第6話:作戦会議??②
「……さて、本題。今日はこれを渡しておきたかったの。親父とも相談している」
そう言って、呪符袋の中から、一枚の呪符を出した。
「陽菜、息を吹きかけておいたから、強力な妖に反応する。部屋に貼ってもいいし、机に置いてもいい」
陽菜が不安そうに尋ねる。
「エレナは大丈夫?」
彩華は柔らかく答えた。
「大丈夫。エレナの妖力……んーん、”想い”には反応しないように調整してあるから」
彩華は言葉を言い換えた。それは、彩華自身もエレナを友達や、仲間として意識している証だった。
「それと、もう一つ」
彩華は白い和紙で折られた小さな人型を取り出した。かすかに震えて、まるで呼吸をしているようだ。
「……これは、身代わりの式神。命に関わる攻撃を、一度だけ肩代わりしてくれる」
「残念ながら、想いの集合体であるエレナには使えないけどね」
彩華は、そう言うと式神をテーブルに置いた。
式神を置くと、彩華は式神に向かって九字を切った。
すると、式神に覆いかぶさるように五芒星が出現し、宙を浮く。
リビングに緊張が走った。
竜司が真っ先に食いつく。
「うわっ!これ本物の式神!? ヤベェ、超カッコいい!」
彩華が言う。
「陽菜、この式神に近づいて息を吹きかけて」
彩華がそう言うと、陽菜はゆっくり近づいて、そっと息を吹きかけた。
すると、式神はふわりと陽菜のところに飛んでいく。
陽菜が両手を差し出すと、ゆっくりとそこに舞い降りた。
その瞬間、小さな式神が柔らかな光を放つ。
竜司が驚きの声をあげる。
「お、おい! 今、光ったぞ!?」
彩華は静かに告げた。
「持ち主の想いに応えたのよ。これで、陽菜を守ってくれる」
竜司が大喜び。
「すげーじゃん、やったじゃんか!!」
蓮と喜ぶ。
「陽菜、やったな」
だが陽菜とエレナの胸中は複雑だった。
──この子は一度きりの命。自分を守る代わりに消えてしまう存在。
陽菜とエレナの胸中を察したように、彩華も真剣な声で言った。
「軽く考えないで。この式神にとっては、一度きりの命なんだから」
陽菜は式神を胸に抱きしめるように受け取り、真剣に頷いた。
「……彩華、ありがとう。絶対、大切にする」
その瞳には、揺るぎない感謝の気持ちが宿っていた。
なんだかんだ言い合うことは多くても、いざという時に頼れる存在。
陽菜は、改めてそう感じていた。
「さてと……今度は追加ね。今までの陽菜の話を聞いて思ったこと」
彩華の真剣な声に、場の空気がすっと引き締まる。自然と、全員の視線が彩華に集まった。
陽菜が首をかしげて言う。
「追加って?」
彩華は頷いてから言葉を紡ぐ。
「さっきの話で、陽菜は九尾の欠片を取り込んだ。そして以前から、エレナが”獣人化”する……」
「……」
「エレナ、その時をもう一度想像してみてほしいの」
唐突な指名に、エレナはぱちぱちと瞬きをして頬を赤らめた。
「ちょっと……恥ずかしいけど……やってみる」
「ありがとう」
彩華の微笑みに後押しされ、皆の視線が一斉にエレナへと向かう。
次の瞬間、エレナの身体が淡い緑色に輝きはじめた。
その光は、これまで見えなかった竜司の目にも映る。
「ちょ、マジか!? 緑の光が見えるぞ!」
驚きの声を竜司があげた直後、エレナの身体がふわりと揺れ、足元から徐々に細かい霧のように消えていく。
同時に、すぐ隣で“獣人化”した姿のエレナが、ゆっくりと形を成していった。
ぱっと視界が白く閃く。
霧が晴れた時、そこには、“獣人化”したエレナが立っていた。
。
フリルのついたミニスカートにピンクのTシャツ、ハンチング帽を纏った美しい女性姿だった。
