第5話:作戦会議??①
「やっぱ、那須のは九尾の狐案件?」
陽菜が口を開くと、頷くようにして彩華が応えた。
「この状況を見る限り、そう考えるしかないわね」
それは連日、話題になっていた、那須付近で目撃された、謎の飛来物に関するニュースだった。
各テレビのニュース番組やワイドショーは、この話題で持ち切り。
政府は公式に”流星群による小型隕石の落下”と発表しているが、SNSに投稿されている動画を見る限り、どう見ても隕石には見えない。
先日の“謎の飛行物体”の映像と合わせて、今回もコメンテーターたちが無責任な言葉を交わしている。
そして、陽菜、エレナ、蓮、そして竜司は彩華の自宅に集まっていた。リビングで、作戦会議??の真っ最中だ。
ふと竜司が言った。
「オレさー、ミリタリー系好きだから多少詳しいんだけど、動画サイトで見たあれ、ぜってー戦闘機とミサイルだぜ」
「そんなもので倒せないヤツ、オレたちで本当に対処できるのか?」
全員が黙り込む。しばらくして、蓮が決意を込めて言った。
「だが、それでも俺は陽菜を守る!」
エレナが小さく、でも真剣に陽菜に問う。
「陽菜……大丈夫かな……」
本当は沙耶も呼びたかった。冷静な判断力、戦闘センス、そして魔法の実力、どれも頼もしい。
沙耶自身は口にしないが、実践経験が豊富なのは明らかだった。
しかし、陽菜たちと違って沙耶は社会人なので、仕事の邪魔はできない。
だから陽菜は、この件を沙耶には伝えていなかった。
陽菜は笑顔で応えた。
「……大丈夫だよ。ウチら、これまでだっていっぱい難問を解決してきたし」
そう言って陽菜はエレナと目を合わせる。
エレナは少し考えてから、微笑んだ。
お互いの意思が通じたのか、ふたりは同時に頷く。
そして、陽菜は皆に向き直った。
「蓮、彩華、竜司さん、ありがとう。でも、ここからは私とエレナで対応する」
「これ以上は、ガチで危険かもしれないし、巻き込みたくない」
彩華が止めようとした。
「ちょっと、待って……」
しかし、陽菜は口を挟む。
「聞いてほしいの。蓮とエレナは知ってるけど……」
それは、海での出来事と先日起きたスプリガンの件の話だった。
──海で陽菜が“想いの欠片”を手に入れたこと。
──スプリガンが”想いの欠片”を求めていること。
──そして、陽菜が九尾のその力を一時的に使えるようになったこと。
彩華が息を飲む。
「ほかの勢力がいるってことか……」
エレナが言う。
「だからね、みんなを巻き込みたくないんだ」
だが、蓮は譲らない。
「俺は断る。お前を守ると誓った俺を、嘘つき扱いさせるな」
陽菜は微笑みながら答える。
「そんなこと、ウチは思わない。気持ちだけでも十分嬉しいんだよ」
それでも、蓮は強く言った。
「俺が自分に嘘つきと思うのは嫌なんだ。だから無理だ。諦めろ」
彩華と竜司は黙って頷くと、竜司が叫んだ。
「なら、決まりだな!!」
彩華も続ける。
「あたしらは、最初から手を引くつもりはなかったし」
陽菜が慌てて言う。
「いやいや、マジでやばいっしょ!!」
彩華が肩をすくめる。
「九尾の討伐なんて、陰陽師冥利に尽きるじゃんか!」
竜司が付け加える。
「それに、オレには見えないけどさ、エレナちゃんも助けたいんだよ」
そういうと、エレナは感動して目をうるうるさせた。
そして、竜司の頭をナデナデする。
「竜司もいい子だね~、ナデナデしてあげる~」
竜司が不思議そうに言う。
「ん?頭がちょっと温かいな」
彩華が驚いた声をあげる。
「マジ!?今、エレナちゃんが竜司の頭、感激して撫でてるよ!」
竜司は目を丸くして反応する。
「マジ!?」
蓮が微笑んで言った。
「ひょっとしたら、竜司にもそのうち見えるようになるかもな」
竜司は目を輝かせる。
「マジか!?めっちゃ見たいんだけど!」
その瞬間、皆は思わず笑い声をあげた。
皆の笑いが落ち着いたあと、彩華は静かに立ち上がった。
本棚の奥から分厚い古書を取り出す。その表紙は黒ずみ、角は擦り切れ、時代の重みを感じさせた。
「これは、うちに代々伝わってきた陰陽道の記録。……九尾についても断片的だけど残ってる」
テーブルに置かれた古書を、皆が身を乗り出して覗き込む。
蓮が眉をひそめ、低い声で尋ねた。
「正直、読めないが……何か弱点みたいなのは書いてあるか?」
彩華はぱらぱらとページをめくり、やがて首を振った。
「はっきりしたことはない。ただ、”九尾の力は欠片となって分散されている”って……」
そして少し言いにくそうに続けた。
「それと……どうやら単なる妖怪じゃないみたい。もともとは陰陽道に関わる存在だったらしい」
エレナが思わず問い返した。
「それって、人間ってこと?」
「そこまでは分からない。でも……少なくとも特別な存在だったのは間違いないわ」
そう言ったあと、彩華は苦笑する。
「うちの家系は弓削氏に連なるんだけど、九尾を討伐したのは安倍氏の方だから……」
蓮が声をあげる。
「あ~、安倍晴明って人か!」
「それ!聞いたことある!!」
竜司もすぐに乗っかる。
「実際は、その子孫の安倍泰成っていう人が倒したらしいけど……」
彩華はそこまで言うと、急にムっとして言い放った。
「……にしてもムカつく! どいつもこいつも晴明、晴明って!!」
彩華としては、安倍晴明ばかりが世間でクローズアップされているのが悔しいらしい。
そんな空気のなか、陽菜だけがきょとんとしていた。
「あべ……? あべのハル……」
彩華が即座にツッコむ。
「ちょっと陽菜! 今、大阪のビルの名前言おうとしたでしょ!?」
図星を突かれた陽菜は、頬をかきながら誤魔化す。
「ん……んなわけないっだったんすよ!」
エレナは堪えきれず、ゲラゲラ笑い出した──。




