【第二章―二】植えるは支配、刈り取るは誇り──エルフたちの本心
場所は、ノルド帝国・魔導戦略府内。
巨大な魔力水晶を中心とした作戦会議室。そこには、帝国の中枢を担う者たちの冷たい声が響いていた。
魔導参謀長、リュシア・ヴェルメルが軽やかな声で言う。
「守霧島は、ただの“試験地”に過ぎないわ。
占領に成功すれば、その霊脈の流れは、中央の調整塔を通じて我が帝国の魔導炉へ直結できる。
……つまり、“この世界の魔素バランス”を、我々が握るということ」
「その先にあるのは?」
と問うたのは、軍制指揮局の長、アゼル・レヴァイン。
金髪碧眼の青年の姿ながら、その心は氷より冷たい。
「当然、残された人間領の蹂躙よ。
もはや彼らに武力はなく、指導者たちは平和の名を唱えて武を捨てた。
支配するのに、戦争ですら必要ない」
「……牧場を広げるようなものだな。
家畜に牙がなくなったなら、あとは好きに刈り取ればいい」
エルフたちの思想:支配が“慈悲”であるという傲慢
壁際に立っていた戦術思想官の一人が口を開く。
「そもそも我らエルフは、自然の理に従う高次の存在。
人間が国を築き、魔法を玩び、神を名乗ったのは“思い上がり”に他ならない。
奴らが“正義”などという言葉を掲げた瞬間から、浄化は始まっていた」
別の者が言葉を継ぐ。
「人間どもは、名誉とか誇りとか、見えぬものにすがる。
しかし現実はどうだ? 奴らの首都は既に崩れ、巫女は祈るだけ、老将は“語られぬ戦い”にこだわる。
滑稽だよ。自らを守る力すら放棄した民族に、未来など存在しない」
一人の軍導エルフが、地図に指を滑らせた。
「守霧島から北東に延びる霊脈帯を制御できれば、三ヵ月以内に西部人間領へ進軍可能。
六ヵ月で沿岸諸侯国は降伏、九ヵ月で人族の文化圏は完全に我が手に堕ちる」
「“平和的吸収”と記録されるのも皮肉だな。
血は流れず、涙もなく、ただ主が変わるだけ──そう、人間どもは“黙って従う”のだよ。
かつての戦争で、己の力では生き残れぬと知ったのだからな」
軽蔑と冷笑の中で
その場にいた全員が、あの政導審官ツラギの名前を出すことすらしなかった。
もはや彼のような“従順な小物”は、エルフにとって取るに足らぬ道具でしかなかったからだ。
「いずれ、ツラギのような連中が“人間代表”として平伏し、
“支配を受け入れる平和”を誇らしげに宣言するだろうよ。
……それが、民族の最期というやつだ」
リュシアが静かに笑った。
一人の異分子
だが、その場にいたエルフの一人、銀髪の剣士ヴァルド=ゼルギウスだけは、黙って彼らの言葉を聞いていた。
「……ジェネラル・オルデンは、おそらく“従わない”」
その一言に、数名が振り返る。
「守霧島にはまだ、“言葉を捨てて戦う者”が残っている。
奴らは名を求めず、栄光にも酔わず、それでも剣を取る。
……だからこそ危険なのだ。“物語にならぬ者”は、滅びず語られず、長く残る」
静寂が流れる。
「ふむ、なるほど……ならば、完膚なきまでに消し飛ばすしかないな。
“語る者のいない戦い”には、勝者しか存在しない」
ノルド帝国の魔導艦隊は、すでに守霧島外周へと進行を始めていた。
彼らの狙いは、島ではない。
それは、ひとつの文明、ひとつの民族全体を“歴史から消し去る”という――静かな虐殺であった。




