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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第24話:戦再び

(あ……これ、イノシシよりヤベーやつかも)


 蓮と竜司は同時に心の中で呟いた。

 目の前の男は、茶色の瞳で、黒の前髪が少し薄く後退気味。薄手のトレーナーにジーンズという、どこか“ちょい悪ストリートカジュアル”な出で立ちだった。


「あのー、どなたでしょうか?」


 陽菜が丁寧に声をかける。

 すると、意外にも反応したのは沙耶だった。


尚也(なおや)!? なんでここにいるの?」


 一行が驚きの声をあげる中、エレナが思わず口にする。


「沙耶さんの知り合いなの~?」


 しかし、男は答えず、腕を組んで仁王立ちのまま、得意げにふんっと鼻を鳴らした。


「……!」


 エレナが負けじと一歩前に出て、腰に手を当てて同じくふんっと鼻を鳴らす。


 男も腕を組んだまま、再びふんっと鼻を鳴らす。

 エレナも負けじとふんっと鼻を鳴らす。


 ──鼻息の応酬。


 そして、その男・白石尚也(しらいしなおや)は、突如として鼻をほじり始めた。


「……!」


 エレナも負けじと真似しようとした、その瞬間。


「ちょ、エレナはそれやらなくていいから!」


 陽菜が慌てて制止した。


 尚也は鼻をほじり終えると、何事もなかったように口を開いた。


「おせーぞ! 帰ろうかと思った。玉藻さんから、呼ばれたのだよ。バイトだって」


「玉藻を……なんで知ってるんですか?」


 陽菜の問いに、尚也は鋭い眼光を向ける。


「悪いが、それに答える義理はない。キミたちはここで死ぬんだから」


 陽菜がムッとした顔を見せると、沙耶が割って入った。


「ちょっと! そんな言い方ないんじゃない?」


 尚也は答えず、ただ冷ややかに言い放つ。


「案内する。彼女はもうすぐそこにいる」


 五分ほど山を登ると、視界がぱっと開けた。

 そこには、中腹に広がる小さな草原のような平地があり、陽菜たちはその場に足を踏み入れた。


 だが、その直後だった。

 赤く輝く球が、一直線にこちらへ飛来する。


「っ!」


 エレナがとっさに結界を張り、衝撃を受け止める。爆風が地を揺らし、土煙があたりに舞い上がった。


 その煙の中から、ゆらりと一つの影が現れる。

 玉藻であった。


「娘よ……どうする? 現実世界では、容易に避けることもかなうまい」


 挑発めいた声に、陽菜は奥歯をかみしめ、ため息を吐いた。


「くっ……」


 そんな彼女を見据え、玉藻は言葉を続ける。


「己の帳を開け、念じるのだ。さすれば、自らの帳を引き寄せることができる。邪念を捨てろ……相手を討つための舞台を、心に描くのだ」


 その声に導かれるように、陽菜は深く目を閉じ、心の中で強くイメージを描いた。


 すると、周囲の景色が淡く揺らぎ、やがて夕焼けの色に染まっていく。

 そこは、彼女の“想願空虚”。


 夕焼け空の下、波打ち際のような光景が広がっていた。遠くの海の向こうには、枯れ木のように見えるものが立っている。

 よく見ればそれは木ではなく、無数の光ファイバーのような束。波に合わせて光が流れ、絶え間なく脈打つように輝いていた。


 陽菜は思わず唸った。


「これが……ウチの想願空虚……?」


 玉藻が静かに答える。


「そう。これが”帳”、そなたの言う”想願空虚”……。そなたの心の中の姿である」


 そして、玉藻は続けて口を開いた。


「では。参る」


 その言葉とともに、玉藻は滑空するように彩華の前に姿を現した。


「はっ……速いっ!!」


 彩華は身構える暇もなく、赤い球を受けて吹き飛ぶ。


「彩華!」


 陽菜は白い帯を繰り出した。だが、それよりも早く玉藻は移動し、次の攻撃をエレナに放った。

 エレナが結界を展開するよりも早く、赤い球は彼女を捉えた。


「きゃぁ!」


「エレナ!!」


 吹き飛ばされたエレナを横目に、玉藻はすぐさま陽菜へと狙いを定める。

 陽菜は帯で赤い球を防いだ。だが、それは玉藻の揺動だった。


 一瞬の隙を突かれ、玉藻は陽菜の懐に滑り込み、腹部に手をかざす。

