第23話:いざ、那須へ
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ! ハメやがってー!!」
本日も陽菜は絶好調だった。
その叫びが、電車内の個室ルームに響き渡る。
「そんなルール、公式にはねーぞっ!!」
陽菜の抗議を完全にスルーして、彩華は腹を抱えて笑う。
「バーカ! 旅の勝負はローカルルールがすべてなんだよ! ぎゃははは!!」
陽菜、エレナ、蓮、彩華、竜司、そして沙耶の一行は那須にいる玉藻を目指していた。
とはいえ、すっかり”鉄道旅行”になっている。
個室を予約した一行は、流れる車窓など見向きもせずUNOで勝負していた。
蓮と竜司の男子組はその勝敗を眺めている。
当初は参加していたのだが、旅館の部屋割りで揉めた女子組は、UNOの上り順で部屋を決めたいらしい。
そのため、今は傍観者だ。
(どの部屋も変わらねーーじゃん……)
それがふたりの率直な感想ではあるが……。
目の血走っている陽菜を見ながら、沙耶は缶ビールを転がしつつニヤニヤしている。
「陽菜ちゃん、そんなに殺気立ってたら、読まれちゃうよ~」
そう言いながら、沙耶はカードを出した。
「ドロ-4、赤」
エレナの番だ。エレナはウホウホのウキウキ気分で笑みを浮かべながらカードを出す。
「ドロー4、赤」
そして、彩華の番。
彩華は究極に、にやけながらカードを出した。
「ドロー4、青!!」
陽菜は青ざめた。
そして、視線を一瞬ぐっと落とし、呆然とした声を上げた。
「……ない」
そして、一瞬の間をおいて再び叫んだ。
「ざけんじゃねーーーぞ! クソがぁぁぁぁ!!」
「ぎゃははははは!!」
彩華はもちろん、エレナも沙耶も大笑いする。
その様子を蓮と竜司が冷静に見守る中、彩華は追い打ちをかけるように言った。
「はよ取れや、十二枚♪」
「取ればいいんだろが! 取れば!!」
陽菜は、彩華を睨みつけると、勢いよく十二枚のカードを乱暴に取った。
その様子を男子組は、青ざめた顔で見つめる。
蓮は、目の前の光景を思わず頭の中で整理した。
(状況的には、いわゆる“ハーレム”要素のはずなのに……全然、ハーレムじゃない……)
竜司がこっそりと蓮に耳打ちする。
「たしか、あのふたりってスローライフするとか言ってたよな?」
その言葉を聞き、蓮の頭には記憶がよみがえった。
それは、ユーチューブの撮影からの帰り道、陽菜と彩華がふたり並んで歩きながら口をそろえた言葉──
「ウチたち、想いを届けるスローライフをするんだ!」
「日々の暮らしは平穏に……でも、想いや妖が出たら対応する、これがウチのスローライフ」
彩華もにやりと笑いながら続けた。
「そうそう、危険と日常が絶妙に混ざり合うのが理想よね。スローライフ……というより、ちょっと刺激的なスローライフ?」
その時のふたりの姿は、笑顔でありながらも底知れぬ強さを感じさせるものだった。
こう言うところはなぜが意気投合するふたりに、蓮と竜司は笑いながらも、内心ではドン引きしていた。
(……スローライフって趣味とか、のんびり系だから……)
現在の状況を思い返す。
目の前には、最強の想い使い、驚異の女陰陽師、玉藻を宿した妖精、そして飲んだくれの唯一無二の魔法使い。
笑いながらも強烈な破壊力を秘めた女子組の勢いに、蓮と竜司はただただ青ざめるばかりだった。
(付き合わされている俺らは、完全にファストライフだ……)
その心の声は、当然のごとく女子組には届かない。
そのとき、沙耶が白いワイルドカードを取り出した。
「ほいっ!」
カードをテーブルに叩きつけながら、沙耶はにやりと笑う。
「彩華ちゃん、ノリダーのものまね♪」
