使者、滑稽なる者
砲撃基地の壊滅、補給線の崩壊。
ノルド帝国の戦線は確実に綻びを見せていた。
島の兵たちの士気が上がる中、
だが戦場に、冷たい風が吹く。
突如として、軍本部に届いたのは――
王都からの“使者”であった。
滑稽なる登場
軍靴の音を響かせ、前線の野営地に現れたのは、
あの男――
ツラギ
厚顔無恥を塗り固めたような男であり、
かつてノルド帝国に媚び諂い、
帝都からも追い返された、あの“下僕”である。
「や、やあ……諸君、元気そうでなにより。
いやぁ、島は冷えるねぇ……ハハハ……」
一斉に視線が刺さる。
誰もが、今すぐ彼を地面に叩きつけたかった。
だが、彼は涼しい顔で言った。
「このたびは、国王陛下の命をお伝えに参上した」
停戦命令書
ツラギが取り出したのは、
王都の印章が押された**“停戦命令書”**だった。
「エルフ族との外交を重視する上で、
これ以上の軍事衝突は避けるべし――とのお達しだ。
つまり、キミたちはもう戦わなくていいんだよ!」
誰も口をきかなかった。
オルデンだけが、静かに一歩踏み出し、書状を受け取った。
目を通した後、ゆっくりと破いた。
「──それが何の意味を持つ。
お前はここに来る道すがら、
何人の“味方”が死んでいるのを見た?」
ツラギは肩をすくめて答えた。
「……だからこそ、戦いをやめようっていうんだ。
命はひとつきり。英雄譚で腹は膨れない」
軽蔑と恐怖
その言葉に、兵たちの怒りが沸騰する。
だがツラギはどこ吹く風。
「おっと、手を出せば反逆だ。国王の命令書を破いた者が、
一番罪深いのでは?」
一瞬、誰もが言葉を失う。
ただひとり、オルデンを除いて。
「……反逆ならば、誇りを持って引き受けよう。
だが、お前のような者に指図される筋合いはない」
エルフの圧
後に判明したことだが、
この停戦命令は、エルフ側がツラギを使って“王都に圧力”をかけた結果だった。
ノルドの使者が王宮に現れ、
エルフ族の代表と名乗る魔導貴族が言ったという。
「あの島にしがみついているお前たちの兵など、
一掃するのは造作もない。
今のうちに、幕を引かせろ。
でなければ、王都に“訪問”しようか」
ツラギは震えながら頷き、
己の保身と地位のために、島に“命令”を届けたのであった。




