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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第23話:エレナの危機……そして②

 彩華は、公園の地面に仰向けに倒れていた。意識はない。

 その姿を見つめながら、陽菜は絞り出すように言った。


「……嫌だ」


 それはただの拒絶ではなかった。

 エレナをあんな目に遭わせた……その一点だけで、許せないという“決意”の表れだった。


 蓮が口を開く。


「どうしたんだよ……なんで、助けようとしないんだ?」


 陽菜は振り返り、怒気を含んだ声で言った。


「そもそもコイツ、誰なんだよ! なんでウチらのこと知ってるんだよ!? ……蓮、あんたとどういう関係なんだよ!!」


 蓮は一瞬言葉を詰まらせたが、しっかり答えた。


「彩華は……俺の友だちなんだ。家が、代々こういう術を扱ってる家系みたいだから……」


「だから相談したんだ。妖精や想いのこと……理解できるかもって思って……。ごめん……余計なこと、したかもしれない」


 陽菜はその言葉に一切同情を見せなかった。


「……そう。でも、だからって嫌なもんは嫌だ!」


「エレナはウチの家族だよ。大切な家族を、こんな目に合わせたヤツを、どうして助けなきゃいけないの!?」


 蓮が食い下がる。


「でも……エレナは無事だったじゃないか!」


 だが陽菜は即座に叫ぶ。


「”無事ならいい”って問題じゃねーんだよ!!」


「手ぇ出された。それだけで十分なんだよ!」


 陽菜の言葉に、蓮の拳が震えた。


「陽菜……」


 反論したかった。でも、どう言えばいいのかわからなかった。

 すると、陽菜がさらに言葉を重ねる。


「それでいいの!? お父さんとお母さんが亡くなったときも、それで納得できたの!?」


「エレナは、ウチにとって……大切なんだよ!」


 その目に、怒りと涙が入り混じる。


「鬼退治がしたいなら、コイツと勝手にやってろよ! セックスでもなんでも好きにすりゃいいだろ!!」


「一生、好きなだけヤリまくってろ!!」


 陽菜はさらに言った。


「こんなヤツ、もっと苦しんでくたばればいいんだ。そうなんだ!」


「デスる前にぶっ潰す! そうでしょ……」


 蓮の表情が凍った。

 唇をかみ、そして次の瞬間、陽菜の頬に音が響いた。


 ビンタだった。


 陽菜の目が見開かれた。驚きと戸惑いと一瞬の静寂。

 沙耶とエレナも、目を見張った。


 陽菜は頬に手を添えながら、声を上げた。


「……なにすんだよ!!」


 その蓮は、顔を伏せたまま、ビンタした手をもう片方の手で押さえていた。

 その姿を見た瞬間、陽菜はすべてを理解した。

 痛かったのは、叩かれたことじゃない、自分が言った言葉が、蓮を深く傷つけたことだった。


 蓮が、両親を亡くしたときのこと。命の重さを、子どもの頃から知っていたこと。

 今までどれだけ、そうした苦しみの中で生きてきたのか。

 陽菜の瞳から、涙がこぼれ落ちた。憎しみじゃない。誰かへの怒りでもない……自分自身への情けなさ。


 蓮に甘えてばかりだった自分。醜い嫉妬心。狭い心。どれだけ、ひどいことを口にしていたか。

 ぽたぽたと、大粒の涙が止まらない。そのとき、鼻の奥から血が一筋、流れ出した。

 涙と混じった鼻血が服に染み込み、自分の胸元を赤く濡らしていく。

 それが、自分の醜さの証のように思えた。


 その様子を見たエレナの目にも、うっすらと涙が浮かんでいた。


「……陽菜」


 名前を呼ぶその声は、静かで、どこまでも優しい。

 陽菜は肩を震わせながら、声にならない声で泣き続けた。


 でも──それでも。


 心の奥で、消えない感情があった。

 エレナを傷つけたことだけは、どうしても許せない──

 狭くていい。子どもっぽくていい。嫌われたって構わない。それでも、その想いだけは、変えられなかった。

 陽菜はしゃがみ込んだまま、ぼろぼろと涙をこぼす。嗚咽がとまらない。


 やがて、ふとこぼれたのは、かすれた声だった。


「うう……なんで、コイツには手を出さなくて、ウチは叩くの……?」


「そんなにウチが、嫌い……?」


 それは、学食での出来事だった。蓮は彩華には手を出さなかった。

 でも、それは違う。蓮は”彩華に手を出さなかった”のではなく、”彩華に手を出させないようにした”のだった。

 頭ではわかってる。でももう、自分でも気持ちが抑えられない。心の奥から、わけのわからない怒りと痛みがあふれ続けていた。

 言葉が勝手に出てくる。陽菜の心はもう、ぐちゃぐちゃだった。


 涙がとめどなくあふれて、胸の奥が壊れそうに痛かった。


 そんななか、エレナが、そっと陽菜の顔に寄り添ってきた。

 小さな手で陽菜の頬に触れ、涙をこぼしながら言う。


「陽菜、ありがとう。本当はね、いっぱい抱きしめてあげたい。でも……小さい今のわたしは、これくらいしかできない……」


 その声は震えていた。けれど、はっきりと、まっすぐに届いてくる。


「でもね、陽菜。わたしは、いつだって陽菜の味方だよ」


 沙耶もそっと陽菜に寄り添ってきた。静かに、けれど強く抱きしめてくる。

 陽菜の鼻血が沙耶の服に染みていくのも構わず、沙耶はそのまま陽菜を包み込んだ。

 陽菜はほんのりと温かいぬくもりを感じていた。


 やがて沙耶が、そっと囁くように言った。


「陽菜ちゃん……落ち着いて聞いて。いまは、陽菜ちゃんにできることをやろう? エレナちゃんと、いっしょに」


 その言葉に、エレナも小さく頷いた。


「陽菜。……いっしょに助けよう。きっとそれが、いい結果につながると思う」


 エレナのまっすぐな目。沙耶の包み込むような声。


 陽菜の中で、少しずつだが、感情の整理がつき始めてきた。

 もう、ぐちゃぐちゃだった心が、やっと“前に進む”ほうへ傾きはじめた。


 沙耶は陽菜の顔をじっと見つめると、涙と鼻血でぐしゃぐしゃになった頬を、そっと手でぬぐってやる。


「……よし、綺麗になった」


 エレナも、小さな手で懸命に陽菜の涙をぬぐう。


「あらあら……これ以上泣いたら、可愛い顔が台無しよ?」


 くすっ、と沙耶が笑った。

 その軽やかな言葉に、陽菜の口元にもようやく、かすかな笑みが戻った。


 それを見て蓮も、ほっとしたように小さく息をついた。

 けれど、胸の奥にはどうしようもない痛みが残っていた。


(……俺は、結局、何もできなかった)


 手を上げることしかできなかった。陽菜の涙すら、ぬぐってやれなかった。

 理屈で動いて、自分の正しさを押しつけた先にあったのは、陽菜を傷つけただけだった。


 陽菜は陽菜なりに、思い悩んでいたのだ。迷って、苦しんで、それでも必死に何かを守ろうとしていた。

 そんな陽菜の心に、触れようとしなかった。気づこうとしなかった。

 ──いや、気づけなかった。


 自分の無力さが、今さらのように突き刺さってくる。それが、静かに、ずっと心に残り続けていた──。


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