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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第17話:下町の古着屋さん③

「エレナ!! さっきのお姉さん……っ?」


 陽菜が声を上げたとき、エレナの姿の先に立っていたのは――あの古着屋で出会った女性だった。


「んあ? なんだコラ、てめーも相手してほしいのか?」


 男の一人が大声を張り上げる。だが、向けられたその言葉はエレナではなく、女性へ向けられていた。

 彼女は無言でバックパックを床に置くと、足元の靴をトントンと蹴り整えながら、視線を男たちに向けた。


「処女ってのはね、もっと大切に扱うもんなんだよ。万年童貞ども!」


 女性の低く鋭い声。その目が、三人の男たちを鋭く睨みつける。


「エレナちゃん、任せて。三人とも、私がやる」


「エレナちゃん()()は、陽菜ちゃんの救出を!」


 女性がそう言い終えた瞬間、足元から淡い青色の光が滲み出す。

 それは水面に広がる波紋のように広がり、やがて魔法陣を描き出した。


 ふわりと、女性の長い髪が光に煽られて舞い上がる。

 次の瞬間、空気が爆ぜるような音とともに、彼女の姿が弾丸のように消えた。


 一瞬で陽菜に最も近い男へと肉薄し、振り上げた掌から青白い光の矢が閃く。


「――ッ!」


 反応する間もなく、矢は男の胸を撃ち抜いた。

 鈍い衝撃音とともに、男の体は宙を舞い、背から地面に叩きつけられる。


「ぼさっとすんな、彼氏なんだろ! しっかり守れ!」


 それは女性が蓮に向けて発した言葉だった。


「はい! 沙耶(さや)さん」


 叫びながら、その女性・沙耶がもう一人の男へと向かう。蓮はその声に応じ、陽菜のもとへ走り寄った。


「蓮!? どうして?」


「理由は後で!」


 そう言って、蓮は陽菜の手首に巻かれた結束バンドを素手で引きちぎる。

 一方、沙耶は二人目の男の懐に入り、再び掌に魔法陣を展開させる。出現したエネルギーの球体が、男の目前で小さく炸裂。衝撃で男の体が跳ね飛ぶ。


「てめぇッ!」


 残る一人が怒りに任せて突進してくる。だが、その視界を一閃の緑が奪う。

 エレナの想いが形となり、自発的に発光して男の視界を封じたのだ。男が体勢を崩したその隙を、沙耶は逃さなかった。


 放たれた青白い光の矢が一直線に男の胸元を貫き、吹き飛ばした。


「威力は抑えておいた。あとは留置場か刑務所で反省してな」


 沙耶が冷たく言い放った、その時だった――

 最初に倒れた男が、なおも立ち上がり、ナイフを抜いて陽菜へと迫る。


「この女を……ぶっ殺してやる!!」


 沙耶には敵わないと悟ったのか、標的を陽菜に変えたのだ。


「陽菜!!」


 蓮が体当たりで男を弾き飛ばした。

 男は転がりながらもすぐに立て直し、今度は蓮の上に馬乗りになってナイフを振り上げたのだ。


「蓮っ!!」


 陽菜が叫んだ瞬間、周囲の人々の体から、まるでオーラのような光が立ちのぼった。

 揺らぎ――白い光は沙耶から。蓮は赤の光。エレナは青、黄、白の三つの光。

 だが、その一方で、男たち三人からは、不気味な紫がかった黒の揺らぎが、重く、にじむように広がっていた。


 陽菜は直感する。これは“想い”が現実に作用しはじめているのだと。


(……デスる前にぶっ潰す!!)


