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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第19話:lost virginity

「陽菜! そっち!!」


 彩華の声が鋭く飛んだ。

 陽菜は振り返ることもなく、その怪異の前に立ちはだかる。


「……やっぱり弱いね。こんなんじゃ、遊びにもならない」


 ミミズのようにのたうち回る巨体が身をくねらせ、陽菜に襲いかかってくる。


「おバカさん……」


 陽菜の呟きと共に、彼女の手から青白い光が放たれた。

 巨体は断末魔のうめき声を上げながら、やがて虚空に溶けて消えていく。

 同時に、怪異が作り出していた想願急遽も霧散していく。


「勝手に死んでおいて、復讐なんて……助ける価値すらない」


 冷たく吐き捨てる陽菜の声。

 その横顔を見た瞬間、蓮の背筋に寒気が走った。

 ──陽菜が、別の世界の人間になってしまったみたいだ。


 今回の依頼も、あるユーチューバーから持ち込まれたものだった。

 機材を片づけていると、エレナが屈託のない笑みを浮かべて蓮に声をかける。


「今回も無事、片づけ完了だねー!!」


 その明るさとは裏腹に、蓮は胸の中のわだかまりを拭えなかった。


「なぁ、エレナ……」


「ん? どうしたの?」


 蓮はそれとなく問いかける。


「……最近、陽菜、大丈夫か?」


 エレナは首をかしげ、ほんの少し考え込む。


「んー……特に変わったことはないけど。なんで?」


 蓮は答えを探すように視線を伏せ、それでも言葉を濁した。


「いや……気のせい、かな。なんでもないよ」


 エレナは、ふっと小さく息をついた。

 ──たぶん、玉藻の言葉を気にしているんだ。


「ねぇ、蓮。明日、陽菜を誘ってあげてほしいの」


 そこで一拍置き、はっきりと告げる。


「もちろん、わたしは行かないよ」


「なんだよ、いきなり……」


 驚く蓮に、エレナはまっすぐな瞳を向けて言う。


「気になるなら、そこで聞いてみて。……玉藻の言っていたこと、私には正直、わからないから」


 言葉を区切り、エレナは続けた。


「蓮は優しい。わたしから見ても、そう思う。でもね……陽菜は積極的に……」


 そう言いつつエレナは言葉を閉じた。


「んーん、なんでもない……」


 翌日、陽菜と蓮は久々のデートに出かけていた。

 休日の朝から、ふたりきりで外に出るのは本当に久しぶりだ。行き先は特別な場所ではなく、近場の街。けれど、それがかえって心地よい。


 ちょうど二日前から、蓮の義父と義母は温泉旅行へ出かけており、家のことを気にせずに済むのもありがたかった。


 午前中は観覧車に乗り、海沿いの海浜公園を散歩する。潮風に吹かれながら笑い合う時間は、”高校生カップルらしい休日”そのものだ。

 陽菜にとっては、それだけで十分。久々に訪れた二人きりの時間が、何よりの幸せだった。


 そんなとき、不意に陽菜が口を開いた。


「ねぇ、蓮。……ウチって、やっぱり怖い?」


 突然の問いに、蓮は少し驚いて眉を寄せる。


「どうしたんだよ、急に」


 陽菜は足元の砂を見つめながら、小さく息をついた。


「最近さ、自分がわからなくなるんだ。……“想い”と向き合ってるときも、自分じゃない誰かになってるみたいで」


「……考えすぎだろ。お前はお前だよ」


 蓮は軽く笑って答えたが、内心では無視できないものを感じていた。

 廃墟探索の時に聞いた玉藻の言葉……最近の陽菜は、どこか変わってきている。


 想いと対峙するときの表情は、前のような優しい受け止め方ではなく、むしろどこか楽しげですらある。

 まるで”達成感”に縛られているように……。


 陽菜自身も、それに気づいていた。だからこそ余計に、蓮を不安にさせているのだとわかっている。

 いつか、自分でも制御できない瞬間が来てしまうのではないか。

 そのとき、自分はどんな選択をしてしまうのか。


 不安の影が、潮風に混じってふたりの間を静かに通り抜けていった。


 けれど、陽菜は首を振り、いつもの調子で笑った。


「……そうだね! サンキュッ!!」


 唐突に明るさを取り戻した彼女に、蓮は一瞬きょとんとしたが、思い切って切り出す。


「なぁ……その……今日、俺んち誰もいねーんだよ」


「えっ、マジで!? じゃあお邪魔する!!」


 ぱっと顔を輝かせた陽菜は、子供のように無邪気な声を上げた。


「……お、お前さ、すんげー積極的だな!」


 思わず蓮が赤くなりながら言うと、陽菜はにやりと笑って肩を軽く小突いた。


 ふたりはそのまま蓮の家へと足を運び、玄関先に立った。


