第7話:女子トークはガチで痛い
それは、陽菜、エレナ、彩華の三人のテンション爆上げ?の話し声だった。
「ちょっ! マジ!? エレナのめっちゃやわらかい!! ポヨンポヨンだよ!!」
「彩華~っ、そんな触り方くすぐったいよ~♪」
「エレナ、ウチのよりデカすぎだろーが!」
「わたしの姿見たんだから、ふたりとも愛し合うところ見せてよ~♪」
「うんうん。見せる見せる! なんならエレナも参加していいから!」
「ほんと!? 彩華、約束だよ~♪」
キャッキャと笑いながらはしゃぐ三人。
そして、その声を、隣の部屋で蓮と竜司が聞かされていた。
それは彩華の提案で始まった、“エレナの男子禁制ボディチェック”。
理由など特にない。ただ、陽菜と彩華の好奇心の産物だった。
だが、聞かされるだけの男ふたりにとっては拷問に等しい。
隣の部屋のソファに並んで座りながら、蓮と竜司は額に汗を浮かべ、親指を噛んで足をせわしなく貧乏揺すりしている。
──頼む、見せろ! 少しでいい……
心の声がシンクロするほどに、彼らの理性は限界に近づいていた。
それでも、会話は続く。
「うわ~、まじ!? めっちゃ綺麗、すごい……」
「彩華! どこ見てんの~?」
「いや、だって……これ子供とか産めるの? って気になっちゃってさ」
「ウチにはわからんけど、どう? 彩華にはわかる?」
「うーん……“想い”の存在だからね~? でも……やれるかも」
「えっ……わ、わたし……そんなの知らないよ~!」
「陽菜も、マジマジ見ないでよぉー。あっ! ちょ、ちょっと彩華ぁぁぁ!」
蓮と竜司は、とうとう限界を迎えていた。
ふたりはソファから同時に立ち上がり、無言のまま視線を交わす。
竜司が蓮に向かって言う。
「……悪いのは三人だ。オレたちは被害者。これ以上は拷問だ!」
蓮が力強く呼応する。
「おう!」
異様な熱気を帯びながら、ふたりは力強くうなずき合い、がっしりと握手を交わした。
その様子は、まるでスポ根友情ドラマのワンシーンさながらだ。
そして次の瞬間、なぜか訓練された忍者のように、音も気配も消して隣室へと移動していった。
ドアノブに手をかける直前、竜司が囁く。
「……開けたら最後、もう戻れないぞ」
「構うか! 俺は真実が知りたい!」
カチリ──
緊張感をもって回されたノブの音が、やけに大きく響いた。
その瞬間、スタンガンのような強烈なしびれがふたりを襲う。
彩華が男子ふたりを部屋に入れないよう、軽い結界を敷いていたのだ。
「ぎゃあああああ!!」
叫ぶふたり。白目を剥き、泡を吹き、目はグルグルと回っている。
──そしてドアは全開のまま。
陽菜と彩華は腕を組んで気絶しているふたりを見下ろした。
「……蓮のド変態!!」
「竜司のアホバカマヌケ!!」
エレナはとっさに洋服で前を隠す仕草をしていた。
バッシィィン!
勢いよく閉められたドアが、まるで追い打ちの鉄槌のように鳴り響いた。
──白目を剥いたままの竜司が、かすかに口を動かしていた。
「し……しどい……」
それは、男子を代表した竜司の渾身の気絶間際の叫びだった。
「ん~~、かわいそうだから、蓮と竜司も見せてあげればよかったかな~」
……シーン。
その言葉が、倒れたふたりの耳に届くことはなかった。
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気が付けば夜になっていた。
彩華たちとの作戦会議と、エレナのボディチェックを終えた陽菜、エレナ、そして蓮の三人は、帰路についていた。
エレナはいまも人間の姿のままだ。
陽菜が心配そうに尋ねる。
「蓮、大丈夫?」
蓮は軽く笑って答える。
「ポヨンポヨンの件?」
陽菜が眉をひそめ、ツッコミを入れる。
「ちげーわ! 変態!! そっちじゃなくて……九尾の狐の件!」
陽菜のツッコミに、蓮は力強く頷く。
「大丈夫だ! 俺はお前を守る!!」
その自信に満ちた言葉に、陽菜はそっと蓮の胸元に顔を寄せる。
「ごめん。危険な目に合わせて……ありがとう」
そのとき──
「おーい!!」
背後から走ってくる声。振り返ると、竜司が駆け寄ってきていた。
「竜司さん?」
「竜司?」
三人は足を止める。
「悪いね。お邪魔しちゃって……。蓮すまんけど、陽菜ちゃんとエレナちゃん、ちょっと借りてもいい? 彩華のことで……」
蓮はうなずく。
「いいよ。じゃあ、俺は先に帰るわ!」
「……うん」
陽菜は小さく頷き、蓮を見送った。
(キスしたかったな……)
心の中でぽつりとつぶやく陽菜に、エレナは微笑みを向けた。
もちろん、陽菜の胸中を理解しているようだった。
竜司が申し訳なさそうに頭を掻く。
「ごめんね。邪魔しちゃって。でも、伝えたいことがどーしてもあって……」
エレナが首をかしげる。
「どうしたの?」
すると、竜司は真剣な眼差しをふたりに向けた。
「これからも、あいつと……彩華と仲良くしてあげてほしいって」
竜司は続けた。
「あいつさ、術が使えるだろ? だから昔から気味悪がられて、友達って呼べる相手がいなかったんだ。口も悪いし、ムカつくこともあると思う。でも……本当に、ふたりのことを友人だと思ってる」
陽菜は胸を張って答えた。
「問題ナッシング。アイツとはこれからも沢山言い合いするので」
「ほんとだよね」
エレナがクスクス笑いながら言う。
「陽菜も、彩華の前だと気を使ってないもんねー」
「フッ……たしかにそうかもだね」
陽菜は肩をすくめて笑うと、竜司は安心したように微笑んだ。
「エレナちゃんも、よろしく頼むね」
「うんうん! わたしも全然問題ナッシング~♪」
エレナも明るく答え、三人は顔を見合わせて笑い合った。
だが、竜司は次の瞬間、さらりと爆弾を落とす。
「あと、エレナちゃんって……ポヨンポヨンなの?」
陽菜が即座にツッコむ。
「なるほど。あとで彩華に言っておきますね」
エレナも、ニコニコして付け加える。
「うんうん。わたしも彩華に言っとくねー」
「ちょ、それだけは内緒にして!」
竜司は慌てて頭を掻き、ふたりはクスクスと笑った。
「竜司さん、彩華のこと教えてくれてありがとうございます」
陽菜が礼を言うと、竜司は親指を立ててニカッと笑った。
「それと! 敬語はなしで頼む! そっちのほうが絶対いい!」
そう叫んで、竜司は夜道を駆け戻っていった。
陽菜とエレナは、そんな竜司の背中を見送りながら笑みを交わす。
夜風は少し冷たかったが、どこか心地よい余韻を残していた。
──だが、
まだ誰も気づいていなかった。
彩華の家系に伝わる占術は、すでに九尾の狐に読み解かれていたことを。そして、九尾の狐は静かに確実に、目前にまで迫っていたことを──。




