表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/99

第22話:エレナの危機……そして①

 雨宮彩華は、陽菜とエレナの前に立ちはだかっていた。

 彼女の全身を覆うように、青い“揺らぎ”がゆらり、ゆらりしている。明らかに人ならざる気配。それを、二人は肌で感じ取っていた。


 蓮が声を荒げた。


「彩華、やめろ!彼女たちは無関係だ。エレナは俺たちの味方なんだ!」


 その言葉に、陽菜の眉が動いた。

 

(味方……?)


 彩華の視線が、陽菜へと鋭く向けられる。


「佐藤陽菜は関係ないと思っていた。だが、今は違う」


 陽菜は一歩前に出て言った。


「何が『今は違う』んだよ。どういう意味?」


「そこにいる者は妖の眷属。時と想いの狭間で力をつけた“もののけ”の化身」


 彩華のその声には、断罪者のような冷たさが宿っていた。


「最初はアンタが操られてると思った。でも、違う。お前が、その下僕を操っている」


 陽菜の声が低くなる。


「はぁ?……エレナが、下僕? ざけんなよクソが。エレナは妖精。ウチの家族だ。そんな呼び方、二度と言うな」


 だが彩華は、言葉を振り払うように言った。


「妖でも妖精でも同じだ。それは見る者の主観にすぎない。だが、日本に巣くうものなら、日本の術で浄化できる」


 そう言うと、彩華は九字を切り、空へと手を翳した。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行……急々如律!」


