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【悲報】東京のJK、妖精と青春中に“想いのスキル”発動したので恋愛とバトル開始します。-シーズン1-  作者: 新発田 怜
1章 - Kapitel Ⅰ - 学園と日常 編

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第10話:通学路の廃工場の怪③

 それは、白一色の空間だった。音も色も、感情さえも吸い込まれたような、ただただ静寂な場所──怪物の“心の中”。


 その中心に、エレナと蓮も立っていた。

 三人はそこで、ひとつの情景を見ていた。

 まるで、心の奥深くに埋もれた記憶が、投影機の光に照らし出されたかのように。


 ──怪物の心の奥にある、記憶の断片と想い。

 ふいに、一人の男が現れる。

 背を向けたその姿には、どこか薄い疲れが滲んでいた。


 傍らには、小さな少女と、その母親らしき女性。

 三人はまるで壊れかけた家族写真のように並び立ち、ぎこちなくも笑い合っていた。


 ──陽菜は直感していた。

 これは、幸せな記憶ではない。

 むしろ、そこからすべてが崩れ落ちていったのだと。


 場面が変わる。

 男は、銀行のカウンターにいた。


 次に、消費者金融。続いて、闇金の狭い部屋。

 視線を伏せ、淡々と判を押していく姿だけが映る。


 さらに、男が働いていたであろう工場にも、取り立て屋がやってくる。

 怒号。机を叩く音。


 そして、”閉鎖”の紙が無造作に貼られる。

 誰もいないシャッターの奥に、乾いた風が吹き抜ける。


 場面は次第に、歪み始めた。


 薄暗いキッチンにて、男は包丁を手にしていた。

 無言のまま、それを──


 血飛沫が壁に散った。

 母親が、抵抗する暇もなく崩れ落ちる。


 男は、ゆっくりと寝室へ向かう。

 小さな布団に包まった、あの少女がいた。

 静かに歩み寄り、手を伸ばす。


『……ごめんな。もう、こうするしかなかったんだ』


 男の苦しげな囁きが、空気のようにこだまする。

 その手が少女の首に触れた刹那──


『いま、楽にしてあげるよ……』


 男の言葉と共に空間が砕けた。

 世界がノイズを走らせ、白く、白く溶けていく。


 陽菜は、息を吐いた。怪物の奥底に沈んだ、消すことのできない過去の傷痕を。

 陽菜は、ふと胸の奥を押さえる。

 重たく、冷たく、痛いほどに沈んだものが、そこにあった。


 これが、この“怪物”の心……かつて人間だった”想い”の、悲鳴のような記憶なのだと。


 陽菜は顔を上げた。隣には、怪物にそっと手をかざすエレナと、その隣に立つ蓮の姿があった。

 その姿を見つめながら、陽菜はかすかに震える声で呟いた。

 その瞳には、静かに涙の光が滲んでいた。


「……これが、この人の“想い”なんだ……」


「だから……ずっと、贖い続けてたんだ……苦しみながら」


 彼女の声は、哀しみと理解に満ちていた。

 けれど、その静けさを裂くように、蓮が声を上げた。


「俺だって両親、死んでんだよ」


「周りの冷たさも、イヤってほど味わった。貧乏人って笑われて、無視されて、毎日地獄みてえだった」


 蓮は、歯を食いしばる。

 どれだけ苦しかったかなんて、誰にもわかってたまるか。

 けれど──それでも。


「……それでもな、死にてぇなんて、一度も思わなかったよ」


 その瞳が、怪物を真っ直ぐに射抜いた。


「てめぇのことなんか知らねぇ。でもな──てめぇの娘は、死にたくなんてなかったはずだろ」


「勝手に絶望して、全部終わらせた気になってんじゃねぇ……」


 蓮は拳を握りしめ、言い放った。


「くっだらねぇんだよ、お前みたいなクソ虫は!!」


 その叫びは、重く、痛烈だった。

 赦しでも同情でもない、蓮の魂からの怒声だった。


「陽菜っ! エレナっ!!」


 蓮が声を張り上げる。その強い想いは、確かに三人に届いていた。

 陽菜とエレナ、そして蓮。


 三人は一つの意思で、怪物の深く閉ざされた“想い”を丁寧に解きほぐしていく。


