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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第19話:妖精が見える女性②

 数秒の静寂。

 陽菜は、一つ気になっていたことを尋ねた。


「……その、警察からは……どうなったんですか?正直、母はあまり話したがらなくって……」


 沙耶は少しだけ視線を伏せてから答える。


「強制性交等未遂と、未成年者誘拐、もしくは未成年者略取を視野に捜査中と聞いているわ、未遂だから、身体的な被害がなかったことが、ほんとに幸いだった。けど、精神的な負担は、充分に“被害”だから。……警察の人たちも、真剣よ」


「……そっか」


 陽菜は、静かに息を吐いた。


 未遂で済んだ。それは、本当に運が良かったのだ。

 もしも、ほんの少しでも、遅れていたら。

 もしも、ほんの少しでも、声が届かなかったら。


 その”もしも”の隙間をすり抜けて今ここにいられることが、当たり前ではなかったのだと、改めて実感する。


「だからこそ、助けてくれた沙耶さんには……ちゃんとお礼を言いたくて」


 そう言って、陽菜はもう一度深く頭を下げた。

 横で、エレナも同じように礼をした。静かに、けれど真っ直ぐな感謝の気持ちを込めて。


(それに、あの場に駆けつけてきてくれた蓮にも……)


 陽菜とエレナ、そして沙耶は、あえて重い話題を避け、できるだけ明るい話をしていた。

 好きなコスメの話や、コンビニスイーツの話、エレナの髪型について……そんな取り留めのない会話が、かえって心地よかった。


 そんな中、ふと陽菜が口にする。


「……そういえば、沙耶さん。どうしてエレナのこと、見えるんですか?」


 それは、ずっと気になっていたことだった。

 沙耶は少し目を細めて、ゆっくりと首を傾げる。


「私もね、妖精が見えたのは初めてなのよ」


 それから少し間を置いて、ふっと微笑んだ。


「もし、私が“別の世界にも行ける人間”だったら……怖い?」


 唐突な問いかけに、陽菜とエレナは一瞬だけ目を見合わせ、戸惑いを浮かべる。

 陽菜は先ほどの写真立てをちらっと見た。


「……うまく言えないけど……」


 陽菜は、少し考えてから答えた。


「エレナだってそうだし。そういうこともあるのかなって思います。だから、怖いとは……思わないです」


 それは、陽菜の正直な気持ちだった。


「うんうん、陽菜いい子だねぇ~」


 エレナがそう言いながら、陽菜の頬にすり寄る。


「ちょ、やめろって……」


 二人の様子を見て、沙耶は穏やかに笑う。


「二人とも、仲いいのね。かわいいわね」


 陽菜は少し照れたように目をそらし、エレナは得意げに腰に手を当てて、ふんっと鼻息を鳴らした。

 その流れで、陽菜がふと尋ねる。


「……あのとき、沙耶さんが使ってた“あれ”も、やっぱり別の世界の力なんですか?」


 それは陽菜を助けるために、沙耶が使っていたものだった。

 まるで魔法のように、沙耶は三人の男たちを一瞬で倒してみせた。

 あの光や、あの動きは常識じゃ説明できなかった。


 エレナも頷いて言葉を継ぐ。


「沙耶さん、わたしたち、“想い”を見ることができるの」


 沙耶は少し驚いたように目を見開き、すぐに笑顔になった。


「……そう。じゃあ、あのときの“白い光の帯”がそうなのね」


 陽菜が小さく頷く。


「あのとき……“蓮が危ない”って思ったら、勝手に体が動いて。気がついたら、椅子が飛んでました」


 想願空虚で出来たことが、現実でも起こせた。

 あれは、想いが現実に干渉した証だった。


 沙耶は、まるで授業でも始めるように言った。


「知ってると思うけど、“想い”は力になるの。強くて、深くて、まっすぐな想いほど、その力は増幅されるのよ」


「だからね、あなたたちの味方がもっと増えて、たくさんの想いが一つになると──もっと大きな力になる。たぶん、想いってそういうもの」


 そして、沙耶は微笑みながら付け加える。


「日本ではそれを”気”とも言うけど」


 エレナが目をぱちくりさせて尋ねる。


「……“気”? って、あの“元気”の?」


「そう。気はね、“想い”とほとんど同じ。エネルギーの総称みたいなものよ」


 沙耶は指を一本立てながら、説明を続ける。


「たとえば、


 想いが疲れると“病気”。

 勝ちたい想いは“勝気”。

 負けたくない想いは“負けん気”。

 想いがぴったり合う人を“気が合う人”

 想いを伝えたい人を“気になる人”


 こういうふうに、ね」


「つまり、”想い”と“気持ち”は、もともと同じものなの。ただ、感情の起伏によって、言葉の使い方が変わるだけ」


 その言葉に、陽菜もエレナも、同時に小さく頷いた。

 すると沙耶が、にやりと笑って首を傾げる。


「それで、陽菜ちゃんと蓮くんは、どっち? “気になる人”? それとも、“気が合う人”?」


 不意を突かれた陽菜は、思わず顔を赤らめた。

 すぐに何かを返そうとしたが、言葉が出てこない。


 代わりにエレナが、茶化すように口を挟む。


「もちろん、“気が合う人”。……んーん、違うかも。“大好きな人”でしょ?」


「エレナっ……!」


 陽菜は、顔をさらに真っ赤にしてエレナをにらむ。


 それを見て、沙耶は吹き出すように笑った。

 そしていたずらっぽく微笑みながら、テーブルに両肘をつき、手のひらに顎をのせて言った。


「妖精さんが言うんだから、間違いないんじゃない? エレナちゃんのほうが、陽菜ちゃんの心の中、よくわかってそうだし」


 陽菜はぷいっとそっぽを向きながらも、耳まで真っ赤だった。


 ふと、あのとき目にした“オーラ”のことが胸によみがえり、沙耶に尋ねたくなった。


「……あのとき、想いのオーラみたいなのが見えたんです。白だったり、紫だったり、ふわふわ揺らいでて……」


 沙耶が口を開こうとした瞬間、先にエレナがぽんっと答えた。


「たぶん、それ、共感覚だよ。陽菜の場合、“想い”が光になって見えたんだと思う」


 沙耶が頷く。


「エレナちゃんの言うとおりね。感受性の相性が高いと、色や音、光として知覚されることがあるの。脳の知覚野がクロスリンクして、感覚が連動しちゃうような状態ね」


 陽菜はぽかんとした顔で、それを聞いていたが、次の瞬間、思わず素が出てしまった。


「……マジ。すっげーじゃん! まったく意味わからんけど!!」


 沙耶が吹き出すように笑い、エレナが小声でつつく。


「陽菜、言葉。今ちょっと地が出た」


「……あっ、ごめん」


 エレナは沙耶のほうを向いて、やれやれと肩をすくめる。


「陽菜、普段はけっこう口悪いの」


「ふふっ、なんか分かるわ。さっきまで“大人ぶってる感”あったもん」


 沙耶は楽しそうに笑いながら続けた。


「でもね、こういう感覚って、芸術家とかアーティストにも多いのよ。たとえば音符を楽譜じゃなく“色”で感じる人もいる」


「陽菜ちゃんの場合は、きっと“想い”を色として視覚化してるのよ。たぶん、エレナちゃんと共鳴できているからじゃないかな」


 陽菜は素直に感心したように頷いた。


「……なんか、ちょっと納得できました」


「じゃあ、目を閉じて。心で“想い”を感じるイメージをしてみて」


 沙耶の優しい声に、陽菜はおそるおそる目を閉じた――。

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