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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第25話:エレナの獣人化と少女の想い①

 彩華との一件以来、再び蓮とは少し距離が遠のいた感じになってしまった。

 とはいえ、メッセージのやり取りは普通に続いている。


 ただ、”会いたい”にまでは、なかなか結びつかない。

 夏休みは暇なはずなのに、”忙しい”と返しているのがいつものパターンだった。


 叩かれた頬のあざも、もう目立たない。

 けれど一応、陽菜は外に出るときファンデーションで隠している。ちょっとだけ、まだ気になっていた。


 夕食とお風呂をすませ、まったり部屋でくつろいでいたそのとき──

 ふいに、エレナが声をあげた。


「陽菜~。今日、そろそろだよ」


「……エレナの“獣人化”のこと?」


 満月の日、エレナの姿は一時的に“獣人”に近づく。その理由は分かっていない。けれど、本人は毎回けっこう楽しそうだ。そしてなにより、ほかの人間にも見えるのだ。


「どこ行く~?」


 エレナがウキウキしながら訊いてくる。


「ん? どこって、明日の夜は沙耶さん家で花火鑑賞でしょ?」


 それは以前、沙耶に誘われた件だった。

 彼女の住むマンションは花火大会の打ち上げ会場に近く、当日は屋上が開放されるらしい。


「昼のことだよ、お昼。どこ行くか~って!」


「げっ!!」


 陽菜は露骨に口をへの字に曲げ、ジト目でエレナをにらんだ。

 昼間にエレナが街を歩けば、声を掛けられる。それは嫉妬心すら芽生えるほどだ。


 そんな陽菜の心の内も知らず、エレナは唐突に言った。


「アイス食べたい!」


 妖精のときは何も食べないくせに、獣人化しているときだけはなぜか飲食ができる。不思議な体質だ。


「うん。お腹壊さない程度にね」


 陽菜は小さく笑いながらそう返す。

 するとエレナが、ふと陽菜の顔を覗き込むようにして聞いた。


「ねえ、花火は蓮、誘わないの?」


「こういうのは女同士が一番いいんだよ」


 そう答えた陽菜の声は、ちょっとだけ強がっていた。

 本音を隠すように、あえて明るく言ったつもりだったけど──


「ん~~。そうなの? でも、それもいいかもだね」


 エレナは陽菜の気持ちを察したように微笑み、言い直した。

 陽菜がすかさず質問する。


「でも、エレナってどうやって変身するの?いつも見してくれないんだよなー」


「見たいの? えー、恥ずかしいからダメーっ!」


「ケチッ!」


 陽菜が頬を膨らませると、エレナはニヤニヤしながら小声で囁いた。


「じゃあ今度、蓮と“する”時、見せてくれる~?」


「蓮とするかはわからんが、ぜってー見せねーし!!」


 即答だった。

 ……が、陽菜はエレナが見せたがらない理由も、なんとなく察した。


 そんなエレナが、どこか寂しそうに言った。


「えー、陽菜の“愛し合ってるとこ”見てみたいのに。きっと可愛い顔と、可愛い声なんだろうな」


 陽菜はムッとして、エレナに言い返す。


「変態! エロ妖精!!」


 しかしその抗議は、エレナの耳には届かない。

 すり寄るように陽菜の頬に顔をくっつけて、甘ったるく囁いてきた。


「でもさ、陽菜のそんなとこ見たら、わたし、萌えちゃうかもな」


 それは、エレナ自身の身体への興味でもあった。


 翌朝、どこか遠くから聞こえる声が、爆睡中の陽菜を現実に引き戻す。


「陽菜、朝だよ、朝だよ」


 うっすらと目を開け、飛び込んできたのは、息をのむほど綺麗で可愛い女性だった。


 青白く透けるような長髪。タイトなTシャツにカーゴパンツ。

 引き締まった腰から、ちらりとのぞくおへそ。


 それは、獣人化したエレナだった。


 ほどよく大きな胸。きゅっと締まったお尻。すらりと伸びた脚。シミひとつない白い肌。パッチリとした瞳。自然な笑顔。

 服装も相まって、まるで韓国系アイドルグループのスタイリッシュなビジュアルに見えるが——いや、それ以上だった。


 陽菜が嫉妬する理由。そして“獣人化”という言葉で、現実逃避したくなる気持ちの正体。

 そのすべてが、目の前にあった。


 陽菜は、開口一番、呆れたように呟いた。


「嫌味かよ……もー、まだ眠い~……」


 そう言って、エレナに背を向け、ふてくされたように寝返りを打つ。

 すると、エレナは口元に笑みを浮かべながら、身をかがめてそのまま陽菜の布団に潜り込んできた。


 猫のような手つきで、背中越しにトントンと肩をたたく。その姿は、まるで招き猫だ。

 陽菜がそっと振り返ると、エレナは笑顔で、手を差し伸べてくる。


「えへへへ……。ぎゅってしてあげる」


 陽菜はそのままエレナの胸に顔をうずめ、ぎゅっと抱きついた。

 エレナも優しく腕をまわし、そっと抱きしめ返す。陽菜の頭を、子どもをあやすようにやさしく撫でた。


「やわらかい……いい匂い……」


 陽菜は、まるで甘える子どものように呟く。

 そして、その胸から響いてくる心音に耳を傾ける。想いから生まれた存在にも関わらず、確かに“鼓動”を感じられることに、不思議な安心と神秘を感じていた。