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日光からさらにバスとタクシーを乗り継ぎ、一行は目的地へと移動した。
「森羅ふんふん~♪ ピースピース~♪」
陽菜は鼻歌まじりに座席に揺られている。
「音痴」
彩華が挑発的に陽菜に言った。
「テメーよりは、うまいわっ!」
「つーか! うぉい、ノリダー! 言葉使いちげーだろ!!」
そのやり取りを見て、沙耶とエレナは笑い出す。
「んだと、殺すぞ こらぁ!!」
彩華が言うと、陽菜は余裕の笑みを浮かべて指をさした。
「ぶっとばすぞぉ~ だろが!」
「ぎゃははははは!!」
陽菜はそう言うと、指をさして笑った。
その声に、彩華以外のメンバーも大笑いする。
車内には明るい雰囲気が広がった。
そんな笑いの中、エレナが少し控えめに声をかけた。
「陽菜、ご機嫌だね~」
「だって、いよいよ玉藻と対戦だしね~」
その言葉に、エレナは少し俯いた。
陽菜はすぐに気づき、彼女に向き直る。
「やっぱ……エレナは知りたくない? 自分の出生のこととか」
エレナはしばし黙ったままだった。
陽菜は優しく続ける。
「彩華は“前に進めない”って言ってたけど……。知りたくなければ、そのままでもいいんだよ」
しばらく考えたあと、エレナは首を振った。
「んーん。……わたしも知る必要があると思う。それにね……」
小さく息を整え、彼女は微笑む。
「最初の時と違って、もう玉藻のことを怖いとは思わない」
たしかに最初に玉藻が現れたとき、エレナは震えるほど怯えていた。
しかし、廃墟で再会したときは、落ち着いて彼女に向き合うことができていた。
その記憶を思い返しながら、陽菜は静かに言う。
「たぶん……怖かったのは玉藻じゃなくて、エレナ自身の秘密だったんだと思う。向き合う覚悟ができたから、怖くなくなったんかも」
「……そうかもしれない。でもね、陽菜と一緒なら大丈夫!」
そう言ってエレナは陽菜に微笑んだ。
陽菜も笑みを浮かべ、ヨシヨシとエレナの頭を撫でた。
一行はバス停を降り、観光地”殺生石”を通り抜け、さらに道路沿いを歩く。
そのとき、陽菜とエレナの身体がふいに淡く輝き出した。
「……こっちだって、本体が告げている」
エレナの言葉に、陽菜も迷いなく頷く。
「ウチの欠片も、そう言ってる」
まるで導かれるように、一行は山林の奥深くへと歩を進めていく。
朝に出発したはずなのに、太陽はすでに高く昇り、時刻は午後三時に差しかかろうとしている。
「こんなんだったら、玉藻に来てもらえばよかったー!!」
陽菜が息を切らしながらぼやく。
道は険しく、足場もごつごつとしている。
「イノシシとか猿とか出てきたらどうしよう~」
エレナも不安そうに声を震わせた。
「バカ言え。出てきたら蹴散らすだけだろ」
彩華は涼しい顔で言い放ち、落ちてきた枝を杖のように振ってみせる。
それを見た陽菜は、茶化すように口を開いた。
「さすがノリダー! ぶっ飛ばしてくれ!!」
彩華は眉をひそめ、怒りをにじませて言う。
「その前にテメーをぶっとばす!」
陽菜も負けじと声を張り上げた。
「んだと! クソがぁ! 巻いて巻いて手巻き寿司にしてやろーか!?」
すると今度は、彩華が余裕の笑みを浮かべ、挑発するように言った。
「そんなことよりさー、早く歩けよ。おっぱいが “ちびノリダー”」
陽菜の顔が真っ赤になり、むきになって叫んだ。
「んだとコルァァァ!!」
そんなとき──
「ふふふふふん~、ふふふんだったり、するんだろ~ね~♪」
唐突に木立に鼻歌が響きわたり、陽菜と彩華は思わず顔を見合わせた。
そして、続けざまに──
「アリガトウゴザイ~ますっ♪」
目の前をふさぐように、一人の男が仁王立ちしていた。
年の頃は四十代後半、腕を組み、こちらを見下ろすように立ちふさがっていた──。




