


「ですので、ここへ参上した次第です。加えて、これは警察が対処可能な事案でもないでしょう」


 大臣はしばらく考え込んだあと、静かに頷き、決意を込めて言った。


「必要予算は承認する。調査したまえ。総理には私から伝えておく」


 自衛官の男女二名は敬礼をし、静かに執務室を退出した。

 大臣は肩の力を抜くことなく、独り言のように呟く。


「全世界に流れてしまうとは……荒れるぞ……アメリカも、中国も黙ってはおるまい……」


 そのまま内線に手を伸ばす。


「至急、総理官邸へ連絡。時女(ときめ)様のお目通りを願うよう、総理に通達しておけ」


「……なんでもいい! そう言えば、伝わる!!」


 その瞬間、国家をも揺るがそうとする事態が、静かに動き出した──。

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