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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第34話:海を見つめる女性③

 駅へと続く道を、陽菜、蓮、エレナの三人は並んで歩いていた。

 蓮を見送るためだ。


「合宿所って近いん?」


 陽菜が何気なく尋ねる。

 すると、蓮が軽く横に首を振って答えた。


「いや、合宿は今日で終わった。朝に解散して、そのままここに来たんだ」


「はぁ!? じゃあ……家から直で来たの!?」


 陽菜の声が思わず一段上がる。


「今日までって、朝までだったのか……マジか。あ~、やっちまった~」


 蓮は頭をかきながら、やれやれとため息をついた。


「なんで“やっちまった”なんだよ」


 すると、陽菜は両手を後ろで組み、いたずらっぽく蓮を見上げながら言った。

 少しの沈黙のあと、ぽつりとつぶやく。


「……じゃあ、ウチも帰ろうかな。そしたらウチんち来る?」


「もち、だれもいないよ?」


 そう言う陽菜の言葉に、蓮の心臓がドクンと跳ねた。

 つぶらな瞳が、妙にかわいく見えてしまう。

 その空気を読んだエレナが、すかさず割り込んだ。


「あ、それなら、あたしは悠真たちと帰るから大丈夫だよ~」


 蓮は数秒間、謎の葛藤と全力で格闘したのち、ようやく口を開く。


「……その格好じゃ、帰りにくいだろ。それに……」


 言葉を選びながら、目をそらさずに続けた。


「うまく言えないけど……親孝行は、できるうちにしておけって」


「それに、エレナだって危険だろ。なにか起きるかもだし」


 陽菜は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに柔らかく頷いた。


「……うん」


 ──それは、親を亡くした蓮だからこそ出てきた言葉。親から見れば、家族旅行も親孝行の一つなのかもしれない。

 その一言に、蓮のやさしさが、深くにじんでいた。


 気がつけば、もう駅に着いていた。その道のりは、驚くほど短く感じられた。

 ふと陽菜が、静かにもう一度口を開いた。


「……ねぇ。つーか、なんで来たんだよ?」


 蓮は少しだけ言葉に詰まりながらも、はっきりと答えた。


「俺は、お前を守るって言っただろ? それに……」


 少しだけ言い淀んでから、続ける。


「あの事件のあと、ほかの男にも告られてるんだろ? だから……その……」


 陽菜がすかさずニヤついて言った。


「あ~、ジェラシーか! ウチが誰かに取られるとでも思ったか~?」


 得意げなその顔に、蓮の眉がぴくりと動いた。


「……あったりめーだろ! この間の公園の件もあったし!」


 蓮はやや本気でムッとしながら、続けた。


「エレナだってそう思うよな!?」


 エレナは笑いをこらえきれず、くすくすと笑って答えた。


「うんうん。蓮って、ほんっと心配性~」


 蓮が声を荒げる。


「そりゃ~、心配するだろがっ!」


 その言葉に、陽菜はふっと微笑んだ。

 そして、ぽんっと蓮の肩を軽く叩く。


「よしっ。約束もしてたし、今度するか!」


「ちゃんと時間作ってしよう!!」


 蓮が言う。


「おう、約束だぞ!!」


 陽菜も力強く応える。


「痛くするなよ。やさしくだぞ!!」


 そろそろ電車の時間が迫っていた。

 東京に比べて電車の間隔はずっと長いはずなのに、やけに早く感じてしまう。

 まるで、この時間だけが特別に早く進んでいるみたいだった。


 そんなとき、不意に陽菜が声をかける。


「……蓮?」


 蓮が振り返ると、陽菜とエレナが顔を寄せ合って、そっと微笑んでいた。


 カシャッ。


 スマホのシャッター音が響く。

 画面には、陽菜、エレナ、そして蓮が映った日常のようなワンシーンが映る。


「おいおい、俺だけ写りひどくないか? めちゃくちゃだぜ、これ!」


 陽菜が肩を揺らして笑った。


「確かに、草生えるわ~!」


「だから、取り直してくれって!」


 だが、陽菜はゆっくりと首を振った。


「んーん、これでいいのっ」


 スマホをバッグにしまいながら、優しく続ける。


「あとで画像、送っとくからね」


 そして、少しだけ声のトーンを変えて──


「蓮、着いたら連絡ちょうだい。……それとね」


「安全に帰れるように、おまじない」


 そう言って、陽菜はそっと背伸びして、蓮にキスをした。

 ふたりは列車が来るまで、長い時間抱きしめ合い、唇を重ね続けた。

 すぐ隣で、エレナが両手で目を覆いながら叫んだ。


「きゃーーー!」


 でも、陽菜と蓮はその声にも、エレナの存在にも気づかないふりをした。

 いまこの瞬間は、ふたりだけのものだった。

 キスが終わると、陽菜は蓮の胸に顔を寄せて、そっとささやいた。


「ウチを取られんように、ちゃんと見張っとかないとダメだぞ」


 そうこうしているうちに、電車がホームに滑り込んできた。

 陽菜は改札の外から、ゆっくりと蓮を見送った。


