表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/99

第26話:エレナの獣人化と少女の想い②

「来るよ……」


 陽菜が小さく呟いた、そのとき。


 ──バチッ。


 低い電流音とともに、路駐車両の後ろから黒い影が現れた。どうやら交差点付近から出てきたようだ。

 その影は徐々に輪郭を持ち、やがて骸骨──スケルトンの姿へと変わる。頭蓋にはひびが入り、目と口からは血のような赤黒い液体が溢れていた。

 首からは、鎖につながれたナンバープレートがぶら下がっている。そこには、真紅の文字で”想 47-71”の番号が浮かび上がっていた。


「変態おやじ、木の化け物、ムカデ、バカ女の次はオメーか……」


 陽菜は苦笑しながらぼそりと呟く。


「はぁ? 47-71って、なにそのセンス。あほかっ!」


 もう陽菜には、ツッコミを入れる余裕すらあった。それほどまでに、戦い慣れていた。


『自分は悪くない……悔しい……死にたくなかった』


『あのとき……どうして……お家に帰りたい……』


 エレナが目を細めて呟いた。


「これは……未練の”想い”だよ」


 形を持つほど強くこびりついた感情。それがこの存在だった。


「感情が、固まりすぎてるの。会話は無理かもしれないね」


「ってことは、この妖の想いを叩き起こすか、ぶっ倒すしかないってことね」


 エレナの言葉に、陽菜は淡々と応じた。


「なら……ウチらがデスる前にぶっ潰す」


 陽菜のその言葉を聞いたスケルトンは、陽菜に向かって、まっすぐに手を伸ばしてきた。 


「陽菜、避けて!」


「ほいっ……」


 陽菜は軽く身をかわした。アスファルトが砕け、粉塵が舞い上がる。


 すかさずエレナが動いた。

 緑色に光る刃を生み出し、陽菜に振り下ろされたスケルトンの骨の腕を斬り落とす。


 バキン──!


 骨が砕ける音。腕が地面に転がり、スケルトンは呻きながら後退した。

 その足音ひとつで、周囲にまた粉塵が舞い上がる。


「おーーー! パチパチパチパチ!!」


 陽菜は拍手を送りながら歓声を上げた。


「獣人化するとエレナ強いじゃん。そんな技出せるんだ」


 陽菜は驚きと興奮を交えて言った。獣人化自体は何度も見ているが、実戦を見るのは初めてだった。


「なんか、エレナだけで倒せそう」


 陽菜の言葉に、エレナは腰に手を当てて、得意げにふんって鼻を鳴らした。

 だが、陽菜がそっと声をかける。


「でもさ、ちょっとは怖がったりしようよ……かわいそうじゃん、あいつ」


 なぜか、スケルトンに同情する陽菜。


「してるよ、ちゃんと。でも、陽菜より前に立つのは当然でしょ~?」


 エレナがさらっと言うと、陽菜は思わず目を丸くした。


「なにそれ……やだ、エレナ、ちょっとかっこいいじゃん」


 陽菜がそう言うと、エレナは親指を立てて、再び、ふんって鼻を鳴らした。


 陽菜はふっと笑った。

 

(獣人化しても、こういうところは変わらない……エレナらしいな)


