イケナ、空を焦がす
戦場の空気が、一瞬にして変わった。
霧の中から現れたのは、灰色のローブを纏い、銀の杖を握る一人の青年──
イケナ・アルゼルグ、
かつてエルフ魔導戦団を単騎で殲滅した“呪炎の魔導将”にして、ジェネラル・オルデンが極秘裏に温存していた切り札である。
その背後には、選りすぐられた三十名の精鋭魔導兵。
全員が帝国魔術院最高位に匹敵する魔導ランクを持ち、
本来なら本国防衛に配属されていた者たちだった。
天を断つ一撃
「ここが、来るべき地だったようだな」
イケナは一歩前に出て、エルフの第二陣が押し寄せる谷に向かって杖を掲げた。
「空よ、割れろ」
その瞬間、大気が震えた。
灰色の霧を切り裂いて、
轟く雷鳴が、天より燃える柱となって降り注いだ。
──“焦天断雷”。
数百の雷槍が束となり、戦場を走るエルフの重装歩兵を焼き払い、
大地ごと数百メートルを抉り、地形を変えるほどの“魔の斬撃”が走った。
「……こんな魔法、人間が扱えるはずが……!」
敵指揮官の口が、乾いたまま開いた。
精鋭部隊の猛攻
続いてイケナの背後の魔導兵たちが展開する。
「霧散らし陣、展開! 斉射用意!」
「三番班、転移阻害魔法、起動! 四番、火線遮断!」
「魔力線上昇! 重力強化、敵装甲を沈めろ!」
三十の精鋭が三十通りの魔法を同時に展開し、
雷・火・風・重力・空間と、五系統魔法が連携しながら次々と敵を蹂躙していった。
焦るエルフ軍
「これは想定外だ……! 人間が、ここまでの魔法を……!」
退避壕から観察していたノルド帝国の魔導司令、ルヴェールは歯を食いしばる。
「……いや、これは“奇襲”だ。まだ負けたわけじゃない」
彼の視線は、遠方から到着した“後衛補給団”の兵たちに向いていた。
武器も新型、魔力供給装置も最新型。
さらに、まだ後方には一万の兵が控えている。
「この勝利は一時の幻。
数と質、兵站と魔具、すべてにおいて我らが上だ。
次は──我々が潰す番だ」
最後に
戦いの後、イケナはオルデンと短く言葉を交わした。
「どうだ?」
「……足止めにはなった。しかし、勝ったわけじゃない」
「だろうな。
俺たちは勝利じゃなく、“意味のある時間”を稼いでるだけだ。
でも、それでいい。
“命をつないだ”ことに、意味がある」
オルデンは、静かに頷いた。