 陽菜は心の中で念じた。

 すると、彼女の胸の内から白く光る帯のようなものが現れた。

 それは近くのパイプ椅子に絡み、次の瞬間、椅子が猛スピードで飛来し、男の後頭部に命中した。


「ぐあっ……!」


 気絶した男が地面に崩れ落ちる。


「蓮、大丈夫!?」


 陽菜が駆け寄り声をかける。エレナも急いで彼女のもとに飛んだ。


「陽菜ぁっ! よかった……本当に、無事でよかったよぉ!!」


 エレナは涙を流しながら陽菜にしがみついた。


「ありがとう、エレナ……蓮も……」


 陽菜もまた、エレナの温もりを感じたのか、緊張が緩み、頬にぽろりと涙がこぼれる。蓮は照れくさそうに鼻をこすった。

 そんな様子を見つめながら、沙耶がふっと微笑む。


 しかし――


 爆風で吹き飛ばされた男が、ふらつきながら立ち上がった。


「……てめぇら、柴田組に手ぇ出して、タダで済むと思うなよ……」


 それは最期の抵抗だった。だが沙耶は、すでに想定済みだったようだ。


「……だそうですよ、皆さん」


 その声と同時に、後方から数名の男たちが現れる。全員、風格の違う”本物”だった。

 中心にいた中年の男が、ひと睨みで空気を変える。


「俺はよ、柴田組の若頭やってんだけどよ。お前ら、誰?」


 その目つきはまさに”修羅”だった。

 吹き飛ばされた男は、顔色を変える。


「最近、うちの名前勝手に使って悪さしてる連中がいるって話があってな。こっちも探してたんだ。……お姉ちゃんが教えてくれたから半信半疑で来てみたが……ビンゴだったな」