「俺の彼女が陽菜だって知ったら、死んだ父ちゃん、母ちゃんびっくりするだろーな」


 鍵を開けながら、蓮がぽつりと呟く。

 すると陽菜が尋ねた。


「ねぇ、蓮。お父さんとお母さんの仏壇ってある?」


「ああ、あるよ」


 蓮が答えると、陽菜はやわらかく微笑んだ。


「じゃあ……お線香、あげてもいいかな?」


「そうしてくれると、喜ぶよ」


 蓮の言葉に、陽菜は静かに頷き、リビングの仏壇へと向かった。


 線香をあげ、陽菜は両手を合わせる。

 陽菜の横顔は真剣で、蓮はその姿を見つめながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

 ──やっぱり、自分の彼女が陽菜でよかった。心からそう思えた。


 陽菜はしばらくの間、静かに手を合わせていた。

 するとふと、胸の奥をやさしく撫でられるような感覚に包まれる。


(……お久しぶりです。お父さん、お母さん。陽菜です)


 心の中でそう語りかけた瞬間、ふわりと空気が揺れた。

 リビングの片隅に、面影のような残像が浮かぶ。輪郭は曖昧なのに、不思議とあたたかさを感じる。


『陽菜ちゃん、大きくなったね』


『蓮を、これからもよろしくね』


 優しい声が耳に届き、胸が熱くなる。


『大丈夫。部屋には入らないからね』


 唐突な一言に、陽菜は顔を真っ赤にしてしまった。


「あ、いやっ……そ、そんな変なことはないっす!」


 思わず声を上げると、蓮がきょとんとした表情でこちらを見つめる。


「ん? どした?」


 陽菜は慌てて両手を振り、頬をかきながら目を逸らした。


「いや……なんでもない……」


 だが、蓮はなんとなく感じていた。

 ──陽菜には、きっと声が聞こえているのかもしれない。


 もしそうなら、両親も安心しているはずだ。

 そして、自分も。


 そう思うと、自然に笑みがこぼれた。


「なに、にやけているんだよ」


 蓮の笑顔を、陽菜はジト目で見つめていた。


 蓮の部屋は、意外にも質素で整っていた。

 机とベッド、洋服ダンスに本棚。小さなテレビにはゲーム機がつながっている。


「なーんかさ、男の部屋って汚いイメージだったけど……全然違うんだな」


 ベッドに腰を下ろした陽菜が茶化すように言うと、蓮は肩をすくめた。


「お前、どんな価値観持ってんだよ」


 テレビをつけ、机から菓子を取り出す。


「晩飯代わり。あとで出前でも頼むか」


 袋を無造作に差し出され、陽菜は呆れたようにため息をついた。


「はぁ? マジで? そんなの体壊すだろ」


 陽菜は大きくため息をついて言った。


「ね、冷蔵庫の中の使ってもいい? 簡単なものくらい作るから」


「え!? 作れるの?」


「当たり前だろ。家でも手伝ってんだし」


 蓮は思わず手を合わせて拝むように頼んだ。


「ありがてぇ……」


「まぁー、お肉とかあるって言ってたから、なんとかなるっしょ」


 何気なく呟いた陽菜に、蓮が怪訝な顔をする。


「はぁ? なんで知ってるんだよ」


 陽菜は普通に答えた。


「うん。お母さんから聞いたよ」


 その瞬間、はっと気づき、慌てて言い直す。


「あ、いや……ほら、なんかこういうの不謹慎かなって。亡くなってるのに……」


 蓮は黙って陽菜を見つめた。

 ──やっぱりそうだ。


 玉藻が言っていた”感情の希薄”。

 死者の想いと向き合いすぎて、生者と死者の境界があいまいになっている。

 どこかで気づいてはいたが、今確信に変わった。


 蓮は静かに陽菜の隣に座り、強く抱きしめた。


「……俺が、お前を絶対に守る。だから、そのままのお前でいてくれ」


「……うん」


 その言葉のあと、二人はそっと唇を重ねる。


 やがて蓮は、陽菜を抱き寄せたまま、そっとベッドに横たえた。

 ふたりの頬は真っ赤に染まり、胸の奥では心臓がバクバクと跳ねている。


 蓮は顔を赤らめながら、陽菜をじっと見つめた。

 陽菜も蓮をじっと見つめて、やがて言う。


「……お父さんとお母さん、部屋には来ないって」


「だから、あのときの約束……」


 小さくそう呟くと、陽菜はそっと蓮の首に腕を回した。

 そのまま、ためらうことなく唇を重ねる。


 ふたりは長く抱きしめあう。胸の奥に熱が広がるような確かな温もり。

 それは想いだけでなく、ふたりが長く求めていた体のつながりが出来た瞬間でもあった。


「その前に、シャワー浴びたほうがいいんじゃない?」


 そんな陽菜の言葉が、採用されたのか、はたまた無視されたのかは、ふたりのみぞ知る──。

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