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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第15話:アルバイト

 それは、静かな夜のことだった。


「ひ、陽菜ぁ……やっぱり、こわいよ……」


 か細く震えた声で呟いたのはエレナだった。


「たしかに……真っ暗闇ってのは、さすがに怖ぇ……」


 陽菜も苦笑まじりに応じる。


 この夜、陽菜、エレナ、彩華、そして竜司の四人は、千葉県にある某廃墟──いわゆる心霊スポットを訪れていた。

 きっかけは彩華から持ちかけられたアルバイトの話。内容は“心霊スポットの影響調査”というものだった。


 竜司と、その隣にいた蓮の顔には、うっすらと青ざめた色が浮かんでいる。


「ん~……マジかよ、蓮……」


 竜司がぼそりと呟くと、蓮も短く応じた。


「ああ……マジだな」


 そんな緊張感の中、一人だけ平然として、むしろ楽しげに歩いているのは彩華だった。


「ふふん、最高でしょ? 心霊スポット調査なんて」


 彩華はLED懐中電灯を自分の顔に当て、下から照らし上げる。

 まるで古典的ホラー映画のワンシーンのように、ニヤリと口角を上げてみせた。


 わざとらしい演技。

 しかし、それを見たエレナは一瞬で顔を引きつらせ、悲鳴をあげた。


「いやあぁぁぁぁ!!」


 完全に効いてしまったらしい。


「だーあはははは! ビビッてやがるっ!!」


 彩華の爆笑に、陽菜が肩をすくめてエレナに言う。


「エレナ、大丈夫? 怖い顔が見えちゃったね~。でも安心して。あれはただの“彩華っていう悪霊”だから」


「おいコラ、誰が怖い顔だ! 誰が悪霊だって!?」


 彩華がムッとした顔で陽菜をにらむ。


「てめー……ガチで呪い殺すぞ!」


 彩華の言葉に陽菜も負けない。


「んあ!? ウチの家族脅迫したくせに呪い殺すとか、やっぱテメー悪霊じゃねーか」


 その瞬間、廃墟に漂う不気味な空気の中で、ふたりだけが妙に騒がしい。

 心霊スポットに来ているのに、この掛け合いの勢いは、悪霊ですら近寄るのをためらうほどだった。


 そんな中、少し離れた場所で、別の声が響いた。


「よし、準備OKっす!」


 機材のセッティングを終えたのは、若いカップルのユーチューバーふたり。

 チャンネル名は『心スポ探検隊』。各地の心霊スポットを巡る新興の心霊系チャンネルで、メンバーは“タイチ”と“カナ”。

 登録者数は二万人に満たないが、今勢いをつけたい時期らしい。


 今回、この四人がここに来たのも、彼らからの依頼だった。

 曰く、「映像に“本物”を残したい」


 ちなみに、エレナはすでに獣人化を済ませ、人間の姿でそこにいた。カメラに映りたいとの本人の要望だ。


 カメラのライトが点灯し、廃墟の入口が照らし出される。

 ひび割れたコンクリートの壁にはツタが這い、割れた窓ガラスからは風が吹き抜けてきた。

 二階建ての建物で、以前は何かの研究施設だったらしく、規模は比較的大きい廃墟だ。


「……雰囲気、ヤバいね」


 カナが小声で呟く。手に持つカメラがわずかに震えていた。


「……うん。なんかいつもと違う寒気がする」


 タイチも同様に呟き、手に持つカメラが震えている。


「大丈夫大丈夫、こっちは心霊スポット調査のプロ……いや、バイトだけど」


 彩華が胸を張って言うと、陽菜がすかさずツッコむ。


「いやいや、バイトで“プロ”とかガチで恥ずかしぞ」


 エレナと竜司は思わず苦笑したが、緊張感が和らいだのはほんの一瞬だけだった。

 ふと、廃墟の奥から


 ”カン……カン……”


