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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第24話:エレナの危機……そして③

 陽菜は落ち着きを取り戻した。


 だが、あまり猶予はない。陽菜とエレナは仰向けに倒れている彩華の前に座っていた。

 エレナの体が、ほのかに緑の光を放っている。陽菜は彩華の胸にそっと手を当てた。


 その瞬間。二人は、真っ白な空間に立っていた。そこは彩華の心の奥──想いの広間。


 少し離れた場所に、膝を抱えて座り込んでいる幼い少女がいた。

 体育座りのまま、うつむいているその子は、幼いころの彩華だった。


 陽菜が静かに歩み寄る。彩華が顔を上げ、不安そうな瞳で問いかけた。


「……だれ?」


 陽菜は優しく笑った。


「おいで。帰ろう、一緒に」


 彩華は目を伏せ、小さく呟いた。


「ううん。あたしは、お姉ちゃんたちに負けたの。悪いお化けに……」


 その言葉に、陽菜は首を振った。


「ちがうよ。心配しなくていい。ウチもエレナも、ずっと味方だよ」


 そう言って、陽菜は自分の胸に手を当て、ひとつの“想い”の欠片を取り出した。

 それは、まばゆい白にきらめく、小さな五色(ごしき)の光。


「ウチの想い……受け取って」


 彩華は、おそるおそる手を伸ばし、その白い欠片を胸に抱いた。

 そして目を細めながら、そっと呟く。


「これは、清浄と真実、西方を表す、平和と安らぎの想い」


 言葉とともに、彩華の胸元にも光が灯った。

 それに呼応するように、彼女の中からもうひとつの色があふれ出す。


「あたしの想いは“青”。成長、精神、治癒を象徴する、東方の色」


 それを聞いたエレナが、微笑んで頷いた。


「うん。知ってたよ。彩華の中には、ずっとその色があるって」


 陽菜も、頷いた。


「ウチと彩華は、同じだよ」


 その言葉に、彩華は顔を上げた。そして、両手を伸ばし、陽菜とエレナの手をそっと握った。

 三つの手が、しっかりとつながった。色と色が重なり、やわらかな光が静かに広がっていく。


 その瞬間──

 ふわりと、白い光がほどけるように消えていき、陽菜とエレナは現実へと戻ってきた。


 倒れていた彩華の胸が、ゆっくりと上下する。

 彼女は、苦しげにひとつ咳き込み──そして、静かにまぶたを開いた。


「……ん……」


 瞳はまだぼんやりしていたが、そこには確かな光が戻っていた。

 彩華は陽菜とエレナを見つめ、かすかに微笑む。

 そして、まるで赤子のようにすやすやと眠りについた。


 陽菜が、静かに立ち上がる。


「沙耶さん、蓮、これでもう大丈夫」


 その言葉に、皆がほっと息をついた。どこかで風が、緩やかに吹き抜けていった。


 ------


 彩華は陽菜の部屋のベッドに寝かされていた。布団の中で静かに眠っている。

 陽菜は部屋着に着替えて、ベッドのそばに座っていた。沙耶も同じ部屋にいる。


 蓮はというと、自分にできることは限られていると悟っていた。いまは、陽菜の腫れた頬をどうにかしてあげたい──

 そう思って、ドラッグストアへ薬を買いに出ていた。


 母・結衣には陽菜と沙耶が事情を説明した。

 最初は陽菜の顔の腫れに驚いた結衣だったが、二人の話を聞いて、すぐに落ち着きを取り戻した。

 そして微笑んだ。まるで、自分の青春時代を思い出すように。


 沙耶は陽菜の部屋の隅に座り、ぽつりと呟いた。


「お母さん、強いのね」


 陽菜は少し驚いて、苦笑する。


「そうですかね? 事件のときは、泣いてましたけど」


 沙耶は軽く首を振った。


「それは、相手が得体の知れない連中だったからよ。怖くて当然だもの」


 そんな他愛もない会話をしていたとき、インターホンが鳴った。

 蓮が帰ってきたのだろう。


 下から結衣の声が届いた。


「陽菜ー、蓮くん来たよー」


 だが、陽菜は立ち上がろうとしなかった。部屋にこもったまま。

 沙耶が小さく尋ねる。


「いいの?」


 エレナも心配そうに顔を寄せる。


「陽菜。会いにいってきたら?」


 陽菜はゆっくり首を横に振った。


「んーん。今はちょっと……頭の整理がつかない」


 沙耶はその様子を察して、優しく頷いた。


「そうね。今はやめておいたほうがいいかもね」


 そのとき、結衣が二階まで上がってきて、そっとドアをノックし、顔を出した。


「陽菜、蓮くん来てるよ」


 沙耶がすかさず立ち上がり、結衣に向かって頭を下げる。


「すみません、少しだけ……」


 結衣は沙耶の言葉を受け取って、やさしく微笑み、そっとドアを閉めた。


 階下に戻った結衣は、玄関先に立つ蓮に声をかけた。

