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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第27話:打ち上げ花火、中から見るか?外から見るか?

 上空にはすでに夜の帳が降りていたが、遠くの空にはまだ、夕焼けの名残がかすかに残っていた。


 陽菜とエレナは、駅前のケーキ屋で小さな箱を手に入れると、連れだって沙耶のマンションへと向かっていた。

 さっきまで、少女の強い想いを真正面から受け止め、心がざわついていたけれど、今はそれをそっと脇に置き、ふたりで歩くこの時間に気持ちを切り替えていた。


 会場周囲には、浴衣姿の女性たちや、手をつなぐカップル、子どもを連れた家族連れなど。どの顔も、心なしか少し浮き立って見える。大通りは、すでに交通規制がかかっており、車の姿はない。

 代わりに、人、人、人……熱気とざわめきが通りを埋め尽くしていた。


 そんななか、エレナが小さく笑って言いった。


「沙耶さん、喜んでくれるかな」


 陽菜も呟きながら、いつもの口調で返す。


「ケーキでよかったのか……正直、よー分からんけど、なんか流れで買っちまった感じ」


 ふたりの間に、ふわりとした笑いがこぼれた。


「それよりも、沙耶さん、多分びっくりするんじゃね?」


 陽菜がいたずらっぽく言いった。

 エレナの“獣人化”については、沙耶にはまだ話していない。あえて秘密にしておいたのは、今日、サプライズで驚かせるためだった。


「うんうん。多分驚くねー」


 エレナも笑顔で呟く。

 陽菜とエレナは驚いた沙耶を想像しながら、マンションに到着し、エントランスのインターホンを押す。エレベータに乗って沙耶の部屋までいくと、短パン、Tシャツというラフな部屋着姿で出迎えてくれた。


