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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第10話:九尾の狐

「なるほど、そんなことがあったのね」


 それは、陽菜と沙耶の電話越しの会話であった。

 なかなか互いの都合も合わず、沙耶には”九尾の狐”の件を伝えることができていなかったのだ。


 沙耶が優しく言う。


「大変そうだけど、なにかあったらいつでもいいので連絡頂戴ね」


「……すいません。ありがとうございます」


 短くそう返して、陽菜はそっと通話を終える。

 耳に残るのは、まだ消えきらない沙耶の温かな声。


 蓮と彩華にはすでに連絡を済ませていた。思いのほか早い展開に彩華は驚きを隠せていない様子だった。


 エレナは宙にふわりと浮かびながら、辺りをくるくると回る。

 いまのエレナは妖精の姿である。曰く、食べものに夢中なとき以外は、この形のほうが“楽”らしい。


 「でもさ、蓮と彩華、来ちゃうんじゃない? あの二人、言い出したら止まらないでしょ」


 もちろん、陽菜は電話越しでそれを断った。できる限り自分たちだけで決着をつけたい。

 だが、ふたりとも状況を理解しているからこそ引かないのは明白だ。


 「……そうなんだよなぁ。ウチらでなんとかしたいけど。”助ける”って言ってたしね」


 陽菜がそう軽く言ったその瞬間──

 ひゅうっと室内に風が吹いた。気のせいではない。空気が、重い。


「……陽菜」


 エレナの声が低くなり、視線は机の上の呪符に注がれていた。


 陽菜も目を向ける。

 彩華から受け取ったその呪符が、じゅっと音を立て、黒く炭のように崩れ落ちていく。

 

 二人は直感した──来る。

 

 次の瞬間、白い靄が現れ、その中から女性が現れた。花魁のような絢爛な装い、黒紫の髪を背まで流した美しい女性。

 香の煙がたゆたい、部屋の空気を支配していく。


 「エレナ……?」


 陽菜が横を見ると、エレナは硬直していた。目を見開き、声を失い、信じられないものを見るように。


「アンタが……九尾の狐だね」


 震える声で陽菜が問いかける。

 女はゆるりと口元を緩めた。


「この時代では、そう呼ばれておるな。だが、その名は、気に入らぬ」


「わらわは玉藻(たまも)。京の(まつりごと)に仕えておった頃は、玉藻御前(たまもごぜん)と呼ばれておった」


 陽菜は食い下がるように問う。


「ウチの家族は? なにもしてないだろーな?」


 玉藻は片眉をわずかに動かし、静かに応える。


「案ずるな。いまさら人の子など興味はない。なにもしておらぬ」

 

 そう言って、玉藻はふいにエレナへと目をやる。

 その眼差しは懐かしげで、微笑みを浮かべていた。

 

「久しいのう、蜻蛉羽(あきづは)。まだ留まっておったとは……うれしいぞよ」


 陽菜は驚きの顔をしてエレナを見る。


「……アキヅハ……? それ、エレナのこと……?」


 陽菜が問いかけるより先に、エレナの顔が恐怖に染まった。

 汗がにじみ、唇が震え、目には涙が浮かぶ。

 震える身体を振り絞って、エレナは陽菜を見る。


「陽菜……どうしよう……怖い……」


 震える小さな声に、陽菜は思わず彼女を抱きしめる。


「大丈夫! ウチがいるから!!」


 胸元で小さく震えながらも、エレナはかすれた声を絞り出す。

   

「記憶には……ないの……。でも、体と想いが……勝手に反応してるの……」


 陽菜は怒りに駆られ、玉藻を真っすぐ睨みつけた。


「おい! ウチの大事な家族に、何しやがった!!」


 しかし、玉藻の声は揺るがない。


「なにもしてはおらぬ。……千年という時のせいだろう。人間と長く関わりすぎたのが災いしたのかもしれぬ」


 玉藻はゆるりと手を広げ、命じるように声を放った。

 

「さあ、わらわの”欠片と(かたち)”を返してもらおう。蜻蛉羽、帰るぞ」


 エレナは陽菜の胸にしがみついたまま、虚ろな目で宙を見上げる。

 その震えは止まらず、まるでこの世界から切り離されかけているかのようだった。


(かたち……エレナの持っている”本体”のことか)