 蓮と別れたあと、陽菜はふたたび、さきほどの海辺に戻ってきていた。

 波の音が静かに耳をくすぐる。隣にはエレナがいて、ふたりで並んで砂浜を眺めている。


 ──正直に言うと、少し寂しい。

 蓮と別れたくなかった。できることなら、一緒に帰りたかった。

 そんな未練が胸のどこかで、じんわりと残っていた。


 小学校の頃に離れ離れになり、高校で再会した。それがただの偶然とは、とても思えない。

 これが運命っていうヤツなのか──そんな気がしてならなかった。


「……あらあら、寂しそうな顔しちゃって」


 不意にかけられた声に振り向くと、そこには美佳の姿があった。


「美佳さん……」


 陽菜がそう呼ぶと、美佳はやさしく微笑みながら、砂の上に降りてくる。


「送ってきたのね。一緒に行きたかったって顔、してるわよ?」


 陽菜は何も言わず、体育座りのまま、こくりと頷いた。

 それを見て、美佳もふわりと笑い、隣に腰を下ろす。


 しばらく、三人の間に静かな時間が流れた。

 波の音だけが、穏やかに耳をくすぐる。


 やがて陽菜が、ふと思ったように口をひらく。


「……美佳さんは、生前の想いや記憶、思い出したいって思うことありますか?」


 美佳は少し驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくりと答えた。


「どうかな……。たぶんね、肉体から魂が離れた瞬間に、想いと記憶が分かれてしまったみたいで。はっきりとしたことは、あまり思い出せないの」


 その答えに、隣のエレナが明るい声で返す。


「さっきも言ったけど、陽菜とわたしの力なら、“想い”をちゃんと解き放ってあげられるの。そしたら、きっと記憶も戻ってくるよ」


「ふふ……エレナちゃんの言う通りだね」


 美佳はやさしい目でエレナを見つめ、そっと目を細めた。

 けれど、その表情はどこか満ち足りていた。


「でもね……正直に言うと、いまのままでも、そんなに悪くないのよ。なんていうか……生まれ変わったみたいな気分なの。肩の荷が下りて、心がすごく軽いの」


「そうなんですね……」


 陽菜がつぶやくように言うと、美佳は小さく頷いた。


「断片的な記憶はあるの。たぶん、悪い人生ではなかったんだと思う。大切な誰かも、きっといた。でも、それを無理に思い出そうとは思わないの。今は……この“今”を、ちゃんと感じていたい」


 夜の海風が、三人の髪をやさしく揺らした。


「だからね、陽菜ちゃん。あなたも、今の気持ちを大切にして。今の蓮くんが好きなら、精一杯好きにならないとね」


 すると、美佳の身体がふわりと玉虫色の光に包まれた。


「……そうなの。一緒に居たいのね」


 彼女がつぶやくように言うと、その手のひらに、淡く輝く宝玉のようなものが現れた。玉虫色のきらめきが、静かに脈打つ。


「この想いは……ふたりと一緒に居たいみたい」


 そう言うと、美佳がそっと手を差し出した。

 すると、宝玉はまるで意思を持つかのようにひとりでに浮かび上がり、ゆっくりと、迷いなくまっすぐ陽菜の胸元へと向かってきた。


 驚きで目を見開いた陽菜の表情など気にも留めることなく、宝玉はまるで陽菜を選ぶかのように、そっと彼女の胸に吸い込まれていく。


 その瞬間、陽菜とエレナの身体が柔らかな緑色の光に包まれた。

 まるでふたりの心が同調し、穏やかに共鳴し合っているかのような、優しく輝く光だった。


 陽菜がそっと美佳に尋ねた。


「いまの……なんだったんですか?」


「わからないの。私に同調して……いつのまにか、存在していたのよ」


 ──そういえば、あのとき。

 この間、彩華の家を訪ねたとき、こんな話を聞いた。

 “九尾の狐”は、玉虫色の光をまとう存在ともいわれた──と。


 陽菜とエレナは、ふたり同時に同じ記憶を思い出していた。

 エレナが振り向いて、言った。


「陽菜!」


「だね……ひょっとしたら!」


 陽菜が力強くうなずく。

 空にはもう、夕陽の残光が消えかけ、夜の帳が静かに降りてきていた。

 エレナが空を見上げながら、ぽつりとつぶやく。


「そろそろ、お風呂入って……夕食の時間だね」


 その言葉に、陽菜は立ち上がって、美佳に向かってぺこりと頭を下げた。


「今日は……すごく楽しかったです。ありがとうございました」


 美佳は優しく微笑みながら、手を振った。


「うんうん。元気でね。声が聞きたくなったら、今度は陽菜ちゃんたちのところに遊びに行かせて」


「もちろんっす!!」


 陽菜は満面の笑みを浮かべて答えた。

 そのまま砂浜を軽やかに歩き出すと、エレナもふわりと宙に浮かび、そっと隣に並んだ。


 陽菜がふいに腕を突き上げて叫んだ。


「よし、旅館メシいくぞっ!」


「飯テロだ、飯テロぉ~」


 エレナも負けじと叫び返す。

 背後で、美佳が小さく手を振って見送っている。


 ふたりの声が夜空に跳ねて、旅館への道に笑い声が転がっていった──。

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