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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第39話:スプリガン①

「ぎゃはははははは!!」


 それは、蓮の腹の底から突き上がるような爆笑だった。


 放課後。演劇部の練習を終えた陽菜たちは、いつもの校舎裏の芝生でひと息ついていた。

 梨紗は塾のため先に帰り、残ったのは陽菜とエレナ、そして蓮の三人。


 蓮は陽菜の配役の話を聞くなり、笑いをこらえきれず声をあげたのだ。

 陽菜はその笑い声に、ムっと眉を寄せる。


「いやマジで、どうやったら主役になれると思ったんだよ!!」


 ……正論である。

 演劇部の部員も顧問の先生も、陽菜を主役にするとは一言も言っていない。

 それなのに、エレナが「陽菜なら主役になれる」と励まし、梨紗が「陽菜がいなきゃ映えない」と言ったその言葉を、陽菜は勝手に脳内変換し、いつのまにか自分が主役だと勘違いしてしまっていたのだ。


 陽菜は恥ずかしさがじわじわ込み上げる。


「テメーら、そこまで笑わんでもいいじゃねーか! キーッ、むかつく!!」


「つーか、なんでエレナまで笑ってんだよ! クソがっ!!」


 配役が発表されたときには、一緒に怒ってくれていたはずのエレナが、今では蓮の笑いにつられてゲラゲラと笑い声を響かせているのを見て、陽菜はさらにイラっとした。


「つーか! 蓮もエレナも!!  ウチが主役になったら、演技が認められて芸能界デビュー、アイドル、いやハリウッドスターになってたかもしれんのだぞ!!」


「そしたら女優一家で豪邸暮らしだ! ちょっとは悔しがらんかボケッ!!」


 だが、蓮はまだ笑い声を止めずに、肩を揺らしながら言った。


「陽菜、それは流石に夢見すぎだろ!!」


「つーか、その“妄想”とも呼べる豊かな感受性があってこそ、鬼退治もできるんだな!なぁエレナ!!」


 エレナもゲラゲラと笑いながら応じた。


「うんうん!蓮の言う通りだねぇ~」


 陽菜はもう、頭のてっぺんから湯気が出そうだったが、これ以上反論すれば墓穴を掘ると悟り、ぐっとこらえた。


 そんな陽菜の頭から湯気が出そうなそのとき──。

 ふいに、背後から声が落ちてきた。


「北川君……?」


 笑い声が、凍りつく。

 陽菜たちが振り向くと、そこにはメガネをかけた黒髪のセミロングの女子生徒が立っていた。

 演劇部の補充要員として陽菜と一緒に来ていた女だった。


(あの女……)