「だからさ、さっさとあっちの世界で仲良く暮らせや!!」


 再び、陽菜たちは怪物の“心の中”の白い空間に戻る。


 そこには先ほどの男が、静かにうずくまっていた。

 その隣に、二つの人影がゆっくりと現れる。

 男の妻と、幼い少女……彼の家族だ。


 少女は大はしゃぎで男に抱きついた。


『パパ、これからはずーっといっしょだね』


 無垢な笑顔が、その空間をやわらかく満たす。


『ああ、もうずっと一緒だよ』


 男は微笑みながら少女を抱きしめた。

 ゆっくりと立ち上がり、少女の手を握って、陽菜たちに向き直る。


 その顔は、どこか穏やかで満たされたものだった。

 言葉はない。だが、無言のまま、男は三人に感謝の意を示すように軽く頭を下げた。


 視界が白に染まり、ゆっくりと溶けていく。


 ──廃工場の想願空虚が解け、現実へと戻った。

 あの怪物の姿はもうそこにはなく、淡い輝きとなって静かに空へと昇っていく。

 残されたのは、穏やかな静寂だけだった。


 ------


 廃工場を出た三人は、何気ない町の風景の中を歩いていた。

 柔らかな光が、舗道に長い影を落としている。


「陽菜、今回も大活躍だったねぇ~」


 エレナが屈託のない笑顔で声をかけた。


「いや、今回は蓮が一番だったよ」


 陽菜は軽く否定しながらも、少しだけ嬉しそうだった。


「うんうん、わたしの声もちゃんと届いてたしね」


 エレナも嬉しそうに頷く。

 陽菜はエレナの言葉を蓮に伝えた。


「白い空間で緑色の光を見たんだ。たぶんあれがエレナなんだろ?」


 蓮は少し照れくさそうに陽菜に尋ねた。

 いや、正確にはエレナに聞いていたのかもしれない。


「そうだよ、エレナもそう言ってる」


 陽菜は笑顔で答えた。


 三人が橋の上を渡り始めたとき、陽菜がふと足を止めて蓮を呼び止めた。


「蓮……ありがとう。うまく言えないけど……カッコよかったよ」


 照れくさそうに言う陽菜に、蓮は少し顔を赤らめた。

 二人は並んで川の流れを静かに見つめていた。


 そんな静かな空気の中で、突然、蓮がそっと陽菜の手を握った。

 陽菜も無意識に手を握り返したが、すぐに我に返る。


「おい!何どさくさに紛れて握ってきてんだよ!」


 照れと怒りが入り混じった声で言う陽菜に、


「はぁ、今はちょい感傷的な気分なんだよ、いいじゃねーかよ」


 蓮が照れ隠し気味に答えた。


「ダメだっ! まだ彼氏にもなってねーっつーの!」


 陽菜は真剣な目できっぱりと拒否する。


「なんでそこまで話飛躍するんだよ!」


 蓮は呆れたようにツッコミを入れた。


「ウチは、手を握るのは彼氏からって決めてるんだ!だからダメなんだ!」


 腕を組んでドヤ顔で言い切る陽菜は、ジト目で睨んだ。

 そんな彼女を前に、蓮はちょっとだけ間を置いてから──


「……じゃあ、彼氏になるわ」


 その告白に陽菜は即座に反応した。


「断る!彼氏になるなら、あと一回くらいウチを助けろ!それが条件だっ!」


 蓮は両手で頭を抱え、面倒くさそうに眉をひそめた。


「いや、無理無理! オレあんなチート能力持ってねぇし!」


 陽菜はムッとして、目を細めた。


「はぁ? おめー、あのとき”俺を頼れ”ってイキってただろ!」


「うっ……!」


 図星を突かれて、蓮は言葉に詰まる。

 だがそれでも蓮は首を横に振った。


 そんな蓮のリアクションに、陽菜もまったく引かない。


「じゃあ、エッチもつけてやる」


 そう言われて、むしろ蓮の方が戸惑い気味になった。


「陽菜……ちょ、今回の件で、頭イカれたんじゃねぇか……」


 彼はぽつりと呟いた。


 そのやり取りを見て、エレナは肩でくすくすと笑った。


「陽菜ってやっぱり、蓮のこと初恋のときのまま好きなんだねぇ~」


 その言葉にムッとした陽菜は、勢いよくエレナの頭をげんこつでグリグリした──。

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