封魔の結界、静寂の幕
その“違和感”は、誰よりも早くイケナが察知していた。
「……空気が重い。いや……粘っている?」
彼の周囲の魔導兵たちもまた、次々に術式の構築が滞る異変に気づき始めていた。
「第一術式、詠唱中断。再構築不可能……」
「魔力供給源が……断ち切られてる……?」
塔の上、戦場を俯瞰するジェネラル・オルデンは、静かに息を吐いた。
「来たか。“封魔結界”。」
大結界、発動
戦場の遠方──霧を切り裂くように巨大な六角柱の石柱が六本、地面から立ち上がる。
それぞれの柱の頂点には、エルフの大魔導師が配置され、
共鳴魔法陣が空中に浮かび上がった。
──空が沈黙する。
雷も、火も、風も、一切が止んだ。
「……術式が……消えた……?」
イケナが試みに指を弾き、即席の火球を起こそうとした。
何も、出なかった。
変わる戦況
「魔導障壁が消失!?」「回復術が使えません!」
「前衛が……殴られてるぞ!」「誰か支援を──っ!」
だが、誰にも何もできなかった。
それまでの戦闘は、“魔法”の存在を前提としていた。
回復、補助、砲撃、索敵、すべてが“術”によって成り立っていたのだ。
それを失った今、戦場はただの“肉弾戦”と化す。
しかも、対するエルフ側は──
「封魔結界内でも動ける“契印兵”を中心に攻め立てる。
やつら、初めから準備していたな……!」
イケナの限界
「くそっ……! 力が、抜けていく……!」
術式の発動に必要な空間の秩序自体が乱され、
イケナの“焦天断雷”も、炎すら起こせない。
彼はただ、剣を握った。
魔導士のイケナが──剣を手に取った。
それが何を意味するか、誰もが理解していた。
「ここは……俺たちの、最後の砦だ。
術が使えなくても、立ち止まるわけにはいかない」
魔力が霞み、術が死んでも、意志は残る。
オルデンの決断
指揮所では、ヒメカが震える声で問うた。
「……ジェネラル。どうしますか?」
オルデンは静かに目を閉じ、言った。
「ここからは、“信念”だけが武器になる。
術も、計略も、敵わぬなら──
“我らが人であること”を、示せ」