 再び赤い球を放つと、その衝撃で陽菜は後方へ思いきり吹き飛ばされた。


 倒れ込む三人の前に、玉藻がゆっくりと歩み寄る。


「隙が多い。そのままでは、体がもたぬぞ」


 しかしその声には、冷徹さだけではなく、どこか導くような響きも含まれていた。

 三人は荒い息を漏らしながらも、必死に視線を上げ、玉藻を見据える。


 陽菜は荒い息をつき、帯を振るうも、赤い球は次々と彼女を襲う。

 一発弾き返すごとに、別の球が迫り、衝撃で後方へ吹き飛ばされる。砂煙の中で必死に立ち上がろうとするが、体はまだ重く、思うように動かない。


「恐れるな。自分の力を信じ、動くのだ」


 玉藻の声は耳に届く。しかし陽菜の体はまだ、教えに応じる余裕もなく、赤い球の連続攻撃に押されるばかりだった。

 再び腹部を衝かれ、後方へ吹き飛ばされる。砂を巻き上げながら膝をつく陽菜の目に、玉藻の冷静な瞳が映る。


「よい……まだ力は眠っている。自分の力を自在に使えるようになるのだ」


 砂塵をまといながら、陽菜はふらつきつつ立ち上がった。

 だが玉藻は間髪入れず、再び赤い球を放つ。

 直撃だった。衝撃が胸を貫き、陽菜は大きく弾き飛ばされた。背中を地面に打ちつけ、息が詰まる。


「くっ……!」


 必死に帯を繰り出すが、体が震えて思うように動かない。

 玉藻の声だけが、静かに降り注ぐ。


「同様するな。力に飲まれるな。……流れを感じろ」


 言葉の意味を考える余裕すらない。迫る赤い球を、ただ必死に払い落とす。だが玉藻は動きを変え、今度は背後へ回り込んだ。

 陽菜が振り返るより早く、鋭い衝撃が脇腹を打ち抜く。


「がっ……!」


 身体が宙を舞い、地面を転がる。口の中に砂の味が広がり、視界が滲んだ。

 だが、玉藻は容赦なく歩を進める。赤い光が再び手に宿り、陽菜へと照準を合わせた。


「己を恐れるな。今のままでは届かぬぞ」


 諭すようでありながら、休む間を与えない。次々と放たれる赤い球に、陽菜は防戦一方のまま、体力を削られていった。

 赤い球が再び迫り、陽菜は懸命に帯を振るうも、衝撃に押され、地面に膝をつき続ける。


 そんな中、彩華が声を絞り出し、九字を切った。


月弓命道(げっきゅうめいどう)!」


 眩い白光が矢の形を取り、玉藻へと放たれる。

 だが、玉藻は顔色ひとつ変えず、軽やかに一歩横へ踏み出しただけで矢は空を切った。


「速さも鋭さもある。だが、心が届いておらぬ」


 玉藻の低い声が響いた瞬間、今度はエレナが悲鳴を振り払うように前へ躍り出た。

 結界の輝きをまとい、真っ直ぐに突進する。


「やらせないんだからぁっ!」


 しかし、その意気込みごと玉藻は容易くいなす。ひらりと身をかわすと同時に、掌から圧縮された空気が炸裂した。


「……ッ!!」


 炸裂音が響き、衝撃波がエレナを襲う。彼女の身体は糸の切れた人形のように吹き飛んでいった。


蜻蛉羽(あきづは)よ。そなたの心も、まだ揺らいでいる」


 淡々と告げる玉藻の声。


「彩華! エレナ!!」


 陽菜の叫びは、想願空虚に虚しく響く。


 そんな戦いを見つめる沙耶は、魔法陣を出現させ、陽菜たちの加勢に向かおうとした。

 だが、尚也が静かに手をかざしてそれを止める。


「だめだ、沙耶。これは彼女たちの戦いだ。大丈夫、心配はいらない」


 沙耶は一瞬ためらい、目を瞬かせる。しかし、尚也は余裕の笑みを浮かべ、静かに微笑んでウィンクした。


 沙耶は直感した。この戦いには何か大きな意図があるのだろう、と。

 それほどまでに、尚也と沙耶の信頼関係は深かった。


 沙耶は、尚也のその言葉にただ黙って頷いた。


 その間に、玉藻の視線が蓮と竜司へと移った。

 冷ややかな声音が空気を裂く。


「娘たちよ。あの若人(わこうど)すら守れぬか」


 淡々と放たれたその言葉と同時に、玉藻はふたりに向かって手をかざした。


「やめてっ! 蓮、逃げてっ!!」


 陽菜は叫んだ。


「だめー!!」


「竜司っ!!」


 エレナと彩華も声を張り上げる。


 しかし、声など届かぬかのように、玉藻は無表情のまま赤い球を顕現させ、二人へと放った──。

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