「いらっしゃい。って、ケーキ? うわ、ありがとうね!」


 だが、すぐに青髪の少女の姿に目を留めて、首をかしげる。


「あれ? その子……誰だっけ?」


 沙耶は全く気付いていない。


「こんばんわ。エレナだよ」


 にっこり笑ってそう言ったエレナを見た瞬間――


「え!? マジ!? マジでーー!!?」


 沙耶は、目を見開いて叫んだ。まるでアニメのリアクションのように、その場でのけぞりそうになる。

 陽菜とエレナは、その反応を待ってましたとばかりに顔を見合わせ、満足そうに笑った。


 陽菜とエレナ、そして沙耶は、部屋で夕食を囲んでいた。

 といっても、料理のほとんどはスーパーのお惣菜。沙耶は苦笑しながら缶ビールを開けた。


「プハー!!」


 晩酌モードに突入した沙耶の前で、エレナは遠慮なく次々と皿をつついていた。

 しかも、いちいち感想が大げさだ。


「うまっ! これもうまいっ! ……てか全部うまいっ!!」


 その勢いに、陽菜は思わずドン引きしていた。


「ガチ食いじゃんか……ちょ、引くわ……」


 そのとき、沙耶がビール片手にふと口を開いた。


「それにしてもさ、人間の姿になれるなんてびっくりよ。しかも食べられるんだ?」


 エレナは聞いてるのかいないのか、唐揚げをモグモグしている。


 代わりに、陽菜が答える。


「……ウチも、よくわからなくて。親もわからないみたいなんですよ」


「ただ、ウチが物心ついた時にはこうだったみたい……」


 敬語などの礼儀は重んじつつも、陽菜の言葉遣いは自然に戻っていた。

 それは、沙耶が身近になった存在という証でもあった。


 沙耶はゆるく頷きながら言った。


「なるほどね~、エレナちゃんの“力”と関係あるのかなあって、ちょっと思って」


「前に会ったあの子……術とか使ってたじゃない。術式の発動とか、結構本格的だったし」


 それは彩華のことを指していた。蓮が、”術が使える家系”と言っていた。


 陽菜が気になって尋ねた。


「なにか気になったんですか?」


「んーん、あの子、九字切ってたと思うのよ。陰陽道の。あと神仏習合系の詠唱も」


 正直、陽菜には、何のことかさっぱりわからない。


「全然わかんないっす!、あれっすか……エレナ、めちゃヤバってことですか!?」


 その言葉に、エレナが口いっぱい唐揚げを詰め込んだまま反応した。


「んぶっ……そえわぁどぉおいうごどですぎゃ……っ!」


「おまえ、行儀悪ぃ!! まず飲み込めや!!」


 沙耶はそれを見て吹き出しながら、答えた。


「ヤバいってことじゃないわよ。ただ、もしかしたら、あの子に聞けば何かわかるかもなって思っただけ」


 その言葉に、陽菜は顔をしかめた。


「……アイツだけは、まじでムリっす」


 沙耶が微笑む。


「エレナちゃんのことで、まだ根に持ってる?」


「それはもうどうでもいいんです。アイツ、口悪いし、性格悪いし!」


 それを聞いて、エレナがゲラゲラ笑い出した。


「大丈夫だよ~、陽菜も一緒だから!」


 その無邪気な笑い声に、陽菜はムカッとした様子でげんこつグリグリを食らわせる。

 沙耶も笑いながら缶ビールをくるくる回す。


「あいつ! ウチのこと“中の下”って言いやがったんですよ!? こいつ性格エグッって思いません!?」


 その暴露に、沙耶とエレナは爆笑。

 陽菜はそれを見てさらにイラッとしながら、隣のエレナに目をやった。


「てか、エレナの神スタイルもウチ的に、ムカつく案件なんだけど……。見てるだけで精神デスるわ……」


 沙耶も同意した。


「たしかに、エレナちゃんのその姿は、反則級よね」


 それを聞いて、エレナは自信満々に腰に手を当て、ふんっと鼻を鳴らす。


 沙耶は、ふと聞きたかったことを切り出した。


「そういえばさ、蓮くんには会った?」


 陽菜は少しうつむいて答える。


「メッセージはしてますけど……まだ、会ってはないです」


「そっか……」


 沙耶は缶ビールをくるくる回しながら、ゆっくり言った。


「……陽菜ちゃん、まだ蓮くんのこと、気にしてるんだね」


 陽菜は箸を止め、目線を落とした。


「気にしてないって言ったら、嘘になるかもです。でも……やっぱ、会わないほうがいいかなって」


 沙耶は確信をついた質問をする。


「でも、好きなんでしょ?」


「うっ……」


 その言葉に、陽菜は図星をつかれた感じがした。

 するとエレナが、今度はコロッケを口に詰め込んだまま親指を立てる。


「んがっ……しゃえしぇんのい゛うとーり……!」


 と言いながら親指を立てた。


「エレナはまず飲み込めって、あと食いかた、マジで汚ねーんだよ!!」


 陽菜はエレナの頬を両手でむぎゅっと押さえて言った。

 だが、そんな陽菜のツッコミにもお構いなしに、エレナは再び皿をかき込んでいた。


 沙耶は静かに続けた。


「一度、ちゃんと会って話してみれば? やり直すにせよ、離れるにせよ、さ」


 沙耶は、陽菜の考えを見抜いていたようだった。

 陽菜はその言葉に、少しだけ考え込む。


 しばらくの沈黙のあと――


「そうだ。やっぱりね、これ、陽菜ちゃんに渡しておこうと思ってたの」


 沙耶はそう言いながら、バッグの中をごそごそと探り、小さな箱を取り出して、テーブルの上にそっと置いた。

 陽菜が目を落とすと、その箱に気づき、顔がぱっと赤くなる。


「……こ、これって……“あれ”ですよね……?」


 それは、男性用避妊具だった。

 沙耶はちょっと照れくさそうに、でもどこか毅然とした顔で言った。


「うん。こんなタイミングで渡すのもどうかって思ったけど……でもね、やっぱり、持っていてほしかったの。渋谷で配ってたやつだけど、ちゃんと使えるやつよ」


「もしものときに、困ってほしくなかったから」


 陽菜はそっと箱を手に取った。その手の上に、沙耶が自分の手を静かに重ねた。


「いい? 高校の三年間って、本当にいろんなことがあるの。恋や悩み、勉強も、人との距離も……それに、陽菜ちゃんとエレナちゃんみたいに“想い”を敏感に感じられる人は、他の誰よりも心が揺れやすいと思う」


「一日は長く感じるのに、世界から流れてくる情報はすごく速いの。気づいたら、一か月前の自分が子どもに思えるくらいに、変わっていくのよ」


「だからね。こういうことも、“大切なこと”として、身につけておいたほうがいいと思ったの」


 沙耶の声は優しくて、どこまでも真剣だった。

 押しつけがましさもなく、重苦しさもなく。あくまで、“当たり前のこと”として。


 陽菜は、小さく呟きながら、その箱を机に置いたバッグの奥にそっとしまった。

 沙耶が、最後に笑って付け加えた。


「でも……ご両親には見つからないようにしてね? たぶん、神経質になっちゃうと思うから」


 そのひそひそ声に、エレナが思わず口を挟んだ。


「わぁがりゅー!」


 またしても口いっぱいに食べ物を詰めたまま、何かを叫ぼうとするものだから、声はモゴモゴとしか聞こえない。


 沙耶は微笑みながら言った。


「エレナちゃんは花より団子だね」


 陽菜がエレナの代わりに言う。


「一応、妖精の時も食べられるらしいんですけど、どうも苦みしかないらしくて……」


 エレナがうんうんと頷きながら言う。


「うんうん、だぎゃらいばのうぢにだべりゅ~の」


 陽菜と沙耶は、そんなエレナの姿に吹き出して、腹を抱えて笑った。


 ――そのときだった。


 ドン、と空気が震える音とともに、夜空に大きな花火が咲いた。

 目の前で開いたそれは、まさにアリーナ席の迫力。網戸越しに開け放たれた窓からは、外の歓声まで聞こえてくる。


「わあ……」


 陽菜が見上げた空に、次々と光の花が咲いては散っていく。

 沙耶は立ち上がって冷蔵庫から追加のビールを取り出し、プシュっと開けた。


「屋上、行く? ちょっと人多いかもだけど」


 缶ビールを口に運びながらそう言う沙耶に、陽菜はゆっくり首を横に振った。


「ううん。……できれば、沙耶さんとエレナと、三人だけで見ていたいな」


 その言葉に、沙耶はふっと笑みを浮かべて、頷いた。

 陽菜は静かにベランダに出て、夜空に咲く大輪の花火を見上げる。

 エレナは花火を横目に見ながらも、部屋で相変わらずモグモグと食べ続けていた。


 光と音に照らされながら陽菜は、その風景を静かに見つめ、そっと思った。


(こんな時間が、ずっと続けばいいのに)


 けれど、そんな願いさえも裏切る波乱万丈な運命が、陽菜とエレナに待ち受けていることを、まだ誰も知らなかった――。

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