英雄、立ち上がる時
遠距離魔導砲《焔槍一号》の二射により、ノルド帝国の海上補給路は混乱に陥った。
戦場に一瞬の“静寂”が訪れる。
だがその裏で、エルフ軍は新たな“切り札”の召喚準備を進めていた。
その名は──
「神核の番犬」
古の契約によって魂を喰らいながら眠る獣。
かつて数百の都市を踏み潰し、封印された神造兵器。
ノルドはこれを蘇らせ、島ごと消すつもりだった。
戦場の静寂と、イケナの鼓動
一方、島の指揮本部では、倒れていたイケナが静かに目を開けた。
「……何時だ?」
ヒメカが目を見開く。
「イケナ様……! まだ動いては──!」
「いや、感じたんだ……空気の揺れが変わった。
“あれ”が動き出してる」
彼は立ち上がり、震える足で杖を探す。
「封魔を破った俺が、“止めなければいけない”」
ジェネラルの言葉
オルデンが静かに声をかけた。
「お前はもう十分に役目を果たした。
この砦にはまだ他の者もいる。俺も、セイランも、巫女も」
イケナはそれでも笑った。
「……俺だけが、“あれ”に立ち向かえる。
死ぬのが怖くて眠ったふりをしてたけど──
ようやく、目が覚めたんだ」
オルデンはしばらく無言でイケナを見つめた後、
小さく、しかし確かに頷いた。
「なら行け。“英雄”という名の重荷を、今だけ背負ってくれ」
巨影、現る
霧を割って姿を現したのは、全長五十メートルを超える魔獣。
その肉体は黒曜石のごとく硬質で、背には砲塔のような骨角がいくつも生えている。
その瞳は、魔力核そのものだった。
鼓動とともに地が揺れ、獣が一歩踏み出すたびに森が消し飛ぶ。
「──あれが、“神核の番犬”……」
兵士たちは膝をつき、空を見上げるしかなかった。
再びの魔法
イケナが前に出る。
「この魔力の流れ……全てを断ち切って、もう一度、撃ち抜く」
その手に浮かぶは、
かつて一度も成功例のなかった超級術式──
《断界超穿:終焉光刃》
地脈を震わせ、空気を裂き、命を代償に放つ究極の貫通魔法。
ヒメカが叫ぶ。
「イケナ様、死にます!!」
「だからこそ、意味がある。
この命は、守るために使われるためにあるんだ」
次回予告
次回【第二章―十一:終焉光刃、天を穿つ】では、
イケナの放つ“最後の魔法”が、神核の番犬と戦場そのものを貫く。
だがその代償はあまりに重く、オルデンはついにある“決断”を迫られることになる。
命を削り合う戦いの先に、彼らが見た“歴史に残らない英雄たち”の意志とは──。




