終焉光刃、天を穿つ
空が、黒く染まっていた。
それは夜ではなかった。
――“魔”が降る前触れだった。
巨大な魔獣《神核の番犬》が咆哮する。
大地が裂け、空が震え、
島全体が「滅びの宣告」を受けたような錯覚すら覚えた。
その影の前に、
ひとり立ちはだかる男がいた。
イケナ・アルゼルグ。
人類最強の魔導士にして、
いま、最期の魔法を紡ぐ者。
“終焉光刃”発動準備
「すべての術を捨て、ひとつの魔に還す。
これが俺の……“魔法”だ」
彼の身体に浮かぶ七重の魔法陣。
それぞれが別系統の魔力を象徴し、時間差で回転を始める。
脚から地脈を吸収し、
腕に圧縮した雷を通し、
心臓から重力魔法を引き出し、
額から空間を歪ませる。
ヒメカは震える声で叫んだ。
「もうやめて! あなたが死んでしまうだけ!」
イケナは、静かに微笑んだ。
「……生きてるって、こういうことだろ」
発動――断界超穿:終焉光刃
そして放たれる。
“断界超穿――終焉光刃”
天と地を貫くような一条の光。
島中の魔力が共鳴し、
霧すら吹き飛ぶような閃光が走った。
《神核の番犬》の胸部、
中心に埋め込まれた“魔力核”に直撃。
轟音と衝撃が、数キロ四方を吹き飛ばす。
巨獣の咆哮はやがて止み、
その巨体が、崩れ落ちていく。
静寂の中で
爆風のあと、すべてが静まった。
誰もが動けず、誰もが呆然としていた。
その中心に、イケナの姿があった。
だが、彼は立っていなかった。
燃え尽きたように、
そのまま倒れていた。
「イケナ様っ!!」
ヒメカが駆け寄る。
オルデンもすぐに後を追う。
イケナは、うっすらと目を開けていた。
「……やれやれ、……これで……少しは……眠れるか……な」
「バカっ……バカバカバカっ!! なんで、なんであなたが……!!」
ヒメカの涙が、彼の頬に落ちる。
イケナは、それに気づいたかのように微笑み、そして――
静かに、目を閉じた。
島に訪れた、一瞬の勝利
ジェネラル・オルデンは、
倒れたイケナに敬意を示し、
周囲の兵たちに命じた。
「戦列を再構築せよ。
これはまだ、“戦の終わり”ではない。
だが、“未来”は……少し近づいた」
兵たちは涙を堪え、
各持ち場へと散っていった。
次回予告
次回【第二章―十二:死者に捧げる剣】では、
イケナの犠牲によって破壊された番犬の死骸を盾に、
人間側は最後の総力戦に挑む。
だがその裏で、ノルド帝国は“最後の儀式”を開始しようとしていた。




