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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第30話:陽菜と蓮……それぞれの選択①

 彩華の家で話を聞いたあと、陽菜とエレナは並んで夕焼けの道を歩いていた。


 ふと、陽菜が口を開く。


「エレナ、ウチはさ……べつに“妖”だなんて思ってないよ」


 その声は、どこか優しさがにじんでいた。

 エレナが何かを気にしていたことに、陽菜なりに気づいていたのだ。


 エレナは、ぱっと顔を明るくして笑う。


「うんうん、陽菜、いいこだねぇ~」


 そう言って、すり寄るように陽菜に近づき、頭を優しく撫でてくる。

 いつもなら”やめろってば”と突っぱねるところだが、今日の陽菜はされるがままだった。

 いまは、エレナの心に寄り添ってあげたい──そんな気持ちがあったのだ。


 それに、久しぶりに蓮に会うという緊張感もあった。

 あれからもう、二週間以上顔を合わせていない。


 彩華の家に立ち寄ったことで、蓮の家まではすぐ近くだ。

 それでも陽菜の足取りが重いのは、沙耶と彩華に言われた言葉が、ずっと胸に引っかかっているからだった。


「会いなさい。じゃないと“おこちゃま”で終わる」


 彩華のその言葉。ムカついた。けれど……認めたくないけど、図星だった。


 夕焼けに染まる街を抜け、ふたりは静かな住宅街の端にある公園へと向かっていた。

 蓮との待ち合わせ場所だ。


 そこに、ひとりベンチに座る蓮の姿があった。どこか遠くを見つめているようで、陽菜の胸が少しだけ締めつけられる。


「……いた」


 陽菜がぽつりと呟くと、エレナはにっこりと微笑み、そっと陽菜の肩を叩いた。


「じゃ、わたしはブランコでも揺られてるねぇ~」


 そして一歩近づいて、陽菜に抱きつき、小さな声でささやいた。


「陽菜……わたしは、どんなときでも陽菜の味方だから……だから……本当は、気にしないでほしい」


 エレナの体が淡く緑に光る。

 長く一緒に過ごしてきたエレナには、陽菜が“何を考えているか”わかっていた。彼女は、陽菜の決断を知っている。


 そのままふわりと跳ねるように、エレナはブランコのほうへと向かっていった。

 陽菜は、ベンチに座る蓮の背中に近づき、軽く肩を叩く。


「いよっ!」


 蓮は振り向く。


「……久しぶり」


「うん……ほんと、ひさしぶり」


 二週間。メッセージでのやり取りはしていたけれど、声を交わすのはそれ以来だった。


 短い沈黙。風が木の枝を揺らし、葉のこすれる音が二人の間を満たす。


 蓮が口を開いた。


「怪我、大丈夫か?……その、すまん……」


 陽菜は笑って、肩をすくめた。


「ほら、この通り、もう問題ナッシング」


 少しだけ間を置いて、陽菜は続けた。


「ごめん。いろいろ酷いこと、言っちゃって……」


 蓮はうつむいて言う。


「いや、俺のほうこそ……自分が正しいと思い込んでただけだった。お前に……何もしてやれなかった」


 陽菜はすぐに答える。


「なに言ってるんだよ。ビシっと命の重さ、教えてくれたじゃん。それに、湿布薬も買ってきてくれたし」


 陽菜の顔には、素直な笑顔が浮かんでいた。

 それは本心だった。

 あのとき蓮に叩かれたこと——そして、蓮が口にできなかった痛み。

 それらすべてが、静かに、深く、陽菜の心に刻まれていた。

 それが、自分が変わるためのきっかけになったのだ。


 そのとき、蓮は陽菜の手を取って、抱きしめるように強く引き寄せた。


「……俺はまだ未熟だ。でも……お前が好きだ。だから……」


 そして、静かに蓮の顔に手を添え、そっと唇を重ねた。


「この間、できなかったから……」


 ふたりは長い時間キスをした。


 エレナはブランコの手すりに座ってその光景を見ていた。

 だが、そこには喜びの笑顔はなかった。


「渡すものがあるの……」


 陽菜は手を差し出し、そっと蓮の手のひらを開く。

 その中に、小さな銀のリングを置いた——ペアリングだった。

 この間、蓮が買ってくれたもの。


「陽菜……まだ、俺のこと……」


 蓮の声がかすれる。陽菜は首を横に振って、笑った。


「ウチとエレナね。どうも悪いヤツに狙われてるらしい。彩華の家族から聞いたんよ」


「たぶん、それがエレナを傷つけた件と繋がってる」


 そう言って、陽菜は蓮との距離を少しとる。

 その瞳はまっすぐに、彼を見ていた。


「ウチも、蓮のこと好きだよ。いまは、前よりもっと好きになってる」


 蓮は絞り出すように言う。


「だったら……」


 陽菜は、静かに、けれどはっきりと答えた。


「でも、巻き込みたくない。危険だから」


 言葉を続ける。


「ウチにとって、エレナは昔からそばにいた。だからエレナは、なくてはならない存在」


「エレナがいない世界は、考えられない。でも……」


 陽菜は一瞬、言葉を飲み込んでから、口を開いた。


「蓮がいない世界は、いままで、ずっとウチの中にあったの」


 そして──


「たぶん、どっちを選べって言われたら、ウチは迷わずエレナを選ぶと思う」


 陽菜の言葉を聞いたあと、蓮はしばらく沈黙していた。

 その拳が、かすかに震えているのを、陽菜は見逃さなかった。


「……じゃあ、俺はどうすればいいんだよ」


 蓮が顔を上げた。その目は、どこまでも真っ直ぐだった。

 怒りでもない。涙でもない。ただ、どうしようもないほどの想いがこもっていた。


「そんなの簡単だよ。いいひと、見つけて」


 陽菜は淡々と言ったが、その声には微かに震えが混じっていた。

 それでも、芯の通った響きがあった。


「もち、身勝手なのは分かってる。蓮がそれでもウチを守るって思ってくれてるのも分かっているつもり……」


「けどね、ウチはエレナを守るって決めたんだ」


 そして、言葉を繋ぐ。


「だから……口も悪く、性格もとっくにオワコン状態のウチの、最後のわがまま」


 蓮は何も言えなかった。

 言葉にできないものが、胸の内を押しつぶしていた。

 そんな彼に、陽菜は精一杯の笑顔を向けた。


 無理にでも明るく、でもどこか、泣きそうなほど優しい笑顔だった。


「蓮……ありがとう」


「バイバイ」


 蓮は一瞬、その場に釘付けになった……。

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