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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第33話:海を見つめる女性②

「こんにちは」


 その女性は、三人に向かってにこやかに挨拶した。

 薄いピンクのワンピースに麦わら帽子。赤い瞳に、長く美しい黒髪を風に揺らし、どこか大人びた魅力をまとう女性だ。

 その穏やかな声に、エレナが屈託のない笑顔で応じる。


「こんにちはー」


「こんにちはー!」


 蓮も、陽菜も、続いて軽く頭を下げた。

 どこか不思議な気配はあるものの、敵意のようなものはまるで感じられない。

 むしろ、ほんのりと温かくて、懐かしいような空気すら漂っていた。


「かわいい妖精さんね」


「でしょ!」


 女性がそう言うと、エレナは嬉しそうに腰に手を当て、ふんっと鼻を鳴らした。

 代わりに陽菜が、一歩前に出て尋ねる。


「……見えるんですね。エレナのことが」


 女性は静かに頷いた。


「エレナちゃんっていうのね。うん。私はもう、“想い”だけの……妖の存在だから」


 その言葉に、三人は一瞬だけ黙った。

 彼女は、自分のことをよく理解している──そんな風に見えた。


 やがて、エレナが小さく首をかしげながら尋ねる。


「じゃあ、どうしてここにいるの?」


 女性は少しだけ空を見上げ、微笑む。


「……私、どうやら病気だったみたい。でもね、この場所、とても居心地がよくて……好きなの」


 風がそっと彼女の髪を揺らし、淡い陽射しがワンピースのすそを照らす。


「波の音も、人の声も、風の匂いも……全部、生きていたときと同じように感じられるの」


 そう言うと、女性はスカートの裾を軽くつまみ、くるりと一回転した。 

 ワンピースがひらりと舞い、素足が濡れた砂に柔らかく足跡を残していく。


 ふと、女性は思い出したように言った。


「……あ、わたし、美佳(みか)っていうの。苗字はもう……思い出せないの」


 それを聞いて、陽菜、蓮、エレナもそれぞれ自己紹介をした。

 そのまま、美佳は陽菜たち三人と並んで歩き出し、やがて一行は海辺にある整備されたコンクリートの見晴らし台へとたどり着いた。

 そこは、屋根付きのベンチが静かに佇み、潮風が吹き抜けるその場所は、海を一望できる絶好の休憩所だった。


「だから、ここにいるの。でも、今日みたいに、ちゃんと話せる人に会えるのは、すごく珍しいのよ」


「たいていの人には……もう、私たちの“存在”って届かないから」


 その言葉に、蓮が穏やかに応じた。


「うまく言えないけど、俺と陽菜とエレナには、美佳さんの“想い”が見えてる。だから、触れられるんです」


 そう言うと、三人はそっと手を伸ばして美佳に触れた。

 美佳もまた、自分の“想い”を、そっと三人に見せてくれた。


 ──真っ白な空間。それは、彼女の心の中。

 そこには、病室のベッドに横たわる美佳の姿。

 抗がん剤の影響で髪は抜け、痩せ細っていた。


 ベッドのそばに立つ老夫婦──おそらく両親なのだろう。

 そして次の場面では、ICUの映像に切り替わる。


 美佳は意識を失い、酸素マスクをつけて昏睡状態だった。

 両親が静かに見守っている。そこへ、ひとりの男性が現れる。たぶん、婚約者だ。

 彼がそっと美佳の手を握ると、不思議なことに、美佳の手もかすかに彼に触れた。


 そして、最後の場面。

 医師が静かに首を横に振る。

 両親は呆然とし、婚約者はその場に崩れ落ちるように泣いていた。


 画面が真っ白に染まり、現実へと戻る。

 陽菜はそっと声をかけた。


「……大変でしたね。おつかれさま」


 そう言って、美佳に抱きついた。でも、彼女の想いには恨みも、怒りも、悲しみもなかった。

 陽菜も、悲しみではなく、笑顔で応えた。

 美佳も優しく陽菜とエレナを抱きしめながら、微笑む。


「ふたりとも、やさしいね……ありがとう」


 そして、美佳は蓮にも向き合った。


「あなたの、想いも見えたわ。ご両親亡くして、大変だったでしょう?」


 そう言って、蓮をぎゅっと抱きしめる。

 蓮は驚きながらも、その温もりに、どこかほっとしたような顔を見せた。


