挿話:驕れる種族に訪れた“違和感”
ノルド帝国先鋒部隊、第三戦線指揮官である魔導戦士“ルヴェール”は、部下の報告に耳を疑った。
「……突入部隊、損耗率六割。撤退を余儀なくされました」
「……は? 何の冗談だ?」
「我々の歩兵に、劣等種族の“人間の騎士団”が、正面から突撃してきました。
しかも、剣だけで我らの魔導装甲を斬ってきたのです」
ルヴェールは舌打ちをした。
「剣で、だと? この時代に?」
自分たちエルフは、魔法において人類の五倍、戦闘術においても三倍は優れていると教えられて育ってきた。
武器の性能も、身体能力も、魔力量も、すべてにおいて“下位の存在”を相手にしているつもりだった。
だが、霧の中にいたのは──
「――死ぬ覚悟を決めた“人間”たち」だった。
騎士団の姿を見たエルフ兵たちの動揺
魔導兵の一人が、退避壕の中で呟いた。
「あいつら……おかしいだろ。
こっちは火線を張ってるってのに、睨みつけるように真っ直ぐ向かってくる。
しかも怯えない。怯えなさすぎる。
あれが“人間”か?
俺たちがバカにしてたあれが……?」
別の兵士は声を震わせていた。
「見たか? 盾も持たずに、雷槍の雨の中を駆け抜けてきたあの女騎士……
顔が笑ってたぞ。
“死にに行く”って顔じゃない、“俺たちのとこまで来る気だった”って顔だったんだよ……!」
指揮官ルヴェールの警告
ルヴェールは苛立ちを隠せず、部隊を一喝する。
「“心の底で見下していた敵”に殺されそうになると、人は動けなくなる。
──貴様らは今、それを味わっている」
彼は戦場の地図を睨みつけた。
「相手の武器が古くとも、術が劣っていようとも、
“命を捨てる覚悟”を持った敵は、脅威となる」
「いいか、敵は“恐怖を超えた人間”だ。
魔法も剣も、死を前にすれば霞む。
油断した者から、殺られるぞ」
その場にいた者たちは、ようやく“自分たちが敵を知らなかった”ことに気付く。
彼らは今初めて、人間の恐ろしさを知りつつあった。




