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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第27話:戦の結末

「あはははは!!」


 陽菜は最高に高揚していた。

 アドレナリンが全身を駆け巡り、ただ戦いを楽しむ衝動に身を委ねていた。


 周りはまだ気づいていない。だが、蓮だけは違った。


(陽菜が……また“陽菜”じゃなくなり始めている……!)


 玉藻もその異変を感じ取っていた。


「やはり、人の子に想いの受け止めは難しい……だが、それもまた試練」


 そう呟くと、ふと玉藻の視線が蓮に向く。


「……気付いたか、若人(わこうど)よ。娘よ、どうする?」


 だが次の瞬間、玉藻は陽菜の様子を見て直感する。


「……いや。完全に飲まれてはいない。なるほど、賭けに出たか、娘よ」


 そう言うと、玉藻は後退しつつ陽菜に向かって、赤い球を放った。


「っ!」


 陽菜はそれをまともに受けかけたが、とっさに腕で受け止め、衝撃に押されながら後退する。

 間髪入れずに、左右からエレナと彩華が挟み込むように突進する。


「はぁっ!」


「そこだっ!」


 玉藻は両手をかざし、それぞれに気弾を放った。

 だが二人は軽やかにそれをかわした。

 ──それは囮。完全な連携だった。


 玉藻が二人に意識を奪われた一瞬の隙を、陽菜は逃さなかった。

 気付いたときには、すでに陽菜が懐へと飛び込んでいた。


「な……なんと……っ」


 陽菜の手に宿ったのは、玉虫色に輝く球体。

 それを渾身の力で玉藻の胸へ叩きつける。


 直撃した。


 轟音とともに爆発が巻き起こり、凄まじい光と衝撃が周囲を切り裂いた。


「ぐわぁぁぁぁ!」


 悲鳴とともに玉藻の身体は吹き飛び、砂浜へ叩きつけられる。

 砂と飛沫が大きく舞い上がり、地響きが海岸を揺らした。さすがの玉藻も、この一撃には深手を負う。


 砂浜に叩きつけられた玉藻は、しばし沈黙していた。

 しかし、砂塵を払いのけるようにしてゆっくりと立ち上がる。


「……ぐ、ぅ……見事……っ……!」


 その声は苦しげで、肩も大きく上下している。

 だが、その瞳には未だ鋭い光が宿っていた。


 陽菜は、息を荒げる玉藻を見据えながら、口元を吊り上げた。


「あはは……やっぱ、楽しいわ……!!」


 その笑いは高揚に満ち、戦いを喜ぶ色が濃く混じっていた。

 まるで勝負そのものに酔いしれているかのように。


 エレナが小さく息を呑む。


(……陽菜……!)


 陽菜の瞳がぎらりと輝き、帯が勝手に生き物のように蠢き始める。


「あはははは!! もっとだ……もっと壊してやるッ!!」


 陽菜の声は、もう普段の彼女のものではなかった。

 狂気と昂揚が入り混じり、ただ破壊を求める響きへと変わっている。


「やめて!! 陽菜!!」


 エレナが叫ぶ。だが、陽菜の耳には届かない。

 帯が荒れ狂うように周囲の砂を巻き上げ、空気が震える。


「陽菜っ!」


 蓮が前へ出る。心で必死に訴える。


(戻れ……! お前はそんな奴じゃないだろ!)


 彩華も叫んだ。


「バカ! どうしちゃったのよ!?」


 竜司も負けじと声を張り上げる。


「陽菜!! オマエ、こんなんでいいのかよ!」


 仲間たちの声が重なる。

 しかし陽菜の視線は玉藻にしか向いていなかった。


「あいつを壊せば……全部なくなる……ウチがやるんだ!!」


 それを見ていた沙耶の顔には、不安の色が濃く浮かんでいた。

 一方で、尚也だけは冷静に事の成り行きを見据えていた。


「尚也……本当に、大丈夫なの?」


 思わず問いかける沙耶。

 だが、尚也は沙耶に笑顔を向けると、低く答えた。


「大丈夫。彼女は暴走していないよ。今は……見届けるしかない」


 その言葉に、沙耶はゴクリと唾を飲み込み、ただ目の前の光景を凝視した。


 その時だった。

 陽菜のもつ“欠片”、エレナの宿す“本体”、そして玉藻が同じ玉虫色の輝きを放つ。

 まるで互いが響き合い、言葉なき会話を交わしているように。


 やがて、その輝きの中で玉藻が低く応じた。


「……ここからは、誰も手出し無用だ。娘とわらわで決着をつける」


 さらに続けて、玉藻は静かに宣言する。


「基礎は叩き込んだ。あとは想いを開放するのみ」


 そう言い切ると、玉藻の身体が淡い光に包まれ、構えを取る。

 次の瞬間、破裂するように光が弾け、その姿は、巨大な狐へと変貌する。

 九つの尾がしなやかに揺らぎ、砂浜全体を覆うような威圧感と神秘を放った。


 誰もが息をのむ。


「あれが……伝説の九尾の狐……」


 彩華が思わず呟く。

 もちろん、彼女も知っている。この姿は本来のものではなく、玉藻は人として生きて妖になった存在だ。

 だがそれでも、その荘厳な美しさと、凄絶な優雅さには抗えぬ魅力があった。


 陽菜も、エレナもまた同じだった。

 畏怖と感嘆が入り混じる心を抱えながら、その巨体を見上げる。

 ただ恐ろしいだけではない。そこには、伝説と真実を兼ね備えた威容が確かにあった。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……三藐三菩提!」