「この前、ぎゅってしてあげられなかったからね~」


「じゃー、このままずっと、ぎゅっとしてて」


 陽菜は動かない。

 エレナの胸にうずめたまま、静かに呼吸をそろえていく。


 微笑みながら撫で続けるエレナの姿は、まるで年上のお姉さんのようだった。


 しばらくして、ふたりはリビングに降りてきた。そこには、結衣と康太の姿があった。

 朝の挨拶を交わすと、康太がエレナを見て、ふと口にする。


「ああ、今日は満月だったか」


「うん、そうだよ」


 エレナはにっこりと微笑みながら、素直に頷いた。


「エレナ姉ちゃん、おはよー!」


「悠真、おはよう~」


 悠真が元気よく挨拶すると、エレナもにこやかに応じた。

 そのまま勢いよく飛び込むように、エレナにぎゅっと抱きつく悠真。


 エレナは少し驚きつつも、優しく微笑みながら彼の頭を撫でてやった。


 その様子を見ていた陽菜は、ジト目を向けながら、心の中でぼそりと呟く。


(……このエロませガキが)


 魂胆バレバレのその行動に、陽菜はほんの少し距離を置いて眺めていた。


 結衣と康太から、お小遣いをゲットしたふたりは、電車に乗って繁華街へと向かった。

 アイスを食べ、映画を観て、コスメショップをのぞきながら、楽しい時間を共有する。


 陽菜は、スキを見つけてはエレナと肩を寄せ、スマホでぱしゃり。

 画面に映るふたりは、どれも仲の良さがにじむ笑顔ばかりだった。


「んー、どれもかわいい……」


 嬉しさ半分、ほんの少しの嫉妬が胸をかすめる。

 ──エレナは、やっぱり絵になる。自分も一緒に写っているのに、主役は彼女だと分かってしまう。


 そんな時だ。

 人波のざわめきに混じって、妙に軽い笑い声が近づいてくる。

 視線を感じた次の瞬間、チャラついた男たちがふたりの行く手をふさぐように立ちはだかった。


「ねえねえ、そこのキミたち~、今ヒマ? ちょっと話そうよ」


「すげー可愛いね。モデルみたい。写メとか撮らせてよ?」


 ──またか。

 エレナと一緒の時は、ほぼ毎回こうだ。

 陽菜は一歩引いて呆れているが、エレナは立ち止まってにこやかに言った。


「ごめんなさい。わたしたち、予定があるので」


 笑顔ながらも、ぴしゃりとした断りだった。

 だが男たちは引き下がらない。

 というより、明らかにエレナを品定めしていた。


「えー、そんな冷たくしないでよ」


「ほんと可愛いね、君。ハーフ? モデル? てか、一緒に遊ぼうよ」


 エレナは苦笑いで軽く首を振った。


「ほんとに用事があるの。ごめんなさいね」


 男たちが少し苛立ちを見せたそのときだった。


「……なにそれ、感じ悪」


 片方の男が、エレナの隣にいた陽菜に手を伸ばし、無理やり肩を掴んだ。


「だったら、こっちの子でもいーじゃん。な?」


「離せよ、クソが……っ!」


 陽菜が睨んで言ったその瞬間だった。

 風のような早さで、エレナが一歩踏み込む。


「……その手、離してもらえますか」


 その声は、氷のように冷たかった。


 男が振り返った瞬間、エレナの手が男の手首を正確に掴んだ。

 そして、無理のない動きで身体をひねると──


「うわっ、ちょっ、いっててて……!」


 地面に引き倒すことなく、バランスだけを崩させ、男の腕をひねる形で完全に制圧した。

 通行人たちが足を止めて、周囲がざわつく。

 もう一人の男があわてて助けようとしたが、エレナがちらりと睨むだけで怯んだ。


「この子に触れないで。二度と」


 その言葉には、有無を言わせぬ威圧があった。

 やがて、掴まれていた陽菜の肩から男の手が外れる。


「くそっ……なにこれ、やば……!」


 男たちは捨て台詞を吐いて逃げていった。

 通行人の視線がやがて散っていくなか、エレナは静かに息をつき、いつもの笑顔に戻る。


「陽菜、大丈夫?」


「サンキュ。問題ナッシング」


 そう答えつつも、陽菜は頬を膨らませて呟く。


「あー、でも、マジむかつなー。いっつもエレナが目的じゃん。ウチは付属じゃんか」


 そう。

 人間の姿になると、エレナはとにかく強い。

 護身術、対応力、冷静さ、どれもトップレベルで、まるで専属ボディーガード。

 ただ、ひとつだけ困ることがあるとすれば、彼女のあまりの“見た目の魅力”が、常に余計なトラブルを呼び寄せてしまうということだった。


 そんな中、近くに停められていた一台の路駐車両あたりから、不意に低く唸るような音を立てた。

 陽菜とエレナは、同時にそちらへ顔を向ける。


「……やっぱ、今ので共鳴したよね」


「うん。あの車か、その後ろの交差点あたり……来ちゃうかも」


 短く言い交わすと、ふたりはすでに構えていた。


 次の瞬間──空気がぐにゃりと歪み、一気に想願空虚が広がった。


 街の喧騒が、音を吸い込まれるようにして消えていく。

 人々の姿も、ビルの灯りも、すべて夕焼け色の霞のなかに沈んでいった。


 エレナと陽菜は背中合わせに立ち、慎重に周囲を見渡した。


「来るよ……」


 陽菜が小さく呟いた──。


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