 金属を叩くような音が響いてきたのである。


「……っ!? い、今の音、聞こえた?」


 蓮が顔を上げ、硬い声を漏らす。


「風か……いや、違うな」


 竜司の声には、すでに冗談を交わす余裕はなかった。


 その瞬間、エレナの耳がピクリと動いた。

 人間の姿とはいえ、妖精としての感覚は健在だ。

 空気の揺らぎ、奥から漂ってくる異様な気配、それは、ただの“風”や“物音”ではない。


「……やっぱりなにかいる」


 低く呟いたエレナの声に、全員が息をのむ。

 その場の空気が、さらに重苦しく変わった。


 エレナの言葉に陽菜が小さく応じる。


「うん……五色の黒い輝きを感じる……やばい系かも」


 彩華も頷いた。


「たしかに……」


 暗闇の中で、その黒い五色は複数体。

 三人の目にははっきりと捉えられ、光ったり消えたりを繰り返しながら、まるで自由に動いているかのようだった。

 

 やがて、一行は廃墟の入り口をくぐり、広いエントランスへと足を踏み入れる。

 正面には、闇に沈む大きな階段。左右には長い廊下が伸び、どこまでも不気味に口を開けていた。


 タイチが、皆を見回しながら提案する。


「……ここで分かれましょう。一階と二階、手分けして探索ってことで」


 話し合いの末──

 一階は、陽菜、エレナ、蓮、そしてカナ。

 二階は、彩華、竜司、そしてタイチが担当することになった。


「なにかあったら、このトランシーバで連絡を」


 タイチの言葉に従い、二手に分かれた途端、廃墟はさらに深い静寂に包まれた。

 陽菜たちが進む一階の廊下は広く、片側にずらりと並ぶドアが闇の中に浮かび上がる。


 カナがカメラを回しながら呟く。


「……わ、ほんとに雰囲気やばいっすね」


「なにビビってるんですか。これが“撮れ高”ってやつっしょ!」


 陽菜が軽口を飛ばすが、声にはわずかに震えが混じっていた。


 蓮が小さく笑いながら言う。


「陽菜もビビってんじゃんか」


 陽菜は蓮の脇を軽く小突き、耳元でひそひそと囁く。


「うっさい!」


 でも、陽菜は続けてにやりと笑いながら言った。


「ふたりっきりだったら、イチャイチャできたかもね♪」


 その言葉に、蓮の頬が赤く染まる。


「あとで……イチャイチャしたいかな」


 頬を掻きながら照れくさそうに言う蓮に、陽菜はクスクスと笑いながら応じた。


「じゃー、あとでね♪」


 こういう時、なぜか陽菜のほうが積極的だ。


 だが、そんな雰囲気をものともせず、エレナは無言で慎重に廊下を進む。

 すると、ふと陽菜の身体、そしてエレナの身体が、玉虫色に淡く光りだした。


 カナがカメラを向け、驚きの声を上げる。


「ど、どうしたの?、なにそれ!?」


 その光景は、確かにカメラに捉えられていた。


 陽菜は低く呟。


「欠片が……反応している……」


 エレナも静かに頷く。


「うん……」


 その言葉とともに、四人は一つのドアの前で立ち止まった。


 エレナがそっと口を開く。


「……中から……不思議な感じがする」


 その声に、全員の表情が一瞬で固まった。

 蓮は喉を鳴らし、カナはあわててカメラを構え直す。


 エレナがそっとドアを押し開けると、闇の中からふわりと黒い物陰が現れた。


「きゃぁぁぁぁぁ!!!」


 三人の悲鳴が廊下に響き渡る。

 そこに立っていたのは、一人の女性……。その存在は、ただの人間ではないことを示していた。


 その悲鳴は、二階にいた彩華たちの耳にも届いた。


「えっ!? 今の、下の階!?」


 彩華の声に、タイチは慌ててトランシーバーを手に取り、カナに応答を求める。


「……応答がないっ!!」


「下に降りよう!!」


 竜司の声に、タイチは顔を強ばらせながらも、三人は足元に注意しつつ一階へ急行した──。

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