 陽菜の心の声と同時に、蓮が小さく呟いた。


神村(かみむら)……?」


 陽菜が首をかしげた。


「蓮の知り合い?」


「ああ。同じクラスで……元サッカー部のマネージャーだ。前に告られて……断った」


 淡々と告げる蓮。その横顔は、さっきまでの笑顔と違ってわずかに硬い。


 神村は静かに蓮を見つめていた。

 だが、その周囲に黒く揺らめく五色が、あのときと同様、陽菜の目にははっきりと見えた。

 胸の奥に、嫌なざわめきが走る。


「陽菜、エレナ……これって……」


 蓮もまた、同じものを見ていた。黒い五色の光が、確かに神村を包んでいた。


 やがて、神村は口を開いた。


「……蓮くん。やっぱり、私まだ好きなの」


 その声は小さく震えているのに、なぜか芯のある響きを持っていた。


「だから……その子から、離れて」


 ピクリと陽菜の眉が動く。


「は? 何言ってんの?」


 次の瞬間、神村の瞳の奥にぞわりと暗い光が走った。

 距離を詰めると、唐突にスカートの裾を指先でつまみ、ゆっくりと持ち上げた。


 白い下着が覗く。指が器用に下着を摘まむと、淡々とそれをひざ下まで脱ぎおろした。


「私ね、振られた今もずーっと好き。毎日ね……蓮君のこと想像して一人でしてるんだよ」


「でも、それじゃ物足りないの……。だから抱いて。ここで一つになろう?」


 唇が、ニヤリと歪んだ。


「いいんだよ……私の具合だってきっと悪くないはず。やさしく包み込んであげる」


 そう言うと、今度はスカートから手を離しブラウスのボタンを外しだした。

 キャミソールは着ておらず、ブラウスの隙間から白いブラジャーが覗く。


 その様子をみてエレナが低く呟いた。


「あの子、普通じゃない……きっと、操られている……」


 陽菜も同じことを考えてたようでエレナの言葉に頷く。


 蓮はきっぱりと答えた。


「悪いけど……断る。俺は陽菜が好きだ!」


 その瞬間、神村の顔が歪んだ。


「……いやぁぁぁああああああああああ!!!」


 耳をつんざく叫び声。

 同時に、冷たい風が渦を巻き、三人を包んだ。


「な、何……これ……!?」


 陽菜の足が、ふらつく。

 体が自分の意志と関係なく、わずかに後ずさる。

 蓮も眉をひそめ、何かに引かれるように半歩後ろへ。

 エレナも、空中で小さく揺れながら目を細めた。


 神村はなおも叫び続け、やがて糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。


「神村っ……!」


 蓮が駆け寄ろうとした、そのとき。


 女性から黒いオーラがふわりと抜け出し、やがて黒い影は紫色から徐々に白く輝きを帯び、その妖は人の形へと変わっていった。

 そこに現れたのは、紫のフリルの付いたワンピースに、赤い髪をサイドテールに結い上げた、青い瞳の妖精だった。


「いやはや、生きた人間を操るのはやっぱり骨が折れますなぁ~」


 陽菜と蓮は驚きを隠せなかった。


「女の妖精……」


 エレナが呟く。


「やはり、彼女はこの妖に操られていたのね」


 妖精は微笑みながら答えた。


「操る? いやいや、そんな大げさな。ちょっとした悪戯ですよ。この娘が、そちらの男子がお好きらしくてね……少し遊んでみただけで」


「人間の男なんて、女が脱げばすぐ()()()()と思ってましたが……どうやら、この娘の恥じらいが勝ったようで」


「アタイは、ちょいと手前らとお話をしたかっただけで」


 その軽薄な声に、蓮の眉間がぴくりと動く。


「で、その話って、何だ?」


 妖精は小首をかしげ、興味深そうに蓮を見つめた。


「なるほど、そちらさんも、アタイのことが見ているようで」


 蓮は無言で頷く。


 エレナが一歩前に出た。


「あんた……邪妖精だね。いたずら好きの精霊。外国じゃ“スプリガン”って呼ばれてる」


「スプリガン……?」


 陽菜と蓮が同時に繰り返す。


 妖精はニヤリと笑い答えた。


「まあ、そう思ってくれて構いませんよ」


「で、本題は?」


 蓮の問いに、スプリガンの瞳がわずかに細まる。


「おっと、そうでした。お嬢さんがお持ちの”玉虫色のヤツ”アタイにも分けてほしいので」


「なにせ、その欠片は九尾の”想いの欠片”……千年以上もの想いの集合体。願いが思う通りに叶う。そんな代物を、私も少し試してみたいんで」


 陽菜は一拍置き、淡々と言った。


「何を願うの?」


「簡単なことですよ。人間になりたい。ただそれだけで」


 スプリガンの声は笑っていたが、瞳の奥は妙に真剣だった。


「そちらの妖精さんも人間になれるでしょ?  アタイは、人間になって……楽しみたいんで」


 そういうと、陽菜が即答した


「嫌だ」


 スプリガンが素っ頓狂な声をあげる。


「んあ!?」


 エレナが冷たく言い放った。


「理由は知らないけど……いたずら好きの子に渡せるわけないでしょ」


 蓮も肩をすくめる。


「そういうことだ。諦めろ」


 しばしの沈黙。

 スプリガンは深々とため息を吐いた。


「……はぁ。まあ、こうなるとは思ってましたけどね。仕方ないので。まず、手合わせといきましょうか」


 その瞬間、スプリガンの右手が高く掲げられた。


Grenzlinie(グレンツリーニエ)


 空気が震え、世界が一気に夕焼け色へと変貌する。

 視界の端から景色が剥がれ落ち、校舎も芝生も消え失せた。

 代わりに広がったのは、赤く染まる果てしない草原。


「……想願空虚、か」


 蓮が低く呟く。


「うん。そうらしいね」


 陽菜とエレナが短く応じる。


 スプリガンが言った。


「これはアタイが作った空間、そう……日本語で”帳”と聞いた気がしましたので」


 そういうと、再びスプリガンが手をかざした。

 すると、手の上に魔法陣が再び浮かび上がり、くるくると回転しながら輝きを増していく。


「あれ……沙耶さんと同じ……?」


 陽菜が呟いた瞬間、スプリガンの声が鋭く跳ねた。


「さあ。九尾の力見せてもらうので!!」


 掲げられた手から、白く輝く球が音を立てて放たれた。

 光は矢のように、三人へと一直線に迫った──。

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