 だが、“想い”はまだ終わっていない。

 切断されたスケルトンの腕は、再び光を纏い、身体に戻っていく。


 悔しさや怒り、事故への恐怖が混ざり合った声が、周囲に響く。


『どこにも行けない……置いていかないで……!』


 陽菜がそっと手を差し出す。掌が白く光り、そこから帯のような光が放たれる。


 その光は宙を舞いながらスケルトンの身体を絡め取り、強く縛りつけた。

 苦しげに暴れるスケルトン。腕がぶつかるたびに、近くのビルが崩れ落ちていく。

 やがて、スケルトンは倒れ込んだ。


「じゃあ、ウチが聞く。……アンタの気持ち、ちょっとだけ、教えてよ」


 陽菜が言うと、エレナが呼応するように呟いた。


「……行こう、陽菜。」


 そう言って、ふたりはスケルトンのナンバープレートに手を触れた。


 その瞬間、景色が一変する。


 真っ白な空間。そこは、怪物となった少女の“心の中”。

 投影される映像のなかで、雨が降る交差点が浮かび上がる。音はなく、空気は重たく湿っていた。


 陽菜とエレナはまっすぐ前を見据える。その視線の先には、ぽつんと一人の少女が立っていた。

 小学校高学年くらいかと思われる。赤信号で信号待ちをしていた。


 陽菜は、何も言われなくてもわかった。


 コンビニのビニール袋を持っていた。近くに住む子なのか、両親から買い物を頼まれていたんだろう。

 やがて信号が青に変わり、少女は買い物袋を手に渡りはじめる。

 鼻歌を歌いながら──何の疑いもなく、楽しそうに。


 そのとき。黒塗りの高級車が、突如現れて少女へと突っ込んできた。

 その少女が、驚いたように目を見開いている。


「……あぶない!」


 陽菜が叫んだ。だが、これは記憶。過去に起こった”どうしようもなかった”場面。

 陽菜は目をふさいだ。


 少女は衝撃とともに倒れた。倒れた少女の周囲に、赤い液が雨に混ざって広がっていく。


 車から男が降りてきた。顔は見えない。その男は周りを見渡して、誰もいないことに気付くと

 運転席に戻って、走り去っていった。


「逃げるな!卑怯者っ!」


 陽菜は叫ぶがどうしようもできない。

 ──雨の中、少女は一人、交差点に倒れていた。


 その光景が消え、再び真っ白な光が空間を包む。

 意識が戻ると、スケルトンとなった少女の“想い”が、静かに横たわっていた。


「……悔しかったんだね」


 エレナが静かに言った。


「それ、ウチが受け止めるから、帰ろう」


 陽菜は涙を浮かべながら、優しく語りかけた。

 スケルトンの身体はやがて光の粒となり、ふわりと宙に舞い消えていく。


『お姉ちゃんたち……ありがとう。もう苦しまないよ』


 少女の声がそう告げると、光とともに想願空虚は消滅した。


 気づけば、ふたりは元の繁華街に戻っていた。

 ビルも道路も壊れておらず、誰一人怪我もしていない。


「終わった、かな」


「うん。あの子の想い、ちゃんと帰れたと思う」


 ふたりは顔を見合わせて、ふっと微笑み合った。


 陽菜は、少し先にある交差点へ走っていった。事故のあった場所だ。

 電柱には、花とジュースが供えられていた。


 そして、電柱に貼られた看板に目をやる。


 <〇月×日 この場所で歩行者と車のひき逃げ事故が発生しました>

 <目撃情報をお持ちの方は、警察までご連絡ください>


 陽菜の頬に、再び涙がこぼれた。

 生きたいという少女の想いを、ひき逃げと言う形で踏みにじった行為。


「47-71って生きたいって想いだったんだね……バカにしてごめんね……」


 同時に、自然と弟・悠真のことが脳裏に浮かんだ。悠真と同じ年頃の少女。

 もし、あの少女が悠真だったら──胸が締めつけられるようだった。


「エレナ……まだ、捕まってないみたい……」


「そんな卑怯者が生きてるなんて……ゆるせない……」


 拳を握りしめて、陽菜は言う。

 やがて、陽菜はその場にしゃがみこんだ。

 エレナが後ろから陽菜の肩にそっとエレナの手を置いて言った。


「陽菜……わたしたちにできるのは、ここまでなの」


 エレナの言葉の意味は、陽菜にも痛いほど分かっていた。想いで犯人を追い詰めることはできない。

 警察にだって、きっと信じてもらえない。だからこそ、無力で、悔しかった。


 エレナも並んでしゃがみこみ、ふたりはそっと目を閉じて手を合わせた。

 そのまま静かに数秒が流れる。


 やがて、エレナが目を閉じたまま、ぽつりと呟いた。


「でもね、陽菜がちゃんと“聞いた”から。あの子は、もう一人じゃないよ」


 少しだけ風が吹いた。

 どこからか、かすかに小さな笑い声が聞こえた気がした。少女の声。優しい、やわらかい声。


 ──泣いてくれてありがとう。もう、大丈夫だよ


 ふたりは立ち上がり、歩き出す。

 喧騒の戻った繁華街に、小さな足音が重なって響いていった──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