 若頭の目が細くなる。


「チンピラのくせに、うちの看板を汚しやがって。しかも、こんな可愛い子に手を出すなんてよ……」


 チンピラと言われたその男は完全に気圧されていた。

 後方の若い衆たちが、沙耶に倒されたチンピラたちを次々に引きずり寄せる。

 その間に、若頭はジャケットの内ポケットからタバコを取り出し、一人の部下がすばやく火を点ける。


「ここからはお姉ちゃんたちからバトンタッチだ。……さて、お前らの人数と拠点、全部吐け」


 タバコの煙を吐き出しながら、若頭が低く呟いた。


「……ちょっと痛い目見ることになるけどな」


 ------


 あれから、どれくらい時間が経っただろう。十五分……いや、もう少しかもしれない。

 陽菜、エレナ、沙耶、そして蓮の四人は、倉庫の入口近くに腰を下ろしていた。

 中では、柴田組の男たちが尋問中で、時折、誰かのうめき声が漏れ聞こえてきたが、今は静寂が戻っていた。


 やがて、先ほどの若頭と数人の若い衆が倉庫の奥から現れる。


「助かったよ。本当にありがとうな。……にしても、お姉ちゃん強いね。うちの組に欲しいくらいだ」


 若頭はそう言って沙耶に笑いかける。


「い、いや、そんな……あはは……」


 沙耶は苦笑いで言葉を濁した。


「冗談だよ」


 若頭は空気を読んで、軽く肩をすくめた。


「知り合いの刑事に話は通しておいた。チンピラどもは、うちの若いのがしっかり押さえてる。もう心配ねぇよ」


「……ありがとうございます」


 陽菜が深く頭を下げると、若頭は満足そうに頷いた。


「お嬢ちゃんも、よく頑張ったな。なにかあったら、また声かけてくれ」


 そう言って、若頭たちは去っていこうとする。


「おい、彼氏!」


 と、背中越しに蓮を呼び止める。


「ちゃんと、その子守ってやれよ!」


「はいっ!」


 蓮が姿勢を正して声を張り上げる。そのまま、深々とお辞儀した。

 若頭は振り返ることなく、片手をひらひらと振って立ち去っていった。


 エレナは、陽菜にぴったりとくっついていた。


「ん~、陽菜~、がんばったねぇ~」


 どこか誇らしげに、でも甘えるような声で頬をすり寄せてくる。

 まるで年上の姉が妹をあやしているような……いや、むしろ、完全にエレナの方が子どもっぽく甘えている。


「もう……ウザいってば。さっきまで泣いてたくせに」


 陽菜がちょっとだけ呆れたように言うと、エレナはふふっと笑って、さらにくっついてきた。


「だって~、陽菜の涙、すごく綺麗だったから……もう一回見たいなぁ~」


「……変なこと言いうな、きもいわ」


 そう言いながらも、陽菜の口元には、少しだけ照れたような笑みが浮かんでいた。


 ------


 若頭たちが立ち去ってから、そう間を置かずして──

 パトカーのサイレンが倉庫前に鳴り響き、次々と警察車両が停まった。刑事たちがどっと駆けつけ、現場は一気に慌ただしい空気に包まれる。

 陽菜、沙耶、蓮の三人は、それぞれ個別に事情聴取を受けていた。刑事たちの真剣な視線を受けながらも、陽菜はどこか落ち着いて受け答えしていた。


 そんな中、人混みの向こうから慌てて駆け寄ってくる夫婦の姿があった。


「父ちゃん……、お母さん……」


 陽菜の声がかすかに震える。

 次の瞬間、彼女は母・結衣の胸元に軽く抱きついた。

 反抗期らしく、普段はツンケンしていても所詮はまだ十六歳。

 ほんの少し、甘えたくなる瞬間もある。


 結衣は優しく娘とエレナを抱きしめ、何も言わずに二人の頭を撫でた。


 すぐ近くで、父・康太と結衣が蓮の前に立った。


「あれ? 蓮くん……? まさか、陽菜を助けてくれたの? 本当にありがとう!」


「久しぶりだね。大きくなったなあ」


 懐かしそうに笑いながら、二人は蓮に感謝の言葉を述べた。


「えっ……二人とも、蓮のこと覚えてたの?」


 陽菜が驚いて問い返すと、康太はにやりと笑った。


「そりゃあな。陽菜の初恋の相手だったからな」


「なっ……!」


 陽菜の顔が、一気に真っ赤に染まった。


「ちょ、マジでちがうから! 勝手にそんな妄想すんなよ!!」


「そっかぁ、付き合ってたんだ~♪」


 結衣が軽く茶化すように言うと、陽菜は慌ててぶんぶんと首を振った。


「付き合ってねーし! ……マジ、ブチ切れそうなんだけど!!」


 言葉では否定しても、その声には照れ隠しの色が滲んでいた。

 康太はどこか複雑そうな表情を浮かべていたが、それを見たエレナがふふっといたずらっぽく笑い、こっそり結衣に耳打ちする。


「えっ、そうなの!? 身を挺して守ったの!? ……まぁ、それは頼もしいわ」


 結衣はその言葉をわざとらしいくらい大げさに繰り返した。声のボリュームも、陽菜にしっかり届く程度に。


 そんな家族のやり取りを、沙耶は微笑みながら見つめていた。

 やがて康太と結衣が、沙耶のもとへ歩み寄る。二人は揃って頭を深く下げた。


「娘を守ってくださって、本当にありがとうございました」


 沙耶は微笑みながら、真摯なその姿に、静かに頭を下げ返した。

 ──守ってよかった。そう思える瞬間だった。


 少し離れたところで、その様子を陽菜、蓮、そしてエレナが並んで眺めていた。

 ふと、蓮が隣に立つ陽菜に視線を向ける。


 ──その瞬間、見えた。


 陽菜のそばに寄り添う、光のような存在。

 白いワンピースのような衣をまとい、青い髪を揺らす、どこか幻想的な少女──


「……陽菜。それが……エレナ?」


「えっ!? もしかして見えたの? マジ!?」


 陽菜が驚いて蓮を見る。


「一瞬だけど見えた気がした。青い髪をした少女のような存在。光ってた」


 それは、陽菜と蓮の”想い”が、一瞬でも深くつながった証だった。


 エレナは、そんな陽菜と蓮の様子を微笑みながらじっと見つめていた。

 その瞳は、ただの微笑みではない。どこか使命を帯びた光を宿していた。


 ──わたしが、この世界にいる意味。

 それは、陽菜と蓮の”想い”をつなぐため。


 胸の奥で、確信に近い感情が、静かに芽生えていた──。

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