 その瞬間、空気が震え、周囲の空間が軋むように歪んだ。空が裂け、夕焼け色の想願空虚が現れる。


 陽菜と蓮があたりを見回す。

 目に映る光景は、これまでに見てきた想願空虚とはまるで違っていた。周囲をぐるりと険しい山々が囲み、目の前には巨大な岩壁がそびえ立っている。

 岩壁には無数のひび割れが走り、ところどころから淡く青白い光が漏れ出していた。


 そのとき、不意にエレナが肩を震わせた。

 呼吸が浅くなり、不規則に波打つ。その体から、かすかに淡い緑の光が滲み出していく。


「エレナっ!」


 陽菜が駆け寄る。


「テメー、何しやがった!?」


 すると彩華は一歩前に出て、淡々と告げた。


「ここは、あたしの”帳”。強い妖は暴れれば現実世界に被害が出る。だから、引き込んだ」


 そう言うと、彩華の口から異様な呪文が漏れ始めた。

 その響きは南無妙法蓮華経や般若心経とは異なり、空気が震え、周囲の空間に重い波動を生み出す。

 何か強大な力が世界に作用している感触があった。

 エレナは顔を歪め、苦しそうに言った。


「陽菜……気分がよくないよ……」


「エレナ! しっかりして!」


 蓮もまた、彩華に向かって叫ぶ。


「やめろ、彩華!! こんなことにしなくていい!」


 だが呪文の詠唱は止まらず、エレナの呼吸はますます荒くなった。

 宙を浮くエレナの身体は力を失い、ふわりと地面へと落ちていく。


「エレナぁっ!!」


 陽菜が滑り込み、彼女の身体を抱きとめる。ベンチまで運び、そっと寝かせた。


「てめー、いい加減にしろよ!!」


 陽菜は彩華を睨み、両手を構える。次の瞬間、白い光の帯が閃き、一直線に彩華へと放たれた。

 だが彩華はひらりとかわした。白い帯は地面に激突し、粉塵が舞い上がる。


「……デスる前にぶっ潰す!!」


 陽菜は構わず帯を繰り出し続ける。だが、そのたびに彩華は最小限の動きで回避する。


 やがて、彩華の手からも青い光の帯が放たれた。


「……っ!」


 陽菜は紙一重でかわし、交錯する光は想願空虚の岩壁や地面に窪みを刻み、そこから煙が立ち上っている。

 それでも彩華は呪文を止めず、詠唱が続くたびにエレナの息は荒くなっていった。


 ──そのとき。


「陽菜ちゃんっ!!」


 駆け込んできたのは、沙耶だった。陽菜の忘れ物の鍵を届けに来た途中で、この異空間を目撃し、走り込んできたのだ。

 エレナが見える沙耶もまた想願空虚を認識できる人物であった。


「沙耶さん!?」


 蓮が驚いて振り返る。ベンチにはエレナが息を荒くして横たわっていた。

 沙耶はすぐさま状況を把握した。

 呪文の響きを聞いた沙耶は、低く呟く。


「あの呪文、もしかして……六根清浄?でも……もっと強力で、魂そのものを引き剥がすような……」


 眉をひそめながら呟く。

 宗派や流派によって表現や解釈は異なるが、響きの根幹には確かに、魂を浄め、分離させる系統の力がある。それが、沙耶の直感だった。


「たぶん、派生形ね。だけど間違いない……」


 一拍置いて、彼女は確信を込めて言った。


「エレナちゃんは今、あの呪文で“五感”を奪われつつある!」


 やがて、彩華が次の呪文を唱え始めた。

 その呪文を聞いた沙耶が声を上げる。


「まずい……これ、光明真言じゃない!?」


 エレナの身体が強く緑に輝き出し、その輝きが粉のように空へと散り始める。


「エレナぁっ!!」


 陽菜が叫ぶ。


「……ガチでぶっ殺す!!」


 その瞬間、陽菜の想いが爆発した。怒りに突き動かされ、光の刃と帯を連続で繰り出しながら宙を駆けめぐる。

 崩れた岩壁や岩塊が砕け散り、粉塵が舞い上がって空間を満たした。

 想願空虚──想いで形づくられたこの空間では、現実の制約など通じない。

 陽菜の“想い”が強ければ強いほど、その動きは加速し、彼女は一気に彩華の懐へと飛び込びこうとする。


 対する彩華は、陽菜の攻撃をかろうじてかわしていた。動きには明らかな疲れが見える。


(この妖……なんて凄まじい“力”なの……!)


 彩華の胸の奥で焦りが膨らむ。

 いくら力を注いでも、エレナを浄化できない。刻一刻と、時間だけが彼女を追い詰めていく。


 陽菜の攻撃を見た沙耶は、援護するように手をかざし、彩華に向けて魔法陣を展開した。


「まるで、陰陽道と神道のハイブリットね。でも、今は……そんなことされたら、エレナちゃんが還れなくなるわ」


「時間がない、ちょっと力借りるわ。ここで使えるかはわからないけど」


 沙耶はそう言うと、掌から青白い光の矢を放った。彩華に向かって飛んでいく。


「ちっ……新手かっ!」


 彩華は回避するが、勢いに押されてよろめき、呪文の詠唱が止まった。


「今だっ!!」


 蓮が叫びながら一気に距離を詰め、全力で体当たりを食らわせる。


「やめろっ!!」


 肉体同士がぶつかり、彩華はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。

 その瞬間を逃さず、陽菜の放った光の帯が閃光となって空を裂く。


「いけぇぇぇ!」


 彩華の身体が宙を舞い、反動で後方の岩壁へと叩きつけられた。

 硬い音とともに、壁面にひびが走る。


 それと同時に、想願空虚が崩壊した。


 陽菜はすぐにエレナのもとへ駆け寄り、彼女の頬に手を添えた。


「エレナ……っ、大丈夫……?」


 エレナは静かに横たわっている。まだ意識はないが、呼吸はある。

 沙耶もそばに寄って確かめる。


「……体はしっかりある。想いも残ってる。大丈夫、きっと戻ってくる」


 そして、倒れた彩華に向かう。血を流しているが、致命傷ではなかった。だが、意識がない。

 蓮も駆け寄り、焦りの声を上げた。


「彩華!? おい、しっかりしろっ!」


 沙耶が落ち着いた声で言う。


「傷は浅い。でも──この子の“想い”が薄れていってる。魂っていうのは、想いと記憶の集合体だから……消えたら、死ぬのと同じ」


「陽菜ちゃんたちの力で、この子の想いを繋ぎとめないと」


 沙耶は、陽菜とエレナを見た。


 エレナはまだ眠っている。だが、次の瞬間、彼女の目がうっすらと開いた。


「……陽菜……?」


「エレナっ!」


 陽菜は涙を浮かべ、彼女の顔に手を添えた。

 エレナは、陽菜の手に頬をすり寄せる。


「……大丈夫、ちょっと疲れただけ。もう、平気」


 その光景に、沙耶も安堵の息をつく。


「エレナちゃんは大丈夫そうね。ちゃんと見えてる」


 蓮も頷く。


「俺にも、ちゃんと見える」


 沙耶は頷き、彩華へと視線を戻す。


「問題はこの子の方ね。いま意識が戻っていないの」


 蓮が陽菜に訴えた。


「頼む、陽菜。彼女を助けてくれ!お前の力なら、きっと彼女を助けられる!」


 だが、陽菜は──冷静な声で、はっきりと言った。


「……嫌だ」


 その言葉は、夕暮れの風に乗り、静かにあたりに響いた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