下僕の帰還、誇りの牢獄
人間の王都から届いた「停戦命令書」は、
兵たちの心に動揺をもたらした。
だが、ジェネラル・オルデンは決して命令に屈さなかった。
そして、ある決断を下す。
「ツラギ……貴様には“使者”としての務めを果たしてもらおう。
貴様の主に、“我らの返答”を届けるのだ」
「え? 主って……ま、まさか……」
「そうだ。お前を、エルフ側に“返還”する。
下僕は下僕らしく、主のもとへ戻れ」
惨めなる凱旋
数日後、
ノルド帝国の中継拠点――
霧の外れにある外交使節館にて。
「ご報告いたしますッ! ツラギただいま戻りましたッ!!
任務、忠実に遂行いたしましたとも!!」
無様なまでに胸を張り、
笑顔で頭を下げるツラギ。
「いやぁ、エルフ様の期待に見事応えまして。
人間の王には停戦を呑ませましたし、ジェネラル・オルデンには文句も言えぬ状況に追い込みまして!」
使節館の奥、静かに紅茶を啜るエルフの将官たちが、
薄ら笑いを浮かべながらツラギを見つめていた。
「そうか。ご苦労だったな、ツラギ殿。
人間の世界では“忠犬”と呼ぶのだったか?」
「ははっ、それほどでも!
ま、私は“主に忠義を尽くす”男ですから!」
急転:恩賞ではなく、鎖
しかし次の瞬間、
背後に冷たい手が伸びた。
「何っ──ぐ、ぐぐっ!? な、なぜ縛る!? 私は任務を──」
「無礼な口調だな、下僕風情が」
「わ、私は……!?」
「そもそも、戦を避けたいと泣きついたのは貴様の王だ。
貴様の働きなど“エルフの策”にとって些細な道具に過ぎん」
「ま、まさか……」
「まさかも何も、
貴様が王命を盾にして人間軍の士気を下げようとした行為――
あれは“敵対工作”そのもの」
「ひ、ひどい! 私は命令を──忠義を──!」
「忠義? フン。
貴様のような口先だけの裏切り者など、
我が軍では“裏切りの芽”として処理する」
投獄
こうして、ツラギはノルド帝国の収容塔――
“黒硝石の牢”へと連行された。
鉄格子の向こうから、かすかに彼の声が響く。
「なぜだ……なぜ、私は……!
私は、主の命令に従っただけなのに……!!」
「こんなはずじゃ……なかった……!」
その哀れな声に、答える者はいなかった。
戦場は動く
その頃、人間軍では、
オルデンが静かに全軍に告げていた。
「我らが何を選ぼうとも、
あの男のように“誰の記憶にも残らぬ”生き様だけは避けねばならん。
誇りは、名よりも先に残る」
兵たちは頷いた。
静かに、そして確かに。
次の戦いに、彼らの魂が向かっていた。
次回予告
次回【第二章―十五:再侵攻、死の潮流】では、
ノルド帝国が最後の執念を燃やし、
神核の番犬に続く第二波の“魔導獣”を展開。
疲弊した島の兵たちは、
オルデンの決断のもと最後の迎撃戦に臨む。
英雄たちが、再び剣を取る時が来る――




