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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第16話:女性の嘆き①

「な……なんでーーー!!」


 それは陽菜とエレナの、同時の悲鳴だった。


 カナも思わず叫ぶ。


「きゃぁぁぁああああ!!」


 目の前に立っていたのは、なんと九尾の狐、玉藻だった。


「ちょ、なんでここにいるのよ!!」


 カナと蓮は驚きつつも、陽菜の知り合いとわかり、安堵して胸をなでおろす。


「ちょっと、すいません。脅かすのはやめてください。やらせになっちゃいますよ!!」


 カナの言葉に蓮も大きく頷いた。


「確かに、それはカナさんの言う通りだぞ!」


 玉藻は黙ったまま、静かにこちらを見つめる。


 陽菜とエレナは同時に首を振って否定する。


「ちがうよ! 蓮!! 玉藻!! 九尾の狐!!」


 エレナのその言葉に、蓮は一瞬考え込んだ。確かに、玉藻の服装は現代風ではなく、花魁のようでどこか艶めかしい。


 その瞬間、玉藻の身体も玉虫色に淡く光り出した。

 陽菜、エレナ、そして玉藻の三者の輝きはまるで共鳴しているかのように、空間に不思議な揺らぎを生む。


 光はすぐに消え、蓮はようやくその正体を確信した。


「えええぇぇぇ!!」


 カナだけは呆然としている。


「つーか、なんでアンタここにいるんだよ!!」


 それは陽菜の、驚きと困惑の入り混じった声だった。


 そんな中、二階にいた三人も駆けつけた。

 そして、彩華もまた思わず叫ぶ。


「はぁ!? なんでここにいるの!!」


 今度はタイチと竜司が呆然と立ち尽くす。


 陽菜、エレナ、彩華は互いに目配せを交わしながら、ほかのメンバーに事の次第を説明した。

 玉藻は、周囲の状況を察してか、あえて口を閉ざしたまま静かに佇んでいる。


 一通り事情を説明すると、蓮と竜司は頷いた。だが、タイチとカナだけは首をかしげるばかりだった。

 彼らにとって“妖”とは、見えても半透明で、せいぜい幽霊じみた存在という固定観念が強いのだ。信じられないのも無理はない。


 そこで、陽菜がさらりと一言。


「ガチで言うけど、いまウチら、めっちゃ“撮れ高中”だから!!」


 その言葉に、タイチとカナ以外は全員が大きく頷いた。

 取り残された二人は、ぽかんと口を開けたまま固まっている。


 ひと呼吸おいて、陽菜は改めて玉藻へ向き直った。


「で? なんでここにいるの? バトルはまだのハズでしょ」


 玉藻はほんの少し視線をそらし、気まずそうに口を開いた。


「……実はな。どのような術か見たいと思ったのだ。“ばいと”という術を」


「……は?」


 場に微妙な沈黙が落ちる。全員が同じように首をかしげていた。


 玉藻は気にも留めず、部屋をぐるりと見回しながら言葉を重ねる。


「にしても、随分と殺風景な場所だの。ここで鍛錬を積むのか?」


「いやいや。ここは”廃墟”といって、鍛錬を積む場所ではないの!」


 陽菜が即座にツッコんだ。


「違うって! バイトはスーパーでレジ打ちとかするやつ!」


 彩華も慌てて首を横に振ってツッコミを入れる。


 玉藻は眉をひそめ、真剣な声で言った。


「なんと……スーパーでレジ……そんな術もあるのか……」


「だから術じゃないってば!」


 彩華が叫ぶ。


 陽菜と彩華、いや、その場にいるほぼ全員が、身振り手振りを交えて“バイト”について必死に説明した。

 玉藻は腕を組み、目を細めてしばし考え込むと、納得したようにふんと頷く。


「なるほど。“ばいと”とは商いのことを指すのだな……。飯を得るために、己を磨く修練……。うむ、奥深い」


 その言葉に、場の空気がふっと緩んだ。だが次の瞬間──

 男性陣は、玉藻の美しさだけでなく、所作の気品と、何より純粋に”学ぼう”とする姿勢に、思わず心を持っていかれていた。


(ちょ、ナニコレ!? めっちゃかわいくない?……)


(いや、これ完全に反則だろ……声まで綺麗とか……!)


