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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第28話:噂渦巻く学年登校日

 今日は夏休み中とはいえ、補習のための登校日だった。陽菜たち高校一年生は、昨日と今日の二日間が補習登校日として指定されていた。


 陽菜の学校には、進路に応じた複数のコースがある。

 たとえば、大学や短大進学を目指す"進学コース"。蓮はこのコースに所属している。


 そのほかにも、手に職をつけるための"技術系コース"や、野球やサッカーなどアスリート志望の生徒が集まる"スポーツ系コース"などがあった。


 ちなみに陽菜は、どの専門コースにも属さない"普通科"だ。

 大学に特別行きたいわけでもなく、技術職にも興味がない。


 ましてや運動は……想願空虚の世界でならともかく、現実では論外だ。

 そのぶん、気持ちはだいぶ楽だった。


「……ごめんなさい」


 いま、陽菜は体育館の入り口で男子生徒からの告白を断っていた。

 その様子を見ていたエレナは、腹を抱えてゲラゲラ笑っている。


 くるっと陽菜の方を向くと、満面の笑みでこう言った。


「陽菜、二十点! ぎゃはははは!!」


 それは、男子への恐ろしい“採点”だった。あの事件以来、陽菜への男子の注目は急上昇。

 学校ではその話で持ちきりだ。警察は詳細を口外していないはずなのに、なぜかこの手の噂だけは漏れ出す。


 ──佐藤陽菜はいま、事件で心を痛めている。支えを求めているらしい


 そんな根も葉もない噂も飛び交っていた。

 しかも、陽菜の頬のあざは、蓮ではなく、事件の犯人たちに殴られたことになってたらしいのだ。

 無論、もう頬のあざは消えている。


 だが、男子たちがこれらの情報を見逃すはずがない。

 ここぞとばかり、彼女ほしい男子連中は猛アタックしてきているのだ。


 彩華は”中の下”などと言っているが、意外にも、陽菜もそれなりに美人の類だろう。

 ヤンキー系の”おれが守ってやる”から”付き合ってください”まで、告白のバリエーションも豊富。

 そしてそのどれもが、動画サイトで見た”女性を落とすコツ”や、”こんな言葉に女性は弱い”などの受け売りばかり。


「はぁ……、今どきのJKが、そんなクソ情報に惑わされるわけねーじゃん……」


「まぁ、蓮に被害が出ないだけマシとするか……」


 陽菜はぼやいて、深いため息をついた。

 むしろ、男子たちに同情すら覚える。なにしろ、彼らには見えていないのだ。すぐそばに、エレナという“虎”──超辛口の採点者が控えているということを。


 告白という名の“お仕事”を片づけた陽菜は、校舎裏の芝生で、エレナとのひとときを過ごしていた。

 授業は午前中だけ。すぐ帰ってもよかったけれど、今日はなんとなく、こうして少しだけ空の下で、時間を流していたかった。


 そのときだった。芝生を踏む音とともに、梨紗と香澄が姿を現した。


「やっぱここにいた。陽菜、帰ろう」


 梨紗の言葉に、陽菜は素直に頷いた。ただ、その声にはどこか、心配がにじんでいる。

 陽菜は、梨紗と香澄と一緒に校門をあとにし、携帯扇風機を片手にゆっくりと帰路につく。


 どうやら、陽菜がよからぬ行動を起こすのではと心配しているらしい。なかでも梨紗は、あの事件以降、陽菜に寄り添うことが多くなった。

 自分にも原因の一端があると思っているのかもしれない。実際、事件を知ったとき、梨紗は何度も涙を流していた。


 べつに梨紗が悪いわけではない。たまたま一緒にいて、別れたあとに事件に巻き込まれただけなのだ。


(べつに、なにもしないんだけどな……)


