表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/99

第42話:学園祭 -エピローグ-

 あれこれしているうちに、いつの間にか舞台の開演時間が迫っていた。

 陽菜と梨紗は、慌てるように、メイド服から着替えて体育館へ向かう。


 陽菜の役は”主人公の友人A”。出番は物語の終盤までほとんどなく、梨紗と同じタイミングで舞台に上がることになっている。


 結局、神村は演劇部への参加を取りやめた。

 そもそも本人も、なぜ参加したいと思ったのか、よく覚えていないらしい。

 どうやらスプリガンに操られていたことが原因のようだ。それに、蓮の前で下着を脱いだことも、記憶があいまいなままらしい。


 あんな出来事は、覚えていないほうが幸せだろう。

 だから本人にとっては、記憶が“あいまい”なままの状態が、一番ちょうどよいのかもしれない。


 舞台袖に立つ陽菜と梨紗は、ざわめく客席の声を背に感じながらも、互いに軽く目を合わせて小さく頷いた。


「もうすぐだね……」


 梨紗が小声で呟く。陽菜は頷きながら、深呼吸を一つ。

 これまでの学園祭の賑わいが遠く感じられるほど、舞台袖の空気は静かで張り詰めている。


 やがて、ナレーションが始まり、舞台が動き出す。


 陽菜は友人Aとして登場するタイミングを待ちつつ、セリフや動作を心の中で反芻する。


 主人公と妖精の出会いが始まり、物語は後半まで来た。


「いよいよ……ラストだね」


 エレナがそっと袖の端から応援する。陽菜は微笑み返し、心を引き締めた。


 ──その妖精の存在が消えてから十年後……。

 午後の柔らかな陽射しが、窓から差し込み、部屋の隅々を優しく照らしている。

 新しく生まれた命を抱きながら、彼女は静かに息を吐いた。


 ナレーションが静かに響く。


 < 私ね……もう”ウチ”とも言わなくなったんだよ……>


 いよいよ出番だ。主人公役の生徒がセリフを口にした瞬間、陽菜と梨紗はスポットライトに向かって一歩を踏み出す。


 陽菜は役になりきって、声を落ち着かせながらセリフを紡いだ。


「大丈夫、彼女はきっと帰ってくる」


 主人公役の生徒が短く頷く。


「そうだね……」


 そして、舞台の中で陽菜の心を揺さぶる言葉が続いた。


 < エレナへ……わたしね、赤ちゃんが生まれたんだよ……>


 < 会いたいよ……会って、赤ちゃん見せてあげたい……>


 その瞬間、陽菜の胸に言葉が深く突き刺さる。

 舞台のセリフを自分事に感じてしまったのだ。


(もし、これが本当にエレナがいなくなったら……)


 思わずそんな想いが心をよぎる。舞台の上の物語と、自分の胸の中の感情の境界が曖昧になった。


(また昔のように抱きしめてほしい。)


(頭をなでなでして、鼻息をフンっと鳴らしてほしい……)


 そんなことまで自然に考えてしまう自分に気づく。

 そして、こらえきれずに、ひと粒の涙がそっと頬を伝った。


 その直後、


「陽菜……」


 耳に届いた声に、陽菜は反射的に心が跳ねた。


(エレナの声だ!!)


 なんと、エレナが勢いよく陽菜の顔に抱きついてきたのだ。


「陽菜と離れたくないよ~!」


 泣きながら抱きつくエレナ。どうやら、彼女も演技を自分事のように感じてしまったらしい。

 しかし、陽菜はすぐに現実に引き戻された。


「エレナ!ちょ、これ!舞台だから……っつーか、前見えねーし!!」


 慌てて陽菜はエレナを顔面から引き離す。

 だが今度は、陽菜の腕に抱きつき、スリスリしながら泣き続けた。


「陽菜~、いやだよぉ~」


 観客席は真剣な眼差しで舞台に見入っており、このハプニングには気づいていなかった。


 ただ一部だけ……


 それは、蓮と沙耶と彩華だった。彩華はニヤニヤと指をさし、こっそり笑っている。

 蓮と沙耶は、頭を抱えてうんざりしたように目を伏せていた。


(クソーー、むかつく!!)