 陽菜は心で呟きつつ、エレナを守りながら玉藻をじっと睨んだ。

 だが玉藻は、まるで陽菜の怒りなど取るに足らぬものだと言わんばかりに、余裕の笑みを崩さない。


「蜻蛉羽……忘れておるのか。千年の昔、わらわと共に幾多の夜を過ごしたのを」


 甘やかで、どこか艶めいた声。

 その響きは、聞く者の心にじわりと染み込み、抜け出せなくなる。


 エレナの肩がびくりと震えた。

 記憶にないはずの言葉が、なぜか胸の奥に刺さる。


「やめろ!」


 陽菜が叫ぶ。

 だが、玉藻はさらに言葉を重ねる。


「人の世に染まりきり、己を忘れたか。蜻蛉羽……いや、エレナと呼ばれておるのだったか。だがその名は仮初にすぎぬ。そなたの本質は、わらわと同じ側にある」


 その言葉に、エレナは必死に首を振る。


「違う……わたしは……陽菜と一緒に……!」


 だが、声は震え、まるで自分に言い聞かせるようだった。

 玉藻の琥珀色の瞳が、怪しく光る。


「帰ろうぞ、蜻蛉羽。欠片を持ち、わらわのもとへ……そなたはここにいるべき存在ではない」


 エレナの身体が小さく痙攣し、陽菜の腕の中で力が抜けかける。


「やめろ!!」


 陽菜は叫ぶと同時に、エレナをベッドに寝かせ、庇うように前へと立ちはだかった。

 その姿は、小さな身体を守る母のようであり、同時に獲物を守る獅子のようでもあった。


「……エレナはウチの家族だ! 二度と、変な名前で呼ぶな!!」


 玉藻の瞳が細められ、わずかに興味を帯びた光を宿す。


「家族、とな。……人の子は、まことに面白いことを言う」


 陽菜はそれに反応する。


「そういうアンタだって、もとは人の子だろ!?」


 言葉に確かな根拠はない。女の勘のようなものだった。

 玉藻は沈黙したまま、否定も肯定もしない。


「……」


 陽菜は口元に微かな笑みを浮かべ、答えた。


「どうやら、図星のようだね」


 しばらくすると、玉藻が言う。


「そう、わらわも元は人の子。だが、今は妖となり、わらわ自身も欠片のひとつに過ぎぬ」


「そなたらの持つ欠片と、貌を取り込めば……わらわは、かつての完全に近づける」


 陽菜は目を細め、問いを重ねた。


「……ってことは、まだ“想いの欠片”は他にもあるってことね」


 玉藻はためらうことなく頷いた。


「そうだ。そして、この人の姿も、いまは長くは保てぬ」


 そう言った矢先──


「殊勝ね。すいぶんと素直なことだこと」


 澄んだ声が、場を切り裂くように響いた。振り返ると、ふわりと陽菜の横に彩華が立っている。

 しかし、その姿は淡く揺らぎ、半透明に透けていた。


「……彩華!?」


 驚く陽菜をよそに、玉藻が唇を吊り上げる。


「ふっ……まさか幻術を扱う者がいようとはな」


 彩華は真っすぐ玉藻を見据え、揶揄するように微笑んだ。


「そうよ。さすがにアンタ相手に直接手出しはできないけど……話は聞かせてもらったわ」


 玉藻が冷ややかに告げる。


「妖は人の子と違って、嘘はつかない。むしろ権力や財に溺れた人間の方が、よほど狡猾で嘘つきだ」


 彩華は黙る。だが陽菜はそれについて返した。


「ああ、確かにそうさ。人間は嘘をつく生き物よ。欲に負ける者も多い」


 ひと呼吸置いて、陽菜は強く言い放つ。


「……でも、それでも人は“想い”に嘘をつけない!!」


 玉藻の笑みが一瞬だけ止まる。


 その瞬間、陽菜の持つ“想いの欠片”と、エレナの抱える“九尾の本体”がまばゆく輝いた。玉虫色に揺らめく光はふたりを包み、温かさと力強さを同時に帯びていく。

 やがて、陽菜の胸から白い帯状の光が溢れ出し、意思を持つかのように玉藻へと奔った。


「なっ……!? ウチの白い帯が、勝手に……!」


 陽菜は驚きの声を上げる。


 光は鋭く玉藻を貫こうとした。が、直前で弾かれるように火花を散らした。

 それでも確かに伝わった。欠片と本体が、いまの玉藻を“拒絶”しているのだ。


「ぐっ……! わらわを、拒むというのか……」


 玉藻の瞳が妖しく光り、微笑が怒気に変わる。


「よかろう……ならば、力ずくで従わせるまで」


 言葉と同時に、玉藻の足元から黒紫の靄が立ち昇る。それは生き物のように蠢き、瞬く間に部屋全体を覆い尽くした。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行」


 光も音も鈍く歪み、世界が切り離されるようだった。

 現実が閉ざされ、玉藻の領域……想願空虚が展開される。彼女は九字を切ることなく、ただ言葉ひとつでそれを開いた。

 

「さすがね……言葉だけで帳を作るとは……」


 呟いた瞬間、幻術で姿を繋ぎとめていた彩華は、抗うこともできずに帳から弾き飛ばされた。


--------


「あのバカ!」


 移動中の車内に、彩華の叫びが響いた。助手席に座る彼女の両手は膝の上で強く握りしめられ、爪が食い込んで白くなっている。

 幻術を使っていたせいで顔は青ざめ、汗が首筋を伝っていた。それでも、必死に声を張り上げる。


「パパ! 急いで! 陽菜のところに……九尾がいる!!」


 ハンドルを握る彩華の父の表情が険しくなると、アクセルが踏み込まれ、車体が前へと弾かれるように加速した。


 タイヤが悲鳴を上げる中、車は一直線に陽菜の家へと突き進んでいった──。 

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