 九尾の狐が空間に響くような声で高らかに唱えると、空気が震え、大地さえ軋む。


 その気配を受けて、陽菜の掌にも玉虫色の光が渦を巻いた。

 高鳴る鼓動に身を委ね、彼女は口元を歪めて叫ぶ。


「陽菜ちゃんボンバー!!」


 狂気にも似た笑み。

 その一声は、戦いを歓喜として受け入れる陽菜の危うさを、誰よりも強く物語っていた。


「迷いは断ち切った! いざ、参る!!」


 巨大な狐と化した玉藻の咆哮が、想願空虚を震わせる。


 そして、二人は滑空するような速度で一直線にぶつかり合った。

 次の瞬間、まばゆい閃光が視界を焼き尽くす。

 そして、それは天地すら震わせる勢いだった。


 ほんの一瞬の出来事であった。

 光が晴れた時、玉藻はすでに人の姿へと戻っていた。

 その胸には、ぽっかりと巨大な穴が穿たれている。


 交差した二人。その先に陽菜の姿があった。

 彼女はふらりと力を失い、ゆっくりと砂浜に崩れ落ちる。


「陽菜ーー!!」


「陽菜!!」


 蓮とエレナが声を張り上げ、陽菜に駆け寄る。

 他の仲間たちは、ただこの結末を見届けるかのように静かに立ち尽くしていた。


 玉藻の穴の開いた箇所から、淡い玉虫色の輝きが塵となって漏れ出していた。

 玉藻は微笑を浮かべ、静かに言葉を紡いだ。


「……見事であった……」


 そういうと、玉藻は陽菜のほうに振り返った。


 蓮とエレナが、陽菜に呼びかけると、陽菜は目を覚ました。


「陽菜、大丈夫か?」


「陽菜、大丈夫?」


 心配そうに声を掛ける二人に、陽菜は小さく頷き、微笑んだ。


「ありがと……ウチは大丈夫」


 そう言うと、ゆっくりと起き上がった。

 彩華と竜司、そして沙耶もすぐに駆け寄った。


 陽菜は立ち上がって言った。


「みんなごめん。敢えて想いに飲まれてみたんだ。そうしなければ倒せないと思って」


「少しづつだけど、コントロールもできるようになってきた。エレナと蓮のおかげだよ」


 すると、胸元から一枚の紙がふわりと浮かび上がり、淡く輝きながら宙に漂った。


 それは彩華が用意してくれた式神だった。

 式神は陽菜の視線に合わせるように浮かび、やがて五芒星の形を描き出す。


 玉藻が静かに言った。


「そなたに宿りし、想いの塊。その式神が引き受けてくれた」


 その言葉とともに、五芒星は淡い緑の輝きを放ち、式神がゆっくりと消えていった。

 まるで、陽菜に別れの挨拶を告げるかのように、常に寄り添ってくれた存在が、静かに去っていく。


「ごめん……そして、ありがとう……」


 陽菜はそう呟き、感謝した。


 彩華がふと玉藻に問いかける。


「アンタ……まさか、これのために?」


 玉藻は静かに答えた。


「戦いの中で、徐々に制御できるようになったとはいえ、想いが溜まれば、同じことがまた起こるかもしれぬ」


「娘の想いを浄化するため、式神に犠牲になってもらった」


 その言葉とともに、陽菜の持つ“欠片”と、エレナの持つ“本体”が輝き出した。

 やがて、それらはふたりから離れ、空間を横切り玉藻の元へと吸い込まれていく。


 沙耶が小さく呟いた。


「きっと、役目が終わったのね……」


 欠片と本体は玉藻の身体に同化し、玉藻は淡い光を放つ。

 玉藻の穴の開いた体も元に戻った。


 陽菜が言った。


「ありがとう……玉藻さん……」


 その瞬間、心の奥で確信した。

 玉藻は悪人ではない。戦いの間も、彼女たちを導き、想いを整えるために動いてくれた存在だ。

 たとえその力や立場が強大で、時に畏怖を感じさせるものであっても、決して敵ではなかった。

 陽菜は、玉藻の存在に深い感謝と信頼を抱きながら、その場に立っていた。


 玉藻が静かに付け加える。


「戦い方、想いの制御、どれもまだ完全ではない。今はその門口に立ったに過ぎぬ。そなたらの試練は、これからであろう」


「そして……それは……」


 言葉を切った玉藻に、陽菜たちはそれ以上追及しなかった。

 直感で理解したのだ。これから訪れる試練……その前準備に過ぎないのだろう、と。


「試練……」


 陽菜はぽつりと呟く。

 その声に、玉藻は静かに頷いた。


 そして陽菜は、少し笑みを浮かべながら言った。


「それは、スローライフにもってこいじゃん!!」


 その言葉に、一同は口を開けてあきれ返る。

 その場にいる全員が、思わず心の中で呟いた。


(本当に、想いを浄化できたのか……?)


 それは玉藻ですら、例外ではなかった。


 そして、夕焼け色に染まっていた陽菜の想願空虚が音もなく晴れ、元の山林が姿を現した──。

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