 蓮は心配そうな顔をしていた。


「ごめんね。陽菜、お風呂入ってるみたいで……」


 蓮はその言葉の裏にある気遣いをすぐに感じ取った。

 ──陽菜は今、会いたくないんだろう。


 けれど、それでも伝えなければならないことがある。

 結衣に頭を下げて、蓮は口を開いた。


「お母さん……陽菜ちゃんを叩いたの、自分なんです。本当に、すみませんでした」


 叱られて当然だと思っていた。けれど、結衣の返事は意外だった。


「うん。陽菜から全部聞いたよ」


「気にしなくていいよ。人間なんだから、ムカつくことだってあるじゃん」


「陽菜はまだ子どもなの。だから、多感なのよ。でもね、蓮くんの気持ちは、きっと伝わってる」


「嫌いにならずに、待ってあげて」


 蓮は、その言葉に少しだけ肩の力を抜いた。

 けれど、後悔の念が消えるわけではない。


 結衣はそんな蓮の肩を、ぽん、と叩いた。


「男が、ヘナヘナしてどうするの。びしっとしなさい」


「……陽菜に、また会ってあげてね」


 蓮は大きく頷き、深々とお辞儀をして帰っていった。


 ――その会話を、陽菜は部屋でそっと聞いていた。

 クッションを胸に抱えて、じっと耳を澄ませていた。

 やっぱり、どこかで気にしていたのだ。


 そのとき、彩華が目を覚ました。


 ベッドの上で、ゆっくりと身を起こす。

 沙耶がすぐに駆け寄る。


「大丈夫?」


 彩華は、少しだけ俯きながら答えた。


「……はい。大丈夫です」


 陽菜は、目を合わせないまま黙っていた。

 だが、彩華はまっすぐに彼女を見て言い放つ。


「……一応、礼は言っとく。助けられたのは事実だから」


 陽菜は少し間を置いてから、静かに返す。


「……礼なら、ウチじゃなくて、沙耶さんとエレナに言って。あんたが生きてようがどうでもよかったし」


 彩華は深く頭を下げた。沙耶はやさしく笑って受け止め、エレナは腰に手を当てて、ふんっと鼻を鳴らした。


「陽菜、もういいでしょ。仲直りしなよ」


 エレナはそう言って、彩華と陽菜の手を取り、間に割って入った。三人の手がつながる。

 陽菜は驚いたようにエレナを見たが、何も言わなかった。彩華も、目を伏せて吐き捨てる。


「……こんな茶番、二度はごめんよ」


「こっちも、次は助けない」


 二人の間に、ピリッとした火花が散る。

 だがその張り詰めた空気を、沙耶がふいに破った。


「なにそれ、どっちも素直じゃないくせに、仲良さそう」


 エレナも笑いながら頷く。


「ほんっと、めんどくさい二人だよね~」


 慌てて二人が否定した。


「はあ!? ウチのどこが!」


「やめて。そういうの一番ウザいんだけど」


 エレナがゲラゲラと笑い出し、沙耶もつられて吹き出す。

 二人の笑いに、彩華と陽菜も思わず視線をそらし、小さく肩を震わせた。


 ──二階から聞こえるその笑い声を、結衣は階下でそっと聞きながら、安心したように息を吐いた。


 その後、彩華は自宅へ帰ることになった。

 結衣に丁寧にお礼を言い、玄関を出る。陽菜は門のところまで見送りに出た。


 しばし沈黙のあと、彩華がぽつりと呟く。


「……その……そんな傷まで負わせちゃって……ごめん……」


 陽菜は少しだけ微笑みながら答えた。


「もう気にしなくていいよ」


「……いつか借りは返すから」


 彩華はそう言いながら、手を差し出す。陽菜も手を伸ばし、ふたりは握手を交わした。


 部屋に戻ると、沙耶も帰る支度をしていた。エレナが名残惜しそうに言う。


「沙耶さん、帰っちゃうんだって。ごはん一緒に食べればいいのにって話してたのに」


 沙耶は笑いながら断る。


「これ以上、ご迷惑はかけられないわよ」


 陽菜は改めて頭を下げた。


「本当にすみません。沙耶さんにはご迷惑かけっぱなしで……服にまで血をつけてしまって……」


 沙耶は首を横に振って、陽菜の言葉を遮った。


「こんなの、大丈夫よ。それより──陽菜ちゃんのほうが、ずっとつらかったはず」


 陽菜は少し目を伏せて、黙って頷く。

 沙耶はそっと微笑んで、肩にバッグの紐をかけた。


「……じゃあ、行くね」


 陽菜は玄関まで見送ろうとして、ふと足を止めた。


「沙耶さん」


 呼び止める声に、沙耶がくるりと振り返った。

 陽菜は少しだけ視線を落としたあと、ぽつりと呟いた。


「……なんか、いっぱい助けてもらって……ごめんなさい」


 沙耶は、ふっと柔らかく笑った。


「謝ることなんて、ひとつもないわよ」


 二人はそのまま玄関へ向かい、陽菜は門の前まで出て見送る。

 沙耶の背を見送りながら、陽菜は静かにその場に立ち尽くした――。

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