今回も、胸が大きく、お尻もきゅっと締まりスタイルは抜群だ。
均整の取れたプロポーションは、胸も腰も一層際立ち、思わず目を奪われるほどだった。
蓮は言葉を失い、やっとのことで呟く。
「まじ……? やばい……」
竜司は興奮を隠せず、声を張り上げた。
人間の姿になったエレナは竜司にも見えるのだ。
「君が……エレナ? いやいや……めっちゃ可愛いだろ!!」
その様子に、陽菜と彩華は同時にへの字口でにらみつける。
「うぉい!!蓮!何がやばいんだよ!!」
「竜司!ちょっと、どういう意味!?」
ふたりに責められた蓮と竜司は慌てて言葉を失う。
その隙に、彩華はエレナへ向き直り、思わず声を荒げた。
さすがの彩華もちょっと嫉妬する。
「ちょっと……エレナ! それは卑怯っしょ!!」
だが、エレナは気にも留めず、陽菜に向き直る。
「陽菜。想像したら、人間になれちゃったよ~」
エレナは少し不安げだ。
陽菜もまた眉を寄せる。
ふたりの表情は、蓮や竜司の浮かれた様子とは対照的に、不安でいっぱいだった。
彩華は腕を組み、落ち着いた声で言った。
「たぶん、“想いの欠片”が陽菜に入ったからかも。ふたりが持っている欠片が共鳴して……それで意識するだけで人間の姿になれるようになったんだと思う」
「……それにしても、やっぱりすごいわね」
彩華は感心したように言う。
陽菜が言う。
「ってことは、ウチは……ひょっとして妖精になれるの?」
陽菜は思わず目を丸くする。
だが彩華はすぐに首を横に振った。
「それは無理。想いが実体になることはあっても、その逆はありえない」
エレナが視線を落とし、静かに言葉をつなぐ。
「前にも言ったけど、魂は、記憶と想いの集合体。その形があるからこそ、人は人でいられるの」
彩華は頷き、落ち着いた声で続けた。
「でも、魂が身体から抜けるとき、それは“死”と呼ばれる瞬間だけ。老いや病で命が終わるときに、魂は少しずつ肉体を離れていくの」
陽菜は息をのんだ。
「……死……」
沈黙の中で、今度は蓮が不安げに口を開いた。
「じゃあ……もし、想いが消えちゃったら……?」
彩華は小さく答える。
「それは肉体の死とは違う。けれど、魂は形を保てなくなる。言うなれば精神的な死を迎える感じかしらね」
言葉が落ちた瞬間、空気は一層重く沈んだ。
陽菜もエレナも、そして竜司でさえ、声を出せずにただ息を詰めていた。
蓮はふと、以前彩華がエレナを浄化させようとしたときのことを思い出す。
あの時、彩華の想いは危うく消えかけていた。もし陽菜が助けなければ、まさに“精神的な死”を迎えていたのだ。
彩華が静かに言った。
「……にしても、九尾が人間になれるのは本当のようね」
陽菜が眉をひそめ、考え込むように付け加える。
「……でも、陰陽道の関係者だったんでしょ。ひょっとしたら、生前は人間こそが本来の姿だったのかも……」
彩華は少し頷く。
「可能性はあるわね。生前が人間であれば、交渉の余地もあるかもしれない」
竜司が少し身を乗り出して言った。
「どちらにせよ、人間であろうが狐であろうが、”今”は妖なんだろ? いつ襲ってきてもいいようにしておかないと」
彩華は落ち着いた声で答える。
「おばあちゃんの占術を使う限り、動き出したとは言え、今すぐではないと思う」
さらに彩華は言葉を選ぶように続けた。
「でも、時期が来たら……陽菜にはあたしの家に来てもらうか、もしくはあたしが陽菜の家に行かせてもらうかもしれない」
陽菜は静かに頷き、彩華の言葉を受け止めた──。