 陽菜の胸の中でイライラが募るが、ここで暴れるわけにはいかない。

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


 そんなことを考えているうちに、やっとのことで、舞台は無事に終了した。

 陽菜は袖に下がると、ほっと小さく息を漏らす。


「お疲れ様」


 梨紗がにっこり笑って陽菜に声をかける。


「おつかれ!!」


 陽菜も元気よく返すと、ふたりは自然にハイタッチした。

 舞台の緊張が一気にほぐれ、笑顔が弾ける。


 エレナは泣き止み、ふたりの姿を後ろで手を組んで微笑んでいた。


 ──こうして、学園祭は無事に幕を閉じた。


 片づけを終えた陽菜は、梨紗と別れる。


「こんど、私の家で打ち上げやろーよ!」


「わかった、楽しみにしてるよ」


 陽菜は笑顔で頷き、梨紗と別れた。

 帰り道、蓮と沙耶が陽菜を待っていたかのように立っていた。

 二人を見た陽菜は軽く肩を叩き、明るく声をかけた。


「ほぃ!蓮、沙耶さん!! おつかれさま」


「うんうん、二人とも、おつかれさまだね~」


 エレナもにこやかに声をかける。


「陽菜とエレナも、おつかれー」


 蓮が笑顔で返し、沙耶も柔らかく頷く。


「陽菜ちゃんも、エレナちゃんもご苦労様!」


 陽菜は少し気を抜きつつ、二人に演技の自己評価を聞いてみた。


「蓮、沙耶さん。ウチの演技、何点だったかな?」


 蓮は即答する。


「はっきり言うと、二十点だな」


「あら。私は、七十点だったわよ」


 沙耶は唇に笑みを浮かべながら言い添える。


「なかなか、楽しかったわよ。特に後半は……」


 そう言うと、沙耶がクスクスと笑った。

 蓮も笑いをこらえきれずに続ける。


「まさか、あそこでエレナが顔面に抱き着くとはな。あれは草生えたわ!!」


「えへへへ~」


 エレナは舌をペロッと出して、頭をかきながら照れ笑いした。


「はぁ、マジかよ」


 陽菜はむくれ顔を見せるが、蓮はすぐに声色を和らげた。


「でもストーリーはよかったぞ、なぁエレナ? さすがに参加しただけのことはある」


 そう言うと、エレナは腰に手を当てて、得意げにふんって鼻を鳴らした。

 沙耶がふと思い出したように口を開く。


「そういえば、さっきまで彩華ちゃんも一緒だったんだけど、急にご家族に呼ばれたみたいで……」


「本当は、陽菜の前で大笑いしてやろうと思ってたらしいぞ」


 蓮が補足すると、陽菜はわずかに焦った顔をする。


「それは……ある意味よかったかも。今日はガチでクタクタで戦えん」


 その言葉に、蓮も沙耶もエレナも、つられるように大笑いした。


「じゃっ! 私はそろそろいくね。あとは仲良くね」


 沙耶がそう言うと、陽菜は少し照れくさそうに応えた。


「沙耶さん、今日はありがとうございました!」


 エレナも沙耶にお礼を言う。


「沙耶さん、ありがとう!!」


「こちらこそ、楽しかったわ。またね」


 沙耶は軽くお辞儀をし、笑顔のまま歩いていった。


 歩きながら、三人は近くの公園までやってきた。

 公園には、人気の気配はまったくない。三人はその静かな場所に足を踏み入れた。


「でもさ……正直、エレナがいなくなるなんて話し……舞台の中だけでよかったと思っちまったよ」


 陽菜がぽつりと呟く。


「うん……」


 蓮も小さく頷いた。

 その言葉を聞いたエレナの目がうるうると潤む。


「陽菜、蓮、いい子だね~」


 そう言うと、エレナはふたりの頭を交互になでなでする。

 陽菜と蓮も負けじと、エレナの頭をそっと撫で返した。


 不意に、蓮が照れくさそうに口を開く。


「……その……お前のメイド姿、マジで可愛かった」


「はぁ!? それ普段は可愛くねぇってこと!?」


 陽菜がすかさずツッコミを入れる。

 慌てて蓮は否定するが、耳まで赤くなっていた。


「ち、ちげーよ! だって……手握られたりしてただろ……」


 陽菜はふと蓮の方を見上げて、いたずらっぽく笑う。


「あ!嫉妬か!!、じゃー、蓮にだけ特別に……」


「蓮、ちょっとしゃがんで」


 戸惑いながらも蓮が腰を落とすと、陽菜は胸の前でハートを作り、声を弾ませた。


「萌え萌え……チュッ!」


 その言葉と同時に、陽菜は目を閉じ、そっと唇を重ねた。

 驚いた蓮は一瞬固まるが、すぐに陽菜を抱き寄せ、優しく応える。


 それを見ていたエレナは、慌てて手で顔を覆い、指の隙間からそっと覗き込む。


 やがて、陽菜は蓮の胸元に顔を寄せる。


「しばらく、このままで居させて」


 蓮は何も言わず、その願いを受け止めた。

 三人の影は夕陽に溶け、穏やかなひとときが過ぎていく。


 陽菜とエレナ、そして蓮の小さな冒険は、この先もまだまだ続いていく──


 ──ハズだった。


 その夜の就寝前。陽菜のスマホに届いたのは、彩華からの予期せぬメッセージだった。


 < あたしの家、弓削家の継ぎなんだけど >


 < おばあちゃんが占術使ったら、九尾が動き出しそうだって >


 < これ! ガチだから注意!! >



 画面を見つめる陽菜とエレナの胸は、ワクワクと不安が入り混じってざわついた。

 どうやら、この先の冒険はこれまで以上に大きく、予想もつかない展開になりそうだった──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