表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/99

第12話:ひとりぼっちのぬいぐるみ

 日曜の午後。

 期末テスト期間中の気分転換にと、陽菜はエレナと連れ立って、ぶらりと散歩に出かけた。

 駅前のにぎやかな通りを離れ、少し外れた住宅地へと足を向ける。

 天気はよく、日差しも穏やかだったが、このあたりは人通りも少なく、どこかひんやりとした空気が漂っていた。


「なんで、こんなとこに来ようと思ったの?」


 エレナが陽菜の肩の上で小声で呟く。妖精である彼女は、ふわりとした存在だが、感覚は鋭い。


「さあ……わからない。ただ、なんとなく来てみたんよ」


 陽菜はわざとそっけなく答えた。けど、心のどこかで“なんか気になった”のは確かだった。風に押されたような、よくわかんない感覚。

 そんな裏路地の、曲がりくねった細道の先、ふと陽菜の目があるものに止まった。


「……あれ?」


 植え込みの隙間。そこに、箱が置かれていた。

 化粧箱の中からは、白いくまのようなぬいぐるみが入っており、ボタンが付いたかわいいロリ服を着ているのが覗ける。

 そのぬいぐるみの目は、まっすぐこちらを見ている気がした。


 陽菜はしゃがんで、その顔を見つめた。


「そこまで汚れてはいないようね。しかもこの服、ちょっとアレじゃない?」」


「でも……ただの“ぬいぐるみ”じゃないかも。“想い”が残ってる」


 エレナが、そっと耳元でささやく。その声には、普段とは違う確信めいた響きがあった。


「……ふーん」


 陽菜はそう言って、箱からぬいぐるみを両手ですくい上げた。その小さな顔にはどこか寂しげな表情があった。


「……いっしょに、帰ろうか、なんか……置いとくとか、無理だし」


 ぽつりとそう呟くと、わずかに、きゅっと体を寄せた気がした。

 その指先は、そっとぬいぐるみを抱えるように優しかった。


 家に戻ってから、陽菜は古いタオルと洗面器でぬいぐるみを丁寧に拭いてやった。赤黒い洋服も色あせてはいたけれど、水で湿らせた布を使うと、少しだけ鮮やかさを取り戻したように見えた。

 手足の綿は少しへたっていたけれど、目はきれいなままだった。


「名前……どうしよう。なんか、寂しそうな顔してるね……」


 ひとりごとのように陽菜が呟くと、エレナがぼそっと言った。


「“ミミ”ってどう? そう呼んでほしいって、なんとなく聞こえた気がするの」


 エレナは人の“想い”のこだまに触れることができる。それは妖精としての力。目には見えなくても、心にふれる力だ。

 いわば、エレナは”想い”の送受信機であり、陽菜はそれを制御するコントローラのようなものだ。


「ミミ……うん、いいんじゃない」


 そう言って、陽菜はミミの頭を優しくなでた。

 そのとき、ぬいぐるみの目がほんの一瞬、細く笑ったように見えた。


「……お礼、言った? いま」


 ……ありがとう、って。

 陽菜にはそんな声が、かすかに聞こえた気がした。


 その夜、ミミは棚の上に座っていた。

 陽菜は布団に入って、天井をぼーっと見ていたけど、なんとなく視線がミミに吸い寄せられた。


(……見てる。気のせいじゃない)


 誰にも言えないけど──陽菜は、ときどき感じていた。

 誰かがそこにいる。誰かが、自分をじっと見守っている。


 電気を消したあと、暗がりのなかでふわっと何かが届く。

 ふと視線を向けると、ミミの目がやわらかく光っている気がする。

 そして、真っ白く、風のない空間──心の奥にふわっと浮かんでくる、誰かの言葉。


 ──私を、見つけてくれてありがとう。

 ──ずっと、さみしかったの。


 声じゃない。頭の中に、波のように流れ込んでくる。

 それを感じとっているのは、きっとエレナの力のおかげだと、陽菜は思った。


「ねえエレナ……ミミって、しゃべれたりするの?」


 陽菜は小さく尋ねた。


「言葉は出せないけど、“想い”は届いてる。わたしには、それが伝わってきているよ」


「そっか……」


 陽菜は寝返りを打ちながら、天井の影を見つめた。


「……前の持ち主に、大事にされてたんかね?」


「うん。でも、何かあって、突然手放されちゃった。言葉もなく、箱に入れられて……ずっと、暗いとこにいたんだよ」


「……なるほどね」


 陽菜はベッドから身を起こし、棚のミミを取って抱きしめた。


「でも、もういいから。ウチがいる。……ってのもなんだけど、放っとけないんだよね、こういうの」


 ミミはぬいぐるみなのに、どこかあったかかった。

 エレナがミミに向かってささやくように言った。


「出会えてよかったね、ミミ。これからは、ずっとここにいていいから」


 その夜、夢を見た。

 それは心の中の白い空間。ちょこんと座ったミミが、顔を上げて笑った。


 ──ありがとう。


 声じゃない。でも、ちゃんと伝わった。

 夢の奥で、エレナの気配もあった。何も言わずに、ただそこにいる。見守ってくれてる。


 翌朝、ミミの顔はほんの少しだけ前よりも柔らかい表情に見えた。


「エレナ、ねえ……ミミ、夢に出てきたよ」


「うん。ちゃんと、お礼言えたんだね。想いが、ちゃんと届いたから」


 エレナの声はやさしく響き、そっと陽菜の胸をあたためる。

 陽菜はミミを見つめながら、小さく微笑んだ。


「ミミ。これからも、よろしく」


 東京の、ちいさな裏路地。

 誰にも気づかれずに捨てられていたぬいぐるみが、もう一度、誰かの“想い”を受け取った。


 そして三日後、ミミはリビングに移動していた。

 悠真が”これ、ここに置きたい!”と、言い出したのだ。


 ……が、そのミミは、ある意味“魔改造”されていた。


 ミミの腕には、どこからか調達してきたRPGゲームの剣と盾がセロテープでくっつけられている。

 騎士風、というよりは……ごっこ遊び中の犠牲者に近い。


 それを見た陽菜は、思わず声を上げた。


「ええ……マジ? なにコレ……っつーか、どこから持ってきたんだよコレ!」


「ふふん、秘密兵器!」


 悠真が得意げに笑う。


 陽菜はあきれつつ、エレナに視線を送る。


「ミミ、どう? 病んでるんじゃね?」


 エレナはミミを見つめたあと、ゆるく笑って言った。


「だいじょぶそう。ミミ的には気に入ってるみたいだよ~」


「“新しい使命を受けた”って思ってるみたい……案外、悠真と相性いいのかも」


 そう言われて、陽菜は少しだけ、ほっと息をついた。

 ミミは、今日もリビングの一角で、剣と盾を手にどこか誇らしげにたたずんでいる──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