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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
2章 - Kapitel Ⅱ - 陽菜と九尾の狐 編

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第9話:梨紗と陽菜

 気が付けば、もう夕方を過ぎ、部屋の窓からは闇夜の色がにじみ始めていた。

 香澄はこれから学習塾に行くらしい。


 陽菜も香澄と一緒に帰ろうと、バッグを手にした。

 だが、それを梨紗が軽く阻止する。


「陽菜、もうちょっと時間ある? 暇っしょー? もうちょっと付き合ってよ~」


 調子のいい梨紗の言葉に、陽菜も肩をすくめて応じた。


「じゃー……。まあ、あと少しだけね」


 その返事を聞いた香澄は、少し残念そうに唇をとがらせる。


「えー、一人で行くのか~。塾まで陽菜に付き合ってもらおうと思ったのに~」


 陽菜は苦笑しながら振り返った。


「一人で行けるだろ。ウチは保護者じゃねーぞ!」


 その冗談めいた言葉に、梨紗も香澄も噴き出す。

 笑い声を響かせながら、ふたりは香澄を玄関まで見送った。


 香澄が帰ると、ふたりは再び三人でいた部屋に戻った。

 梨紗が座ると、陽菜に向かって口を開く。


「このあいだの件、本当にありがとう」


 それは、梨紗を陽菜が助けたときの話だった。


 梨紗は、やはりそのことを気にしていたらしい。「陽菜は特に気にするな」と声をかけ、ふたりはそれ以来、いつも通りに過ごしてきた。


 香澄にはこの件を話していない。もちろん、これで友達関係を崩すことはないだろう。

 むしろ、香澄が知れば、梨紗を心配して過保護になってしまうに違いない――陽菜はそう思った。


 陽菜は肩をすくめて言った。


「ほんと、ガチでウチはなにもしていないから。それよりも、あの後は、大丈夫なの?」


 陽菜が心配そうに聞くと、梨紗は少し照れながら答える。


「うん……大丈夫」


 陽菜はそれを聞いて、胸をなで下ろした。


 しばらくして、梨紗はもう一つ質問した。


「ねぇ……、北川先輩とは順調なの?」


 茶化すつもりではなく、真剣な問いだと陽菜は受け取った。

 陽菜も実直に答える。


「うん。今のところは問題ナッシング」


「そっか……」


 梨紗は続けて聞いた。


「あの女は?」


 それは彩華のことを指していた。


「あれは、もともと蓮の友人。それで知り合った」


 梨紗は前のめりになって、さらに確認する。


「じゃーー、なんの関係もないんだね!!」


 陽菜は思わず後ろにのけぞる。


「う……うん? ど……どした……?」


 その反応を見て、梨紗はほっとしたように笑った。

 梨紗の勢いが収まったのを見て、陽菜も胸をなでおろす。


 今度は陽菜が口を開いた。


「その……ごめん、蓮と付き合うことになって……。まさか梨紗も好きだったなんて思わなくって……」


 梨紗はきょとんとした顔で陽菜を見返す。


「私が? 北川先輩を? どーして?」


 陽菜はびっくりして目を見開いた。


「え? それで怒ったりしてたんじゃないの?」


 梨紗はあっけらかんと答えた。


「怒ってたけど、それは全然ちがうよ?」


 そう言うと、梨紗はジュースを取りに立ち上がった。

 その間、陽菜は考え込む。


(なぜに……怒る……女心はよくわからん……)


 そう思いつつも、陽菜もれっきとした女なのだが……。


 すると、背後から突然、やわらかい感触が伝わった。

 背中に、柔らかい胸が当たる……。


 振り向く間もなく、陽菜の顔の横に梨紗の顔がくる。

 ほのかに甘い香りが鼻をくすぐった。


 そして、耳元でかすかに囁くように、梨紗が言った。


「私ね……陽菜のことが好き……」


 陽菜は一瞬、心臓が止まるかと思った。そして心で叫んだ。


(な、なんと……!)


 そんな陽菜の思考をよそに、梨紗は耳元で囁く。


 「私ね、ずーっと好きだったの。陽菜のこと。だから……ほかの男子や女子が近づくのが許せなかった……」


 「嘘じゃなくて、本当の想い。だから、ふたりだけの時に言いたかった……」


 陽菜はすぐに頭の中で整理する。


(梨紗は大事な友達だし……恋愛感情はないけど、友達関係は壊したくない)


 陽菜は、これまで様々な“想い”を相手にしてきた。そしてこれからもそうなるだろう。

 だから、驚きはしたが、不快に感じることはなく、自然と受け入れられた。


「梨紗は大事な友達だよ……そう言ってくれるのはうれしい。だから、恋愛感情はないけど、これからも友達関係でいよう」


 陽菜はそっと梨紗の抱き着いている腕に手を添える。

 梨紗は少し肩をすくめて照れたように笑う。


「……うん、伝えたかっただけ。だから大丈夫だよ」


 だが、その梨紗がぎゅっと陽菜を強く抱きしめた。

 陽菜は、頬を伝う梨紗の涙の感触に気づく。


「……梨紗」


 陽菜は、それ以上、言葉を紡ぐことができなかった。


 しばらくして、梨紗はそっと陽菜から離れた。


「陽菜……?」


 その呼びかけに、陽菜は自然と振り返る。

 すると、梨紗は恥ずかしそうに目を伏せながらも、そっと陽菜の頬に手を添え、唇を重ねた。


 ──その瞬間、周囲の時間がふたりだけのものに変わった。


 陽菜は、何か言おうとする気力もなく、ただその感触を受け入れる。

 梨紗はさらにぎゅっと抱きしめ、柔らかく囁いた。


「あと、もう少しだけ、このままでいさせて」


 陽菜は言葉を返すこともできず、ただ黙ってその温もりに身を任せた。


(いままで、様々な想いを相手にしてきたとはいえ……こりゃ、さすがに参ったな……)


 心の中で、思わず呟く。

 胸の奥で鼓動が早まり、呼吸がわずかに乱れるのを感じる。先ほどの唇の感触と、頬に触れた温もりが、まだ体中に残っていて、どうにも振り払えなかった。


 その様子を、外から宙に浮いて見下ろす存在がいた。

 薄い翅をきらめかせた邪妖精・スプリガンである。カーテンも壁も、彼女にとっては何の障害にもならなかった。


『……姐さんも、いろいろ大変ですねぇ』


 クスクスと笑いながら、スプリガンは片頬をつり上げた。


『でもまあ、その娘の想い、姐さんに届いたわけですし、もっと叶えてあげてもいいんじゃありません?』


 そして、不敵に胸を張る。


『恋も戦もごっちゃにした方が、スリルってもんでしょう? アタイも手伝ってあげますので。ククク……』


 不敵に笑う声だけを残し、空気に溶け込むように姿を消した。

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