 心の中で、陽菜はぽつりと呟いたが、心配してくれているその気持ちは、陽菜の中で確かに、温かく響いていた。


 そんな陽菜に、梨紗がちょっと不機嫌そうな顔で言った。


「男子どもがさ、あたしに“陽菜紹介しろ”って言ってきたんだけど?」


「……マジ?」


 陽菜が思わず目を丸くする。

 すると梨紗は、どこか得意げに胸を張って言い放った。


「“陽菜はアンタになんか、ぜってーなびかねーから”って言ってやった!」


「おぉぉ……!」


 陽菜は思わず手を合わせて、拝むような仕草をする。


「梨紗様、マジ感謝っす……!」


 ふと、そのとき陽菜の目に、梨紗のおでこにうっすら赤みが差しているのが映った。


「それ……また、どっかぶつけたの?」


 心配半分、呆れ半分の口調で言うと、


「いやさー、壁のコルクボードが落っこちてきたんだよ。マジで痛かったって」


 梨紗は苦笑いを浮かべながら、肩をすくめてみせた。

 ほんとにこの子は、よく怪我をする。


「気をつけろって。下手したら、そのうちデスるぞ?」


 陽菜が冗談めかして言うと、梨紗は吹き出した。

 そんな軽口を叩き合っていた、まさにそのときだった。


 そんな中、道の真ん中で一人の女性が立ちはだかった。

 それは雨宮彩華だった。


 梨紗と香澄は身構えたが、彩華は気にも留めず陽菜に声をかける。


「ちょっと、顔かしてほしいんだけど」


 唐突すぎるその言葉に、空気が一変した。


 梨紗は状況を静かに見守る。

 だが、敏感に反応した香澄が声を荒げた。


「やるなら私たちが相手してやるよ、ヤリマン女!」


 彩華は嘲るように言った。


「2匹の虫には用はないわ。用があるのは佐藤陽菜だけ」


 怒りで香澄が飛びかかろうとしたその時、陽菜がすっと手を差し出して制止した。


「大丈夫。問題ナッシングだから」


 そう言って陽菜は二人に向き直り、穏やかに続ける。


「ごめん、二人とも先に帰ってて。ほんと、いろいろ心配してくれてありがと」


 陽菜の言葉に、梨紗と香澄は目を合わせ、不安そうに顔をゆがめた。


「……ほんとに大丈夫?」


 梨紗がためらいがちに声をかけると、陽菜は頷いた。


「大丈夫だよ。それに梨紗が悪いわけじゃないよ。マジで、二人の心配、ありがたいって思ってる」


 梨紗の目が揺れる。それでもまだ、納得しきれないように口を開きかける。


「でも……」


 陽菜は、ふっと微笑んだ。


「大丈夫。ウチはそこまで思いつめる性格じゃねーし」


 梨紗はそれを受け止め、やっとほっとしたように答えた。


「……わかった。陽菜、気を付けてよ」


 それだけ言って、梨紗は香澄と並んで、陽菜の背中を見送った。

 陽菜は小さく手を振ると、ふたりに別れを告げ、彩華のもとへ向かう。


「陽菜……私たち、親友だよね……?」


 ぽつりと呟いた梨紗のその言葉は、誰にも聞こえなかった。

 梨紗はぎゅっと拳を握ったまま、動けずにいた。


 陽菜は並んで歩き出すと、彩華が申し訳なさそうに口を開いた。


「悪いわね。急に呼び止めて」


「いや、大丈夫。……で、要件は?」


 陽菜の問いに、彩華は少し迷いながらも答える。


「実は……うちの親父が、ちょっと会いたいって言ってるの。無論、妖精の件だと思うわ」


 陽菜は少し考え、頷いた。


「わかった。いいよ」


 隣のエレナに振り返って言う。


「エレナ、ごめん、先に家に帰っててくれる?」


 エレナが頷きかけたそのとき、彩華が慌てて手を伸ばした。


「その妖精にも来てほしいの」


 その言葉に、陽菜の表情が一変する。


「……エレナの安全は? あんなことがあったばかりなのに?」


 彩華は即座に返す。


「大丈夫。手は出さないわ。結界も問題ないはず」


 緊迫した空気を和らげるように、エレナが静かに口を開く。


「陽菜。……何かあるのかもしれない。一緒に行こう?」


「でも……」


 不安を隠せない陽菜を、エレナは静かに見つめ、無言で首を横に振る。

 そのまなざしに、陽菜は観念するように息をついた。


「……わかった。じゃあ、行こう」


 そう言って、陽菜は彩華の誘いを受け入れることにした。

 彩華は腕を組んだまま、少し皮肉っぽく言う。


「アンタ、大変だったんだって? 大丈夫なの?」


 陽菜は軽く肩をすくめて答えた。


「まー、大丈夫っちゃ、大丈夫かな」


(こいつにまで知られているのか……)


 その言葉の裏では、どこまで話が広まっているかの不安がよぎった。

 そんな陽菜の様子に構うことなく、彩華はさらりと言った。


「一応言っとくけどさ、あたし、“中の下”には興味ないから。何も絡んでないわよ?」


 それを聞いた陽菜の口元に、にやりと皮肉な笑みが浮かぶ。


「安心して。アンタにそんな甲斐性ないの、こっちはちゃんとわかってるし」


 彩華の眉がぴくりと動いた。すぐに声を荒げる。言い合いが始まった。


「はぁ!? 底辺があたしに向かって、なんて口の利き方してんだよ!」


 陽菜も負けじと身を乗り出す。


「んぁ? テメーがウチの可愛さに嫉妬して、いちいち見下してくるからだろが!」


 彩華は一歩踏み出し、拳を握って叫んだ。


「はぁ? マジで、そのきたねーツラ、結界でシバくぞ。そうなったらグァーってなって、もー、すげーぞ!ああ!!」


「やってみろやクソが! 家ごとぶっ壊してホームレスにしてやるぞコルァァ!」


 負けじと陽菜も応戦する。二人の声が響くなか、エレナは眉を下げ、やれやれといった顔で小さくため息をついた。

 そして、二人の間にそっと割って入り、両手をそれぞれの手に重ねる。


「もう~、またケンカぁ? ダメだよ、ふたりとも~」


 エレナの手のぬくもりが伝わると、陽菜も彩華も少しだけ勢いを失った。

 陽菜は肩の力を抜き、にやりと笑って彩華のほうを見やる。


「やっぱエレナのほうが賢くて、いい子だねぇ~?」


 すると彩華も負けじと返す。口元に皮肉な笑みを浮かべながら。


「ふーん、妖精ちゃんのほうが“お姉さん”って感じだもんね。でもまあ……仕方ないか。蓮にも会えないようなおこちゃまだし?」


 その一言に、陽菜の額にぴくりと青筋が浮かぶ。表情が一気に険しくなった。


「テメー、まだウチを……」


 だが、その言葉を遮るように、彩華が急に真剣な声音に変える。


「会いなさい。冗談抜きで。じゃないと、本当に“おこちゃま”で終わっちゃうよ」


 その言葉には、からかいも、皮肉もなかった。

 陽菜はハッとしたように彩華の目を見つめ、言葉を失った──。

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