「いやっ! 美佳さん! 蓮は、蓮は大丈夫なんですっ!!」


 少し焦った声。

 それは、蓮が他の女性に抱かれるのを見たくないという、ちょっとした嫉妬心からだった。


「あらら……陽菜ちゃん、ごめんなさいね」


 美佳はそれを察して、静かに謝った。


 そのやり取りを見て、エレナは口元を手で隠してクスクス笑う。

 それにつられて、美佳も蓮も笑い出す。

 陽菜だけが頬を膨らませて、ふてくされたようにそっぽを向いていた。


 ──そのとき、見晴らし台から見える堤防の先端で、ひとりの釣り人が魚を釣り上げた。


 美佳が目を輝かせる。


「あ、すごいわね。墨を吐いてる……たぶん、アオリイカね」


「この時期のイカって、珍しいらしいのよ」


 釣り上げた人物の周囲には人だかりができ、歓声が上がっていた。

 それは、釣った本人だけでなく、周囲の釣り人たちも同じように喜び合っている光景だった。


 美佳はその様子を見ながら、ぽつりと言った。


「この場所ね、恋人もくるし、釣り人もくる。いろんな人の、喜怒哀楽が交差するの」


「……だから、ここが好きなの」


 そして、少し照れたように微笑みながら、付け加えた。


「ちょうど、ふたりみたいなお似合いのカップルもね」


 それを聞いた陽菜と蓮は、ぱっと顔を赤らめた。


 そこに、エレナが茶々を入れる。


「美佳さん、昔はね、ふたりとも“恋人じゃねーし”って全力で否定してたんだよ」


「でもね、最近はそれすら言わなくなったの~」


 そう言って、口元に手をあててクスクス笑うエレナ。


「うっさい! バカ妖精!!」


 陽菜がむきになって怒り、エレナにげんこつグリグリをしようとする。

 その様子を見て、美佳はまた、やさしく微笑んだ。


 そんな彼女に、陽菜が静かに口を開いた。


「美佳さん。私とエレナは“想い”を届けることができるんです。ここは美佳さんにとって”煉獄”、送り届けることもできます」


 けれど、美佳は首を横に振り、穏やかに否定した。


「ありがとう。でもね、私は……まだ、ここに居たいの。いろんな人に、出会って、触れたいのよ」


 その言葉に、陽菜は目を伏せ、そっと頷いた。


 ──ふと見ると、美佳の“五色”がやわらかく、赤く輝いていた。

 それは、”勇気”と”心の平穏”を意味する色。彩華の父がそう教えてくれたことを、陽菜は思い出す。


 陽菜の心に、ほっとしたような安堵が広がる。エレナもまた、陽菜と目を合わせて、安心したように微笑んだ。


 全ての“想い”が、悲しみや恨みでできているわけではない。ここにとどまることを、誰かを呪うためではなく、何かを見守り、寄り添うために選ぶ想いもある。

 三人は、そのことを、初めて実感として理解した。


 ──そのとき、防災無線のチャイムが鳴り響いた。

 夕方を告げる、町の定時チャイムだ。


 蓮がぽつりと呟く。


「……そろそろ、行かないと」


 その声は、どこか寂しげだった。


 陽菜も短く、静かに応える。


「……うん」


 その一言に、同じ寂しさがにじんでいた。


 しばしの沈黙のあと、蓮が美佳の方を向いて、丁寧に頭を下げる。


「美佳さん、ありがとうございました。うまく言えないけど……なんか、勇気をもらった気がします」


 口ベタながらも、そこには真っ直ぐな想いがこもっていた。

 美佳はやわらかく微笑み、優しい声で応える。


「元気でね。……そして、陽菜ちゃんのこと、ちゃんと守ってあげてね」


「蓮くんには、強い愛情と、愛する人を守り抜く意志がある。きっと、大丈夫よ」


 蓮は少し照れくさそうに、それでも力強く返事した。


「……はい」


 すると、陽菜が腕を組みながら、得意げに笑った。


「うんうん! こんなかわいくて優しくて、()()()()があるのはウチだけだぞ!幸せ者だなー、蓮!!」


 すかさず蓮がツッコミを入れる。


「おまえ、あとで説教な!!」


 そのやり取りに、美佳とエレナはくすくすと笑い、楽しげに肩を揺らす。


 潮風に混じって、やさしい笑い声が見晴らし台に響いた──。

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