(なにこの純粋さ。男心くすぐりすぎだろが!)


 そんな男たちの心の声が交錯する。


「おい、落ち着けよ……! あれ、妖だぞ妖!」


 竜司が小声で牽制するも、顔はしっかり赤くなっていた。


「むしろ妖だからってのがポイント高いんじゃね?」


 タイチがひそひそ返し、蓮はツッコむ。

 

「いや、妖だって信じてなかっただろ」

  

 そんな空気を察してか──


「はぁ……男ってマジで単純だな」


 彩華は大きくため息をつき、陽菜も思わず同意の視線を送った。

 エレナはその様子を見て、口元を押さえてクスクス笑っていた。


 そこで、不意にカナが口を開いた。


「じゃあ、玉藻さんにも一緒に回ってもらいましょうよ!」


 一瞬の沈黙。みんなが目を丸くする中、玉藻はきょとんとした顔をしたあと頷いた。


「よかろう。その”商い”。わらわも手伝おうぞ」


 堂々とした宣言に、場の全員が思わずのけぞった。


 そんな空気を切り裂くように──


 ”カン……カン……”


 金属を叩くような音が再び響いてきたのである。


 廊下の奥、一室から金属を叩くような不気味な音が再び響いてきた。

 軽く、しかし妙に胸の奥に響くその音に、全員の背筋がゾクゾクする。


 玉藻はすっと音の方へ手をかざした。

 エレナも目を閉じ、静かに意識を集中させる。


 数秒の後、玉藻はゆるりと目を開き、低く呟いた。


「……いつの世も、男と女、欲望こそが、人の罪よ」


 その声には、先ほどまでの愛嬌も純粋さもなく、九尾の狐としての冷ややかな響きが宿っていた。


 玉藻は音の鳴る方へゆっくりと歩を進め、ためらいなくドアへと手をかける。

 そして、軋む音とともに、重たい扉を押し開いた。  


 それを見た陽菜と彩華は、思わず口を押さえ、驚愕の目を向ける。

 他の者たちは言葉を失い、目を伏せた。


「クソ……」


 蓮が唇を噛みしめ、吐き捨てるように呟いた。


 そこに映し出されていたのは、一人の女性の“想い”だった。

 彼女は複数の影に押さえつけられ、凌辱されていた。

 足首は金属のパイプで砕かれ、動くことすら叶わない。


 カン……カン……。


 先ほどの音は、その足を無残に叩きつけられ、潰されているときの残響だったのだ。


『いやぁぁ! 助けて! やめて!!』


『痛い! 痛い!! いたい!!!』


 虚空に木霊する悲痛な叫び。

 エレナが小さく震えながら口を開く。


「この子は……煉獄に囚われ、死した今もなお苦しみ続けている……」


 その言葉に、彩華も涙をこらえながら頷いた。

 痛みと屈辱に泣き叫ぶ姿を目の当たりにして、陽菜は胸の奥が引き裂かれるようだった。


「ひどい……」


 思わず、その言葉がこぼれ落ちる。


 ──その瞬間だった。

 陽菜の声に呼応するかのように、女性の“想い”が揺らぎ、反応を示した。


 次の瞬間、視界がぱっと夕焼け色に染まった。

 女性の想願空虚が展開されたのだ。


「……来る」


 玉藻が低く呟く。


 すると、女性の身体がバキバキと音を立てて裂けていく。

 悲鳴とともに殻を破り、膨張し、肉がひしゃげ、形を変えていった。


 やがて姿を現したのは、二本足で立ち上がる、巨大なトカゲのような怪異。

 鱗はどす黒い緑色に覆われ、裂けた口からは粘つく唾液が滴っている。


 その目は、怒りと絶望だけで満ちていた──。

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