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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第11話:九尾と対峙①

 世界が裂けたような感覚とともに、陽菜とエレナを取り囲む帳が広がる。


「さて……これで邪魔は入らぬ」


 玉藻が口を開いた。


 三途の川を思わせる赤黒く濁った血の流れが、静かに大地を切り裂いていた。

 まるで賽の河原のように、無数の石が積まれ、仏塔のように高く積み上げられたものもあった。


 冷たい風が吹き抜け、積まれた石をかすかに鳴らす。


「いざ、参る」


 玉藻が言うと、靄の中から無数の尾が湧き上がり、蛇のように宙を舞う。

 それぞれの尾の先端は鋭い爪のごとく変じ、陽菜へと襲いかかってきた。


「エレナは絶対に渡さないっ!」


 瞬間、彼女の背面から白光が走り、刃となって尾を一本を切り落とす。

 切り落とされた尾は空気に溶けるように消えた。だが、数は多く、押し寄せる勢いは衰えない。


「やば……! 数が多すぎる……!」


 エレナは震えながらも必死に翅を広げ、陽菜に覆いかぶさるように結界を張る。

 淡い緑色の光が盾のように立ち上がるが、尾の一撃を受けるたびに軋み、きしむ。


「エレナ……無理しないで!」


「大丈夫! わたしにだってできるっ!」


 エレナは必死に玉藻の攻撃を受け止める。


「無駄なあがきよ……」


 玉藻の琥珀色の瞳が妖しく輝くと、その力だけでエレナの結界のひび割れが広がった。

 

「……くっ、尾の攻撃は遊びみたいなものか」


 ふたりは瞬時にそれを察知する。そして結界が崩れ、刃となった尾が陽菜へと迫る。

 陽菜とエレナは後方へ大きく跳び、攻撃をかわした。


 だが、それこそが玉藻の狙いだった。


 玉藻が手をかざすと、手のひらから赤く膨らんだ光が生まれ、閃光とともに妖気の光弾が吐き出された。


 陽菜は咄嗟に白帯を背中から展開し、盾のように広げてふたりを防ぐ。

 炸裂する衝撃に身体が吹き飛ばされるが、ぎりぎりのところで体勢を立て直し着地した。


「ほう……耐えるか。人の子にしては上出来よ……」


 玉藻の艶やかな声が響くと、尾が再び刃のようにふたりめがけて展開された。

 同時に、玉藻が手をかざすと、妖気の光弾が先ほどと同じく放たれ、ふたりを容赦なく襲った。


 陽菜は白帯で再び防ぐ。


「こんなところで、負けちゃ……ダメなんだ!」


 白帯を鞭のように振り抜き、尾を逸らす。光弾も叩き落とす。

 一発、二発……だが、1発の光弾が腕をかすめ、熱と痛みが走った。


「陽菜っ!」


 エレナも声を上げ、再び結界を張る。

 だが、散弾のように飛んでくる光弾は、あっさりと結界を破壊する。

 ふたりは再び回避するしかなかった。


 陽菜も白い刃を振り回して応戦するが、圧倒的に劣勢だった。

 避けながら、エレナは心の中で叫ぶ。


(いまだ……! 陽菜を守るために、力を貸して……!)


 その瞬間、エレナの身体が緑色に輝き、姿が人間の女性の形へと変化した。


「エレナ!」


 陽菜が叫ぶと、エレナは力強く着地する。

 そして、玉藻と陽菜に向かって言葉を放った。

 

「わたし……過去のことは思い出せない。でも、今は、陽菜と……みんなと一緒にいたい!」


「……絶対、陽菜を守る!」


 その声には、エレナの揺るぎない決意が込められていた。


 エレナは一歩踏み出すと、玉藻へと勢いよく飛び込む。

 その動きを見て、陽菜も叫ぶ。


「ウチも、エレナを守る!」


 ふたりはついに攻勢に転じ、力強く突進して玉藻との間合いを詰める。

 だが、玉藻はあらかじめその行動を見越していたかのように、ふたりへ手をかざした。


風息(ふそく)よ!」


 次の瞬間、空気そのものが圧縮されて弾けたかのような衝撃波が走る。

 圧倒的な力に、ふたりは吹き飛ばされ、砂塵が舞い上がった。


「ぐ……っ!」

 

 陽菜とエレナは地面に倒れ込み、呻いた。


 玉藻は楽しげに笑いながら、ゆっくりとふたりのもとへ歩み寄る。


「やれやれ……人の子よ、なかなかしぶとい」


「だが、ふたりの想い、天晴なり」


 そう言うと、玉藻はふとエレナを見つめて言った。


「長い月日を経て、己の守るべきものを見つけたようだな、蜻蛉羽(あきづは)……」


 続けて、玉藻は口を開く。


「どうじゃ? わらわの”欠片と(かたち)”、素直に返すのであれば、このまま引き下がろうぞ」


「蜻蛉羽の前には、二度と現れぬ。約束しよう」


 陽菜が反論する。


「返すもなにも……渡し方も知らんわ!」


 玉藻は微笑を浮かべ、落ち着いた声で言った。


「簡単なこと。離れるよう念じればよい」


 エレナが口を挟む。


「返してどうするのよ? 悪名高き”九尾の狐”が!」


 その言葉を受け、玉藻の表情が一瞬怪訝になった。


「蜻蛉羽……」


 冷ややかな面影とは裏腹に、ほんのわずか悲しげな表情を浮かべる玉藻。

 陽菜もエレナも、その一瞬を見逃さなかった。


(ひょっとして……)


 玉藻はすぐに顔を元に戻し、低く告げた。


「渡さぬと言うならば……このまま涅槃に旅立たせるまで」


 そう言うと、玉藻は右手を大きく空に向かってかざした。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 その瞬間、かざした手のひらから玉虫色に輝く光の球が現れた。


「せめて……苦しまぬよう、涅槃まで迷わず案内させよう……」


「天・元・行・躰・神・変・神・通・力……光明真言」


 どこからともなく、光明真言の経文がふたりの耳に流れ込む。

 球が臨界点を突破したのであろう。玉藻のかざした手のひらの上で、大きく膨れた球が静かに成長を止めた。


 陽菜とエレナは覚悟を決め、同時に目を閉じた──


 その瞬間、二人の身体が玉虫色に輝き、光は玉藻の身体を包み込んだ。


 < 愚か者め。わらわがなぜふたりを選んだか、まだわからぬか >


 陽菜とエレナの中から聞こえた声が言葉を続ける。

 

 < いい加減にしろ……! >


 それは玉藻の欠片と本体の声だった。

 陽菜もエレナも驚きと同時に、胸の奥で震えるものを感じる。

 

「……なんと……」


 琥珀色の瞳に、微かに動揺が走る。

 その声は玉藻本人にも届いたらしく、玉藻は動きを止めた。


 宙を舞っていた尾は静かに垂れ下がり、光の球は手のひらで穏やかに揺れるだけになった。

 玉藻は静かにふたりを見下ろす。その表情にはわずかな警戒と、そしてどこか迷いの色が漂っていた。


 ふたりは互いに目を合わせ、ほんの少し安堵の息を漏らす。だが、油断はできない。光の球は、放てる状態にある。

 だが、今は確かに、攻撃の手は完全に止まっていた。


 そんな中、白い弓矢のような光が、空から玉藻めがけて三本振り放たれた。

 矢は空を裂くように飛び、玉藻の元へ一直線に迫っていった──。

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